人生には三つの坂
新居は完成した。
式をあげることになった。
しかし、一週間前に教会の方から、
「あ、あのう、会場変更との事なんですが。」
え?今更?
親族とお友達数名だけなのに?
アンちゃんが渋い顔をして、
「こうなるかと思ったんだよ、、」
エリーフラワー様はきてくださるのはわかっていた。
新居に引っ越したのだがその時に、
「うっ、うっ、いつでももどってきていいのよっ。
寂しいわあっ。」
アンちゃんは引き攣っていたけどね。
「ばぶー、はあい。」
タラ、イクラと化したミネルヴァちゃんも相槌だ。
可愛い。
変更された教会は大きかった。
生オーケストラがいたのにはビックリ。
マジで劇団四季の地下ピットにいるくらいの人数だ。
そして、オペラ座の怪人のテーマをエンドレスで奏でている。
何故だ。
良くコレを王妃様が鼻歌で歌っていたよ。
うん。荘厳で良い曲だけど、結婚式に?
誰のサプライズがわかったので、ちょっと考えるのをやめた。
レッドカーペットは参列者席の一番前の席に
厚めに引かれていて、
いや、その、バージンロードより目立つってどうよ。
そこをしずしずと父と歩いていたら。
「来ちゃった♡」
予想はしてたけどさ。王妃様。
来ちゃったじゃないよっ。
ああ、ヴィヴィアンナ様っ!
貴女もおでましですかっ。
軽くベールをかぶってらっしゃるけども、忍んでも忍びきれないそのお姿。
素敵です。
エリーフラワー様。
アンちゃんにメイク施して、顔の傷を隠して下さってありがとうございました。
おかげ様でちょっと目つきが悪いくらいの好青年に見えます。
並ぶ貴人たちのパワーに、
父の手は震えて滝の様な汗をかいてる。
どう見ても幸せな新婦の父の姿には見えない。
「やはり、新婦の父はつらいのね。」
いえ、王妃様。あなたのせいです。
父とバトンタッチするアンちゃんの顔も引き攣っている。
幸せな新郎の顔には見えないなあ、と、その視線の先を見ると
ばちこーん!
ウインクを決めるアラン様。
教会の入り口に立っていた。
うわっ、王太子がこんなとこに。
警備大丈夫なん?テロリストきたらどうするん。
口パクで
「アデュー♫」
といってマントをひるがえして去っていく。
まるでタキシー○仮面か、怪盗○ッドの様です。
それとともに何人かが立ち上がってついていく。
SPだったのね。
どうりで黒服の男たちが会場の半数を埋めているわ
けだよ。
大きな会場が必要だよなあ。
費用王家持ちでOK???
それから。
指輪交換の時に
パチパチパチ!と誰よりも大きな拍手をしてくださったのは王妃様だった。
誓いの口づけのときも、
「キース!キースッ!!」
と手拍子で囃し立ててらっしゃる。
自由だ。ああ、自由だ。
誰もアナタに文句は言えません。
神父さまも困っていますよ。
姉のところの子供が来ていたんだけど、
「ママ、あの人なに?」
「シッ、見てはいけません。」
私が謝ることではないけど、ごめん。
とりあえず式典は無事にすんだ。
「ここで王妃様からお祝いのご挨拶がございます。」
神父さんが気を使っている。
「2人とも、おめでとう。
人生には三つの坂があります。上がり坂、下り坂、
そしてま、さ、か。」
初めて聞く小話なのか、一同から
おお〜と感心のどよめき。
ドヤ顔の王妃様。
流石、流石です。
ブレない昭和の定番をおさえてくださって。
まさかを今回身をもって体験いたしました。ええ。
何故か涙がでてくる。感動かしら、いいえ。
どちらかというとやらかした親戚を見ている、いたたれなさ。やりきれなさ。恥ずかしさ。
教会から外にでたとたん、
真っ白な鳩の大群が飛び立った。
そして教会の上を旋回している。
すごい。
白い服をきて、肩と頭に鳩を載せたアルバートさんかいた。
「おめでとう御座います。色々とウチの一門がご迷惑をかけたお詫びと、こころからのお祝いを申しあげます。」
鳩がバラを一輪くわえて、私とアンちゃんに持ってきてくれた。
「ありがとう。」
「アルバート。」
「はい、王妃様。」
「慶事であるし、そなたが次の領主となる事を正式に認めよう。」
「ははっ。有り難き幸せ。」
「それに伴い改名をするがよい。レッド伯爵家では
外聞はよくない。」
そこで私の青いサファイアを見て、
「ブルーウォーターと家名を改めるがよいな。
それから、そなたもアルバートではなく、ネモとする。」
「ネモ。」
「誰でもないと言う意味じゃ。
以前読んだ図書館の本にはそう書いてあった。」
あー、私も小学生の時よんだ。
ノーチラス号の冒険。海底二万里。
「今日この時から、ネモ・ブルーウォーターと名乗ります。」
白い鳩に包まれてネモさんは去っていった。
流石に王族の方たちとは別れて、披露宴というか、
お食事会だ。
皆でレストランに移動。
お色直しにピンクのドレスをきる。
親族控え室にグッタリとしたウチの家族が入ってきた。
「あ、あれは、夢?」
「な、何かぶ、無礼なことはしてないかな??」
みんな顔色が悪い。
「昨日、隊長から警備の仕事があるけど、オマエは出席者だからなあ、っていわれた。マジだったんか。」
ちょっとだけ、免疫があるランド兄でもこうだもの。
そこへ、ちょっと良いかしら?とエリーフラワー様が、顔を出した。
「あら、私が送ったドレス!お似合いよ。」
「ありがとうございます。」
「いつもお世話になっております。」
家族みんなが口々にお礼をいい出した。
彼女も結構な要人だが、ロイヤル勢ぞろいフラッシュ!により、麻痺してしまったらしい。
「あのねえ。ちょっと困ったちゃんが押しかけてきたのよ。」
顔をしかめるエリーフラワー様。
その後ろから。
「来ちゃった♡」
顔を出したのはカレーヌ様だった!!
まさか、まさかだ。
人生の三つめの坂だ!
王妃様、貴女は正しゅうございました。