守護者。
ホラーなお菊人形ではなく、お松人形を見てぶっ倒れたわたくし。
「ホラホラ、ホラーがやってくる。けけけけけ。」
と言っていたらしい。
まったく覚えておりません。
母が心配してメアリアンさんを呼んだ。
「このお人形、何か悪いもの取り憑いていないかしら?」
「うーん、そんな事はありません。髪の毛は人毛ですけどね、提供した忍び達の残留思念は、お小遣いゲットだぜー!ですよ。」
いやん。本当に人毛なの。コレ。
「シャンプーとコンディショナー済みですよ。」
それは安心、でも問題はそこじゃない。
「ただ、コレを作った匠たちの執念が沁みついています。」
「え、何なの?」 ヤダ怖い。
「はい、見て見て!注目してえ!褒めて可愛いと言ってえ!!と。」
「ええっ。」
ルックアットミーな人形なわけえ?
「人目につく明るいところに置いておくことですわ。そしたら執念は満足して飛んでいきます。」
そんな、お米についた虫みたいに。
「でもねえ。猫カフェに置くとお猫様たちが怯えるデショ。」
アンちゃんも頭をひねる。
「せっかくの贈り物だもの。仕舞い込むのも、ねえ。」
私もそれは気がひけるの。
「それにこの子、いつ見ても目が合うわ。怖くない?」
母よ。貴女もそう思うか。
ううーん。
「良い案がありますわ。」
メアリアンさんは微笑んだ。
人形はブルーウォーター公国の入り口の駅に置かれる事になった。
「はあい。私、松子ちゃん。目を合わせてお願いしてね?」
の説明板付きで。
お願いが叶って子宝に恵まれたり、宝くじが当たったとかなんとか。
みんなに注目されて段々穏やかな顔つきになってきた松子ちゃん。
山口小夜子顔から、山口百恵顔になって来たらしいのである。
ここにお供え物を置かないで。神像ではありません。と書いてあるのに、
小銭とかお菓子とか果物が置いてあるらしい。
待ち合わせ場所としても有名になったとか。
上野のパンダや渋谷のハチ公か。
グッズ展開もして売れてるらしいよ!
(ちなみに監修はネモさんだが、私にも所有者として売り上げの5%が来るのである。)
ステッカー、お面。
お饅頭に金太郎アメならぬ、松子ちゃんアメ。
一番人気はお腹を押すとランダムに声や歌が出る、
おしゃべり松子ちゃん人形なのだそうだ。
セリフは王妃様のアドバイスを求めたそうで、
センスが冴えてます。
ご紹介しましょう。
「ふふふ。私、松子ちゃん、今貴女の後ろにいるの。」
「貴女のずっとお側に置いて欲しいのよ。うふふ。お別れする時は死ぬときです。」
「♫私の人形は良い人形♪目はパッチリとお〜色白でええ〜♫」
「おかっぱ、おかっぱ嬉しいな♪本当は伸びるって知っとるけ。
あ、知っとるけのけ。♪」
と言う肝試し感アリアリの一品である。
さて、産後一か月経って自宅でゆっくりしてると
メアリアンさんが来た。
「松子ちゃんのあの目なんですが。本当に魂が宿っている気がします。」
いきなりの爆弾発言だよ、おい。
それ、早く言ってよ。安心しきっていたのに。
「キューちゃんの気配なんですが。」
早速、母にキューちゃんを呼んでもらう。
「そうなの?」
キュー?キューキュー。
「多分だけど、砂漠の国で色々加工させられた水晶のひとつだと言ってる。」
あら、母もキューちゃんの言葉が随分わかるようになったのね。
「あの人形の目を通して、不審者がブルーウォーターに入らないように、監視することも出来るって。」
「え!それは是非お願いしたいワ!」
アンちゃんが食い付いてきた。
コーーン?
「うん、なあに?それはちょっと。」
母が困ってる。
「何と言ってるんですか?お義母さん。」
「あのね、アンディさん。入ったらアカン奴がきたら、目からビームを出して即、焼いていいかって。」
「いいと思います!」
「それからね。あの人形の構造上、首が一回転できるみたいだから、時々くるっと360度回してみんなの度肝を抜きたいと。」
「いいと思います!」
「いやいや?心臓の悪い人はクビが回る人形を見たら倒れるわよ、やめたげて?」
「では、夜中の丑三つ時にするって。」
「あっ、ハイ。」
誰が見るんだろう、それ。逆に肝試し客がわんさか来るかな。
「キューちゃん、一応ネモさんにも確認するけど、アナタがヤバいと思う者は焼いていいんじゃないの。守護の神獣のやる事だものね。」
アンちゃんは腕組みをして言った。
その日の夕方ネモさんが来た。龍太郎君とメリイさんと一緒に。
「ヤァ龍の字。久しぶりじゃんか。」
「アンディサン、龍の字ってナンだよ。みんな好き勝手ニ呼ブンダカラ。
白狐のダンナ、駅前の人形見てキタヨ。
アンタのニオイがプンプンスルナ。」
「ええ、凄い迫力の市松人形ですね。どこかのお寺で見たのと同じです。」
メリイさん。それはガチにいわく付きでは。
「そうだね、キューちゃん、すごいね。キミの分身みたいになってるね。余計な情念が抜けちゃってるから。」
へえ、米の虫みたいに飛んでったのか。
「それでビームを出して不審者を焼きたいって?
良いんじゃないか?」
ネモさんの笑顔はちょっと怖い。
「でもねえ。」母も私もメリイさんも思案顔だ。
「アア、ナルホド。旦那の独断ト偏見にナルとマズイノカ。じゃアさ、一度警告音鳴らせばイイんじゃん?
ブーッて。良くアル万引き防止トカ。
飛行機の金属探知機ミタイニネ。」
龍太郎君。それがわかるのはこの国では私とメリイさんぐらいや。
「ブーッて鳴ったら入国を諦めてもらうんだね。
なるほど。強行したら焼かれると。
うん、各国に通知しよう。」
それから、他所の国の間者が入ろうとするとブーッと松子ちゃんの口から音が出るようになったそうな。
たまになんの自覚もない旅行者が弾かれて、
「なんでえ?」
と涙目になってるらしいが、
ボディチェックをしたら大体ヤバいものが出るそうだ。
「あなたコレどうしたの?」
「え、友達にここの親戚に渡してって頼まれて。
マズイものなんですか?」
と、本人に自覚なく運び屋にされそうになってたとか。
ちなみに、受け取り手と思われる犯罪者は、
カッ!!
いきなり松子ちゃんの目から蒼い光が出て、
とどーん!!
焼かれたそうだ。
すごいなあ。
話は戻るが、龍太郎君がこないだ来たときの話の続きである。
お人形の話が一段落してお開きかなと、思ったら。
いきなり龍太郎君がアンちゃんの肩に止まった。
「うわあっ、びっくりした!ルリルリちゃんの比ではない重さと衝撃だ!」
「アノサ。」
「何だい?龍の字。」
「今度イツ、シンゴの野郎は来ルンダイ?」
「え?えええ?えっ?」
「ちょっと!何いってるの!龍太郎!
帰るわよっ!!」
メリイさんが、龍太郎をひったくるようにして、自分の肩にのせた。
そしてプリプリ怒りながら帰って行った。
アンちゃんは固まっていたが、部屋の隅に向かって
話しかけた。
「オイ、ハイド。いるんだろ?」
「ここに。」
え、いたの?
私と母は驚いたが、キューちゃんとネモさんには
わかっていたようだ。
「言いたい事があるから残ってたんだろ?」
「…はい、実は。龍太郎がね、こないだオイオイ泣いてましてね。」
くーん。
「キューちゃんが我にも伝わってきた。うっとおしい。と言ってるわ。」
「泣いてた?」
「はい、メリイさんがどうもシンゴがお気に入りだと。自分は、ううっ、ドラゴンだからっ、仕方ないって。ううう。」
「お前まで泣くことないだろ。」
アンちゃんが眉尻を下げた。
「は、龍太郎がね、俺のとこに夜来ましてね。夜の護衛はイリヤでしょ。
ま、それでみんなに何か振る舞うかって食堂で仕込みをしてたんスよ。
そしたら、料理のあんちゃん、聞いてくれよっ。
しくしくしく。って泣くんです。
一ノ瀬、いや、メリイだな。あの子にはちゃんとした人間の伴侶が必要だよなあ、分かってるんだけどさって。」
「……。」
「シンゴは良い奴だし、多分アイツもメリイが好きみたいだし。良いことなんだよなあ、頭ではわかってんだ。だけどツライよなあ。って。うっうっうっ。」
あら、私もなんか泣けてきたわ。
「今夜は付き合えよっ、おれ、未成年だったけど、飲みたい気分だよっ!この体は千年ものだからいいよなって。
それで俺も焼きそばやらお好み焼きやら作ってやりましてね。秘蔵の猫伊蔵を出してやったんす。」
「おまえ、イイ酒持ってるな!」
アンちゃん、ちゃかしながらも泣いてるのね。
「ううっ、それで龍太郎は、惚れた女の幸せを願わないなんて、男じゃねえよな!シンゴと幸せになって欲しいのも本気だよ。
子供もこさえてくれたらさ。その子孫を守る喜びが出来らア、って。ううううっ。
でもさ、ハイドの兄さん。今日は泣いていいかい?って。うおおおおっ。」
ずずっ。コチラも泣けます。母も泣いてる。
キューちゃんは、そっぽを向いている。
「いい子だねえ。」
ネモさんも涙目だ。
「それで無理してにかっと笑ってさ。
歯に青のりなんか、ついちゃっててね。
ぐすっ。
いい奴ですよ。アイツは。
綺麗な少年のままの心なんだからね。」
…究極のプラトニックラブだわ。
初恋は実らないと言うけれど。
だけど、彼には残酷だ。
「あー、何でこの世界にはドラゴン○○ルがないんだろう!そしたら人間になれるのにっ!
いでよ!神龍!
あ、俺のことかって。意味がわからないけど、可哀想で。ううっ。」
うううっ。そのネタがわかるのはここでは私だけや。
龍太郎くんに幸あれ。
別れる時は死ぬときです。発言は小柳ルミ子さんだったかな。
知っとるけは、さんちゃんのキャラですね。




