今なんて言ったの。
「二人とも倒れるとはねえ!」
「チーパちゃんよりいいと思いますけどねえ。」
私たちは所長室に案内されてお茶を飲んでいる。
あの後、二人は医務室に運ばれて行った。
ミノちゃんに善人かどうかわかる?と聞いてみたら、
指を立てて、ぐっ!!のポーズ。
「エエヤツ。ダス。」
UMA的には大好きらしい。
とくにあのお兄さんの方が。良かった。
「とにかく、二人とも寮に入っていただきますわ。
アラエル、世話をしてね。」
「はい、エリーフラワー様。最初は二人一緒にしますか。護衛の関係もありますしね。」
彼女は転生者とわかった。しかも化学の知識あり。
これからは護衛がつくのだ。
「ところでシンゴ。」
「はっ、王妃様。」
「あのメリイさんは、あなたを見てパァッと明るい顔をしたわね。」
「こないだ、お会いしましたからね。」
「貴方がしばらく護衛しなさい。大事な転生者よ。」
「ははっ。」
早速出て行った。アラエルさんもだ。
王妃様がにこやかにおっしゃった。
「あの子はね、どうも黒髪黒目の方が落ち着く見たいなの。護衛はシンゴにしましょう。
あ、あとは女性だからクノイチも必要ね。化粧室とかバスルームとか。」
「黒髪がどうも前世を思い出すスイッチみたいでしたからね。」
「あちらの領地は確かに黒髪はあまりいないわね。」
「あ、そういえば。ウチもそうです。
金髪とか多いですねえ。ヨーロッパみたいに。」
王妃様はうーんと考えこんだ。
「それから、私が言うのもなんだけど、昭和からそのままタイムスリップしてきたみたいな子ねえ。」
うん。ラベンダーな香りで時をかけてきたような。
「なんでしょうね。忘れていた青春がよみがえるというか。
最後の何年かは病気で大変みたいでしたし。その聖少女というか、少女のまま大人になって、亡くなってからの転生ですか。」
「リュウジとやらをやたらに神聖化してるわ。
普通の男の子だったと思うのよ。」
「そうですねえ。その子、二人でお花見したときなんか、ソコソコ下心はあったと思いますね。
あーヤダヤダ。娘を持つ親の視線ですよ。
日没後に人気のない公園に二人っきりだなんて、お母さん許しませんよ、って感じです。
汚れた大人の感覚という奴ですか。」
汚れちまったかなしみに頭を振っていると、
エリーフラワーさんが口を開いた。
「メアリアンさんは、彼女が三人目の転生者だとおっしゃったでしょ。
リュウジ君は転生してないと言うわけですわね、
今のところ、転生者は三人のみ。
酷ですけれどそれを一度伝えておいた方が良いかもしれません。」
「なるほど、叶なわぬ恋を追いかけずに、命短し恋せよ乙女ってことね。」
なるほどねえ。
「幻の彼を基準にして独身を続けることになるかもしれませんが、無理して結婚するよりいいのでは。
貴族の令嬢ですから結婚に対する圧があるかもですねえ。
ここなら、会いたくない人に会わなくてすみますから。
結婚を強要する親とか。」
「あ、違うんですよ、レイカさん。
私が心配してるのはカタリです。」
「え?」
「つまりですね、ここの国にはそんな奴はいないとは思いますが、
自分がリュウジであると、嘘をついて彼女に近づいてくる輩です。」
あ、その発想はなかった。
「偽のリュウジに国外に連れて行かれて、酷い目にあうことは、考えられます。」
「しばらく彼女はこの国を見学してもらうわ。
メアリアンについて行って貰いましょう。
そしてその都度転生者はいない、と念押しさせる。」
王妃様の顔は冷静な施政者のそれだった。
オー・ギンさんに目配せをする王妃様。
30分あとにはメアリアンさんが、ランド兄つきでやってきた。
「お呼びになると思ってましたの。
まず夜ご飯をレイカさんのレストランでどうですか?
日本の味が懐かしいと思いますのよ。」
なるほど!
「レイカさん、体調はどうかしら?」
「あ、大丈夫。今から猫カフェの子や若い忍びに手伝ってもらうね。」
だんだん意図がわかってきたよ。
「そこそこの人数になるんでしょ。」
「ほほほ。なるほどねえ、そこに黒髪の男子を集めるんでしょ。」
「ええ、そこで私がここに転生者はいませんわ、と発言します。
――実際、今までいませんでしたしねえ。」
夕飯は立食だ。
アンちゃんは来れなかったけど、黒髪の人を集めたよ、ってほとんど忍びじゃん。
おお、少年忍者も来てくれたか。
あとはヤマシロさんも。
「こんなに集まって、エラ様や王宮の警備は大丈夫なの?」
「ほほほ。レイカさん。ダーリンとキューちゃんが行ってますのよ。」
「それにね、スケカクとヤー・シチは黒髪ではなくてよ。あちらにいるわ。」
そうか。ヤー・シチさんはともかく、スケカクさんは頭巾で頭を隠してたから、わからなかったなあ。
「こんばんは。お招きありがとうございます!?」
メリイさんが息を飲むのがわかった。
一緒に来たのはメアリアンさんだ。
「こちらの横にある建物には、忍びというか、影の人たちの集会所とか寮があるのよ。そこから来たの。
皆さん、黒髪が多いのよ。…びっくりした?」
「え、ええ。こんなに沢山の黒髪な人を見たことが、なくて。まるで日本。」
まあ、令和にもなると結構派手派手なヘアーの人も多くなったけどね。
「それでね、この中に転生者は誰もいないのよ。
貴女とレイカさんと王妃様以外は。
私には見えるの。転生者はね、魂が二つ重なっているのよ。」
「ほほほ。まあ中にはいって。レイカはね、前世食堂をやっていたのよ。
私も懐かしい日本の味が食べたくなると、お願いしているの。」
肉じゃが、きんぴら、豚汁、たこ焼き(型を作ってもらった。)卵焼き。天ぷら。稲荷寿司。
それらに目を輝かせてるお嬢様。
もちろん唐揚げもある。
「お好きなものを食べてね?あっちではバイキングとか、ビュッフェとか言ったよね。」
立食でももちろん、王妃様とかエリーフラワー様とかには、隅にちゃんと椅子とテーブルがある。
他の人たちはあちこちにある丸いテーブルで立って食べているが。
「さあ、グローリー兄妹。貴方たちもここへ。
一緒に食べましょう。」
「は、はい。」
「光栄でございます。」
王妃様。それじゃ味がしないと思いますよ?
新入社員が忘年会で上司の前の席に座らされる様なものか。
ご愁傷様。
そこに、
「はーい!わらじメンチカツとわらじコロッケが揚がったよ!
先着順だ!欲しいやつは取りにこいっ!!」
と、良い声で呼ばわったのは、忍びなのに調理師の免許を持ってるハイドくんだ。
基本的に寮は自炊だけど、詰所や集会所とかで良く作って振る舞うらしい。
私のレシピもキチンと再現してくれる、スキンヘッドのいなせな奴だ。
(元はね、金髪。薄くなってきたから剃ったとか。
眉の色素も薄いから、眉無しにみえて、ちょっとコワモテ。)
わあっ!と若い子たちが取りにいく。
♬ハイリハイリフレホッホー(ちょっとうろ覚え)大きくなれよおおっ。
それを聞いたメリイさんがポツンと言った。
「…わらじコロッケ。猫の目食堂みたい。」
―――うん?うううん?
猫の目食堂だとお!!!
「ええっ!!ああたっ、今なんつったああっ?」
思わず巻き舌で大きな声が出た。
「あ、レイカのアネさん?オレなんか、やっちまいましたかあ?
すっ、すいません。お許しをっ!」
ハイドくんが蒼白になって震えている。
「な、なんか知らんけどオレも謝りますっ。」
「オレも。かんにんして、つかぁさい!」
若い子達が震えてる。
まるで私が怖い人みたいじゃないの。やあねえ。
―じゃなくて!
「メリイさんっ!」
「えっ、私っ?」
「猫の目食堂は私の店だったのよ!」
「え、えっええ?」
「貴女、ウチの店を知ってるのね!」
思わず涙が出た。
「…え、もしかして、大仏ホクロのおかみさん?」
パシコーン!
「あたた。」
「あら、レイカ、いきなりお嬢様の背中を叩くなんていけなくてよ。
まああ貴女、泣いてるの?」
王妃様、つい手が出ちゃいました、だけど。
「そ、その通りよおおお。大仏のほくろがコンプレックスの、赤縁メガネがキュートなおばさんよおおおっ!」
「そ、そうですか。確かにメガネされてましたね。」
わああん。
思わずお嬢様に抱きついて号泣するのだった。
少しずつスピンオフと視点がズレて、セリフも微妙に違います。
レイカの記憶とマリイの記憶と、主観の違いですね。