え、それ、半端ないって。
我がブルーウォーター公国には、母と子のクリニックというものがある。
ネモさんや、エリーフラワー様の尽力で建てられたもので、産婦人科と小児科が併設されていて便利で安心な施設だ。
先日のお産のとき、エリーフラワー様もカレーヌ様も入院、出産された。
ギガントからも沢山の医師や看護師が流れてきたのでスタッフの数も多い。
その中でも最高級の部屋で最高級の待遇を受けているのだ、ふふふ。
コネである。すごいのである。
「あンらー!私より良い部屋じゃん!こんな部屋あったのね!悔しい。きい。」
お見舞いに来てくださって早速、毒を吐くカレーヌ様。
ハンカチを噛んでいる。
その芸はエリーフラワー様直伝ですかね?
ご自身の産後の検診とお子様の検診もあり寄って下さった。
「そりゃあ、双子だからですよ。手もかかるし。
私の他にはエリーフラワー様ご自身しか使ってないって。」
「そうなの。じゃアいいわ。」
ここの個室はもちろん警備も厳重で、簡単には入れないのである。
カレーヌ様はアンちゃんが顔パスで入れてくれたのだ。
「何か食べたいものない?今度持ってくるわよ。」
「え、嬉しいかも。バターたっぷりのクッキーが食べたい。」
頭に森○のムーンライトなクッキーが浮かぶ。
ああ、鶴見に工場見学に行ったっけ。
試食したわー。楽しかった。
あれ以来食べてないなあ。
「OK!特製なのを作ってあげるわよう!」
カレーヌ様は口は悪いがいい子なんだよね。
「ところでお子様はビレーヌ様に?」
「ビレイーヌよ。発音としてはヴィレィィィヌが近いわね。」
Eが付いてる方のアンですよ、みたいな言い方をするんだった。
「そちらのお子様はランちゃんに、アスカちゃんか。
アンディにラン。レイカにアスカ。いいじゃない。
なんか揃っていてさ。
名付け親のアラン様、センスあるう。」
…ははは。
私とアンちゃんは顔を見合わせて笑った。
「そういえばローリア様とネモさんのお子様は、リナだったわね。」
「王妃様が男子だったら、ニモとつけたらどうかと、アドバイスするつもりだったとおっしゃっていたワ。」
…ははは。
そこに、ノックの音がした。
「失礼します。おや、カレーヌ様も来てらっしゃったんですね。この度はおめでとう御座います。」
まあ!まあ!ヴィヴィアンナ様だ!
会えて嬉しいわ!
キラキラしてるよ!相変わらず素敵い!
「げふ。」
「うわ!レイカちゃん、鼻血!」
アンちゃんの悲鳴で母が鼻を押さえてくれる。
「ど、どうしたんですか!体調がお悪いのでは?」
大丈夫ですから、行かないで!
「ヴィヴィアンナ様もおめでとう御座います。
ご懐妊されたって本当なんですね。」
花のように笑う麗人。
「ええ、今、定期検診を受けてきました。
九月に生まれます。」
えーと、今は六月だから、、あと三ヶ月?
良く隠し通してたものだ。
「同じ学年になりますね、宜しく。
カレーヌ様のところともご一緒で嬉しいな。」
「ええ、宜しく。お嬢様というお噂ですわね。
女の子が揃ったわね。
みんなで仲良くさせましょうね。うふふ。
楽しいわ。」
楽しいのはいいが、ヴィヴィアンナ様のお子様はグランディ王家の血を引くのである。
ちょっと無理ではないかしら。
お二人はにこやかに帰っていった。
「あの二人があんなに仲良くなるなんてネ。
嬉しいワ。」
アンちゃんは目を押さえている。
ホントにねえ。
その後、アンちゃんは眠る我が娘達をみながら、
「子供が産まれるとグローリー公爵の気持ちもわかるワね。
可愛い娘を手元に置いときたいから、子飼いの男にめあわせる。私もそうしようかしら、フフフ。」
と物騒な事を言った。
あきれた。
「そんなのは子供が決めることよ。結婚の自由をもらったじゃないの。何言ってるの。
そういえば、あちらはどうなったの。レプトンさんはグランディのご実家に行ったんでしょ。」
アンちゃんは難しい顔をした。
「あちらはなかなか複雑らしいよ。
レプトン君は先日帰ってきたけれど、公爵夫人、倒れたって。」
「あららら。」
「ちょっと公爵がやりすぎたような、いや、逆に今まで何もしなかったツケがきたと言うかね?」
なんか複雑な様だ。
そこへ、また見舞い客だよ。
千客万来だね。
あら、ローリアさんとお母様じゃないの。
「おめでとう御座います。可愛らしいお嬢様達。
ウチの娘と仲良くしてやって下さいね。」
「ありがとうございます、是非。」
もちろん建前である。
この国の王とも言えるネモさんのお子様である。
リード様のお子様もだが、一緒に遊ばせて怪我でもさせてご覧なさいよ、あーた。
「子供がやった事ですから。」
が、どこまで通じるか。
カレーヌ様のお子様と家族同然のエリーフラワー様のお子様とは、ガンガン遊ばせてよかろう。
ミネルヴァちゃんなんか、偶然同じ誕生日になったものだから、
「あたちの妹もどーぜん(同然)でしゅ。」
と言ってくれた。
仲良くしてあげてね、と本気でお願いした。
「出産祝いはみんなで合同にする事にしました。
エリーフラワー様と、ヴィヴィアンナ様とカレーヌ様と、ウチからです。」
とローリア様。
「王妃様が案を出してくださったの。」
とそのお母様が続ける。
え、まさかまた、鮭を咥えたクマではなかろうな?
背中を冷たいものが滴り落ちる。
「名人達の技が集結した。女の子のお人形ですわ。」
え?もしかして雛人形とか?それなら嬉しい!
「こちらですわ。」
台を押してくるのは、オー・ギンさんとサマンサちゃんだ。
そこには布がかけられている。
ローリアさんの説明は続く。
「王妃様のところにダイシ商会のダンが持ち込んだ衣装があるのですが、王妃様が和服だと喜ばれて着せたのですわ。」
あーあれか。
「目には凝った水晶眼を入れましたの。どこからみても目が合うような不思議さ。」
う、うん?
「髪もね、黒髪の忍び達から集めましたの。
王妃様が伸びたら愉快ねと。」
…ちょっと待て?
まさかまさか?嫌な予感が満載だ。
だって、ほら、アレ雛人形の大きさと違う。
「こちらですの。」
バサリ。
布が取られた。
そこには二歳児ぐらいの大きさの、
市松人形がでーんと鎮座していた!!
「匠たちがチカラをあわせて作りあげた、
市松人形の松子ちゃんですわ!」
パチリ。
今、目があったよねええ???
「ぎゃあああああああ!私の人形は良い人形!!」
山岸凉子さんの名作ホラー漫画のタイトルを叫んで、私は打っ倒れたのだった。
「レイカちゃんっ!」
ーああ、せめて名前がお菊じゃなくて良かった。
薄れる意識の中でそう思った。
誤字報告ありがとうございます。