三人目の転生者。
三月十五日の夜のことである。
メアリアンさんが訪ねてきた。ランド兄も一緒だよ。
「こんばんは。」
なんだか上機嫌だ。
「奥の部屋へ。今日はアンちゃんいないから、ランド兄さんと泊まってもらえると助かる。防犯的にもね。ねえお母さん。」
「そうよ、お部屋はあるんだから。」
多分転生者の話をしたいんだな、と思って奥へさりげなく誘導する。
アンちゃんは今アラン様のところだ。
「では、エリーフラワー様も呼びましょう。
レイカさんのお母さま、私と一緒に子守をしましょうね。」
オー・ギン義母さんが気を効かせて、私とメアリアンさん夫婦、エリーフラワー様夫婦だけにしてくれる。
リビングで早速座るが早いか、エリーフラワー様が切り出す。
「やはり転生者なのね?メリイさんは。」
「ええ!間違いありませんわ。もう一人がピッタリと重なるように覆ってます。
ただ、彼女若くして亡くなってますね。
二十代後半か、三十代?かしら。」
あら、それはお気の毒に。うーん、でもね、日本人は若く見えるからなあ。きっとこちらの人の目には。
もしかしたら30代後半かもわからんね。
「それから、お兄様がついてきてらして。
その方はとても良いオーラなんですよ。
エドワード様か、モルドール兄妹かという感じの人の良さですわ。真っ直ぐな心をお持ちなんです。」
にこやかに笑って告げられた。
「あら、そうなの!是非お会いしたいわ!」
「それは凄いでござるな!」
「ネモ様も上機嫌でしたわよ。転生者だなんて、王妃様はお喜びになるでしょ。
それに兄君はUMAに必ず好かれるお方。
是非こちらで働いて欲しい。妹君の護衛とかいう形で残ってもらえないか、と。」
すごいねえ。本人達がいないところで色々決まっているよ。
「明日、レイカさんと面接するのが楽しみですわ。」
ええ、本当に。
「王妃様もご興味おありでしょうねえ。」
ええ、本当に。
「ほほほほ!来たわよ、レイカ。」
ほら、やっぱり。
次の日、朝一番に私の自室のドアが開けられた。
後ろでランド兄とオー・ギンさんがうろたえている。
「おはようございます、ってお早いですねえ。」
まだ、七時だぞ。オイ。
「何時に起きたんですか―?というより、アラン様は止めなかったんですか―。」
「おほほほほ!昨日の夜ヤー・シチから報告を聞いてね?もう胸がドキドキしちゃって。
それにアランの子供が産まれるのが明後日くらい?予定日どおりだとね。
だから今ね、城が浮き足だってるの。
それに乗じて不審な人間が入りこまないか注意が必要でね、
私がこちらにいる方が安心みたいよ?」
なるほど、わかりました。
とりあえず着替えるんで、待ってもらっていいですか?
「面接は10時ですけど、いきなり王妃さまが同席されたらお嬢様、驚くでしょうねえ。」
味噌汁、卵焼き。シャケの塩焼き。
私と同じメニューだが、王妃様は日本食に御満悦だ。
盛り付けをする、母の手は震えてるけどね!
「あ、そういえば。グローリーさんとこの子だったわね。」
なんか、近所の八百屋のヤオハチさんとこの子だったわね、ってかんじの砕けかたです。
「そうですわ。私達と同じくリード様のお妃候補にもあがったと聞いておりますわ。」
それも軽く受け止めるエリーフラワー様。
「そうですね、婚約者がいたからすぐに候補をハズレましたけどね。」
こちらはリード様。
先ほど、
「ははうえ――!いらっしゃってたんですね!」
と、突然現れて当然のようにレストランでの朝食に混じってらっしゃる。
なんでわかったのか。鼻がきくのかしら。
さて、ここの隠れ家レストランのシステムというかお支払いだが。
お客様はだいたいは王妃様である。予約はあったりなかったり。リクエストされたり、されなかったり。ご気分なんである。
その時にリード様とかアラン様とかネモさんとかもくる。
基本的に彼らは王妃様のおまけである。
ご自分達だけで来られたことはあまりない。
だからここは王妃様の専門のレストランみたいなものだ。
(忍びたちには時々食べさせているけどね。)
お支払いは王家やらリード様とかネモさんのお屋敷の会計の人に請求書を送る。
もちろんこちらから、食べていきませんか、何か出しますよ、ってときは別だ。
エリーフラワー様御一家はもうほとんど家族なので請求しない。私もそれ以上にお世話になっているから。
おや、お食事が終わった頃を見計らってヴィヴィアンナ様がいらっしゃった。
飛び込みでお食事をすることは迷惑な場合もあるから。
ちゃんとわかっていらっしゃるのだ。
「エリーフラワー様。お子様をお預かりしますわ。
面接のご準備も、ありますよね。」
ああ、気配りの人よ。
後ろでピーターくんもうなずいている。
それではと面接会場だ。
王妃様とエリーフラワー様と私と、シンゴくん。
…ちょっとカーテンに隠れぎみのミノタウロスのミノちゃん。
テーブルにシンゴくん以外は横並びだ。
「良く見る面接風景の、あれですよね。」
「ほほほ。リードのお見合いを思い出すわね。でもあれはテーブルひとつだったわ。」
ええ、ありましたね、そんなことも。
入学してすぐでした。私は16になったばっかりで。
「そうでしたわね。私もその後ダーリンと出会ってすぐに授かり婚をしたのですわ。」
で、今ミネルヴァちゃんは二つ。私も19になったもんだ。
コンコン。
「どうぞ。」
シンゴくんがドアを開ける。
「あ、あなたは!」
驚くお嬢様。
シンゴくんは目礼で返した。
おやあ?ボーイミーツガールかしら。
反対?ガールミーツボーイ?
「し、失礼しました。グローリー公爵の娘メリイと申します。」
「私は兄のレプトンと申します。」
白っぽい金髪で水色の目の兄妹が入ってきた。
よく似てるなあ。
二人の視線が王妃様でとまった。
そして滝のような汗をかきはじめた。
「「グランディの華のなかの華。王妃様にご挨拶申しあげます。」」
うん、綺麗に揃ったね。
「ほほほ。楽にすると良い。そなたが転生者と聞いての、興味を持ったのじゃ。二人とも座ると良い。
エリーフラワーさん、先に色々聞いてよいかの。」
おおっと。お仕事バージョンの王妃様だ。
あーあー、二人ともカッチカッチやで。
「ほほほ。構いませんわ。私はエリーフラワー。宜しくね?
隣がもう1人の転生者、レイカさんよ。」
「レイカ・ハイバルクです。」
「え、それではアンディ様の奥方。」
お兄さんが、素っ頓狂な声をあげる。
「私の側近なのよ。おほほほ。」
「ワタクシの大親友で家族同然なのですわ!ほほほ。」
うわっ、良いですから。圧をかけないであげてえ――!
「早速質問するぞよ。そなたが連想することを述べよ。」
「はい。」
「では、コイズミ。」
「首相とキョンキョン。」
「クイズ番組。」
「はらたいらさんに3000点。」
「ハンサムと言えば。」
「加藤剛、草刈正雄、トムクルーズ。」
「中島みゆきと言えば?」
「オールナイトニッポン。」
「すいへいりーべ。」
「ぼくのふね。そーまがるしっぷす、くらーく。」
おおう!すごいすごいわっ、完璧だわっ!!
思わず拍手しちゃう。
パチパチパチ!
「レイカからは何かない?」
「うーん。もう、日本からの転生者ってわかってるじゃないですか?
では…私は横浜生まれの横浜育ち。」
ハイ、他所の県の人からは嫌われる言い方っすね。
わかってますよー!
「貴女は?どこに住んでいたの?」
「私も最後は横浜でした。」
「…最後は?」
「はい、実は。」
そこで私達は彼女の前世の話を聞いた。
(『ずっとあなたが好きでした。だけど卒業式の日にお別れですか。』第一話を読んでね。)
王妃様は恋バナがお好きだから、熱心に聞いてらした。
「なんか、甘酸っぱいわね!村下孝蔵の初恋とか、
さとう宗幸の青葉城恋歌の世界よ!」
「ええ、想い出がいっぱい、ですねえ。」
その次に卒業式の話も聞いた。
(前述の第二話を読んでね!)
「腹がたつわね!」
「全くですよ!カス野郎だわ。」
「私もお二人と同じ意見でしてよ。すぐに寮にお入りなさいな。カス野郎は入れなくってよ。」
そこでメリイさんは目を見開いた。
「え、採用で良いんですか?」
「モチのロンのことよ。おほ、おほほほ。」
エリーフラワー様も昭和テイストにハマったか。
「ところで、レプトンと申したかの。」
「ははっ、王妃様。レプトンでございます。」
「そなたも卒業したと聞いたが、仕事はどうするのじゃ。」
「はい、父と兄と一緒に家業に就こうかと。」
ああ、確か大きな商会をお持ちだったわね。
「どうじゃ。しばらくこちらに滞在しては。妹さんの事も気になるであろう。それとも、急いで帰らなくてはならぬ訳でもあるのかえ。」
背筋をピンと伸ばして硬くなるレプトン様。
「い、いえ。そんなこともございません。」
「ではとりあえず妹さんの護衛をやってもらおうかの。」
「はい。」
うん、そこでモゾモゾしているのがいる。
あ、そうか。
「王妃様。ミノちゃんが挨拶したいみたいです。」
ちょうどいい。どれくらい善人が教えてもらいましょう。
「わかった。さて、この国にはUMAと呼ばれる伝説の生き物がおる。聞いたことはあるであろう。」
「は、はい。」
二人に緊張が走る。
「まずな、私の護衛にもなっている、ツチノコじゃ。ツッチーと呼んでおる。
出でよー!ツッチー!」
王妃様の背中から
ペラリ。
とツチノコが剥がれて飛んで行く。
グローリー兄妹の元へ。
なるほど、まずツッチーで慣らしてからのミノちゃんですねっ。
「うわっ、この子跳ねてる!」
「保護色になっていたんですね。」
「ほほほ。コレでウロコは硬く、刃を通さぬのじゃ。
あの時この子がいればのう。」
「……。」
王妃様襲撃事件。思い出したのね。
「さて、レイカ。呼んであげて。」
「アッ、ハイ。
ミーノーちゃーん、おいでー。おどかさないようにね。」
のそり。
カーテンの後ろから顔を出す、ミノちゃん。
「ドモデズ、ゴニヂワ、ミノダス。」
頭を掻きながら照れ照れでやってきた。
ほほう!また言葉上手くなったじゃない。
「―――!」
「―――――!」
あら、倒れちゃった。
「ずっとあなたが好きでした。だけど卒業式の日にお別れですか。」
の「面接」と表裏一体になっています。
主観と視点の違いをお楽しみください。