赤いキツネと商人のタヌキ。
まるでその話を聞いていたかのように、二日後にタヌキさんこと、ダイシ商会のダンさんが現れた。
ネコカフェでネコに囲まれている。
おやつの煮干しを大人買いをして、大盤振るまいだ。キャッツ達に大歓迎されているよ。
「アンディ様。水臭いじゃありませんか。グローリー商会に色々発注をかけたらしいですなあ。」
アンちゃんを恨めしげに見る。
「おや、耳が早いこと。メリイさんのご実家だもの。多少優遇するのは当たり前でしょ。
あちらは今、代替わりで大変じゃないの。」
ダンさんは困り顔をした。
「あちらさんは大丈夫でしょ。ここ一年ほど実質あのサード様が回してましたから。変わりませんよ。
ところで、マリー様はお元気ですか?」
アンちゃんは片眉を上げた。
「ああ、アンタはあの一家とも深い馴染みだったワネ。彼女は生き生きしてるわ。なーんの心配も要らない。」
そこで人の悪い笑みを浮かべた。
「…ところで変わった毛の色の女狐を飼い始めたらしいじゃないの。赤い毛の狐。
ハニトラ要員にでもするつもり?
良くアンタ入国出来たね!
アンタが白いお狐様とドラゴンの怒りにふれて、
松子ちゃんに焼かれるかも知れないと思って、呼ぶのは遠慮していたのヨ。くくく。」
ダンさんは困り顔をした。
「お耳が早い。それに手厳しい。
娘のサリーがえらくあの娘を気に入りましてな。語学も堪能ですし、帳簿もつけられる。
お客様が貴族でも堂々と応対が出来ますからな。本店で事務を任せてますよ。
お目汚しをすることは、ないでしょうな。」
アンちゃんは無表情になって言った。
「そうだな。脅かすわけではないが、あの女が一歩この国に足を踏み入れたら、髪の毛一本残らないだろうよ。」
ダンさんが冷や汗をかいた。
「あの娘もルートと関わってなかったら。
いや、ルートも以前は良い子だったんです。
あのままメリイさんと夫婦になるものと。
――いや、私はハルトさんをルートに重ね過ぎているのかも知れませんな。」
「ああ、世話になったと言ってたっけ。」
ダンさんは大きなお腹を揺すりながら、居住まいを正した。
「最初はね、ルートを連れ出そうと思っていたのですよ。私の所で叩き直せないかと。
割と私は彼に慕われていましたからな。親戚の子供ぐらいの情はありましたよ。」
「―へえ。」
「ルートは最後まで公爵夫人、マリー様の事だけは案じていたと聞きます。
親の愛情に飢えていて、親だと思っていたんですな。自分を肯定してくれる存在が必要だったんです。」
「ふん。それであの赤いキツネの言葉にまんまと、丸めこまれたのか。」
アンちゃん、それってどっかのカップ麺みたいだよ。
「あの娘は人心掌握に長けています。お城の侍女達の中でも味方を見つけていましたから。
いや、大したものだ。上手く使えば利益をもたらしますな。」
「獅子身中の虫にならないと良いけどね。
ま、ルートのほうが単純だったから、引き取ろうとしたのね。」
「単にルートの方が可愛かっただけですよ。
その前にあんな事になってしまって。ま、仕方ありません。
それに騎士になりたがってましたから、私の誘いには乗らなかったでしょうな。
…ルートはバーバラのブロマイドを見て憑かれたようになった。グローリー氏もそうです。きっかけはブロマイドだ。」
そこでコーヒーを啜る、ダンさん。
「もし、メアリアンさんに見ていただけたら、バーバラの無念が元公爵に、取り憑いているのがわかるかも知れませんな。」
アンちゃんはせせら笑った。
「それで除霊してもらうの?アンタが費用を出すの?そんなにあの元公爵に友情があるんだ?」
ダンさんは下を向いた。
「無理ですな。グローリー氏はブルーウォーターには入れない。かと言って、メアリアンさんをあちらに連れていくのも、難しいですからな。」
アンちゃんは真面目な顔をした。
「もう、良いじゃない。本当にそうなら、バーバラとグローリー。
愛しあう二人を引き離すのは野暮ってもんよ。」
「そうですな。」
「ま、アンタのその、心に免じて次の注文は回してあげるワよ。
但し、女狐は連れてこないでね、わかった?」
「ありがとうございます。」
ダンさんは大きな身体を丸めて出ていった。




