桜、桜、今咲き誇る。
誤字報告ありがとうございます
お花見にきたよ。
私とメリイさんと、シンゴくんとアンちゃん。
王妃様とランド兄さんとメアリアンさん。
それから、レプトンさんと母。
ここまではキューちゃんが瞬間移動で連れてきた。
マーズくんは馬できた。
あとは馬車で忍び達が先に来て待っていたね。
「桜……!」
「ああ、桜だわ!」
「桜ですね。」
息をのむ。
感極まる日本からの転生者の私たち。
谷の中。山肌があって、少し小高くなっている。
母の花畑の真ん中に一本のソメイヨシノ?が咲いている。
薄ピンクの花が満開だ。
ああ、桜だ。
立派な大木だ。
桜、桜、やよいのそーらーに♪
私達三人は釘つけになって動けない。
メリイさんは泣いていた。
彼女にはリュウジ君の想い出もある。
感極まっているだろう、私たちにだって桜にはいろんな想い出がある。
うちの商店街の近くにも桜並木があって、毎年美しかった。ライトアップもされていた。
大忙しだった。大儲けだった桜まつり。
散り始めるとね、車に花ビラが付いて掃除が大変だったのよ、
雨で張り付いたりしてね。
――じゃなくて。
小さい頃両親と行った公園での満開の桜とか。
遊具に乗せてもらって得意になってた写真があった。パンダちゃんかなんかに20円くらい入れたら
動くんだよね。
それから家族旅行で行った弘前の桜祭りの思い出とか。
その時流れてきた幻想的な津軽三味線のしらべ。
お城のお堀の水面を覆う、美しい花びら。
子供の入学式の時、ピカピカの一年生にランドセルを背負わせて桜の木の下での記念写真。
そういう泣けるような思い出も沢山ある。
「さア、お弁当を食べましょう。花見は桜を見て美味しいものを食べるんだって言ってたじゃないの。」
現実に引き戻す我が母の発言。流石っすよ。
王妃様の為にテキパキと簡易テーブルとパイプ椅子を組み立てる忍びたち。
私は妊婦だし、一緒に座ってる。
妊婦でないメリイさんもだ。転生者枠かな。
「美味しいわ。やはりお弁当には唐揚げ、稲荷寿司、卵焼きですね。」
ウンウンと頷くメリイさん。
「なんと――――っ!タコさんウインナーがあるっ!」
某メンフィスみたいになんと――っ!とおっしゃる王妃様。
「コ・イー・ワイ牧場改めネモさん牧場でね、特別に作ってもらってます。赤いウインナー。」
「ウヌ―――!なるほど!」
そうですね、ウヌーもセットでしたね。
喜んでいただけて何よりです。
キューちゃんも稲荷寿司をもらってご満足だ。
「はい、キューちゃん、待て。
――さアいいわよ。」
うわあ、母がお狐様に待てをしている。
そして白狐様も尻尾を振ってこたえている。
すげえ。
忍び達もマーズさんも、みんな引いてるよ。
「怒らないのかな。」
「邪気がない人ってすごいよね。」
キューちゃん、相手をしてくれてありがとうね。
はらはらと舞い散る花びら。
「桜はね、見頃があっという間なのよ。それまでは早く咲かないかなって気を持たせてね。」
しみじみとおっしゃる王妃様。
「まるで人生みたいですね。」
と相槌を打つマーズくん。
誰が上手いことを言えと。
しかしさっきからニコニコしながらメリイさんを見つめている。
間違いなく彼、メリイさんに気があるね。
ビッキーの暴走も間違いではなかったか。
――その時だ。
うるるるる、ぐるるるる。
キューちゃんが空を見て唸り出した。
空が暗くなってきた。
晴れているのに??
キューちゃんが、一面蒼いひかりに包まれた。
そして巨大化してる。キャンピングカーくらいの大きさだ。
ギューガガガ。
吠え始めた。
あたりいちめん、気温が下がって生暖かい風が吹いてきた。
「ま、まずい。」
「コレはどうしたことじゃ。」
「王妃様、レイカちゃん、メリイさん、こっちへ!あの山肌へ!」
「母さん、メアリアンも!こっちへ隠れるんだ!」
後ろに山があって、そこの山肌にそって大きな岩があった。
その影に隠れる。
「兄さんを呼んでくれ!」
マーズさんが自分のツチノコに叫ぶ。
ツチノコがひかり出す。王妃様のも、ランド兄さんのも、メアリアンさんのも、そして、レプトンさんのも。
キューちゃんは唸り叫び続ける。
宙を見つめて。
「バトルしないでって言ったじゃん!」
「母さん、あちらが無理に押しかけてくるんだよっ!」
山肌に沿って身を屈める。
「ドラゴンなの?上から?なら丸見えじゃない!?」
王妃様が叫ぶ。
すると、目の前の山肌が、
ボコリ。
削られた??
「ドモ、アネダン、ゴッチへ、アナ、アゲダ。」
「ミノちゃん?」
「護衛の一人に化けさせておいたのヨ!」
叫ぶアンちゃん。
ミノちゃんは深く被った帽子を脱ぎ捨てて、マスクも外して、
ニコリ。と笑った。
笑いながらも怪力で山肌を削り続ける。
「ゴゴニ、クウドウアル、ツナゲダ。ナガニハイル。ドラゴン、グル。」
ポカリ。穴があいた。天然の鍾乳洞みたいだ。
「女性陣、中に入れっ!」
アンちゃんが絶叫する。
うおらららら、ぐおあららら。
キューちゃんが更に、二階建ての赤い靴バスくらいの大きさになった。
毛がさかだってずっと蒼く発光している。
バリバリ。静電気なのか。放電している。
こんな本気のキューちゃん初めて見た。
更に空が暗くなる。
バサバサバサ!
つむじ風ともにドラゴンが降りてきた。
桜の木の上に。
羽を広げると全長五メートルはあるだろうか。
そこでホバリングしている。
巻き起こる疾風。舞い上がる砂煙。
がああああああああっ!
うがあああ!
ぐかあ!
ぶああああ!
唸りあう二大怪獣ならぬ神獣。
恐ろしい。
――そして、ドラゴンの目がコチラを見た。
ぎゅううん。
え、こっちへ飛んでくる?嘘。
「行かせるかっ!!」
アンちゃんとシンゴくんがこちらへ向かう。
コチラへまっしぐらに飛んでくるドラゴン!
がああっ!
キューちゃんがクビ根っこに噛みつく!
そのまま二匹で転げ回る。
もう、バトルは人気がないところでって、言ったじゃない。
なんで押しかけてきたんだ!!ドラ野郎!
ほら、桜も散ってしまう。
お弁当もぐちゃぐちゃになった。
そんなことより命の危機か。
「――おいっ!やめろっ、馬鹿どもっ!
キューちゃん!ドラちゃん!!」
二大神獣に藤子不二雄キャラみたいな呼びかけをするのは、
ネモさんだ!来てくれた!!
足元に多量のヘビがいる。
「兄さん!来てくれたんだね!」
「朝から胸騒ぎがしてね、近くまで来ていたんだよ。」
「動く歩道みたいに、ヘビが運んできたんだわ。
あの人、なんなの。」
メアリアンさんが呟いた。
私も同意だが、命を助けてくれるなら人間でも神で
も、もののけでも構いません。
「そらあっ!」
ネモさんの声でヘビ達が神獣達に絡みつく。
何重にもだ、あっという間に、毛糸玉のようなモノができた。
もう、本体はわからない。
「チーパくん。彼らの精気を吸っておあげ。
――そうだな、しばらく動けないくらいに。
うん?お友達?呼びなさい、呼びなさい。
神獣の精気なんて普通吸えないからね。」
いつのまにかチーパくんも来ていた。
ニヤリと笑うと、口笛を吹いた。
なんと、チュパカブラがもう一匹現れたではないか。
そして二匹でキャッキャウフフと吸魂?行動に勤しんだ。
五分後。レトリバーくらいの大きさのキューちゃんと、
ハゲワシくらいのサイズになったドラ野郎がいた。
そしてパンパンにお腹を膨らませて肌ツヤが良くなったチーパくんとお友達も。
「――ああ。そうなんだ。会いにきたのか。
桜、キミも好きなのか。」
ネモさんがしみじみとドラゴンに話しかけた。
痛ましい顔をして。
そして、メアリアンさんを見た。
彼女は真っ青な顔をしていた。
「ネモ、ありがとう。助かったぞ。
このドラゴンはヒトを食うのじゃな。」
王妃様の言葉に、
「なんですって!!」
アンちゃんとシンゴくんの顔色が変わった。
ネモさんが静かにドラゴンを撫でながら言った。
「今は危険はありませんよ。
――昔、食べたことがあるのです。
キューちゃんがニワトリを食べた時ですね。」
母はキューちゃんを抱きしめていた。
そして言った。
「四十年前のことね。」
「ええ、キューちゃんと戦ってズタボロになってたドラちゃんは火山の麓に捨てられていた男の子を食べたんです。
火山の麓の桜並木はね、以前鳥葬に使われていたあたりなんですよ。」
桜の下には死体が埋まっている、と聞いたことはあるけれど。
「その時もギガントとの小競り合いがあったらしいです。少年ながら戦った彼は深手を負ってそのまま捨てられました。
………。
苦しいから早くラクにしてと言った彼を丸呑みにしたのです。」
ネモさんの言葉は掠れていた。
「私は死者の声を聞く訳ではありません。これはドラちゃんから聞いたことです。」
さっきから、チーチーと哀れな声で鳴いている。
その身体に桜の花びらが付いていた。
ネモさんがまたメアリアンさんを見る。
「わかりましたわ。黙っていてはいけませんね。
このドラゴンの上に、男の子の姿が浮かんでいます。十五歳くらいでしょうか。
かなり薄くなってはいますが、彼が語りかけてくるのです、
俺を見てくれ、と。
―――二重なんです!重なっているんです!」
コレって転生者の特徴ですよね?とメアリアンさんの顔は今にも泣きそうだ。
「なんじゃと!転生者を食ったというのか!」
「彼の家は貧しくて、すぐに外に出されたんですね、それで傭兵として育てられてすぐ亡くなった。」
それでは知識の披露も何も。
メアリアンさんは涙を流している。
「―それで、ドラゴンに噛まれたショックで記憶が戻った、らしいんですよ。」
一同無言になる。悲惨だ。
「彼の執着はとても強い。四十年前に、白狐とドラゴンが戦ったとき、お互いの血肉が体内に入った。
それでこの二匹はどこか繋がっているんですって。」
「つまり?」
「キューちゃんが知ったことはドラゴンにも伝わる。
――それで、メリイさん、貴女のことを知ったのです。
さっきからもう一人の男の子がうるさいほど叫んでいます。
いちのせ、いちのせみさと!おれだ、おれだよ、リュウジだよ!と。」
………何てことだ。
後で悲鳴があがった。
「メリイさん!」
意識を失って崩れ落ちていた。