動き回る竜と。動かない鳥。
10月の某日。
エリーフラワー様のところに呼ばれて行った。
「レイカさん。そろそろ必要になると思って。
双子用のベビーカーよ!」
「おお!ありがとうございます。」
「こっちがね、二人並んで乗るタイプ。こっちがひとり乗りのを二個ね。二人で押す時に。」
花柄をあしらったとても可愛いタイプだ。
「ここを押すと折りたためるの。」
「もう、折りたたみタイプまで開発してたんですか!凄い。」
「レイカさんがアイディアを出してくれたからよ。」
「いえ、ただの記憶ですから。あとは託児所にお散歩カートがあればいいですねえ。」
「ナニ、それ!詳しく!」
お散歩カートとは、保育園から公園まで、幼児を乗せて押して運ぶあれだ。
だいたい立ちのりで四人から六人乗っている。
「言われてみれば、あると便利よね。」
「でも、ここ園庭が広いから特に良いかなと。それに人手もあるし。要らないかな。」
「いえいえ!何かの襲撃があったときに乗せて運べるわ!」
それ、どんな戦国時代。ブルーウォーターは安心の国ではないか。
「そういえば、エドワード様とキューちゃんは?
お子様達は、ここにいるし。」
エリーフラワー様はちょっとだけ、声をひそめた。
「ハシナ国との国境をパトロールしてるのよ。」
「ああ、こないだアラン様が襲われたから。国際問題になったんじゃないんですか?」
「懲りずにグランディとブルーウォーターに侵入しようとしてるの。
アラン様襲撃は厳重に抗議したけど、部下達が勝手にやった事だから、そちらで好きに処分を。と切り捨てたらしいのよ。」
その二日後。
ハシナ国との国境は炎のカーテンで隔てられた。
龍太郎君がガス溜まりの上で火を吹いて、燃え上がらせたらしい。
もうハシナ国からここには来れないね。
その火を越えてこい!は、潮騒か。百恵ちゃんの映画かな。
最近メリイさんは良く龍太郎君に乗って飛んでいるのを見かける。
あれが一番他所の国への抑止力になってるんじゃない?
アンちゃんが、
「炎のカーテンのおかげであちらの警戒をしなくて良くなったワ。」
とニコニコしてる。
最近は動物園にチカラを入れていて、ついでにマーズさんの筋トレも順調だそうだ。
「まだね、ネコ族以外との動物とは今ひとつ打ち解けてないけどね。」
それはアナタが猫族以外にはあまり構わないからでは?
「そうそう、レイカちゃん。ハシビロコウ来たわよ。」
「ええっ!?」
うわあっ、私大好きなの!
猫の目食堂には大きなハシビロコウの置物が置いてあった。某那須地方の動物園でラスト一個という事で割引されていたのを買ったものだ。
そこの動物園には以前いたけど、もういない。
掛川花鳥○に何度行ったことか。
伊豆シャボテ○公園のビリーくんにも何度も会いに行った。ご冥福をお祈りします。
「どこから来たの?」
「それがねえ。龍太郎君が見つけてきたのよ。
うわ、ハシビロコウじゃん!って。
ウチとハシナ国を行ったり来たりしてたみたいだけどね、あの炎でコチラに残ったの。」
「あらら。」
「あの子、鳥関係とは結構仲良しだから。ハゲワシ君や大鷹君なんかと、こっちへ連れてきたのネ。」
まさか、追い立てたんじゃ。
「そしたらマーズさんが来てね、新しいおウチを用意したってワケ。」
「ええー。いつから見られるの?」
「一般公開は来週かな。その前に見せてあげるワ!」
「やった!」
早速見に行った。
広めのバックヤードで佇んでいる。
じっとしている、グレーの身体。
「うわわ、ハシビロコウだわっ!」
「お名前はパンジーちゃんよ。」
「エッ、メスというか女の子なのね??」
「名付け親はマーズさんよ。自分に娘が出来たら付けたかったんだって。」
「…ああそう。」
「何かネ、しばらく結婚はあきらめてる見たいなの。
シンゴなんかよりよっぽど良い人なんだけどね。彼女も見る目ないわね。」
チー。
「おや、チュパカブラのチーパ君が呼んでるわ。」
外に出る。
「今度お食事の時間に来ましょうか。静止画みたいなパンジーちゃんが、いきなり動いて可愛いわよ。」
「うん、見たい。」
「こんにちはチーパ君。レイカちゃん、これ。コロン。彼に渡してね。」
「あっ、ハイ。」
茶色の小瓶をアンちゃんから渡された。
お腹が空いていたのね。
ちゃっ、ちゃっ。
チーパ君が手刀をきって瓶を受け取る。
誰が教えたんだ?
長い爪で器用に栓を開けると、中身を飲み干した。
その姿、リゲ○ンを飲む企業戦士のごとし。
24時間戦えますか。
おお、立ち昇るフローラルな香り。
「これはどこから仕入れてるの?」
「ダイシ商会のダンからだけどねえ。そろそろ在庫が無いから、頼まないと。
でも、どうしようかな。メリイさんのお兄さんの商会でも扱ってるといいけどさ。
最悪時間かかるけど、エリーフラワー様のところで開発してもらうかな。」
「あら。ダンさんに頼まないの?長い付き合いなんでしょ。」
「最近アイツ。赤い女狐を飼い始めたからな。
キューちゃんに弾かれるかも知れないんだなあ。」
アンちゃんは顔をしかめた。




