正義の怒りをぶつけろ、打てよ、打てよ。
ネモさんが指を鳴らした。
「スネちゃまたち。お迎えに行っておあげ。」
室内のネモさんの声と指パッチンが聞こえたのか。
外がざわざわと騒がしくなった。
ず、ずずずず。
シューシュー。
「アリサ母ちゃん、頼むよ。子供たちを奥に連れて行ってやってくれ。」
「そうですね、顔合わせもすみましたから。
さあさ、王子様たち、ミネちゃんこちらへ。
美味しいお菓子がありますよ。」
わあい、と子供達は歓声をあげて出ていった。
「?」
「ウチの母はリード様の乳母でしてね。王子様たちの子守りもしてるんですよ。」
ネモさんの説明に三婆さんの疑問も吹き飛んだようだ。
「では、ワシもお子様方の警備につきますじゃ。」
「あ、ピーターくんはまだいてくれ。シンディと会わせる。」
リード様が引き留めた。
五分程したらヘビ団子が到着した。
ドアを押し開けて入ってくる。
「ひええ。」「うわっ。」「何ごと!」
三婆さんがびびってる。
パン!
ネモさんが手を叩くと、ヘビの塊がほどけて中からシンディが出てきた。
「な、何事なんですか!酷いじゃないですか…え?何で皆様お揃いなの?」
「久しぶりじゃの、白いの。」
「白鬼と呼ばれていい気になってるらしいな。」
「ハニトラ要員だって?はっ、こざかしいわ!」
「――えええええええええ!!
伝説の三婆??!!
な、なんでいるの?えっ、俺知らないうちに死んじゃった?ここ地獄なのっ?!」
「黙れ、痴れ者がっ!!」
リード様?めっちゃ怒ってる。
「え、リード様?アラン様かと思った。」
青ざめる白鬼。
「お前はどれだけ騒ぎを起こせば済むのだ。これからこのお三人さん達の言うことを聞くのだぞ。」
「え?え?え?何がですか?話が見えない。」
「アンタさあ、性懲りもなく女性達にチョッカイ出してるんだって?それでパティさんが荒れてるんだって?妊婦なのに??」
「ア、アンディ。」
ネモさんが腕組みをする。
「砂漠の5人娘ですよ。あの子たちはツライ想いをして来たんだ。それにつけ込むなんて。奥さんが身重でなければスネちゃまに噛んでもらうのに。」
「俺は何もしてませんて!向こうから寄ってきたんだよ!!
セティって奴にも散々詰られたけど、濡れ衣だ。
アイツいきなり切り付けてきたんだよ、スネちゃまがアイツの剣に絡み付いたから助かったけどさ!」
「…ふーん。スネちゃまが君を助けたのか?」
意外だな。
それにセティさん、仕事キッチリしてるな。
「という事はご婦人方に狼藉はしていないのか。」
「そうですよ!」
「…かも知れませんな。このお方はガルダイン様と似通った面影がおありじゃ。」
「確かに私もそう思ってました。系統はそっちだな、と。」
ピーターさんとネモさんか頷く。
うん、私もそう思う。
まず外見だが。2人とも浅黒い肌に整った顔立ち。
ガタイも良くて背も高い。
ナルシストで女性にモテるという妙な自信。
お肌や髪のお手入れに熱心と思われる。髪はサラサラで脂ぎってないしね。
それから本質は女性には冷淡なんだ。
女性を道具の様に使っても罪悪感がないというか。
あとは特定の人間に執着するところとかね。
(アメリアナとアンちゃん)
呆れたことに基本的に自分が悪いと思ってない。
この2人は同じくくりに入っている。
2人まとめてカッコ閉じ閉じだ。
うしろ指さされ組か。ずっとさされてろ。
「あのツライ生活の中で、ガルタイン様が希望だったんでしょうな。5人とも微かに想いを寄せていたようですじゃ。」
「でもねえ、あの男は助けてやらなかったんだろ。
消去法で良く見えてたってことか、ケッ。」
ピーターさんの言葉にアンちゃんが吐き捨てる。
シンディがゆっくりと身を起こした。
「確かに。カチャって娘にはガルダイン様に似てるとか言われたよ、それから付きまとわれてさ。」
あのセティさんの姉さんのネックレスを付けていた人か。薄い黄色の髪の。
「そうですか。あの子はあの中では1番若くてな。
だから分別もないのですじゃ。」
ピーターさんが頷く。
「あ、アンタがピーター殿か。ソードマスターでリード様のお付きになった。」
「正しくはうちの王子たちの護衛だよ、シンディ。」
「どうしてですか!リード様!他所のヤツをわざわざ護衛にしなくても、私が!!」
「…おまえ、図々しいな。白鬼よ。兄上がおまえを嫌っておられる訳がわかったよ。
わかっているのか。母上がおまえを庇わなければとっくにこの世にはいないんだ。」
うわあ。リード様が怒りに燃えている。こんな怒ったリード様初めて見たかもしれない。
「おまえはいきなり身内である忍び達の足を折るようなやつでレイカさんのお兄さんを思いこみで、殴り倒すような奴だ。
キーナの甘言に乗ってハニトラにかかった末に、だ。
父上と兄上のところへミミとリーリエを連れていった。彼女らは王家の乗っ取りを考えていたんだったよな!!
…あれ?やっぱりおまえ要らないかもな?」
「そんな!結果論です、どれも!!」
「あー、やっぱりガルダインの馬鹿たれに似てるよな、オマエ。」
アンちゃんがポツリと言う。
「アンディ!少し騒ぎになったから保養所を出なきゃいけないんだろ?俺。
じゃあさ、お前の家で一緒に暮らし…」
バシシシイ!
「ふざけるなっ!!」
アンちゃんが本気で殴った。
顔みるみる腫れてきてるよ。
うっわー、痛そう。
「シンディよ。お前の新居は決まってるぞ。
森の見張り小屋だ。そこに住め。絶賛増築中だ。
お前の仕事はパトロールだろ。
もう保養所に来なくていいぞ。そうすればリーリエとのバトルも、カチャとやらの接点もなくなるだろう。」
「え!そんな!妻と義母は?」
「お二人もいっしょだ。それに、グリーン婆さんも同居だ。心強かろう。」
「な、なんでですか、、」
リード様が冷たく言った。
「わからんのか?おまえの性根を叩き直すために三婆を探してきたんだ。これでダメなら、知らないぞ。
ちなみに父上にも母上にも話は通っている。」
「シンディ、君ね。君が思っているより、状況は悪いんだよ。
カチャ嬢のことはわかった。追いかけられてるだけなんだってね。
ではさ、レミ嬢は?」
ネモさんの問いかけにシンディは固まった。
「レミ?あの中で1番の歳上で1番の器量好しじゃが?」
ピーターさんが目をパチクリする。
「彼女には君から近づいたね?ヘビが今、伝えてきたよ。君はちゃんと自分が妻帯者だと断ってる。
だからヘビは君を噛まなかった。
でもさ、わかってたんだね、彼女たち砂漠の民が一夫多妻だってことを。レミ嬢が第二夫人でも甘んじるんじゃないかってことも。それにつけ込んでさ、全力で口説いたね??」
しゅっ!!
アンちゃんのナイフがシンディの頬をかすめた。
頬の傷から血が垂れる。
「オマエ、切り落としてやろうか?けけけ。」
そこへ、三婆のひとりグリーンさんが間に入った。
「やめるのじゃ。情けないのう。レイデイが見たら泣くぞえ。」
アンちゃんとシンディの顔から表情が、消えた。
うしろ指さされ組とか後ろ髪ひかれ隊。すごいグループ名ですね。