招かざる客は客じゃない。
ぎゃんぎゃん煩いアンちゃんを宥めすかして、ことの次第を報告した。
「それではモルドール夫人はキューちゃんの命の恩人なのか!奇遇だな!」
リード様もびっくりだ。
「流石にモルドールの方達はお心が綺麗なんですね。」
嫌だわ。ヴィヴィアンナ様。照れるじゃありませんか。
キュー。
母にべったりのキューちゃんだ。それを涙目でみるミネルヴァちゃん。
「キューたん。よそいったら、いや。」
「あらあら、行きませんよ、キューちゃんは子供の味方。ねっ?」
コーン。
母の発言を聞いてミネルヴァちゃんに寄り添うキューちゃん。もうこちらとの付き合いが長いものね。
「うむ、そうでござるか。
なるほど。レイカさんのお母さんから貰ったご飯の数は十五回で総重量10キロ。この中にはニワトリも含まれますな。
それで、ウチからもらった回数は百五十回で、
コレにはちょこちょことオヤツも含まれるとか。
総重量は50キロ。申し訳ないがこちらにも恩がある。
命を助けてもらったが、できればココにいたい、との事でごわす。」
すげえ。動物はご飯をもらった人間に懐つくというが。その通りですね。
しかしご飯の回数と量を覚えてるのねえ。
「もちろんですよ。お花畑だけで充分。ね。
しばらくレイカの世話でいるけどよろしくね?」
コーーーン。
一件落着だ。
「あ、ところでリード様。そちらはどうでしたの?シンディはシンデレラ? (死んでれら?)」
エリーフラワー様。誰が上手いことを言えと。
「あ、いや。才女殿。」
「アンディさんを見ましたけど影も、カタチも、ありませんわ。存命してると思われます。」
メアリアンさんが断言する。
「ふん、どこへ行ったのか。元妻のところかな?」
コーーン…。
「どうしたでらござるか?キューちゃん。
ふんふん、何なに?砂漠の国を混乱させるように言ったのに。途中でほっぽり出すとは。許せんって。」
ん?そう言えば?
「シンディにはヘビがついてるんでしょ?
ネモさんに聞けば?ヘビからヘビへの伝言ゲームで居場所は、わかるんじゃないの?」
「あ、そうか!なるほどね。レイカさん。さっそく、ネモ公主に、、」
立ち上がるリード様。その上着の裾をクイクイと引っ張るキューちゃん。
「どうしたんだい?」
向き直って優しげに尋ねるリード様。
凄いなあ。服が伸びるよ、やめて。とか言わないんだなあ。
その時、キューちゃんの首輪がするり。と抜けた。
あ、違う。首輪と化したスネちゃまだった。
エドワード様への従属の証としてワザとつけていたんだった。
キュー。
「なるほど。このヘビと白鬼の蛇は兄弟なんだそうでごわす。」
うーん。蛇は一度に何個卵を産むのかな?
「それでね、兄弟蛇が近づいてくるのを感じる、と。」
だだだだだだだだだだ!!
まさか?
「アーンディーーー!!おめでとう!オマエの子供が産まれるんだってな!
お兄ちゃん、いてもたまらず飛んできたよ!!」
げげげげげげげのげー!!
「…良くも、ネモ公主の守りをかいくぐって潜入出きたものだなあ!
職務をほっぽり出してか!呆れたもんだっ!!」
「あっ、リード様?こちらにいらしたんですか?」
「ピーターくうん?カモーーン!!」
リード様が呼ぶと、
「はっ、我が君。」
ピーターさんが現れた。
「この痴れ者をね?成敗してくれないか?」
「はい!」
「そんな、リード様!?」
ふうううううううっ。
リード様が一度下を向いてからじっと下からにらみつけながら視線をあげた。
その表情はアラン様にそっくりだ。
怒りのオーラが立ち昇っているのが見える。
「おまえ。白鬼よ。自分が何をしたのか、わかっているのか。」
重々しい声だ。こんな声も出せるのか。
「お前はな。その砂漠のガルダインそっくりの顔を晒してな。大声で呼ばわりながら、ここへ来たんだぞ。
なあ、それがどんなことかわかっているのかっ!!!」
それ、ヤバいのでは。
「まず、オモテに出ろ!
ーーそうだ。悪いけどね、キューちゃん。力を貸してくれないかな。
このバカを咥えてね、その辺を一周してくれるか?」
ーーギューー。
「そうだよね、嫌だよね、ばっちいよね。
でもね、ガルダインが白狐の怒りにふれてこれから粛清される、と知らしめたいんだよ。
ダメかな?」
ーーギギギ。
唸るキューちゃん。しかしリード様はキューちゃんと意思の疎通が出来るんだな。
「ま、なんてお気の毒なリード様。キューちゃん。私からも頼むわ。ダメかしら?」
おや。我が母が麗しのリード様のおいたわしさに負けた様だ。
「拙者からも、頼むでござる。そうだ、また角砂糖をあげましょうな。
うん?氷砂糖がいいかな??」
キューーーウーー。
甘味に負けたのか。仕方ないな、って顔をしてキューちゃんはハッキーを咥えた。
「ううう。ありがとう。では、エドワード、アンディ、ピーターも来てくれ。
ーーもうね、キューちゃん。コイツのことは好きにして、いいから、ね?」
「ううっ。痛い。もっと優しく噛んでえー!」
「邪魔したね。じゃ、ヴィー、ご婦人方を頼むよ!」
慌しくみんなは出ていった。
「行ってしまいましたね。」
「ええ、レイカさん。胎教に悪い物を見せてすみません。妊婦さんにストレスをかけるなんて。」
ヴィヴィアンナ様がしゅんとなさった。
「そんな。貴女のせいではありませんわ。」
「ええ!あの馬鹿たれがいけないのですわ!」
「ふふ。持つべきものは親友ですね。」
ああ、ヴィヴィアンナ様。
多少のストレスは貴女様の顔を拝見するだけで飛んで行きますよ、ええ。
「メアリアンさん。」
「なんですか?エリーフラワー様。」
「聞いてなかったけとも、私のお腹の子の性別はわかるかしら?」
「わかりますよ。ーー最近は言わないように言われてましたけど、エリーフラワー様なら構いませんね。」
なるほどね。子供が男なら引き取ると言った貴族の話を聞いた話がある。
「ええと、男ですよ。次のお子様は。」
エリーフラワー様の顔が明るくなった。
「まあ!じゃあ生まれたら、婚約するのもいいわね!レイカさんのお子様と。」
ありがたいけれども。
「気が早いですよー。本人たちの気持ちもありますし。」
「それに、エリーフラワー様には多分アラン様の方からも打診があると思いますよ。」
ヴィヴィアンナ様も静かに微笑む。
そうそう。ウチはね。王家の血をひくわけでもなし、エリーフラワー様みたいな要人ではございませんのよ、ほほほ。
だけどねえ、王太子の息女かあ。生まれる前からもう、エリーフラワー様の息子との縁を考えておられるのか。
「だけどもそれだけ、ウチとずっと仲良しでいたいとおっしゃるのですよね、ありがとうございます。」
「レイカさーん。そうなのよおー。」
抱きついてきたエリーフラワー様の背中をヨシヨシとする。
ここは平和だ。だけど外は大変なんだろうなあ。




