憎いあんチクショウ。
三月二十日。
日本式カレーが出来たから白雪さんこと、メリイさんを呼んで振る舞ったよ。
ブラウンルーを作るのは大変だったけど、スキンヘッドのハイド君が頑張ってくれた。
それをスープストックで伸ばしてね。
学校給食の優しい味を目指したの。
豚肉を使ってる。なんかちょっと甘くなるよ。
「うん、美味しいです。優しい味です。」
「身体に悪いものが何も入ってない感じよね。」
王妃様も来てます。お約束です。
後はエリーフラワー様御一家。ミネルヴァちゃんには甘口にした。
「おいちい、おいちい。」
良かったわ。
お口を汚しちゃったねえ、母がにこにこして拭いてあげている。
「エリーフラワー様。今度カップ麺にカレー味を加えましょう。ヒットしますよ。」
「あら、良いわね。おほほ。」
金儲けやでぇ。
あとはランド兄とメアリアンさん。
シンゴくんとイリヤさんがいる。
何故かマーズさんも。
アンちゃんもいるけど奥でチーパくんと話してる。
彼はやはり人をビビらせるからね。
「うん、わかった。」
アンちゃんが頷く。
チーパくんがそっと影に溶けていったのを見て、アンちゃんが来た。
レストランの主人の格好だよ。
「王妃様、よくおいでくださいました。
それから、グローリー家のレプトン様、メリイ様。
お久しぶりですね。ようこそレストランへ。
いつもレイカがお世話になっております。」
「い、いえ。」「こちらこそ。」
二人とも怯えてるよ、何故。
「ところでエドワード。最近キューちゃんのご機嫌はどうだ?」
「あ、流石アンディ殿。よくご存知で。なんか最近、上を見てうなっており申す。」
「あー、やはりか。いや、チーパくんがさ、動物園のお仕事の時仲間の鳥さんに送ってもらってる、とは聞いていたのよ。
で、さっき見たらドラゴン?みたいなんだわ。」
「あら、キューちゃんを40年くらい前に半死半生にした?」
ミネルヴァちゃんのお世話をしていた母が顔をあげる。
「そうですよ、お義母さん。そいつです。火山の中に潜んで復活したとか。」
「ラド○?」「○ドン?」「ラ○ン?」
声がそろう転生者たち。
「ですが、そのドラゴンモドキは兄の言うことを聞いてギカント戦では防衛に尽力したと思います。
大きさはハゲワシくらいでしたよね?」
マーズさんが眉間にシワをよせる。
「うん、それが最近大きくなってきたんだって。
もちろんネモさんの言うことは聞くみたいだけどね。
それでキューちゃんもピリピリしていて、もう少しでキューちゃんの光がドラゴンに当たるところだったって。」
やだなぁ。怪獣大戦争がおこちゃうの?
怖いよう。
「一触即発みたいなんだわ。
うーん、なるべく荒地でやってもらうしかないワね。バトル。
エドワード、お義母さん、頼んでもらえますか?
下手すると第二の砂漠の国が出来てしまうよ。」
「ええ、キューちゃん!」
キュー。
蒼く輝く獣が現れた。
「キューちゃん、聞いていたでござるな。
なるべくケンカは人のいないところで、な。」
「キューちゃん、お願いね。私の実家みたいな荒れ地はもう見たくないのよ。」
母は、半泣きでキューちゃんに抱きつく。
キューキュー、コーン。
キューちゃんが母の涙を舐めている。
「素晴らしい!こんなにキューちゃんが心を開いているとは!」
マーズさんも感極まっている。
「そうだ、キューちゃんにグローリー兄妹を紹介するっていってたよね。」
「おお、そうでござるな、ランド殿。
さ、キューちゃん。こちらがグローリー兄妹でござるよ。」
キューちゃんが二人に近づいて頭を下げる。
「撫でても良いらしいヨ。」
アンちゃんの言葉に恐々と触る二人。
レプトンさんには目を挟めていたが、メリイさんが撫でると目を見開いた。
――そして軽く頭を振って離れた。
「どうしたでごわすか?
ん?なになに?
随分と面倒な星周りに生まれた子だと?
流石!キューちゃん、わかるんですな!
転生者だと。」
もう一度、メリイさんを振りかえり消えて行った。
「とにかくこのことはネモ兄に報告します。
メリイさん、またお会いしましょう。
あ、レプトンさんも。」
ピイ――!
マーズさんが表に出て口笛をふくと、アオちゃんが
現れた。
「ハイヨー!」
走りさるマーズくん。
なかなか動物を操れるようになったな。
「ねえ、レイカ。マーズってわざわざメリイに声を掛けてたわ。気にいってるのかしら?」
「確かに彼が女性を気にするなんて珍しいですね。」
あららら。ビッキーさんが知ったら荒れるかもね。
「私もリードやアランに話をしなくては。
あの二匹だと激しい空中戦になりそうね。」
王妃様は厳しい顔をして立ち上がり、別荘へ帰られた。
アンちゃんが目配せすると、影のようにシンゴくんが付き添った。
そのシンゴくんをメリイさんが目で追っている。
おや?おやおや??
アンちゃんは肩をすくめている。
「うーん、もしかして火山が、活発化してるのかしら?そこからエネルギーを吸収してドラゴンが大きくなった、とか。」
「うん、ありえますね。」
ラド○ならね。
エリーフラワー様の言葉にうなづく私。
「そうだな。後で火山のあたりを見に行くか。
ドラゴンはチーパくんと仲良しなんだもんな。
チーパくんに一緒に行ってもらおう。」
アンちゃんが言った。
次の日。
アンちゃんは神妙な顔をして帰ってきた。
そして、折れた桜の枝を差し出した。
「……せっかくレイカちゃんが楽しみにしてたのに。火山のふもとの桜並木、めちゃくちゃにされてたの。
ドラゴンのねぐらはそこみたいだよ。」
桜の枝には膨らんだツボミとひとつだけ花が咲いていた。
―――今日は三月二十一日。日本なら開花宣言が出るころだ。
なんてことしやがる。
「ドラ野郎許せん。」