彼女の選択。②
リード様がメリイさんに諭す。
「多分ね?このままだと父上が側近の中から婚約者代理を選ぶはずだ。その前に私が来たのさ。
少しでも君が好ましいと思うものを選びなさい。
そのものにはちゃんと言い含めるよ。」
なるほどね、かなり気を使ってるじゃないのよ。
「ねえ、キューちゃん。龍太郎くん。
龍太郎君が人間の姿を取れたり、人間になれたりしないよね?本当はそれが一番良いんだけど。」
リード様が真顔でお尋ねになる。
キュー。
「俺も色々調ベタケド。無理ダヨ。」
「キューちゃんも無理だと言ってるでごわす。」
ええと。キスしたら戻るみたいなことはないのか。
残念。
何だかなあ。龍太郎君は複雑だろうな。
「うーん、じゃあさ、研究所の中の人が良いか?
誰か候補はいるかな。」
リード様が選定に入った。
「アラエルはメリイさんに好意を持ってますわ。
喜んでつとめると思いますわ。」
エリーフラワー様。他にもメリイさんモテモテですよ。
「セティはどうですじゃ。腕が立つ。ビッキーしか目に入っておりませんからな。逆に色恋が絡まないから打って付けじゃ。」
ピーターさんが推薦する。セティくんねえ。
「あの。マーズはダメですか?やっぱり?
アンディ殿に鍛えられて随分と成長しましたよ。
あいつなら動物も守ってくれます。」
ネモさん。やはり弟は可愛いのね。
なんかもう天下一武道会かなんか開いて、戦わせたらどうか。どうせ仮で強い方が良いのなら。
…いやいや。彼女の気持ちが一番だよ。うん。
キュー。
「ソウダナ。」
うん、君達が言いたいことはわかるよ。
「本当よね、キューちゃん、龍太郎君。
ねえ、皆様何をおっしゃっているの。
シンゴくんか、ハイドくんのどっちかに決まってるじゃないの。ねえ、メリイさん?」
「あ、あのあの。」
あー、困ってるなあ。
「れ、レイカさん、そ、そうですね。」
ネモさん、そうですよ。気の毒だけど、マーズさんには無理ですよ。
メリイさんが彼を好きとは感じられない。
「ねえ、レイカさん。」
「何ですか?エリーフラワー様。」
「彼女が養女になる家ですけどね、ネモさんが養女にしないほうが良いと思いますの。
私が養女にしますわよ。だってネモさんはこの国の代表でしよ、また側妃かと痛くない腹を探られます。
その点、ウチのダーリンなら安心ですわ。そう思いませんか?」
エリーフラワー様が口を出す。
「え。」
「そうだな、才女殿。確かにエドワードなら。
こんなに真っ直ぐな人間は居ないからな。」
リード様が頭を縦に振る。
「おう、安心してくだされよ。」
うーん、そうね。でもねえ。
「ねえ、マリー様。御息女のメリイ様は元公爵の支配を断ち切る為に、養子縁組が必要。
それはわかります。
だけどそれなら他に適任者がいるのではないですか。身内がなるのが筋ですわよね。」
メリイ様の母君、マリー様に話しかける私。
「え、それは。」
「レイカ様。母方の祖母のことでしょうか?」
「いいえ、レプトン様。
元学園長のローランド様ですわ。ご親戚なんでしょう。」
リード様が目を開いた。エリーフラワー様もだ。
「そうか!」「そうですわね!」
「マリー様と、ローランド様は元婚約者。
今また、親交を深めてらっしゃる。いずれご結婚なされば、ねえ?
実の母の再婚相手ですもの。養子縁組も簡単ですわよ。」
「なるほどね、レイカちゃん冴えてるわ。」
「ああ!そうでござるな!」
アンちゃんもエドワード様も納得だ。
あの二人がなかなかラブラブなのは私の耳にも入っているのだ。
二人で散歩した、とか。二人でランチを取っていた、二人でショッピングモールに行った。
あげくのはては、メアリアンさんになんか占ってもらっていた、だの。
今一番ホットな噂のカップルなのである。
昭和で言えばアベックだ。
(アベックと、言ったら前世で娘にバカにされた覚えがある。
他にも。ジャンパーじゃなくてブルゾンなのだと言う。
とっくりではなくて、ハイネックね。トレーナー?スウェット?どっち?…ふんっ!)
おや。マリーさんが赤くなってうつむいたわ。
「ええ、そんな。決めつけないで下さいよ…。」
レプトンさんが弱々しく反論する。
おや、マザコンがここにもいたか。
「ええ、母との結婚はともかく、ローランド様に養父になって貰いたく存じますわ。」
メリイさんが顔をあげる。
「おほほ。そうですわよ、早くお二人が結ばれると良いのですわ。学長夫婦が新設校を立ちあげる。それがよろしいですわね。」
「え、エリーフラワー様。ローランドの気持ちもありますし。」
頬を染めるマリー様。ウキウキしてるねえ。
「は、母うえええっ。」
半泣きのレプトンさんの肩をポンと叩くリード様。
「レプトン君。私もマザコンなのでキミの気持ちはわかるよ。
とにかく、養女の件は私からローランド君に話を通しておこう。良いね?」
「はい…。」
弱々しくつぶやくレプトン様。
それからリード様。マザコンの自覚あったんですね。
――さて、たたみこんで仕上げといくか。
メリイさんの手を握る。
「貴女が一番好ましいのは誰?龍太郎君は置いといて。
一番近くにいて安心出来る人は?
目を閉じたら誰の顔が浮かぶのかしら。
本当はもう、わかってるのでしょう?」
瞳を閉じて君を思ったら、それだけで良いみたいな
歌がなかったかしら。平井○かな。
彼女は目を閉じて、そしてゆっくりと目を開けた。
瞳がきらめいている。
「ハイドさんですわ。」
名前を口にした。やっぱりね。
「うん、そうか。早速呼びにやらせよう。アンディ頼めるかい?」
リード様は破顔一笑された。
「はっ。了解です。元部下ですしね。」
アンちゃんはすっと姿を消した。
その顔は面白がっていたよ。
「レイカ様。貴女は凄いお人ですのね。」
メリイさんの母、マリー様が話しかけてこられた。
「え、私がですか?」
「ええ、その洞察力。これだけ人達の中でも臆せずに発言がおできになる。失礼ですが、とても二十歳そこそこのお方には見えませんわ。」
褒めてるのか?微妙だな?
「あ、ハイ。ご存知がどうか分かりませんが、私も転生者で五十代後半まで生きていたのですわ。
メリイさんとも、前世でも知り合いで。」
「ま!そうでしたの。娘がそんなにお世話になって。」
あら驚愕している。
そこまで話してなかったと言うことか。
「それに、王妃様が前世仲間と言うことで、目を掛けて下さるから、皆様配慮して下さっているのですわ。」
軽く牽制しておくか。面倒くせえ。
「おほほほ。レイカさんは私一家と家族同然ですのよ。私も凄くお世話になってますわ。」
エリーフラワー様も加勢してくださる。
「ま、まあ。そうですの。」
「それにですな、あの狂犬アンディ殿を抑えるのは彼女しか、おりませんでな!」
エドワード様、多分褒めてるんですよね?
「おい、エドワード。何の悪口だよ。狂犬扱いするなよなあ!
おい、色男。キリキリ歩けえ!」
そこへアンちゃんが一人の男を引きずって来た。
楽しそうだね。
「な、何事?いきなり人の首根っこつかんで?
お仕事中だったんですけど。いくら元指導役だったって、横暴ですって。
―え?みんなお揃いで?リード様に、ネモ様?
俺なんかしましたか?」
「やあ、ハイド君。おめでとう。君はメリイさんの
婚約者に決まったよ!」
リード様はにこやかに拍手をしておっしゃった。
「はああああああああああい!?」
目を極限まで見開いた、ハイド君が叫んだ。
ぽきり。
その手に握られていた胡瓜が折れて落ちた。
あら、勿体ない。サラダを作るつもりだったのかしら。
メリイさん、顔真っ赤じゃない。涙目になってお母様に抱きついている。
さあ、ハイド君。メリイさんの婚約者代理候補だよ。
仮でも、しっかり勤めなさいね。
まさか断るとか、言うなよ?ああん?




