長い夜。⑦
コテージに入ったらキューちゃんがネモさんに撫でられていた。
ルリルリちゃんがキューちゃんの頭にとまった。
ネモさんがルリルリちゃんにナッツをあげた。
「オイシイ。アンディ、コンド、ナッツ、クレ。」
「わかったよ。」
アンちゃんが苦笑した。
「おや、ヴィー、君も来たんだね。」
リード様が破顔する。
「ビッキー嬢かい?夜分すまないね。何、きみに危害が及ぶことは無いから安心したまえ。」
アラン様が声をかけてきた。
ピーターさんが、「グランディの王太子様じゃ。」
と言ったので、彼女は膝をおった。
「あ、いい、今回は。だいたいここの公国の主はネモ殿なんだから。」
色々と面倒くさいなあ。
ほら、ビッキーさん震えてるじゃないか。
とりあえず、背中を撫ででおくか。
よしよし。怖くない、怖くない。
あら、抱きつかれてきた。
ん?キューちゃんが寄ってきた。
ヴィヴィアンナ様に身体を擦り付けてくる。
「そうか。さっきまで子供達を守ってくれていたんだね。ありがとう。」
キュー。
絵になるなあ。
目を見張る砂漠の民達。
「キューちゃんはな、心がまっすぐな奴と、仲間の動物を助けたもの。それからさ、UMAに好かれてるものに寄ってくるんだよ。」
リード様の説明にランド兄とメアリアンさんの背中が光った。
「なんと!」
「でね、このツチノコの飼い主の彼等に害をなしたやつはさ、蒼い炎で焼かれたんだよね、キューちゃん。」
キュー。
良いお返事だ。
ビッキーさんはしばらく固まっていたけど、
「ガルダイン様!」
項垂れている彼を見て駆けていった。
「やあ、ビッキー。」
コテージのリビングの奥に二人でそっと座る。
「彼女達は元気か?奥方さま達に良くしてもらったか?」
「ええ、5人とも元気ですよ。お風呂に入れてもらって。温泉って言うんですか?
以前、どっかの街にもありましたよね?」
「そうだな。おまえとは10年の付き合いだものな。色々行ったよな。」
「それから、カチャさんのペンダントを取りにきて。
お風呂上がりには女医さんが見てくれました。」
「そうか。」
「オニギリというご飯の固まりと、スープを頂いて、みんなは寝てしまいました。」
「うん。」
「ガルダイン様。お怪我はありませんか?乱暴はされていませんね?」
「ああ、大丈夫だ。
ネモ殿。色々と彼女達が世話になったな。」
「私は何も。ヴィヴィアンナ様のお力ですよ。」
「お食事を用意して下さったのはローリア様ですから。」
「ビッキー、君たちはここで保護されるんだ。」
「ええ、セティさん。ヴィヴィアンナ様に聞きました。初め保養所に行ってそれから、適材適所で働けるとか。」
うっとりとヴィヴィアンナ様を見つめる。
「私もそちらで働く。護衛とか力仕事とか。」
「事務的なことも出来るならお願いするよ。
文の代筆もしてたんだよね?」
ネモさんが説明を足して行く。
「ええ。はい。
…それからピーターさんは、リード様が申し出て下さった通りに、王子様の護衛だ。」
「光栄ですじゃ。」
段々と彼女もわかって来たようだ。
「待って?ガルダイン様は?どうなるの?!」
みんな黙っていて答えない。
くわあああああ、とキューちゃんがあくびをした。
チラリ、とアラン様が私を見る。
あら、リード様も。
ヴィヴィアンナ様は詳しく聞いてないのだから、説明は出来ない。
ん?すがるような顔で私を見るのはメアリアンさんと、ランド兄か。
アンちゃんは信じられない顔で、アラン様とリード様を見ている。
ネモさんは頭をかいている。
まさかまさか、私に説明しろってかい?
何故だ何故だあっ!
仕方ない、アウトラインだけだぞ。
「あ、あのね、私もハッキリとはわからないのよ。
ただ想像して見て。
貴女が家から外に出たとたん、いきなり攫われる。
嫌でしょ。
しかも団体でさ、馬とかのってきて、ヒャッハーって。むくつけき男の集団で、ねえ、怖いよね。」
「それは、そうかも。」
「それでさ。もう家にも帰さないって言われるのよ。
家族にももう会えないって。
好きな男の子ともうすぐ結婚するって時にさ。
ぜーん、ぜんタイプじゃないのに、オレと結婚できるなんて嬉しいだろ、喜べって言われた。
相手オッサンでさ、しかも周りの男達が圧力かけてくる。
断ったら殺されるかもしれない。
その前にとても酷い目に会うかも。
怖くてたまらない、ただ、普通に外に出ただけなのに、なんで、なんで、なんで、ってなるよね。」
「…。」
「ひどいよね、親だって大事に育てたのにさ。
なんでそんな性格もよくない、見かけだってキモイやつの犠牲にならなきゃならんのよ。」
おや、前世の娘たちの親だったときの気持ちがよみがえってきた。
「も、もしかして、レイカさん、セバスチャンのことかい?すまない!トラウマになっていたんだね!」
うん?リード様に流れ玉が当たったようだぞ。
「ビッキーさん。このレイカさんも思い込みの激しい男達に言い寄られて苦労したのです。
ひとりは、部屋からヤバいものが出てきたガチの犯罪者でした。」
ヴィヴィアンナ様が痛ましげに言う。
「あー、あのカス野郎ですね。ええ、人を池に突き落としたり、責任とるとかいって付き纏った奴っすね。」
「…あなたも、苦労したんだな。」
ピーターさんが痛ましいものを見る目で私を見る。
「だからね、このメアリアンさんもとても、怖かったの。」
そこでぐい、とメアリアンさんを抱き寄せる。
「ハイ、ワタシ、トテモ、コワカタ。」
メアリアンさん、片言になってるよ。
「…あまり深く考えてなかったんだ。馬賊って結構、女を攫ったりしてたから。
あの5人娘だって伯父がどっかから連れ去ってきたんだし。」
ガルダインがポツリと言う。
カッ!
怒り心頭に発す!
昔覚えた古典のフレーズが頭に浮かぶと同時に、
「天誅!」
ばしいいいん!
お妃様からいただいたテッシーでガルダインを打ち据えた。
「この、馬鹿ちんがっ!女を何だと思うとるとか!同じ人間たい!
アンタだって叩かれると痛かろうがっ!!」
「ああっ!!」
驚く一同。
「凄いわ!レイカちゃん!」
褒めてくれる一名。
「流石、黒い悪魔のご夫人だ。
その鉄扇は王妃様から下賜されたものですよね。」
ネモさんが心底感心している。
「少しは自分たちが何をしでかしたか、わかった?
今まで女の人たちを粗末にしてきた、ツケを払うときなんだよ!」
「格好いいわ!レイカちゃん。」
パチパチパチ、
アンちゃんが拍手をしているぞ。
ビッキーさんの顔色が白くなった。