クリーナで、クリーンにしましょう。
「レイカ、体調はどうかしら?」
「王妃様、大丈夫ですよ。まだ予定日までひと月以上ありますし。」
「明日、アランが来るのね、ドラゴンを見に。
まあそこでシンゴとヤマシロの交代をするんだけど。」
「私も同席ですか?」
「キューちゃんをエドワードと一緒に、お母様に宥めて欲しいの。」
「あー、キューちゃんも同席ですか。」
それはドキドキしてきたわ。
「お母様は貴女の世話があるからと、御辞退なさろうとなさったけど。
貴女がくれば、ねえ?」
「あははは。」
そりゃ、アラン様と王妃様との同席じゃ逃げたくなるよね。
「リードも来るし。」
更に倍、ドン!
クイズダービーじゃないけどさ。
ロイヤルファミリーが三人も揃ったら普通同席したくありません。
なんかあったら首が飛びそうです。
四月某日。
ネモさんのホテルの会議室に王妃様と王子様二人がお揃いになった。
エリーフラワー様、エドワード様、そしてネモさんとウチの母。
メアリアンさんとランド兄。
そうそうたるメンバーで母の顔色は悪い。
「うう、帰りたい。」
キュー。
おや、キューちゃんが母の手を舐めてなだめてるよ。逆じゃない?
「大丈夫ですよ、お義母様。私達もいますから。
頑張ってキューちゃんを押さえましょうね。」
メアリアンさん。ありがとう。
それから、アンちゃんがシンゴくんとヤマシロくんを連れている。
私達が待っていると、肩に龍太郎君を乗せたメリイさんが入ってきた。
ギュウ。
「私達をまたせるとは良い度胸だな、と言っておるでごわす。」
「ウルサイナ、狐の旦那。コチトラ忙シカッタンダヨ。」
「おお、口を聞いた。」
驚くアラン様。
「随分と流暢になったじゃないか。」
ご満悦のリード様。
「私はグランディ国の王太子のアランだ。
神獣殿。」
「アア、王妃サンノ長男サン?俺ハ龍太郎。」
しゅうん!
龍太郎君がひとまわり大きくなったよ。
「ドラゴンラシクナッタカイ?」
「ああ!凄いな!!」
ギューコオン!
「キューちゃんが、わざとらしいと言ってるわ。」
「フン、ソッチノ方ガヨッポドデカイジャン。」
アラン様が青くなった。
「こ、こんな所で争わないでくれたまえ。ところで聞いておきたいのだが、君はこのメリイ嬢の守護をしてくれてるんだね?」
「ウン。」
「それは凄い。前世からの知り合いとか?」
「ソウダヨ。前世ハ、一ノ瀬ッテ言ウンダケド、儚ゲデ。綺麗ナ子デ。」
メリイさんが赤くなる。
確かに。白雪ちゃんはカゲロウのような美人だった。
「ほう。では彼女のついでにブルーウォーターも守ってくれるのか?」
アラン様がたたみかける。
「ソウダネ。ネモサントモ約束シタシ。」
アラン様がネモさんを見た。ネモさんは軽く頭を下げて、
「ハゲワシの仲間にドラゴンがいると評判になっておりました。
火山の火口から出たり、入ったりしてたようなんです。それでこないだのギガントの戦いにも協力してもらいました。」
「龍太郎ハ、モウ千年クライ前カラ、火山ニ住ンデイタノサ。」
「凄いなあ。ここの土地には二体も神獣がいるんだね。母上がご隠居されてこちらに移住されても安心だ。」
リード様がニコニコして、アラン様を牽制だ。
アラン様、ドラゴン欲しいんですね。
だけど神獣は自分で守る人を選ぶのだ。
「…。ところで、そこにあるのは?」
「実は、コチラを開発していて遅くなりました。
エリーフラワー様にも先日お話したのですが。」
メリイさんの合図でイリヤさんが台車を押してくる。そこに乗っていたのは。
「まあ!掃除機!」
「本当、掃除機ですねっ!」
私と王妃様が声をあげた。
スティック式の掃除機だった。
「流石ニ、ワカルンダ。」
「部品とか、龍太郎に曲げてもらったんですよ。」
「コウヤッテナ。」
細く炎を吹く。うわっ!キューちゃんに向かってだよ!
人に向かって火を吹いたらいけません。
学校で習わなったのかしら。
アラ、人ではなかったわね。
キュー!
流石キューちゃん、吹き消した。
「大丈夫、打ち合ワセ済ミだよ。」
火を吹く事をですか?
後、セリフからカタカナ感が取れてきたよ!
しばらく掃除機の使い方を紹介。食い入るように見るアラン様。
洗濯機も気にいってるんだって。
男の子ってメカ好きだからなあ。
「先ほど掃除をされたそうですが、ホラこのとおり。ホコリが取れています。」
ジャパ○ットさながらである。
「うわっこんなにホコリが!」
アラン様釘付けだ。
「ガラスを落として割ったとき、細かいカケラを吸い取れます。」
「危なく無くていいな!こないだガラスのコップ割ってしまってね。
大きなカケラはすぐ取れたけど、細かいカケラをガムテープでペタペタして取ってたんだ。
カケラが思ったよりデカくて、テープを貫通して、指にささってな。」
いや、王太子みずから何やってんすか。
アラン様の目が輝く。
「ポテチのクズもこの通り。」
「うん!ヴィーに怒られなくていいな!」
リード様も食いつく。
リード様。やはりご自宅でもポテチ食べてるですか。
そしてこぼしてるんですか。
ヴィヴィアンナ様に怒られてるんですか。
…子供か?
「コチラを進呈いたします。」
「え!良いのか!?」
「ほほほ。アラン様。メリイさんはこの掃除機、他国が欲しがったら、グランディを窓口にしても良いといってますのよ。」
「才女殿!本当かい?」
「ええ、それで彼女にご褒美を下さいましな。」
すげえ。流石に王家も遠慮するエリーフラワー様だ。
怖い物無しである。
「あ、ああ、そうだな。莫大な利益が見こめるし。
一体なんであろうか。
もう、欲しいものがお有りか?
サード兄上の出世とかかな?」
「いえ、私が意に沿わぬ結婚をしなくて良い権利を下さいませ。」
えええ?!
私とアンちゃんは顔を見合わせた。
あー、ご実家からの見合いしろ攻撃が煩いのかっ。
エリーフラワー様、入れ知恵しましたね?
「アンディ、レイカさんと同じ事を言うなあ!
ははは!」
上機嫌でアンちゃんの背中を叩くアラン様。
痛そう。だけど嬉しそう。
…ったくもう。
「それに、公爵がキミを外国に嫁がせようとしている、というウワサを聞いた。
正直、キミと神獣様が他国に流失するのは、避けたいんだ。宜しい。グランディの王太子として、キミが意に沿わぬ結婚しなくて良いと、保証しよう。」
「多分、あのクズ野郎が押しかけてこないように外国に出したかったんでしょうけどね、コチラの方が安全よ。おほほほ。」
「俺が守るヨ、心配スンナ。」
「ほう、神獣様がこうおっしゃるなら安心だ。」
にこやかなアラン様。
アンちゃんが微妙な顔をして、シンゴくんを隅っこに連れて行く。
「あのなア。オマエの為じゃないよ。誤解すんなよ。」
「わかってますよ。」
シンゴくんの顔は晴れやかだ。
「俺はね、最近あの人がご実家からの手紙やお見合い写真を見て悩んでいるのを見てました。
お幸せになれれば良いンです。
実際、イマイチのご縁ばかりでしたから。」
「ああ、それは俺も思ったよ。婚約破棄してるから、足元をみられてるよね。」
「あの人の価値がわからないなんて。
ただの若い女の子としか見ていない、
相手も親御さんもです。素晴らしい頭脳と可能性があるのに。」
「まあなア。」
「あの龍太郎が、人型だったら良かったのに。」
シンゴ君がポツリと言った。
そしてこの日からメリイさんの護衛はシンゴ君から、ヤマシロ君に交代した。
ガムテープでペタペタしての貫通は、私の体験談です。