五月はものみな新たに。
風薫る5月。
本日は王妃様はカツオのタタキを食べてらっしゃる。
目に青葉山ホトトギス初鰹なんである。
今回のカツオのタタキは龍太郎くんに炙ってもらった。
「OK牧場。」
お願いすると昭和ギャグを口にして焼いてくれた。
(ガッツが広める前から、有名な映画だから割と使う人はいた。)
自分達の分も焼いて持ち帰った。
ちゃんと薬味も持たせてあげたよ。
小ネギ、生姜、ニンニクスライス。
ミョウガはなかったなあ。あ、あとポン酢ね。
「サンキュー。」
夜、メリイさんと白ワインで一杯やるそうだ。
ほとんど家族じゃん。
「今日は龍太郎君達いないのね。」
王妃様は残念そうだ。すっかり龍太郎君を気にいってる。
「あの子可愛いのよねえ。」
「メリイさん達は今、冷蔵庫開発中で忙しいんですよ。」
「あら!それは良いわね。」
カツオのタタキ丼を食べ終わって、
(私とアンちゃんと、ヤマシロくんもお相伴だ。)
お茶を飲んでいるとオー・ギンさんが声をかけてきた。
「王妃様。三婆がお目にかかりたいと。」
「わかった。久しぶりじゃな。半年以上たつのう。」
「ははっ。ご無沙汰しております。先日、アラン様には御立派なお世継ぎがお産まれになったこと、
心からお祝い申し上げます。」
「うむ。で、本日はどうしたのじゃ。」
「はい。リーリエが出産致しました。」
「おお。そうか。五月であったの予定日。
パープルが、ついておったの。」
「まるまるとした男子でしてな。母子ともに健康です。特に金髪ではありませんでしたな。
赤茶色の髪で、薄茶の目。」
「ふん、母親に似たのじゃな。どちらにせよ、王家の子と偽れる色ではなかったのか。」
王妃様は安堵のため息をつかれた。
「まあ、この後二人の身の振り方ですが。
ミミさんは問題ないでしょう。
ちゃんと家事もこなせますし、しおらしい態度でまわりの評判も良い。」
「あの王の従姉妹だと鼻にかけて偉そうだったのにか。」
「はい、そんなことはもうありません。リーリエとも本当の親子のようですよ。
彼女はそれこそシェルターでの世話係でも、託児所でも働けると思います。」
以上は、リーダー格のグリーン婆さんの説明だ。
そしてパープル婆さんが口を開いた。
「恐れながら、王妃様。あのリーリエは私に下さいませんか。
あれは逸材。私の後継のハニトラ担当にして見ようと思っております。」
「正直に言うと身が二つになったところで処分しようと思っていたがの。」
うわあ。怖いぞおっ。
もう一つの道の可能性を聞いてないのかな。
アンちゃんと顔を見合わせる。
「あの、王妃様。もう一つの道の可能性なんですけど、メアリアンさんが言ってたほうの。」
「あら、それはなあに?レイカ。」
「ええっと、メアリアンさんに浮かんだらしいんです。
リーリエさんの二つの未来が。
ひとつはリーリエさんの亡骸にすがって泣くミミさんの画像。
もうひとつは、王妃様に
リアルふーじこちゃあーん!と呼ばれてるリーリエさん。
胸むき出しじゃないの、と泣くミミさんの姿。
うーん、どう思われます?」
「なるほどねえ。それがこのパープルの発言に繋がるのね。
うううーん。リアル不二子ちゃん見たい気もするし。どうせ処分するくらいなら有効利用…。」
考える人のポーズになっている王妃様。
「ところで、パープル。リーリエ本人はどう言ってるのじゃ。ハニトラ専門になる気はあるのかの。」
「それはもちろんでございます。」
パープル婆さんはニヤリと笑った。
「誰だって死にたくはございませんもの。
あの身のこなし。身体能力の高さ。スタイルの良さ。いや、まったく。惚れ惚れいたしますよ。」
「うむ。美容体操で鍛えてたのかの。」
王妃様。美容体操って久しぶりに聞きました。
「それでは、パープル。リーリエはそなたに任せる。」
「はっ、有難き幸せ。」
「それからの、ブルー。砂漠の娘たちはそなたに任せてあったではないか。
あのていたらくはなんじゃ。
カレーヌの所の二人の娘はまあ、良い。
ビッキーとやらが投石をしたそうではないか。
あと、カチャか。アレは良くない。」
「は!お叱りは如何様にでも。
―カチャは適切に処分致しました。
ビッキーはセティが命乞いをしてきましてな。
もう、ブルーウォーターの若様に近づかないことを条件に、命は助けております。」
適切に処分って。
うわー。
アンちゃんを見ると素知らぬ顔をした。
そして、口を開いた。
「王妃様、妊婦のレイカがおりますから。あまり、そう言う話は。」
「あ、そうであったの。すまないな、レイカ。」
「あ、いえ。」
「それから、王妃様。パティさんも出産なさいました。」
「シンディの子か。」
王妃様は無表情になった。
「で、母子ともに健康なのじゃな?」
「はい。」
「ちなみにどちらじゃ。」
「は。男の子にございます。」
「パティさんのご母堂はお元気かの。」
「はい、もう健康も取り戻されて。
…その節は申し訳ございませんでした。」
「パティさんと、ご母堂はネモのホテルで働いてもらおうと思っておる。
子供はそこの託児所に入れてもらってな。」
それで王妃様は迷いながら口にされた。
「その、シンディの子はシンディに似ておるのか?
白い髪なのか??」
「王妃様。赤子の顔は変わりますゆえ、はっきりとは申せませんが、そんなに似てはおりませぬ。
母親に似ていると思いますよ。白っぽくはないですね、茶色かな。」
「そうか、それは良かったこと。何、どんな髪色でも良いが、余計なトラブルのタネになるといけないからの。
シンディも思えば不憫な奴であった。
子供を残せて良かったと言うべきであろうな。」
王妃様の表情は穏やかで、昔教会でみた慈母像のようだった。
タイトルは「大どろぼうホッツエンプロッツ」に出てくる、コーヒーミルの音楽のタイトルから。
小さい頃好きな本でした。どんな歌なんだろう。




