馬鹿は死なきゃ治らないというけど。
しばらくは平穏な日々が続いた。
ネコカフェは盛況だ。猫もアンちゃんにどんどん慣れてきたよ。
「なんのかんの言ってもエサをくれるひとが好きなのよネ。えい、このケ・ダ・モ・ノめ♡」
猫を撫で回すアンちゃん。
自分だって獣みたいに、ヒャッハーってなって、粛正してるじゃん。
ゴロゴロゴロゴロ。
「ああ!このゴロゴロ言う音!辛抱たまらん!
吸って吸って吸いまくりたい!!」
それは辛抱してください。嫌われちゃうよ。
猫カフェは2号店を出した。
いちげんさまとか、ふらりとくる旅行者はそちらに行ってもらうことにした。
何しろここはVIPが通うレストランがある。
エリーフラワー様なんかこの奥に住んでいるのだから、彼女に会いたい外国の商会の人が押しかけてきたりしてきた。
もちろんリード様御一家のファンも来た。
こちらに来られることもあるのがバレてね。
いつ会えるかな、なんて日参している人もいて困ったもんだよ。
最近はキューちゃんが目眩しの青い霧を出してくれて、そういう有象無象の衆は入れなくなっている。
で、現在うるさいなう。
「何故だっ!妖しの霧のせいでアンディの家がわからないぞ!アンディ、アンディ!!」
リフレインして叫んでるのは、白鬼くんだ。
どうしてどうして、彼は迷ってしまったんだろ♬
「はあ。あのバカ。近所迷惑だろうよ。」
しゅっ!と消えたアンちゃんは、
次の瞬間首根っこを押さえて白鬼を連れてきた。
「あア?何の用だよ。テメエのせいで猫ちゃんが怯えてるじゃねえかよっ!」
半分はアンちゃんのせいですよ。
「アンディ、婆さん達が怖いんだ。パティが家出しちゃったんだよ!コッチに来てないか?」
ええ、何それ?
まわりの忍び達がざわめき始めた。
猫ちゃん達もニャーニャー心配そうだ。
「こっちには来てない。誰か見たものはいるか?」
みんなが知らないと言う。
「妊婦なんだからそれは心配だな。
よくわからないけどグリーン婆さんが彼女をイジメたのか?」
「最初は上手く行ってたんだが。他の婆さんたちも出入りするんだよ。それで嫌になったみたいだ。」
「あー、それみんなオマエのせいだな。」
クノイチたちが集まってきた。
「心配ですね、探しましょう。写真とかありますか。」
うん?何かひっかかるよ。
「ね、彼女、ここに来た事ないよね?だったら来れないよね。今いちげんさまは入れないし。」
「なるほど。ここに来るつもりで2号店に行っちゃうってヤツですか。」
霧がかかっちゃってるし。これが本当の五里霧中。
その時、ホットラインが鳴った。
「やっぱりあっちにいるって。」
アンちゃんの言葉に一同ホッとした。
2号店は一応ヤー・シチさん夫婦がやっている。
「私たちもそろそろ引退も考えますから。今の仕事も後進の指導が主ですからね。」
戦災孤児の受け皿として機能している。
従業員は見習い合わせて15人。お猫様も15匹。
寮も完備だ。
もちろんこの中で素質があれば、忍びへのスカウト
一直線だよ。
傷ついた心を癒すのに猫ちゃんは一役かってるのだ。
ヤー・シチさんが仕事で不在な時は1番年かさの少年がお店を管理している。なかなかやり手らしい。
「あら、サマンサちゃん。今日はここなの?」
彼女は一緒に保護された妹分、マリちゃんがいるのもあって指導と手伝いに来てるのだ。
(ちなみにマリちゃんは例のシェルターで保護されていた。今は猫カフェの寮に入っている。)
「あ、アンディさん、レイカさん。お疲れ様です。」
「お疲れ様でっす、オッス。」
このオッス少女がマリ・ポーリイちゃんだ。忍びとしてエラ様付きになる事がほぼ決まっている。
「パティさん来てるんですって?」
彼女を刺激しないようにとりあえず私だけ会うことにしている。
アンちゃんとシンディは店の外で待機だ。
さて、彼女はどこかな。
奥のテーブルに背中を丸めて座っていた。
おお、そのままルビーの指輪を抜き取ったではないか。
そうね、誕生石ならルビーなの、ではないのか。結婚指輪ではないか。
マズいそ、これは。
「レイカさん。来て下さったんですね。」
「パティさん、これは?」
ぽたぽたぽた。
落涙するパティさん。
「もうね、疲れたんですよ。」
「そうなのね、疲れたのね。」
まずはオウム返しだ。
ここで、安易に、
「わかるわー。」と言ってはいけない。
「あなたに、何がわかると言うんですかっ!」
となる可能性があるからだ。
そっと手を手の上にのせる。よし、はねのけたりしないな。
「三人のお婆さんが家に来るんです。代わる代わるに。そして説教。」
それは嫌だな。
「シンディさんに。」
そっちかーいー!
それは当然。
「何だか彼を選んだ自分が間違っていたような気がして。うっうっうっ。」
乗せた手に力を入れる私。そしてもう一つの手で背中を撫でさする。
あら、随分と痩せてない?顔もこけて顔色悪いし。
「ちゃんと食べてる?よく眠れてる?
何か飲んだ方がいいわ。ヨシ、ここは私のおごりよ。」
「あったかいミルク…。」
「うんうん。」
「後、クラムチャウダーとビーフシチューと、豚汁…頼んでいいですか?」
「も、もちろんよ。」
食欲出てきてよかった、今まで食べれなかった反動か。
ーーもしかして経済的な危機か。
汁物ばかりだな。身体が弱ってはいるんだろう。
彼女が食べてるあいだにアンちゃんとシンディはそっと室内に入った。
離れたところで気配を消している。
「美味しいです。ありがとうございます。」
「ところでパティさん、お母様にはなんと?」
「定期検診に行くと言って出てきました。
ーーしばらく家を出ます、と書き置きを書いて。
それが見つかったからレイカさんが来たんですね。」
「でも何故三人?グリーンさんだけだと聞いていたのよ。」
「ーーいきなりブルーさんが来て、シンディさんを怒鳴りつけました。カチャさんとレミさんに会いにきたな!と言って。」
「…はあああ??何だってえ?」
自分から地を這うような声が出た。
ルビーの指輪。懐かしいですね。
誕生石なら、ルビーなのって。