カレーなるカレーヌ様。
次の日。
カレーヌ様がネコカフェにスイーツの納品に来た。
二人の砂漠の民の娘さんたちを連れて。
ハッキーの毒牙にかからなかったラッキーな娘さん達だ。
「私達は指輪を貰わなかったって、落ち込んだりしたけど、今は元気です。」
某・名キャッチコピーみたいなことを言って笑った。
「それで、アネさん、私たちに聞きたいことって?」
やっぱり私はアネさんなんかい。
とりあえず二人には座ってもらった。
「お仕事サボれてラッキー♫」
リンさんとルイさんだ。
「うん、暑い地方に住んでいたなら知らない?
カリーとかカレーとか言われる料理。クミンとか、ターメリックとか、ガラムマサラとかコリアンダーもかな?そんなの入れてる、辛い料理よ。」
「あ、わかります。ナンと一緒に食べる奴でしょ。
」
日本のカレーもいいが、何故か町にひとつはある、ネパール?のカレーが食べたい。
セットのナンをチーズナンに変更して良く食べていたよ。カロリーなんか考えてはいけないのだ。
ちなみにバターチキンが好きだった。
探して見たけどカレー粉なかったんだよ。
「そうなの。ナンと食べるやつ。」
「なるほど。スパイスを手に入れて作りたいのね?」
カレーヌ様が口を挟む。
「そうなんだけど、セットになったものって売ってないかな。または配合のレシピ知らない?」
「あ、私達作れますよ。」
「ナンも?」
「チーズナンも。」
やった!カレー粉が配合出来たら、ブラウンルーを作って日本式カレーもいいね!
学校給食なんか、そうやってるんだってね。
ギャ○ンかなんかのカレー粉を使って。
「ああ、カレー食べたい。」
早速作ってもらうことにした。
材料揃い次第ね。お取り寄せも必要とか。
「それよりレイカ、聞いたわよ。第三の女。」
映画のタイトルみたいな事を口にする、カレーヌ様。
あら。緘口令って、ないのかしら。
「その転生者の人。貴族なんでしょ。
誰なの?
そのひとの歓迎の食事会に少し顔出してって、エリーフラワーさんとメアリアンさんにも言われてるのよ。知ってる人かもしれないし。」
「えっ、そうなの?どこまで言っていいものか。
エリーフラワー様に確認するわ。」
内線で連絡する。
するとご本人が現れた。
三人でお茶をする。みんなでりんごジュースを飲む。あの二人の娘さん達は帰っていった。
「おはよう。カレーヌ様。貴女も随分お腹が大きくなったわね。五月だっけ?先日はお祝いありがとう。」
「嫁ぎ先の名産品の羊のぬいぐるみ、気に行ってもらえた?」
「ええ、ミネルヴァが抱いて寝てるわ。」
そうだよねえ。木彫りのクマでは抱いて眠れないよね。
でも、下の子供へのお祝いを上の子がいじり倒してるのか。
「大丈夫。洗えるから。夫の義兄の自信作よ。
うちは外に出されたけど兄弟仲は悪くないのよ。
――嫁姑の仲はお察しよ。ふふ、うふふのふ。」
ブラックな笑いを浮かべるカレーヌ様。
嫁ぎ先のローレン子爵家は羊で有名なのだ。
今カレーヌ様夫婦は、ご夫君の親戚で没落した名ばかりの子爵家であるローエン家を継いでいるので、
正式にはローレン家ではない。
それ以前にブルーウォーター公国に移住してるし。
縁は切れてるようなものなのに。
「そういえばマトンやラムをねえ。夫の実家でも辛く煮てよく食べてたわ。それに近いんじゃないの?」
「あ、そうかも!」
「夫の好物なの。あら、じゃアうちに香辛料セットあるわよ、分けてあげる。」
ええ!嬉しい!
「ありがとう、カレーヌ様。今あなたの有り難さが染みてます。お友達になれて良かった。」
ガシッと手を握る。
「やあだ。随分と現金じゃない。」
ええ、自分でもそう思います。
「コホン。ところで転生者のことについてお聞きになりにきたのでしょ。」
エリーフラワー様がカレー臭漂う(加齢臭ではない)会話をぶったぎって話に入ってこられた。
「そうそう!誰なの?」
「グローリー家のメリイ様。家族に囲いこまれて、外にも出して貰えなかった私と違って、貴女なら面識あるでしょ、家柄も同じくらいだし。」
「あら!そうなの。ええ、良く知ってるわ!
交流あったわよ。
あちらの息子さん、二人とも私にお熱だったのよねえ。」
「カレーヌ様、人気ありましたからねえ。」
「あら、じゃそこのメリイ様のドレスだったの。
メアリアンさんが着たやつ。なーるほど。
婚約者って、あの黒髪の偉そうなガキかあ。」
容赦ないぞ。カレーヌ様。
「なんかさあ、勘違い野郎って言うか。使用人とかにも偉そうで。ただの養い子のくせに。
ウチのジャスティンお兄様も嫌ってたわ。
何故かメリイさんは惚れ込んでたけどさ。それがまた増長させていたのよ。
でも、婚約破棄出来て良かったわ。」
「こないだアラン様がおっしゃってたわ。
正式にメリイさんと浮気者の婚約破棄は了承された。
そして三月十五日にはその痴れ者どもを入籍させるって。
その浮気野郎は結婚と同時に御実家の子爵家を継がせる、そしてグローリー家とは完璧に縁を切らせる。
それが王が許可を出した、グローリー家からの要望なの。」
あっさりとカレーヌ様に暴露するエリーフラワー様。
「あら、それは良いわね。割れ鍋に綴じ蓋じゃん。
でもさ、婚約破棄の慰謝料とか払えるのかしら。」
「女の実家に払わせるんだって。あのベリック家よ。」
「あの毒ばっかり吐いてる下品なご夫妻のお家ね。
―あら?でもそこの息子さんは事務方でそこそこ中堅ではなかった?お城の備品とか使用人の勤怠とか管理する部署で、真面目に働いて信頼も厚いとか。」
庶務課のようなものか。
「アラン様はその優秀な息子に代替わりさせるつもりのようよ。」
「男のほうには請求しないんですかね?」
「レイカさん、無い袖は振れないからだって。
……でもね、じわじわと追い詰めるつもりのようよ。
ほとんど無一文で放り出されて、あのクズ男がどこまで持つかしらって。
一応子爵家は継ぐけど領地があるわけではないから。」
「メリイさんがここで安心穏やかに暮らせるといいわよねえ。」
ええ、私もそう思います。
さて、三月十二日。
カレーヌ様と砂漠の民の協力で、前世ぶりにカレーを、チーズナンで!食べてむせび泣く私だった。
ラッシーの代わりに飲むヨーグルトもあるよ!
「お、美味しいわ。みんなありがとう。」
「アネさんが喜んでくれて嬉しいです。
ビッキーに優しくしてくださったでしょ?
ご恩返しですよ。」
「レイカ、美味しいわね!これ!
ラムじゃなくて、チキンとかエビにしてるのね?臭みがそんなになくていいわ!」
カレーヌ様にも喜んでいただけて良かった。
今度は日本式のカレーを作ろう。