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動物園はzooっていうんだ、さあ行こうか。そして働こう。

「るん、るるるるん、♫カラダが軽いわー♬」

あれから一週間。

アンちゃんは気がつくとステップを踏んでいる。

とてもにこやかだ。ダンスも上手だ。

いつもの世を斜めに見る、皮肉っぽいフェイスが全然ない。


うーん。こんな人だったろうか。

別人じゃないんだろうか。

「長年の肩こりが治ったわー。」それはいいけど。



恐る恐るのぞいてるのはエドワード様とエリーフラワー様だ。

「人が変わったようでござるな。」

「あんなにダンスが上手だったなんで。年末のコンサートで披露できるわよ。」


すげえ。くるくる回ってる。

キャッツのミストフェリー○のごとし!

24回転じゃん!

「あれは、ア・ラ・ゼコンド・トゥール…」

王妃様もつぶやく。やはりキャッツのアレでしたか。

「あ、すみません、王妃様。お食事はすぐお持ちしますから。」

「良いのよ、レイカ。バックヤードのアンディを見ている方が面白いわ。

――以前はあんなだったのよ。月日が彼を変えたのね。」


おっ!空中で足をうった?組み替えた?すげえ!


「ブリゼね。」


アンちゃんはダンサーの才能があったのか。

あちらだったらフィギュアの選手になれたかも?

「コレからまた、任務で澱や瘴気がたまってくると飛べなくなるわね。はあ、可哀想。」


なるほどねえ。今だけのレアなアンちゃんか。


しばらくダンスに興じるアンちゃんを見ていたが、

お食事が冷めるから食べていただくことにした。

「今日はリクエストされた、酢豚と中華スープです。」

「うふふ。パイナップルが入ってる。

コレよ、これこれ!最近のはケチャップ味だけど、以前給食で食べたのは醤油餡掛けの味だったわね。」

「たまーに、昔の給食の味が懐かしくなりますよね。」

「そうなの。クジラの竜田揚げとかね。

食べたことある?」

「私たちの、世代だとギリギリですよね。もちろんありますよ。私はなかなか好きでした。」

「クジラと言えばさ、九州の祖母がクジラの皮をおからに入れてたのよね。まだ私が小学生の頃。」

「ああ、私も食べた事あります。やはり九州のおばあちゃんが。結果ニオイがきつかったけどそれはそれで。」

おばくじらとか言ってたな、あとクジラのベーコンとかあった。


以前千葉に行ったら、クジラのたれってあってさ、

思わず買ったわ。


そこへ汗を拭きながらアンちゃんが現れた。

「あっ、王妃様。いらしてたんですか。」

「ほほほ。なんだかすっかり毒気が抜けた顔をしてるわよ。」

「はい、今ならUMAも呼べるかも?なんてね。」

「おお、試してみると良いでごわすな。」

「よっし!ツチノコ、、いや、忖度でアイツら来そうだ。あまり来たことがない物を呼んでみるか。

いでよ!チュパカブラ!!」


ぐおーーん。


来た!来たじゃないのおおっ!!

しかも、速攻で!怖え!

コイツ吸血するんだよねええ?

うわっ、目なんか真っ赤だぞ。

「え、マジできたの?」


驚くアンちゃん。

「エドワード。お引き取り願ってちょうだいな。チュパカブラに。」

冷や汗をかく王妃様。やっぱり怖いよね。


「はい、王妃様。キューちゃん!」

キュー。

現れた、青く光る九尾の狐。


「キューちゃん、悪いでごわすがチュパカブラくんに帰って貰えるかな。」


キューちゃんがやれやれという感じでチュパカブラを咥えて放り投げた。


ぎゅーーん!


「ああ、なんて乱暴な。」

「でも帰ってもらえて良かったじゃないの。」

「やっぱりキューちゃんは最強なんですな。」

「うっ、うっ、うっ。せっかくUMAが呼べたのに。」

ぐずぐずと泣くアンちゃん。


そこへキューちゃんがやって来てカラダを擦りつけた。

「キューちゃん、、ありがとう。」

コーーーン。

おお、キューちゃんの声で猫カフェの猫がみんなやってきた。

すべてがアンちゃんにまっしぐらだ。 

なるほど。代わりに猫ちゃんを呼んでくれたのか。

キューちゃん。気をつかわせてすまないねえ。


「あらあ♡」

喜びいっぱいのアンちゃんだ。


――そのあと、くる。続々来る、きっと来る♬

虎男くんと虎子ちゃんも来た。

それからチーターにライ太郎に、、

「あ、あら。嬉しいけどマズいわね。」

狼狽えるアンちゃん。

「王妃様。とりあえず奥へ。レイカさんも。エリーフラワーも。」

押し寄せる猫系猛獣に、流石に慌てるエドワード様。


くわあ。


キューちゃんが欠伸をしたら、みんな伏せたよ。

ああそうだった。キューちゃんがいたんたもの。

安心かな。ふうっ。


「何事ですか?ここに猫族が集中してますよ!」

ネモさんが焦った顔で飛び込んできた。


「コテージからサーカスから猫族まっしぐら!で。

――え?なんだい?」


キューコココン。


「え。キューちゃん、アンディさんに喜んで欲しかったのかあ、そうかあ。」


とりあえずキューちゃんを撫で回すネモさん。

キュー。得意げなキューちゃんだ。

「アンディ、ネモ。そろそろビッグキャットなお猫さまたちには、帰っていただいたら?

――お仕事もあるでしょうし。おほほ。」

流石に王妃様。あっという間に落ち着いていらっしゃる。


アンちゃんはと言うと、お猫様まみれだ。

しかも大きな。

ライ太郎くんとか虎男くんたちに顔とかベロンベロンに舐められてるぞ。

喰われてるんじゃなかろうな。

「は、はひ。」


そこでネモさんがパンパン!と手を叩く。

ビッグキャットたちが我にかえって立ち尽くす。

「キミたち。悪いけどお仕事に戻ってくれるかな。」


うおおおん、と吠えて戻っていく、大きな猫族たち。

ベタベタになったアンちゃんの顔をハンカチで拭いてやる。やれやれ。


「アンディ君!今の君なら動物園の園長になれるよ!やってみるかい?!」

ニヤリと笑うネモさん。冗談だよねえ?

「え、えええっと、、嬉しいけど、どうしよう?ううううう。」

今度は普通サイズのお猫様に乗って来られて泣いている。

もう一度言おう。喜びのあまり泣いている。


「まあ、ほほほ。でもアランの警備を務めたらすぐに黒いモヤモヤがくっついてしまって、お動物が寄り付かなくなるわねえ。

いっそ、ここですっぱりと引退すれば良いのでは、ないかしら?

そしたらダンサーとしての道も開けるわよ、

ほほほほ。」


そしてテーブルにゆっくりと座る王妃様。

王族としての彼女の言葉は重いのだ。


「なるほど。王妃様、それも良いかもしれません。

アンディくん、こないだ言った通り人手不足なんだよ。日替わりでUMAを展示してるよね。

チュパカブラがキミの言う事を聞いて展示のローテーションに入ってくれれば。それだけで大助かりなんだけどね!」 

「なるほど。レストランは時々しかやらないし。ネコカフェも任務の時は任せてたでしょ。

動物園のお手伝いすれば?」

「ええ!名誉園長扱いで!猫族もいますよ!

猫触れ合いコーナーなんて猫カフェと変わりませんよ!」


2人して動物園へゴー!みたいに言われて固まるアンちゃん。

「ええと?任務として潜入ですか?」

「うーん、そう言う形にした方が通りやすいならそれでもいいのよ。」


ふーっとため息をついてお茶のカップを持ちあげられた。

「おかわりを。それからアンディとレイカもそこに座って?」


アラ、なかなかマジだぞ。コレ。


「今アンディはキューちゃんに悪いものを吸われて身も心も軽くなってる。そうよね?」

「はい。」

「元々アンディは朗らかで素直な少年だった。

まあ、大人になってからでもあの2人と比べたら、

人格とか雲泥の差だったわ。」

「え、褒めていただいて光栄です?」

赤くなってドギマギするアンちゃん。

「あの黒いモヤは長年の任務で染みついた汚れのような物。

でもそんなものでも、心を守ってなければやってこれなかったのね。」

「…。」

「忍びの仕事で最前線に行ったらまた、黒い物が染み付くし、今度は命を落とすかもでしょ。

もうそんなに若くないし。それに、赤い稲妻の時もう少しで危なかったじゃないの。」


齢28でもう肩たたきか?厳しい世界だ。

だけどわかった。

王妃様は本気でアンちゃんを引退させようとしている。

「アランも貴方に死んで欲しくないから、レストランやら猫カフェやら勧めてるわよね。」


アンちゃんはずっと下を向いている。

そして顔をあげて思い詰めた顔で言った。

「王妃様、俺は!ずっと、忍びとしての生き方しか知らないんです。そんな風に育てられたし、生きてきた。

いずれはアラン様を守って命を落とすものと、

それが光栄だと!思ってこれまでやってきました!」


あらら。コレ私が聞いていいやつ?

お仕事と私どっちが大事なの?

きーーっ!ってやんなきゃいけない奴?


―――まあね。わかってる。ここの世界は日本とは違う。

滅私奉公の世界なんである。特に御庭番なんて使い捨てだ。アラン様や王妃様に目をかけられてここまで生きて来られたのは、凄いことだ。


王妃様はこちらをじっと見る。

エリーフラワー様もエドワード様も、ネモさんも息を殺して聞き入っている。


「アンディ。アランはね、信じられる人間が少ないの。

貴方はあのリードの近くにいても、アラン第一だった。すごいことなのよ。

アランは貴方に生きていて欲しいのよ。

引退して近くにいなくても、時々でも会いにいけるだけでいいのよ。」



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