机に伏せて挙手なさい。先生しか見てませんというのは、だいたい嘘。
王妃様が口を開いた。
「ねえ、リード。もうあのパティさんはシンディとは別れてシンママになるつもりなのね。というか、もう別れたの?」
「ええ、昨日のうちにネモ公主の手で受理されてますよ。ヤー・シチやアンディからも報告を受けてます。」
リード様は嬉々としてポテトフライを食べている。
お好きなんだなあ。
そこへ、ネモさんが来た。
「今のはなんですか?!今度のは間違いなくキューちゃんの仕業ですね?!
あ!王妃様?王子様方もお揃いで。」
ああ、なるほど。と、
ネモさんはチカラを抜いた。
「シンディくんのことでお集まりですか。」
「ネモ。一緒に食べましょう。アンディ案内を。」
「はっ。ネモさんこちらへ。紅茶とコーヒーどちらを?サンドとおにぎりは?サンドなら卵、ツナ、ハムとございます。おにぎりなら、ごま塩とおかか。」
「アンディくん、素晴らしいレストランの支配人ぶりだね。コーヒーとハムサンドをいただけますか。レイカさん、手はどう?」
「おかげさまで大分いいんですよ。」
そこへメアリアンさんが寄ってきた。
「レイカさん、手と肩に黒いのがまとわりついてますよ!
あ、もしかして?鉄扇見せて下さい!」
王妃様からいただいた鉄扇、テッシー1号をみせる。
「うわ、これだ。白鬼からダークな瘴気がうつってます!
ーーーん、はいっ!」
ばん!
メアリアナさんが手を打つ。
「えっ。肩が軽くなった!!手も痛くない!」
「まっすぐな気性のレイカさんだからコレで済んだんですよ。」
くくくくくくくく。
「アンちゃん?」
「…王妃様。アイツもう締めましょう。くくく。
悪いものは元からたたなきゃ、ダメでしょう。
ねえ、レイカにまでこんなに迷惑かけて。
彼女だから返り討ちに出来ましたけどね!!」
アンちゃんが青スジを立てて笑っている。
「ネモ。シンディは今どこに?」
「一応ウチにも拘置所があります。あまり使わないんですがね。そこにいます。逃げないようにスネちゃま達が見張ってます。」
それは不埒ものは即、アニマルがごっくんするからか。
「パティさんは?」
「入院してます。とにかく栄養が足りてません。
あとはストレスでまいってます。
ご母堂がついてますが、彼女も栄養失調ぎみです。」
「えっ?シェルターにいた時は健康だったでしょ、お母様は。たった二週間かそこらで?」
「シンディくんはお金を入れてなかったようですね、最近。
自宅にいないか、いても婆さん達に説教されていて、話ができなかったと。」
「ーーひどいわね。三婆は気がつかなかったのね。
1人がずっとついている訳じゃなかったからか。」
彼女たちにも注意しなくては。王妃様の表情は硬かった。
「ところで砂漠の娘さんたちはどんな感じなの。」
「ビッキーさんはエミュー牧場に行くそうです。
後二人、カレーヌ様のところでお菓子をつくるとか。」
流石ネモさん。よく知ってるな。
「あとの二人なんですけどね。シンディに籠絡された彼女たちがまだ決まってません。
サーカスのショーはどうか、と言う話が出てはいますよ。特にレミさんね、最年長の。」
「あの子は華がありますじゃ。馬を使うのも上手だった。向くかもしれませんな。」
ピーターさんが言う。
「サーカスに出て見そめられたクノイチもいたっけな。あ、いや、ウワサだが。」とアラン様。
ああ、アンちゃんの元カノね。唯一生き残った。
王妃様がチラリとアラン様とアンちゃんを見る。
アンちゃんは聞こえなかった振りをしている。
あーあ、面倒臭い。
「うむ。それも良いかもしれないなあ!」
何も気付かないリード様だ。
「ま、試しに二人体験させてみたらどうか。何でもレッツトライだな!」
「はい、リード様。進言しましょう。」
にこやかに応じるネモさん。
「するとセティくんだな。本当はビッキー嬢の近くにいたいんだろうなあ、でも、あんなに使えるなら
森の番小屋に住んでパトロールして欲しいんだけど。
もしビッキー嬢と結婚したらそれも難しいかあ。
牧場に通うの大変だもんな、でも彼女には動物の癒しが必要だし。」
「リード。」
アラン様が笑いをこらえながら言う。
「森の番人はシンディだったはずだ。別に独身でも出来るだろ?ははは。」
そこでリード様は目をパチクリさせた。
「兄上もお人が悪いなあ!シンディはもうダメでしょ。色々と。
後はどのような処分を言い渡すかでしょ。」
そこで、リード様は視線を一度下に向けてから目をとじた。
「ねえ、ネモ公主。私たちはあの時言ったよね、あいつに。
最後のチャンスだと。三婆も呼んだし、女性にちょっかいを出すな、とね。
父上や母上にも話を通してると。」
ネモさんも腕組みをして目を閉じた。
「ええ、おっしゃいましたね。」
「母上。」
「なーに?アラン。」
「アイツをどうしますか。ご意向には従います。」
「うーーん。多数決?」
ーーーはあ?
「目を閉じて挙手してもらおうかしら。大丈夫、私しか見てないから。」
はあ。それって。
教室のガラスを割ったのは誰ですか。
机に伏せて、こころ当たりのある人は手をあげてくださいって奴か。
大丈夫、先生しか見てません、みたいな?
それって嘘だよね。だいたい誰かが薄目開けてるんだし。
何をさせる気だ。
「さア、みんな目を閉じて。この中でシンディを引き取りたい人は、手を上げて。」
えっ、何この茶番。
ーー目を閉じて何も見えーずーー♫
と谷村○司さんの素敵ボイスが脳内をゆっくり流れていく。
目を閉じて何も見えないのは当たり前だと、イチャモンをつける同級生がいたな。
若い奴って揚げ足を取るものだ。
「ーーあら。そう来たの。」
どう来たのか。