料理人か包丁人か。
九月が過ぎて、十月となった。
子供達も元気に大きくなって寝返りを打つようになった。
義母オー・ギンさんや、爆乳のショコラちゃんが手伝ってくれるよ。
「そういえば、ハイドくんは回復してきたの。」
「もうすっかり。キューちゃんの力はすごいですね。本当にもうダメだと思ってました。」
「ずっと龍太郎くんも付き添ってましたし。
二大神獣に好かれて幸せ者ですよ。」
うん?龍太郎くんがいるってことは。
「ええ、メリイさんも付き添ってますよ。」
そこでショコラさんが笑った。
「イリヤの話ではね、ハイドは、
『あー、シンゴが見たら拗ねる…。』って気をもんでるみたいですけどね、そんなの拗ねさせておけばいいんですよ。」
「だいたい、シンゴがメリイさんの相手と決まった訳じゃないし。シンゴは今、アラン様の所から離れてはいけません。」
オー・ギンさんが言い放つ。
「それに、メリイさんには研究所の人達からも人気があるみたいですしね。」
あら。モテモテなのね?
「メリイさん自身は今はハイドの方が気になるんでは。」
うーん。ナイチンゲール症候群と言う事象もあるしなあ。
まあ最後に選ぶのは龍太郎くんなんだろう。
ウチのランド兄貴の相手は、ツッチーが選んだものね。
何て話をしていたら、
「アネさん、ご心配をおかけしました。」
ハイドくんが現れた。
今日は黒髪だわ。目がぱっちりで、鼻筋も通ってるから、ビジュアル系のバンドの人の様だよ。
しかも怪我のせいかな。以前より顔がこけていて、美貌に精悍さがプラスだよ。
「金髪のカツラは血だらけになってしまったし、茶色のは龍太郎に咥えられてダメになったんですよ。」
「いいじゃない、似合ってるよ。」
「そうですか?まだ本調子じゃないから、頭冷やして風邪引くといけねえって、なんかかぶれってうるさくて。龍ちゃんが。」
ほう、愛されてるなあ。
「エリーフラワー様なんか、レインボーアフロのカツラなんか出してコレはどう?なんて言ってくるし。」
ほう、いじられてるなあ。
「それでですね、アネさん。今度からエリーフラワー研究所の専属料理人となりまして。」
「聞いてるよ、おめでとう?」
「でも、今までとあまり変わらないんです。
見張りとかがなくなっただけで。
実際、龍ちゃんが守れば、護衛はいらないんですよね。」
そこでハイドさんはふふっと笑った。
「あの二人は心で会話できる。それは凄いことです。ま、メリイさんの返事は口にしなきゃいけないみたいですけどね。」
「それよね。メリイさんが一人言を言う危ない人に見られちゃうわよねえ。」
「そっすね。」
あははは、とハイド君は笑う。
屈託がないな。こう言うところが好かれるんだな。
ほら、足元に猫カフェの猫がニャーニャーまとわりついているよ。
うん、もしかして猫耳つきのカツラとか、いけるんじゃないか?
コスプレの人みたいにさ。リアルキャッツかな。
今度王妃さまに、言ってみるか。ふふふ。
「ところでねえ、アネさん。羨ましいと思いませんか。」
「何を?」
いかんいかん、妄想の世界に飛んでいた。
「彼らを見てると若い頃のね、プラトニックの綺麗な恋心を思い出すんですよ。
好きな人の側にいたい、自分の心がちぎれて、そのカケラがね、彼女にくっつかないだろうか。
いつも見守っていたい。寂しくないように。いつも寄り添っていたい。一人で暗い道を歩かせたくない。辛いことから守りたい。
一人で泣かせたくない。みたいなね。」
「ああ、うん。親心みたいな、無償の愛ね。」
気持ちはわかるのだ。実際にはストーカーや背後霊だが。
「それがね、彼らなんだな。」
「そうね、でもメリイさんはそのうち伴侶を選ぶでしょう。龍太郎くんもそれを望んでるし。」
「うーん、そうですね。切ないですね。
おっと、いけない。それで今日来たのはね、レシピをお教えしていただきたいと。」
「うん、わかった。でもね、だいたいもう知ってるよね?」
「例えばですね、揚げ出し豆腐ってなんですか?メリイさんが食べたいと。」
「ああ、あれね。」
「それから、揚げパン。龍ちゃんが、うるさくて。」
あら、懐かしいところをついてくるわね。
了解。
揚げパンはまあ、小さなコッペパンを植物油でカラリとあげて、グラニュー糖入りのきな粉にまぶすだけなんだけどねえ。
揚げると綺麗に膨らむよ。
「ソフトめんはわかります??」
「わかるけどちょっと無理かなあ。」
あれは実はうどんに近いものらしいんだよ。
なかなか製法がわからない。蒸すんだよね。
ああ、スマホがあれば。
「それも龍太郎くんなの?あの子本当に粉モンが好きだねえ。」
まあ、血糖値を気にしなくていいお身体だからなぁ。
おっと、そう言えば包丁あったかな。使ってないの。
「ハイド君。我が一番弟子として、これを授けます!」
「え、こんな立派な包丁いいんですか。」
「よかよか!包丁一本、サラシに巻いてえ♬修行に励みんしゃい!」
こいさんはいないだろうがね。
彼にも良い出会いがあればいいんだけと。
滲む月を見て思った。
グルメ漫画は包丁人味平、面白かったです。




