思い出の白雪姫。
話をよく聞くと、彼女は横浜の会社に勤めていたのだった。しかもうちの近くだったよ。奇遇だよ。
確かにあの辺に食品分析会社がいくつかあったな。
「背中を叩いてごめんなさいねえ。」
「いえ。こちらこそ、コンプレックスを刺激してすみません。」
「―それはもう良いから。」
「わらじシリーズ。懐かしいですわ。」
といいつつ、巨大なメンチカツを
ひょいぱく、ひょいぱくと、高橋○美子の漫画のような擬音を立てながら、どんどん胃袋の中に収めていくではないか。
ギャル曽○みたいっす。
「コレをね、全部一人で食べるのが夢でしたの。
嬉しい、うっ、うっ。」
半泣きしながらも箸は止まらない。
無意識に箸が使えるってことはやはり前世持ちだったんだな。
「注文して、いざ食べようとすると意地悪な先輩がきて、親切ごかしで手伝うよって言って掻っ攫っていくんです。うっうっうっ。」
ひょいぱく、ひょいぱく。
「酷いわねー!」
「ええ、私が全部食べられるっていうのに。聞かなくて。」
「メリイ、お前そんなキャラだったっけ?」
お兄さん、レプトンさんだったかな。
引いている。
心配している。
そして、また引いている。
「あ、味変にポン酢いただけますか?」
すげえ。完食した。
パチパチパチ。
みんな拍手だ。
「メリイ。元気になったな。俺は嬉しいぞ!」
泣いているレプトンさん。
おおう。やはりあなたヒトが良いわ。
きっとUMAにも人間にも好かれそう。
ランド兄も優しい目でレプトンさんを見ている。
同類はわかるのだろう。
ん?先輩に取られてたって言ってたわね?
「あ、思いだしたわ。あなた白雪ちゃんね?」
「?」
「ごめん!ウチでつけたあだ名なの。雪みたいに色白で。凛としてた。姿勢もこう、ピッ!と良くってね。」
というか、いつも青白くて。
「白雪姫のような顔色だなあ。」
とウチの中で評判だった。貧血だったのか。
彼女が病で早逝したと聞いた時は、さもありなん、と思ったし、痛ましく感じた。
「それで杉浦って先輩でしょ、おかず取ったの。」
「はい!はい!そうです。」
「あー、あの男。くせものだったわ。
いえね、貴女だけじゃないのよ。あの男の被害者。
だから名前覚えちゃったの。
とにかく、新人の女性が入社するたびに粉をかけてね。ついてまわるの。」
「あ、そんな感じでした。
私の後にも若い女の子が、はいると嬉々としてまとわりついてて、しばらくするとまた絡みにくる。
嫌でしたね。」
「あの野郎は彼女が欲しくてたまらなかったの。
でも、そういう空気読めないやつだったから出来なかった。」
「ええ、私がわらじハンバーグ頼むと、俺が来るのわかってたあ?さっ、食べようぜっ!って言ってどこからともなく現れて。誰も待ってないって言うのに。」
ホントだよ。お金が無いわけじゃなくて、若い子と恋人ごっこがしたいだけの困った奴だった。
結局、彼は最後まで(定年退職するまで)独身だったが、その理由が、
俺、死んだ彼女を忘れられなくて。散々待たせて、
いざ結婚しようとしたら、病に倒れてって…うううっ。
て言ってたよ。
勝手に恋人に仕立てあげられて、自分がモテない言い訳にされてたなんて。気の毒な白雪さん。と思っていたのだ。
まさかこんなところで再会するとはね。
彼女が自分が亡くなった後のことを聞きたそうだったから、その後のことをざっくり教えた。
彼女の会社が忙しくなったこと。輸入食品から見つかった色素のこと。
ギョーザ事件のこと。
激務になって、常連さんに(勘違い野郎とは別)頼みこまれて、夜弁当を配達したことがある。
みんな泊まりこんで大変だったようだ。
(――東日本の震災の後はまた大変だったようだけど、震災のことはわざわざ言わなくていいか、と思って割愛した。)
彼女が生きていた時代より、地震や大雨や、感染症、色んなことが起きている。
「二人は知り合いだったのね、メリイさん、私は前世では阿部マルガリータという漫画家だったのよ?ご存知?」
「え!知ってます。超有名な漫画家さんですよね?
王妃様がですか?」
「そうなの。私は病気で亡くなったらしいわ。」
「報道されましたからね。王妃様は私よりひとつ上だったの。
私は50代後半で亡くなったの。事故でね。
王妃様はその半年前なの。」
「差し支えなければ教えてくれる?
昭和何年生まれで享年何歳なの?」
ズバリ聞くなあ王妃様。
まわりがみんなひいている。
彼女は私よりひとつ下。王妃様より二つ下で享年三十五だとわかった。
やっぱり同世代じゃないか。
ハンサムの基準が渋いぞ。
加藤剛がくるなら鹿賀丈史も欲しいところだ。
おや?カレーヌ様が来た。持って来てもらったケーキはどれも美味しそうだよ。
グローリー兄弟と談笑している。
「楽しそうね、やはりカレーヌさんを招いたのは良かったわ。」
頷いてるエリーフラワー様。
「自分と同じ公爵令嬢だったカレーヌ様が、生き生きと働いてる。彼女の励みになるわね。」
メアリアンさんだ。
「そうじゃ、シンゴよ。」
「はっ、王妃様。何かご用で御座いますか?」
「イリヤとか言ったかの。あのクノイチと親しいのかえ。」
「はいい?いいえ、そんな事はありませんけども?」
「ほかに親しいおなごはおるのか?
――いや、なに。
メリイ嬢の護衛を頼むであろう?
ジェラシーストームに巻き込まれたら、大変だからの。レイカも苦労したよな。キーナには。」
「あっハイ。」
「あー、その話は聞いております。
誓ってそのようなものはおりませぬ。」
そこへ影のようにイリヤさんが来た。
「王妃様。ご安心くださいませ。私もこんな根暗な腹黒は嫌でございます。」
「おいっ!」
「私はね、ランドさんみたいな裏表がない人が好きなんです。」
あ、そういえばそうだった。ランド兄にアタックしてたなあ。
「ん?そう言えばレプトンさんはそう言うタイプよね?メリイさんの兄の。」
おや?イリヤさんの目が女豹のようになったぞ!?
「あらまあ、そうですの。うふふふ。楽しくなりそうですわ。」
うわわ、舌なめずりしているよ。
レプトンさんはカレーヌ様と談笑中で気がつかない。
そういえば、彼女にお熱だったそうだな。
(お熱、と言う言い方も昭和だぜ。)
あら、ネモさんが来た。
王妃様がいることに驚いてる。
この方自由だからねえ。
そこへ、
「ははうえー、こちらにおられたんですねー!!」
リード様が現れた。
相変わらず嗅ぎつけるなあ、すごいぞ。
2008年の毒入りギョーザ事件のことを指します。
あの当時、検査機関は激務だったそうです。
見つかってはいけない色素とは、輸入うなぎから見つかった色素のことです。マラカイトグリーンですね。