あれ、名前なんだっけ。
ドラゴンは龍太郎と呼ばれるようになった。
エリーフラワー研究所に住みこんでる。
いつもは玄関の置物の振りをして、訪問者の度肝を抜いてるらしいよ。
ちなみに木彫りのクマを見て、
すげー、すげー、と連発してたらしい。
(メリイさん談)
「リュウジじゃないの?」
「うん、なんかそっちの名前がいいらしいよ。好み?」
「へええ。」
今からアンちゃんと、ローリアさんのお見舞いとお祝いに行く。
「また、絹織物なの?」
「なんかさ、そういうイメージが付いちゃってさ。」
あー、わかる。前世でもイトウさんからは毎回のお中元はハムだな、サトウさんからは、おかきだな。みたいに決まって楽しみにしていたものだ。
「もうすぐカレーヌ様だね。」
「あー、四月出産って言ってたな。
織物は麻と綿にしてって言ってたよ。
初夏に着るやつ仕立てるんだって。
絹より安いから二ついいでしょって、ちゃっかりしてるワね。ふふふ。」
「なるほどねえ。」
しっかりものだ。
「まあ、レイカさん、ありがとうございます。」
ローリアさんのお母さんに大変歓迎された。
以前、ローリアさんの看病したからね。
それから恩人扱いなのさ。
「おめでとう御座います!あらあ、可愛いお嬢様。」
「先ほどエリーフラワーさまもいらしてたんですの。」
「あちらは先日お生まれになったんですってねえ。――それでレイカさんもそろそろなんですのね。」
「ええ、六月なんですの。」
そこへ、ネモさんが来た。
「ネモさん先日はありがとうございました。」
「いえいえ。」
「マーズ君はどうしてる?」
アンちゃんの問いに、
「ああ、何か吹っ切れたみたいにサーカスの指導に励んでいますよ。」
と、にこやかに答えられた。
「サーカス。」
「ええ、砂漠の娘が二人ともいなくなったでしょ。
あの子たちはアクロバット担当でしたからね。
その分猛獣たちの時間を増やしてます。
ホワイトタイガーや白クマくんに顔を埋めて、
コミュニケーションを取っているようです。
彼らから、ヨーシヨシ。ってやってもらってましてね。ハハハハ。」
それ吹っ切れてないのでは。
猫吸いならぬ猛獣吸いか。
「砂漠の娘たちはどうなったんですか?」
「ああ。ビッキーとレイカさんは交流ありましたね。あの子はそれなりに罰を。
―カチャもそれなりに。」
うん、産婦の部屋では話せない展開なのね。
病院を後にした。
「ちょっとさ、布を選ぶのを付き合ってね。
今商人が来てるのヨ、ネモさんのホテルに泊まってる。」
「ダイシ商会のダンさんだっけ?」
「そう、恰幅が良いタヌキオヤジよ。」
ホテルの一室にダンさんがいた。
脳内でタヌ吉とあだ名をつける。
「これは、アンディ様、奥方様。ご足労いただいて恐縮ですな。」
「早速見せて頂戴な。」
「これって、ベビー服というより、カレーヌ様ご自身用なのね?」
「そうなりますかな。」
「ああ、濃い色が良いかもね。」
…色々シミがね。母乳パットはエリーフラワー様が開発したけどね。漏れも、赤ちゃんのヨダレもあるし。
「コレとコレがいいかもね。予算は?」
「ああ、大丈夫。レイカさんも選びなよ。一緒に仕立てるといい。」
「あら、ありがとう。お揃いにするわ。カレーヌ様どんな顔するかしら。」
―きっと、真似っこしないでよ。ぷいっ。
って膨れながらも満更でもないだろう。
ふはは。
「ほほほ、アンディ様は奥方にお優しい。」
「余計なコト言わなくていい、…でどれくらい負けてくれるの。」
「ほほほ、アンディ様は相変わらずお厳しい。」
「さてと、商談はここまでよ。グランディの馬鹿はどうなってる?」
「沢山買って頂きましたからな。お教えしましょう。
私の耳にはいる範囲ですがね。
ルートのことをおっしゃってるでしょ。
明日から四月で新学期ですがね、
不満タラタラみたいで。ルームメイトともギクシャクしてますよ。」
「メリイさんのことは何か言ってるか?コチラに押しかけようとしてないだろうな。」
「来たらそれ幸いと、お狐様が粛正するんでしょう。いや、竜ですかな、ほほほ。」
「情報通ねえ。」
そこで真顔になったタヌ吉。
「メリイ様はまだあの二人が入籍したとはご存知ないので?レプトン様も?」
「ああ、そうみたいだね。伯爵が知らせて無いんだから。」
「こちら、公爵夫人から預かってまいりました。」
タヌ吉が手を叩くと奥から箱を持った従業員が現れた。
うわ。五つもある。多分ドレスとかだな。
「お手紙も預かっておりまして。
アンディ様くらい信頼できる方はおりませんからね。」
タヌ吉はアンちゃんに箱に入った手紙を渡すのだった。
「ふん。」
―ああ、黄金のお菓子が入ったやつか。
親は幾つになっても子供が心配なんだな。
多分、手紙にはあの二人が結婚したり、彼女の家が潰されたりとかそう言うことが書いてあるんだろうね。
(アンちゃんとシンゴくんがヒソヒソ話してた。)
「多分婚約破棄のほとぼりが冷めたら、お二人には
家に戻って欲しいんでしょうなあ。」
「どうかねえ。レプトンさんはリード様のところで働くんだろ。」
「そうですね、それは名誉な事だと思いますが。
お嬢様は良いところに嫁がせたいとお思いです。
」
「あー、あの箱のひとつは婚約者候補の絵姿か。
――まさか、あのブルー・オー・ヒゲ伯爵のは無いだろうなあ?」
「まさか!あの女狐には打診したようですけど。」
「そろそろアイツも処分されるだろうよ。
アイツがやってた悪事、それから他国へのパイプ。そう言うの、こないだツブシたからな。」
「嫁いだ女性達も他国に売り飛ばしてたんでしょ。
表向きは死んだことにして。」
「アンタも詳しいな。」
「あちこちの国に出入りしておりますから。
ルートの親のことも良く知っておりますよ。
この国での商売を始めたとき、彼の顔の広さでどんなに助けられたか。
あの子も小さい時から知ってる。」
タヌ吉さんが下を向いてため息をついた。
「アンタがそんな顔をするとはねえ。」
「ねえ、アンちゃん。」「なに?」
「ルートって、メリイさんの元婚約者のカス野郎?」
「あ、そう。いつもクズ野郎とか、アイツとか馬鹿とか、しか言って無かったからな。」
※はい、こちらしか読んでない皆様。
メリイさんの元婚者の名前はルートです。
ちなみに、女狐と呼ばれてるのが、ロージイです。
是非、「ずっとあなたが好きでした。だけど卒業式の日にお別れですか。」をお読みください。
レイカからのお願い。
CMタイムが終わったところでタヌ吉さんのところから出た。
荷物は台車に乗せてミノちゃんが運んでくれたよ。
玄関で龍太郎くんのお迎えだ。
「イラッシャーイ。」
桂三枝のようなお迎えを受ける。
「ナニ、コレ、クイモノ?」
「ちーがーう。」
パサパサ!
「コラ、羽を広げて威嚇ポーズを取るんじゃない。
クルミしかないが、ホラ。
おまえ、今ルリルリちゃんと、同じ大きさだから、
いけるだろ?」
「マイウー!」
チャチャ!
「ニッポン、チャチャチャ、ウー!」
「あ、別に感謝の足踏みダンス踊んなくてもいい!
メリイさんに親御さんからの荷物だよっ!」
「ハーイ、アンサン、アネサン、メリイ、ヨブ。」
飛んで行った。
「…アンサンか。ヤダ、なんかアイツ可愛いかも。」
うん、アンちゃん、あんたチョロいよ。




