乾杯。今わたしは人生の。大きな舞台で。
宴もたけなわ。あちこでカンパーイの声が。
(一応未成年だけどな。私とかランド兄さんとか。)
あちこちに円卓があってみんな自由に食べて、行き来してもらってる。
これじゃあ、王族は無理だな。
「いつもレイカさんにはお世話になってますの。」
エリーフラワー様が、ウチの家族にわざわざ声をかけてくださった。グラスの中身はジュースだな。
(まだ授乳中、特に王子様たちのね。)
さっき、簡単にしかご挨拶ができなかったから、
だそうです。
「そういえば、お兄様のランドさんも一度警備に来て下さったわね?」
いえいえ、そんな、そんな、とウチの親たちは大慌てだ。
「あ、あの?ウチのレイカがどうして?エリーフラワー様のお力に?」
長兄のサンド兄さんは、私と10歳離れてるし、接触もないからなあ。
「前世の記憶があるって言ったじゃん。それでお料理とか、赤ちゃんのお世話とかしたの。」
「ウチでは作ったことないのにか?というか、それ本当なのか?あの、そういう年代特有の、その。」
はーん、要するに厨二病っていいたいわけね。
「私は信じるわよ。」
いきなり長女のルリカ姉さんが発言した。
「だって、父さん、百年くらい前にそういうご先祖がいたんでしょ。」
ええっ!
そりゃあね、味噌とか豆腐があるんだから、以前にもいたと思うの。
前世持ち。
「なんかその人が書いたノートが?あったみたいだな。ただ、読めないから。」
え、英語とか、フランス語とかかな?
「以前、美味しい麺料理を作っていたという言い伝えがある。」
「そ、それ、送ってください!」
そこへ、グラス片手にそっと現れたのは。
「改めまして。アンディの親代わりの
ヤー・シチとオー・ギンです。」
「あ、これはこれは。」
乾杯やらお返しやら。
「早速なんですが、ランドさん。ウチに入りませんか?」
「ええ?私には特にな、何も、特技が。」
「あー、そういうことか。風当たりですね?」
「そうです。エリーフラワー様。
今回のこともあって、第三騎士団のまだ下っ端、
失礼、ランドさんがアンディの姻戚になったと
バレてしまいましたね。」
「そうか。浮きますね、オレ。」
「いじめられはしないでしょうけど、腫れ物扱いですね。」
「アンちゃん。」
「何、レイカちゃん。」
最近面白がって、わざと時々こう呼ぶのだ。
ほら、みなさい。エリーフラワー様が吹き出すのを堪えてる。
「アンちゃんはそんなに恐れられてるの?」
一瞬、会場内がシーンとした。
「はははは!そんな事言えるのはレイカさんぐらいだな!」
ヤー・シチ夫妻は大爆笑だ。
「お、おまえ、やめろよ。な、」
ランド兄さんがめちゃくちゃ小刻みに震えてる。
「そんな事ないわよ。失礼ね。」
にこにこにこ。
「あ、そうか。学園で図書係の人を脅かしてたっけ。」
「そういえばあったっけね。」
「うちの外道な親をなんとかして下さいましたっけ。」
「そんな事もありましたね、エリーフラワー様。
ね?大したことないでしょ。」
にこにこにこ。
「そうですね、あはは。」
「そうですよ、ウフフ。」
あれ、やっぱり怖い人かもしれん、ま、いいか。
「ええと、はい!わかりました。私、ランド・モルドール、心機一転頑張ります。
そちらでお願いします!」
「では、明日移動届けをね。」
「あ、あのう、あまり危険なことは。」
母がおずおずと。
「何言ってる。騎士団も危険なことは同じだろ!」
「だって、あなた。そちらのお仕事は、
死してシカバネ拾うものなし!でしょ。」
あら、また笑いをこらえてますか?
皆さん。
「いや、実はですね。この会員制レストランなんですが、忍びというか、暗部とかお庭番の事務所でもあるんです。」
「何人か住み込みで若者がいますけど、
ランドさんもその1人にどうかと考えています。身元がしっかりしてないといけないですから。」
「つまり、レイカちゃんの護衛が主になると思うの。実の兄なら私室にもはいってもらえるでしょ。
ま、事務仕事や、簡単な調理補助もお願いするわネ。」
「そんなに危険なことはないと思いますよ。」
これで兄の転職も決まったのであった。
ちょうど三月も末だし。春から新しい職場ってことで、良いんじゃない??