長い夜。⑨
では、キャラバンを襲ったのは。こいつか。ビッキーさんの親のカタキというわけか。
「本当に、アメリアナ様だと思ったんだ。お救いせねば、と。
間違いと気がついたら思い出さないように、記憶に蓋をした。
その当時の仲間はみんな始末した。」
へええ。
「よく子供の世話ができたものだ。」
「その当時、恋人がいたから。一緒にいた仲間の中に。」
…へええ。
「かすかに覚えてる。茶色の短いクリクリとした、巻き毛のお姉さんでしょ。」
「…それなりにモテてたんだよ。周りの女性は、みんな私に夢中だった。」
へー、そうーなんだ。けっ。
「なるほどな!井の中の蛙だったんだな!」
清々しいほど、残酷なリード様だ。
もっとやってください。
「もういいでしょ、この馬鹿王子をさ、外にぽいって放り出したらお終い。
さ、そうしましょ、そうしましょ。」
アンちゃんが面倒そうに言う。
「キミの親のカタキだ。カタキを打たせてやってもいいよ?」
アラン様。なんて事いうんだ。
「えー、シロウトさんにやらせるんですかあ?
大丈夫かな?とどめはワタシが?」
「ではね、外の広場にしようか。
何、後はウチの猛獣たちが綺麗にしてくれるよ。」
…ネモさん。
「あのう、もう帰っていいですか?色々とキツいんですよ。
私とメアリアンさんとヴィヴィアンナ様。」
「そうだね、そうしなさい。」
アラン様が頷く。
「もう、夜で遅いからホテルにお泊まり下さい。
ーー外は見ないように。」
ネモさんも賛成してくれる。
「レイカちゃん、悪かったね。ゆっくり寝てね。」
アンちゃんがくしゃっとした顔で笑う。
「そうだよ。ところで、ビッキーくん。
キミも自分の手を汚すことないよ。
戻りなさい。ま、二、三発ぶっとけば?
ね、レイカさん、母上から頂いた鉄扇を貸してあげてよ。」
リード様はやはり優しいんだな。
「あっ、ハイ。これ。」
鉄扇を渡す。
「こうやってね、頭に垂直に振り下ろすといいわ。
バシ!バシ!とね!」
「ほらよ、押さえとくぜ。」
アンちゃんが馬鹿王子を羽交締めにする。
「ーーー馬鹿!なんでなんでなんで!!」
バシ、バシ!バシ!!
泣きながらガルダインを打ちすえるビッキーさん。
うーん、もう少し手首をつかえ。
「!痛いじゃないか、ひどいじゃないか!
ビッキー、俺を打つなよっ!!」
「親のカタキ!」
「その後育ててやったじゃないか!
あ!いてて!それに俺たちが襲わなくても、あのキャラバン、誰かに襲われてたと思うぞ!」
「コレって、彼女の未練を断ち切るためにワザと悪人ぶってる?」
アンちゃんの問いに、
「いや、どうも本音のようですじゃ。」
ピーターさんが答えた。
「うっうっ、うっうっ。」
カラン。
彼女の手から鉄扇が落ちた。
アンちゃんがそれを拾った。
「もう、気がすんだかい?」
頭を縦に振るビッキーさん。
「さあ、行きましょう。私と一緒に。」
ヴィヴィアンナ様が優しく微笑んで手を取った。
「最後に何か言ってやりたいことはないかい?」
セティさんだ。
「…あっ、、あ、、ありません。」
倒れそうな彼女を抱きかかえるように外にでた。
そこには虎男くんが、心配そうな顔をして立っていた。
「ふふ、ホテルの部屋までガードしてくれるのかい?ありがとう。」
「…すごいですね。貴女やリード様や、ネモさんみたいな人、この世界にいたんですね。」
ビッキーさんはポツリという。
「私も動物が大好きなんです。」
「では、いずれ牧場で働きますか。人手が足りませんからね。」
ヴィヴィアンナ様がニコリと微笑む。
「サーカスもいいかもね。あなた、運動神経良さそうだし。
虎男くんのお友達も働いてるよ。」
私の言葉に、虎男くんはパタパタと尻尾を振って返事をしてくれた。
ホテルの入り口でオー・ギンさんが出迎えてくれた。
ヴィヴィアンナさまが耳打ちをする。
「それでは、中庭が見えないお部屋にしましょう。」
「私はローリナ様のところへ戻るよ。」
「では、お三人さんは同じ部屋でいいですね。」
三人枕を並べて寝た。
「レイカさんは、お母さんみたい。…あまり覚えてないけど。」
それ言われるの何人めかな。
「前世では三人の子持ち。孫もいたからね。」
あくびをしながら答える。
「うーん、ピザやサンドイッチを作った人たち?」
そうだよね、前世イタリア人とかイギリス人がいたんだろうね。
「どっちかというと、味噌とか豆腐を作った人の国なのよ。」
お箸の国の人だもの。
「うどんやら、ラーメンやらカップ麺を作ったんでしょ。」
「メアリアンさん、うどんとラーメンはそうだけど、カップ麺はエリーフラワー様の手柄ですよ。あの方の協力がなければできてません。」
ま、売り上げの一部はガッポガッポと入ってきて、今では貧乏とはオサラバよ。あざす。
「ええ、すごい!」
「凄くないよ。ただの記憶だから。」
「ーーガルダインどうなるのかな。
私のことを時々アメリアナって呼んでたの。
あの人。」
困ったな。ほら、メアリアンさんはあっち向いちゃった。
本人なんだもんな。
「ちょっと前、アメリアナを語る人がいたよね。」
「まあ、そうね。」
「あの人真っ赤な偽物だったんでしょ。」
「うん。そうよ。」
「ガルダイン、会いたがってたの。でも、偽物とわかってガッカリしてたの。馬鹿みたい。」
それは同意する。
「例えガルダインがアメリアナに気があったとしても、」
メアリアンさんが向こうを向いたままでつぶやく。
「彼女にはまったくその気はなかった。それは、間違いないの。保証するわ。」
「うん、そっか、そうだよね。」
ビッキーさんが手を握ってきたから握り返した。
最後、彼女はガルダインに、
「あ、愛していたのに。」と言いたかったのだ。多分ね。
ーー元気を出して。彼だけが男じゃないことに、気づいて、ね。
元気を出して。ひろ子ちゃんの方が好きですね。
ご本人の竹内さんもいいですが。




