これがカタがついたと言うことなのかしら。
子供達も首が据わって来た。
「そろそろお母さん帰るわね、と言いたいけど。」
そう、なんかアンちゃんが忙しくて不在なのだ。
「もうちょっといてよ、アンディさんが戻ってくるまで、ね?」
今、シンゴくんもハイドくんも不在なのだ。
そこそこの事態なんだな、と思う。
王妃様がハイドくんにも仕事がある、と言ってらしたわね。
「お母さんにはキューちゃんがついてるじゃない。
いてくれると安全だから。」
「仕方ないわねえ。」
そしたら辛抱たまらず父がやってきた。
ショコラさんが、
「いや、もう、そっくりですねえ、ふふふ。」
と言うくらい、兄と父はそっくりである。
なので駅についた時も。
「あら、ランドさんとレイカさんのお父様?
どーぞ、どーぞ。」
と顔パスで来れたそうな。
キューちゃんも面識があるから、松子ちゃんも。
シン。
と動かなかったそうだ。良かったね。
「おまえ、こないだは顔に落書きしていったろう?
布団カバーが汚れて大変…うん、可愛いでちゅねー。
ランちゃああん、アスカちゃああん。
じいじでちゅよーあばばば。」
怒ったり、あやしたりと忙しい事である。
「なんか、ランちゃんって言われると自分の事みたいでなあ。」
ランド兄は複雑な心境である。
「そうねえ。本家ランちゃんはもうランド兄さんと呼ばないとね、お義父さん。ご無沙汰してます。」
「アンちゃん!」「アンディさん!」
「良かった、無事だったんですか。
切られたとエドワード様から聞いていて。」
ええっ、なんですと?
「ご心配をかけたわね、ランちゃん改め、お・義・兄・さ・ま。」
「うわあっ、やめてくださいよっ!私より五つは上でしょっ。」
「切られたの?え?」
「じゃん。」
アンちゃんが広げて見せた上着は前と後が切り裂かれていた。
「ふん。一瞬だったよ、いい腕だ。」
「ちょっとそれは!」「怪我は?」
アンちゃんの背中と胸が光る。
「ああ!アンディさんもツッチーをつけていたんですね!」
「そうなのよ、元々は美肌の為だったけどさ。
おかげで命拾いだよっ。本当に甲羅が硬いのね。」
―良かった。
「アラン様を庇ったのですよ。」
横から声がする。
「ヤー・シチさん!」
「ご無沙汰しております。やあ、ランちゃああん、アスカちゃあん、じいじだよおー。」
おや、デジャヴ。
「それでアラン様が激怒されましてな。死んだらどうする。アンディ、死ぬなっ!
とね。半泣きになられて。いやあ胸熱でしたな。」
「けっ。勝手に胸を熱くしてろよっ。
ランちゃん。あすかちゃーん、パパでちゅよー。
会いたかったよおおん。」
「うわ、ランちゃんと聞くと妙な気持ち。」
「ところでお義父さんはいつこちらに。歓迎いたしますよ。お義母さんとホテルへどうぞ。
積もる話がおありでしょう。」
「あ、そうだ。お父さんお母さん、俺が通年割引で借りている部屋があるんだよ、とりあえずそこにね。」
あのメアリアンさんのお仕事用、年間借上げのスイートか。
「ご案内致しますわ。」
ショコラさんの案内で二人は出て行った。
つまり父と母に聞かせたくない話があるって事だ。
とりあえずお茶を出す。
「あー、上手いっ。」
飲み干すアンちゃん。
「私にもおかわりをもらえますか。」
ヤー・シチさんも疲れてる。
「貴方、ご苦労様。アンディも。」
オー・ギンお義母さんが現れた。
そういえばどこにいたんだろ、最近見かけなかったよ。
「あちらはどうだ?」
「大分良くなってきました。本当はダメだと思ったのですが。」
「ハイドさんが切られたんだよ。」
ランド兄さんが硬い声で言う。
「えっ。」
「あんまりハシナ国の残党の行方が掴めないから、
アイツにリード様の格好をさせて囮にしたんだよ。」
アンちゃんが無表情な顔で話す。
「いや、あんなに見劣りしないとはねえ。遠目では影武者とはわからないのさ。
いきなり現れて切り付けて来たんだ。」
ヤー・シチ義父さんが続ける。
「一応鎖帷子は着ていたんですが。いやはや物すごい腕でしたな。こちらもいきなり切り付けてくるとは思わず。まず人質にするのかと。」
テロリストだな。要人暗殺か。
「逃げ足も早くてね、捕らえれなかった。
その後にワタシも切られたんだからね、ざまあないわ。」
「それでどうなんですか、容態は。」
「すぐに、ツチノコが寄ってきて貼りついた。
鳥達が見ていて伝えたのさ。」
それで一命を取り留めたのだと言う。
「私達が看病をしてたんですけどね、いきなりキューちゃんと龍太郎君が現れて。
二人とも怒りに燃えてたの。龍太郎君が、ハイドの仇を取ってやるって。
そしたらさ、まだ死んでませんよう、と弱々しく
答えたの。」
オー・ギンさんの話は続く。
「何だ!そうか!って、青い光がキューちゃんから放たれましてね。
見る見る顔色が良くなりました。
そして龍太郎君がメリイ良かったな、と。後ろにメリイさんがいたのにその時気がつきましたね。
それから、怪我からくる感染症で熱が上がるといけないから、ウロコの水を飲ませてやれよ、と。
メリイさんを残して消えました。」
「では、メリイさんはハイドのところか。」
アンちゃんは腕組みをしてる。
「ルートの馬鹿たれが、死んだって言わなきゃな。」
「え?牢にいたんでしょ。獄死したの?」
「俺とアラン様は残党狩りをする為にワナを張ることにしたんだよ。
ルートを鉱山送りという事で牢から出す。
するとハシナ国がアイツを攫いにくるだろうと。」
「わかった。メリイさんをおびきだす為ですね。」
「そうだよ、ランド義兄さん。メリイさんがアイツに未練たっぷりだと言うウワサが何故か流れたのさ。
あの国も竜を従える、竜の乙女を欲しがっているらしくてね。」
ニヤリと笑うアンちゃん。
「そこでノコノコと攫いに来たところを処分するつもりだった。もちろん馬鹿は一緒に刀のサビになる。
ところがさ、サードくんだね、メリイさんの長兄。
最後にアイツと話させてください、少しでも反省したらそれはやめてくださいって、泣きつくんだ。
びっくりしたね、まだアイツに兄弟の情があったとは。
アラン様が感心されてね。ルートに選ばせてやれ。
少しでも反省したなら、他の囚人を身代わりに立てても良い。
もし、鉱山送りを選んだなら知らないぞ、と。」
悪い方に転がったのか。
「本当にハシナ国の間者が5人現れましてな。
一人が手だれで。ハイドとアンディを切ったヤツです。」
「スダンと呼ばれたな。」
そしていきなりアラン様を襲った、それをアンちゃんが、かばった。
うん。わかってきた。
「そこでキューちゃんが龍太郎君を乗せてやってきたのヨ。」
「そして白狐様と龍太郎君はハイドを切った奴が許せないと、スダンを消し去りました。」
うわー。
「ハイドは大物二人に好かれてるワ。」
「それでアンディ、ルートをやったのはやはり龍太郎くんなのね?」
オー・ギンさんが震える声で聞いた。
「そうなんだ。やっぱり彼も神獣なんだな。
本気の粛正を見たら実際足が震えたよ。
――やっぱりメリイさんのことで、アイツが許せなかったんだな。」
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