何事もない時が、しあわせだったと思う。
しばらく王妃様達の予約がなくて、ゆっくりした日々が続いていて、
住み込みの若い衆や兄にご飯を出したりして、一緒に食べたりしてた。平和だ。
時々アンちゃんと何人かは仕事にいくけどね。
(アンちゃんはカレーヌ様に言ったとおりそこそこ高給取りである。いいね!)
さて、今日も居住スペースのリビングでのんびりしてると、
コンコン。
「あー、あれはランドさんだな。」
ソファに寝転びながらアンちゃんが言う。
「開けなくても、わかるの?」
「うん。」
「アンディ殿、アラン様の使いがいらしてます。」
ほんとだ。兄が顔を出した。
「はーい、今いきまーす。みんながいないときは、
アンちゃんでいいわよお。義兄さん。」
「そ、そんなわけには、せめてアンディくん?」
「まったく真面目で善人ねえ。」
アンちゃんは声を立てて笑って出ていった。
「ふう。みんなが俺に頼むんだよ、呼び出し。」
私も連絡通路に出ると、
若い子たちが何人かいた。
「だって、アンディ様たちのおうちをノックするなんて。」
「身内でないと。こちらで働いて下さって助かりました。」
「ドアをあけて、ランドさんだとニコリとするんですよね。アンディさん。うちらだとキッツイ目で見るんですよ。」
「なーにー言ってるんだが。」
「わっ、来た!」
「来たじゃないよ、仕事だ。3人ばかり俺とこい。
サムとノートンとリックだ。
ランド義兄さん、すみませんが2、3日帰れないんで、
レイカと一緒にいてください。
私のベッド使ってもらって構わないんで。
離れないでくださいよ。
レイカさん、しばらく居住スペースからでないでね。」
「うん。」
あ、これは、完璧に仕事バージョンのアンちゃんだ。
「知ってる人以外はドアを開けないで。スケカクとか、ヤー・シチ達とか。ここの連中とかね。
ランドさん、符牒はわかってますね?
では。」
慌ただしく出ていった。
「大丈夫だろう。ここは。わかりにくいから。」
「何があったの?」
「元レッド伯爵とクリストファーが逃げ出したんだ。みんなで狩るらしいよ。」
なんと。
「なんかさ、箝口令は出てたけど。まずセバスチャンが姿をくらましたらしい。先々週。」
ええっ
「セバスチャン自体がご婦人たちを監禁したわけでも、暴力を振るってもいない。もちろん、結婚詐欺をした訳でも不貞を働いたわけではない。」
「確かに。」
「ただ、王家主催のお茶会に乱入しての婚約破棄。
せめてリード様主催なら良かったけど、両方の王子の顔を潰した。あちらの令嬢の顔も。
それでまあ、懲らしめでマグロ漁船に乗せられたんだね。」
「そこから逃げたの?」
「足に縄がついてるわけではないし、マグロの水揚げのときお給金もらった瞬間に消えた。
また、なんか性に合ってたらしくって、日に焼けてたくましくなって体力もついてたらしい。」
「そう言えばワカメとか取ってたわ。」
リード王子様の見立ては正しかったのか。
「それから、日雇いで働いてたんだ。すごく良いように考えたら、給金を貰った時点で漁船との契約が終わったとも言える。
名前を変えて働いてたけど、監視されてるだけで捕まえられてはいなかった。」
「それで。父と兄を逃がしたの。」
「ああ。機会を狙ってたらしい。」
なるほど、泳がされてたんだな。
そして一網打尽か。
きっと、父と兄の監禁場所もさりげなく知らされたか。
ちょっと気になったから聞いてみた。
「ちなみに、なんて名乗っていたの?」
「うーん、、たくましい男になれと親が付けてくれたんです。タクマです!てね。」
ほう。ダンダンダダン、ダン○ードAでなく、
だん、だん、断罪されてこい。
「こっちに来ることはないと思うんだよ。
アンディさん達が怖いでしょ。
それに、たぶんね。もとエレンさんこと、ネモさんが領地を継いでるから、そっちに行くんじゃないかな。」
それでおこもりしていた。
ちなみに食べものは備蓄してある。いわゆる有事に備えてね。
うん?これ有事??
三日後。アンちゃん達が帰ってきた。
「怪我とかはしてない?」
「だーいじょーぶよ。そっちも無事で良かったわ。ハイ、みんな解散!」
「はっ!」
そのままリビングのソファにすとん、と座って寝てしまった。
「あらら。お疲れなのね。」
「レイカさん、ランドさん。」
オー・ギンさんだ。
「どうぞ、中へ。」
「お久しぶり。コレお土産です。というか、
ネモさんの牧場。元コ・イー・ワイ牧場の物なんです。改名して、ネモさん牧場なんですが。
ネモさんが迷惑かけたお詫びに、と。やはり三馬鹿はあちらに逃げ込んだんです。」
「はあ。やっぱり。かたはついたんですね?
あら!立派なチーズとバターですね!」
「ええ、三人とももうご迷惑をかけることはありませんよ。片付きました。
それから、今度これを使ったスイーツを売り出すそうです。クッキーとか、バターキャンディとか。
チーズケーキとか。
それはカレーヌさんがやるそうです。」
「ああ!お元気でしたが?夫婦で働いてたんですよね!この騒ぎで怖かったんじゃないですか?
可哀想に。」
「あー、やはり、レイカさんは優しい。あんなに迷惑をかけられたのに。アンディなんか塩対応でしたよ。」
「あらら。」