王妃様はかく語りき。
「メリイさん、ミッドライフクライシスって知ってる?」
王妃様がこちらにいらっしゃって、お茶を飲みながらおっしゃった。
我がレストランにメリイさんと龍太郎くんと、レプトンさんを呼んでいる。
「え?何ですか、それ。」
「多分ね、ご両親はその状態なのよ。
簡単に言うと、中年になって自分の人生こんなんで良かったろうか、となっちゃうことなのよね。
アレ?もう人生の折り返し地点を過ぎちゃった?って焦りだす。
鬱になることもあるけど、面倒なのは、男性の場合もうひと花咲かせるか!ってなっちゃって。
若い女にくらりとして家族を捨てちゃうことがあるのね。」
恋は遠い日の花火ではないってか。けっ。
以前ねー、いくつか見たわよ。常連さんで。
いきなり奥さんが若くなってるの。
だけど養育費と慰謝料にひいひい言って、生活苦から若妻に捨てられちゃって。ひとりぼっちになるのが、せきの山。
「トロフィーワイフとは違うんですね?」
「糟糠の妻を捨てて若い綺麗な妻をもらう奴?
ちょっと違うような。それは若者でもやるからね。」
「それで、父はああなったと?」
メリイさんの声は硬い。
彼らの父、グローリー氏はロージイの所へ押しかけた。
「ふん、色々言ってるけどね、根底にあるのは男としてもうひと花咲かせたい。このまま枯れたく無いというドロドロしたものよ。あー、ヤダヤダ。」
バッサリである。
「アレですか。無添加で育った人が、大人になって解禁されたらジャンクフードむさぼり食うみたいなものですか。」
「そうそう!ウチでは手作りオヤツしか与えてませんの。オホホ。なんていってる自然派マダムのお子様がひとんちで、コーラがぶ飲みの、ポテト爆食いするみたいなものよ。ふんっ。」
やけに具体的だなあ。つつくと蛇が出そうである。
「公爵はね、堅物として有名だったのよ。若いうちに多少遊んでおけば、こんなことにはなってないと思うわよ。
―あら、常識の範囲内よ!他の女性ともっと会話をしておいたりとかね!お茶をみんなで楽しむとか、
おほほほ。
とにかく女性をシャットダウンしてた事で有名なのよ。」
王妃様。おっしゃりたいことは、何となく薄々感じますが実子の前で言うことではないですね。
それで焦って話を逸らしてますね。
「まあ婚約者としては他の女性に目をやらない、誠実な男性ですよね。」
「そうね、レイカ。でもその反動がきちゃったのね。」
「母はいきいきしてますね。若くなった気もします。」
レプトン様がしみじみと言う。
「おほほほほ。マリーさんはミッドライフクライシスが上手く行ったケースね。
良いじゃないの。学園長との初恋が実るといいわねえ!」
「えええっ!?」
驚愕するグローリー兄妹。
外から見ればバレバレの事実なんだが。
渦中にいると良くわからないのかな。
「ああ!母が婚約寸前の幼馴染と泣く泣く別れされられたと言ったのは。」
目を丸くして兄妹は顔を見合わせる。
「ルートと私達みたいに一緒に育ったって。
親を亡くした親戚の子と。」
「学園長が、ずっと独り身だったのは、そう言うこと??」
「母がマナカ国へ飛んで行けたら、と言ってたのは。」
「学園長は7年前までマナカ国にいたわよね。」
納得が言った様である。
「オレが言うのも何だけど、イイ話ジャネエカ!
引き離サレタ二人が、結バレる。
畜生!泣かせるネエ!!」
レプトンさんが眉をひそめる。
「もう、龍太郎くん。まだ結ばれてないし!
決めつけは良くないし!」
おや、彼もマザコンの気があるのかな。
「おほほほ。良いわね。私、そう言う話が大好きなのよ。
二人ともゆめゆめ彼等の邪魔をするではないぞえ。」
恋バナがお好きだなあ。最後お仕事モードで圧をかけてらっしゃる。
「は、はいっ!」
レプトン兄妹は平伏して退場した。
「ほほほ。良いわね、レイカ。こう言う楽しい話もなくてはねえ。」
「ですねえ。」
「マリーさんは四十代かしら。まだまだこれからよ。」
「本当にそうです。」
「さて、これからエドガーとフロルと、ディアナの顔を見てくるわ。
ランちゃんと、アスカちゃんも大きくなったわね!」
「王妃様、素敵な名前をありがとうございました。」
助かりました。
「ほほほ。私はアランに聞かれて付け加えただけよ、あの子ったら三十も名前を考えていたのに、それでも、足りなかったらしいの。」
「え、そうですか。水占いとかで振り落とされたんですよね。」
「ええ、その中には可愛い名前もあったのよ。
デイジー、フローラ、アイリス、ヴァイオレット。
」
「ええっ。」
可愛いではないか。
「―お花シリーズが軒並み沈んでいったわ。」
何故だ!
「それで、私が見かねて追加したのよ。」
「王妃様が、和田慎二ファンで助かりました。」
「おほほ、次の子供が出来たら、手塚治虫シリーズでどう??」
「ちょっと考えさせて下さいね。」
ピノコやメルモならともかく奇子やばるぼら、はちよっとハードル高いっす。
タイトルネタは、ツァラトゥストラはかく語りき。ですね。




