変化。
私は妊婦という事で、過保護なアンちゃんが余計な情報をいれない。
ので、最近の世の中の話に疎いのだ。
ん?シンゴくんが、アンちゃんに愚痴っているぞ。
報告しに来たんだね。
どらどら。なんじゃい。
聞き耳をたてる。
「あの女狐のまわりうんざりします。どいつもこいつも。」
「ははあ、そうか。エドワードも言ってたな。
なんかさ、公爵もやり過ぎだよな。
でもまあ、あと半年くらいでケリがつくんじゃないか?」
「何の事です。」
「もうすぐ騎士団の臨時募集が始まるのさ、
あの馬鹿は勉強もせず剣を振ってるみたいだから、良い感じに仕上がってる。
まあ、学園長が誘導してるんだけど。」
「それで、入団試験を受けさせて、合格ですか。
学園中退で。」
「そう。―そして前線にやられる。」
「それは。」
「それで公爵の復讐は完成さ。怖いねえ。」
「しかしなんで中途半端な時期に、臨時募集ですか。」
アンちゃんは人が悪そうな顔で笑った。
「こないだ、龍太郎くんが飛び回ったよねえ。
ドラゴンの脅威に備えて、だってよ。」
「でも、アイツは悪いことしないでしょ。」
シンゴ君がびっくりして目を丸くして反論する。
「そうだね、でもグランディのお偉い貴族様には、
わからない。
本当はルートの奴は来年卒業したら、入団予定だった。龍太郎くんのおかげで早まったのさ。」
あららら。
「前線って言ったってな、今はどことも戦はしていない。形だけなんだよ。
多分、砂漠の国あたりとの国境にやられる。
あの馬鹿が自分の才覚で生き残れるか、
秘密裏に処分されるか。
俺にも読めないねえ。」
うーん。するとあのロージイは未亡人になるのか?
「あら、レイカちゃん、聞いてたの?胎教に悪いわよ。」
こないだのゴリエの方が悪かったっす。
そこへ。
「レイカさん。カレーヌ様のご実家からコレが届きましたよ。」
料理のあんちゃんこと、ハイド君が顔を出した。
「あら、レモンとオレンジの砂糖漬けじゃないの。」
「あー、あの領地の名物だよな。」
「よくカレーヌ様がケーキやムースに乗せてますね。」
「あら嬉しい。貴女こう言うの好きでしょ、レイカ。砂糖とかまぶしたやつ。」
「そうなのよ。りんかけピーナッツもいいけど。」
前世でもザボンの砂糖漬けとか好きだったのである。九州の名物ね。
口の中がジャリジャリするけどさ。
少し出してもらって、みんなでお茶だ。
私はホットミルクだよ。
「懐かしいな。作るのを手伝ったことがある。」
アンちゃんがポツリと言った。
うん、今日は久しぶりにアンちゃんは各種名前のシャウトをしそうだ。
(例のマリラ婆ちゃん、メロディ、って奴ね。)
彼の心の闇と傷はまだまだ深い。
「うーん、ちょっと交代させるかあ。」
アンちゃんは伸びをした。
「ハイド、おまえちょっとヤマシロと代われ。」
「はい?」
「おまえが今度メリイさんのところへ。
ちょっとヤマシロには、グランディに行ってもらう。一週間くらいな。」
シンゴ君の顔が強張る。
「え、それは。不測の事態がありそうなんですか?」
「元々おまえとヤマシロの二人はアラン様の護衛だ。
少しあちらを強化してもらおうとな。」
シンゴ君とハイド君は顔を見合わせた。
「どうもね、最近商談と称して間者が入ってるかもなんだな。不確実な情報だけど。」
そこで薄く笑った。
「第一騎士団の元事務官のケイジ君は通訳も出来たんだ。それに実は腕っぷしもなかなかでね。
彼がいれば通訳のフリをした間者は見破られたんだが。」
まったく余計な事してくれるよなァとアンちゃんはため息をついた。
「他にも通訳はいるでしょう。」
「まあね、他の部署から借りてくるんだろうな。」
そこでチラリとハイド君を見て愉快そうに笑う安全ちゃんだ。
「キミには龍太郎くんが懐いているからね、
ま、よろしく頼むよ。」
「懐いてるっていうんですかねえ。アレ。」
ハイド君は、色素が薄くてよくみえないが、
多分?眉尻を下げた。
スキンヘッドが嬉しそうに輝いた…様に見えたよ。
実際、龍太郎くんは大喜びしたそうだ。
「くくく。」
「どうしたの。アンちゃん。」
思い出し笑いとは。
「一応さ、ハイドは任務の時は変装するんだよ。」
「うん。」
「カツラを被るのね、そうすると、がらりと雰囲気が変わるわけ。眉も描くし。」
「なるほど。」
「それでさ、黒髪のカツラをかぶって眉も黒々と描いてメリイさんところ行ったら、
え?誰ですか?状態だったわけね。
俺とかヤマシロとか、シンゴとかさ、笑いをこらえちゃって。」
「あら、固定観念って怖いわね。」
「そしたらさ、龍太郎君が、
何イッテンダヨ!このニオイ!料理の兄チャンダ!って。ははははは!」
あら、カバ○にもあったなあ。そういうやつ。
「龍太郎君喜んじゃって!インコ大になってたけどさ!
グルグルとハイドの周りを飛びまわっちゃって!はははっ!
また、ヤキソバ作ッテ!お好み焼きもイイナア!!って。」
「なかなか微笑ましいわね。」
「そこにさ、エドワードが来て、いろんなカツラで
化けられるのは便利でござるなあ!
と、真顔で言うわけよ!」
ええと。
宝塚の男役さんは色んなカツラも被るから、ショートカットだと聞いたことがある。
(もちろん、カツラなしでもステキな男子にすぐなれるからでもある。)
そんな感じか?
「でね、面白そう!こんなのかぶってみない?って、エリーフラワー様がどこからか、カツラをだしたのよ!」
「あー、衣装開発部があるからね、あそこは。」
「可哀想に、くくっ!色んなカツラを被せられちゃってさ!
いや、それが似合うのよ、アイツ顔立ち悪くないんだわ。
眉無しだとよくわからなかったなあ。
金髪だと劣化版リード様みたいでね!くくく。
でもね、どのカツラを被っても眉を黒々と描いちゃってるから、アンバランスでね。」
「あらら。」
「もちろん、エリーフラワー様が描き直そうとしたんだけと、取れないの。
きいたら、マジックで塗ったんだってさ!わはははは!
新人の時に悪い先輩にそうしろと教えられたんだってさ!」
ええっと。
「それでエリーフラワー様がメイク道具一式をくれて一件落着。」
アンちゃんはひとしきり、ひーひー笑ってから、
「で、結局しばらくは黒髪でって事になったわけ。」
そして真面目な顔をした。
「やはりさ、久しぶりにシンゴを見たらメリイさん、嬉しそうなんだわ。
龍太郎君も気がついちゃってさ。
どうするかねえ。」
ため息をつくのだった。