素麺みたいに流したい。
八月になったある日。
王妃様がこちらへいらっしゃった。
その時、ハイド君が借り出されて、龍太郎君もメリイさんも呼ばれた。
(母は子供の世話という口実で席を外した。)
ハイド君は、今回茶色のカツラだ。
メリイさんと龍太郎君はダビデ像を思いだす、ヘアスタイルと言ってたよ。まあ彫りが深いからね。
王妃様はどっちかと言うとアムロ・○イに近くない?っておっしゃった。
「それ、褒めてますか?」
ハイド君は複雑な顔をしていた。
メニューは素麺です。
素麺が食べたい王妃様のリクエストだよ。
あっさりして良いだろうと、妊婦のヴィヴィアンナ様も呼ばれた。
あ、リード様もね。
「素麺!素麺!」
王妃様はハイテンションだ。
「あっさりして美味しいです。」
にこやかに召し上がる、ヴィヴィアンナ様。
お美しいです。何よりです。
「母上と一緒なら何でも美味しいです。」
にこやかに召し上がるマザコン、リード様。
もうすぐ三人目も産まれるっていうのにさあ。
「ネエ、色ツキナノハ無いの?」
「龍太郎。それは冷麦よ。」
「ねえ、レイカ。今度は冷やし中華が食べたいわ。」
「了解です。」
「オレも、オレも、食ベル!冷やし中華!」
「はいはい。」
「ソレニサ、流し素麺モ、ドウダイ?」
あー、あれね。オモチャだとロータリーでぐるぐる回るヤツなんだよね。
昔よく商店街のイベントでやってたな。
上から水で流すやつ。
すぐツユが薄まっちゃうんだよ。
「オレがさ、竹トカ取ってキテ、ツナゲルよ!」
「良いですね!食べ放題にしませんか?」
さっきからハシが止まらないメリイさん。
相変わらずの健啖家振りである。
こほん。
「そろそろ良いかしら。」
王妃様が話を切り出す。
「元侍女長はどうしてるかしら?」
「そう言えばいましたね、ヘレンさん?」
「ヘレナよ、レイカ。それじゃあ、ウォーター!の人か、目玉のきよし師匠の奥さんよ。」
おう。そうっすね。
三重苦の偉人と、小さなことからコツコツと。
「ツッチーのモニター報告は上がって来ますが。
もう傷も癒えて元気かと。」
アンちゃんが報告する。
「シェルターで働いてるのよね?どんな感じかしら。」
「やはり、時々虐げられた女性が来ます。
今10人くらいかな。」
リード様が眉間にシワを寄せての報告だ。
「ヘレナは上手くまとめているようですよ。
特に問題はありませんよ。口が軽いのもなおったみたいです。」
あの偽物ブルーウォーターのおかげかしら。
「それに、ビッキーもそちらで働いてるとか。」
へえ。
「セティ君が必要以上に見守って、鬱陶しがられているみたいなんです。」
アンちゃんの報告は続く。
おや?メリイさんが何か言いたげだぞ。
「リード様。うちのレプトン兄が何か言っておりませんでしょうか。」
「うん、母君を引き取りたいって奴だよね。」
なんと。
「それはどういうことなの。リード。」
「うーん。兄上も言ってましたけど、グローリー夫人、ちょっと壊れ気味なんだって。」
「何ですって?」
「母がアラン様との接見の時、ぶつぶつ言ったり、泣き喚いてたらしいんです。
もう不敬な事この上無しで。
父に不満があったものが爆発したんですね。
―私が結婚を自由に出来ることが許せないらしく。それが引き金になったとか。」
はあ?何じゃ、そりゃ。
「それで今、静養してるんです。母の実家で。
祖母が物凄く怒っていて、父と結婚させるのではなかったと。
好きな人がいたのに、生木を引き裂くように別れさせられて父と、結婚したのですって。」
「つまり自分が意に沿わぬ結婚をした。
メリイさんがそんな目にあわなくてよかったと思う反面、羨ましくてたまらないのですね。」
ヴィヴィアンナ様がポツリと言った。
「うーん、毒親まではいかなくても。ちょっとね。でも貴族では良くある話よね。」
王妃様が考えこんだ。
「だからレプトン君のところか。メリイさんのとこじゃなくてね。」
リード様が得心が言ったと言う顔をした。
「デモサ。ソンナ危なかっかしいオッカサンを引き取って仕事にナルノカ?」
「まあ、シェルターに入ってもらった方がいいでしょうねえ。」
アンちゃんが言う。
「私の方にも話は入っています。その場にいたヤマシロから。尋常では無かったそうですよ。」
「父母は、貴族の典型のような人達です。
特に母は自分が働くことなんか想像も出来ない。
だから私も働けない。と思ってます。」
「まるで昭和の価値観。将来の夢はお嫁さんと言うやつね。」
「はい。」
「どう思う?レイカ。」
「うん、公爵と離縁なさったりはしないんですか?
その方がいいんじゃ?
まあどちらにしろ、コチラに来ていろんな価値観を知るのが、大切ですよ。」
「レイカちゃん!バッサリ言うなあ!」
「あら、そう?」
だって時代は動いている。
「公爵夫人は女性が働くなんて、という偏見があると思われます。
だからメリイさんを過小評価してます。
彼女にとっては婚約破棄された、可哀想な娘なのでしょう。
こんなに優秀でかけがえがない人なのに。
とにかく早く結婚させて体裁を整えたい。
それだけなんですよ。
だから、メリイさんがどれだけ生き生きと働いているか。見せつけてやりたいですね。」
あら、メリイさん泣きそうになってる。
「でも、今は心神耗弱状態みたいですから、シェルターでゆっくりするのも必要です。」
メリイさんが抱きついてきた。
「ありがとう、おかみさん!じゃなくて、レイカさん!」
あらあら。
「そうですよ、レイカですよ、メリイさん。
お間違えなきよう。」
アンちゃんが低い声で言う。
そこへ、龍太郎くんが立ち塞がる。
「アンディサン。アンタモ細えな。
そんなにレイカさんの過去が気にナルカイ。
コナイダ、メリイにレイカサンの前世の夫にツイテ根掘り葉掘りキイテタナ。」
…はああっ?
「何、何を言うんだっ!」
狼狽えるアンちゃん。
「あら。」「へえ。」
王妃様とリード様が面白そうな顔で見ているよ。
「アンちゃん。貴方何を。」
「いやいやいや?聞いてませんよおお?」
「いいえ、聞かれましたよ。」
「メリイさんっ!ヤメテ!お願いっ!」
ガチ悲鳴をあげるアンちゃん。
まったく、何聞いてるんだか。
ハイド君とヴィヴィアンナ様は下を向いている。
さては笑いをこらえてますね。
「大丈夫ですよ、レイカさん。私もそんなに詳しくない、ただのお客だったからと答えました。」
「あら、そうなの。」
「はい。外見がマッチョでクマみたいだったなんて言ってません。
あだ名がヒゲダルマだなんて、言ってませんよ。
それからおつり渡すときに、ハイ十万円とか百万円とか毎回言うなんて関西のおっちゃんかいなと、思ったなんて言ってません。」
言ってるじゃん。
「うわああっ!」
アンちゃんは走りさった。
「おほほほ。若いって良いわね。」
王妃様が笑った。
…ははははは。
それを追いかける龍太郎くん。
「何だよう!来るなよ!」
お構いなしに肩に乗る。
「痛てててっ、爪を立てるなっ。」
「アンさん。アンタ、忍びでは偉イ人ナンダロ。」
「それが何?」
「俺も、コレカラのメリイの相手ハ気にナルカラヨ、アンサンの気持ち、ワカル。
ダケドアンタは、同じ種族に生まれたンダカラ、イイジャネエカ。ナ?
ドッシリ構えなよ、偉エンダロ。」
「…。」
一同、しんみりとする。
「ぐすっ。」
「あら、リード泣いてるの。」
「ええ、母上も涙目ではないですか。」
「龍太郎ー!何か食いたいものないか!?
うっううっ。」
「料理のアンチャン!もんじゃ焼きガ食べタイ!」
「ううっ。いいとも。安上がりなヤツめ。」
「…うん。龍の字。お酒は私が差し入れするワ。」
アンちゃんがポツリと言う。
「ヤッター!ヤッター!ヤッター○○!」
はい、10代の少年が良く言うヤツ。
コッソリとメリイさんを見ると、目を見開いたまま静かに涙を流していた。
切ないわね。
「ほほほ。いける口なの?龍太郎ちゃん。
龍だけどうわばみかしら?リアルヤマタのオロチになりそうね?酒樽を用意したら顔を突っ込んで飲み干したりしてね。」
「王妃様。それを言うならキング○ドラの方がシルエットとして近くないですか。羽根ついてるし。」
「モウ。言ってクレルネエ。」
王妃様がこんど樽酒を差し入れて下さる事になった。
良かったね。
鯨飲してね。龍だけど。
誤字報告ありがとうございます。人名訂正しました。




