良かった。
誤字報告ありがとうございます
六月になりました。
そういえば。はたと気がつく。
「最近、ヴィヴィアンナ様にお会いしていない。」
何か物足りないなあ、と思っていたのだ。
ああ、あの麗しさが、足りません。
お会いしたい。
エリーフラワー様と同居していたときは、良く来られていたのよ。お互いの子供たちの交流もあるしね。
一応、エリーフラワー様が、エドガー様、フロル様の乳母という形なので、ご体調が悪くない時はお二人とミネルヴァちゃんと三人に、簡単な授業をされていたのだ。
ちょっと覗いて見た。
「良いですか、光と音では光の方が早く伝わります。
雷なんかね、光ってから、ドーンというまでの間が短いと近くなのですよ。」
ほほう。本格的で良いですね。
「ところでウチの乳母が雷は神様の雷と言ってました。」
「キューちゃんがやってるの?」
王子様たちの質問だ。
ははあ、これは。良い子にしないと神の怒りに触れますよ、とか、雷様におへそを取られますよ、系のしつけかあ。
へそなんか集めてどうするんですかと思っていた、幼き頃の思い出よ。
へそまんで良いじゃないか。美味しいし。
小田原厚木道路の思い出のへそまんよ。
今はもうそこには、ない。
―いかん、思い出にふけっちゃったぜ。
子供たちの質問に困るキューちゃん。
キュー、
多分違うと言ってるな。
「ほほほ。雷は電気なのよ。貴方達も使っている灯とかの電気よ。」
おっと、本格的だと思ったのだ。
それが先月か。
「語学はね、ヴィヴィアンナ様が堪能だからそちらにおまかせしてるの。」
と、エリーフラワー様が言ってたけど。
お見かけしない。
公務がお忙しいんだろうな。
外交の。あの方に会いたい外国の要人はてんこ盛りだ。
「ヴィヴィアンナ様、お元気かしら。」
「そうねえ。そろそろ安定期じゃないの?」
母がポツリと言った。
―はあ?
「最近、あの方がゆったりとしたお洋服を着ていたのは皆知ってるし、リード様がお外に出さなくなったでしょ。公然の秘密よね。」
そう言えばメリイさんが言ってたな。
「こないだ初めてヴィヴィアンナ様と間近でお会いしましたの。ゆったりとしたブラウスとスカートがお似合いで。」
なるほどなあ。
最近、王妃様とのお食事会にも来ない訳だ。
でもさあ、アンちゃんは知ってたでしょ。
ジロリと睨みつけると目を逸す。
「内々に発表されたのが遅かったの。つい最近よ。
レイカちゃん、もう臨月だしね。
お祝いは私だけで済ませたわ。大量の絹織物でね。」
ギリリ。(歯を噛み締める音。)
「あーん、怖ああい!」
アンちゃんは逃げて行った。
ざわめく忍びたち。
「アンディ様がアネさんに怒られたらしい。」
「何やらかしたんだ。」
「レイカそんなに怒らないの。今の貴女の顔、鬼の形相よ。
わかるわー、お母さんもヴィヴィアンナ様にお会いしたいし。」
「そうよね!」
「でもさ、ほら、今度は姫だってウワサなの。
本当に厳重に隠してらっしゃって。
お二人はお子様がもっと欲しかったけど、年末のコンサートの激しいダンスがあったでしょ。
その後じゃないとという、暗黙の了解があったわけ。」
「あ、なるほど。」
「コンサートの後、めくるめく熱い夜を過ごされたんですって!
あら、レイカ。想像しちゃダメよ?」
想像したら中○星香さんが描くような美麗なシーンが浮かんだ。
(エス○ーとリズである。)
「こちらがね、多分お二人をモデルにした薄い本なの。
何故かメンドン国の王妃様が描いていて。
本当なら差押えになってもおかしくないんだけどね、何故か二人とも男性に描かれているからかしら。
コッソリと流通してるのよ。」
何故、母が持っている。
その薄い本をめくった。
「おうふ。」
昔ならお耽美物と言われた奴である。
メンドン国の王妃様、やはりお腐り遊ばしていたか。
いや、絵が上手い、上手すぎる。
物すごいまつげの長さと量だ。髪もきらめき、豊かにサラサラと。
やばいところは絶妙に髪で隠してある。
松本零士さんみたいである。
まあ、ぶっちゃけアンドレ(男)みたいなのが、オスカル(男)もどきを押し倒している。
アンドレっぽいのはヴィヴィアンナ様だ。
リード様もどきが、ああっ!とか言ってる。
…うん。複雑な感情で本を閉じた。
「母さんの宝物だからあげないわよ!」
いらんわい。
「王妃様もお気に入りなんですって!」
…へええ。
「きっと美しいお姫様がお生まれになるわね!」
それは同意する。
お生まれになったらすぐに婚約者の打診が、あるんだろうなあ。
グランディにいたら大変だったろう。
すぐに政略結婚の駒にされていたに違いない。
まあ、ブルーウォーター公国ならすぐに決めなくても、いいんじゃないかな。
平和だし。キューちゃんも龍太郎くんもいる。
「レイカ、貴女の子供には婚約の打診はこないの?」
「お母さん。まだ生まれてもいないのよ。」
おっと、いけない。ひとごとでは無かったか。
さて、私はその二週間後の六月二十日、予定日通りに双子の女の子を産んだ。
我ながら安産であった。若いからねえ。
「うっうっうっうっ、良かったわ、安産で。母子共に無事で。」
アンちゃんがめちゃくちゃ泣いてる。
「乳母は要らない?二人分でしょ。」
「あ、大丈夫よ。足りない分は、エリーフラワー様の粉ミルクにするし。」
「わかったわ!」
「あとは手伝いにサマンサちゃんを頼んで?
お母さんだけじゃ大変よ。
親戚ならアンちゃんも安心でしょ。」
「そうね!」
そして早速、王妃様がいらっしゃった。
「まああ、可愛いわ。
ランちゃんとアスカちゃんね。ふふ、
サイキックな対決が出来そうよね。」
「王妃様ありがとうございます。」
「それで、出産祝い何が良いかしらって、…もうわかってるわ。」
「「ええ、子供たちが大きくなったとき、結婚を強制されない権利をください。」」
あら、アンちゃんも声が揃ったわ。
「やはりね。そうだと思ったわ。
アンディがいるのに無理な結婚を強いる者はいなさそうだけどね。」
「ええ、まあ。でも何があるかわかりませんから。」
「エリーフラワーが一人は、息子のサファイアと、結婚させたいと言ってたわよ。
あの夫婦の元なら幸せになれるんじゃないの?」
「そうですね、でも本人同士のことですからね。」
「わかったわ。了解よ、レイカ。
あの子達には名付け親のアランがついているわ。
忘れないでね。」
「勿体ないことでございます。」
「ほほほ。まあ、私も案を頼まれて出したけどね。」
心のそこから感謝しております、王妃様。
おかげでゴリエにならなくて済みました。