長い夜。④
そこで、アラン様はメアリアンさんに向き直った。
「メアリアン嬢、いや、モルドール夫人。
彼についてるご婦人方はなんと言ってる。」
「背後霊お母様は。もう彼とピッタリくっついて離れません。少し魂が溶け合っているというか。
彼が最後までご婦人に狼藉をしなかったのはそのおかげでしょうね。
でも、だから。
あの鬼畜トルフも兄だからと、処分をためらわせていたようで。第二妃だったご自分を何かと助けてくれたかららしいです。」
ガルダインが胸に手を置いた。
「母上がここに。」
「さて姉上のピピナ様ですが。とても怒っておられます。
貴方だけにではない。王女の自分をギガント王が所望したとき、さっさと渡した父王にも。
国中に病が流行ったとき何の対策もしなかったギガント王にも。
そして自分が命を落とす羽目になったことも。
自分を助けて出してくれなかった貴方とセディさんにも。あの時はもう17歳だったんだから。
何とかして欲しかったと。」
10年前か。
「彼女の絶望感は大きなものです。それをお母様が宥めていた。
ただ、ビッキーのことはお二人とも優しい目で見ていた様ですよ。
貴方が手元で花嫁を育てているのね、と。」
うええええ。紫の上計画か。ま、本人達がいいなら、それでいいが。
(でも、なんだかなと思うのは私が前世50代後半の
現代日本人だったからであろうか。)
「…私にはそんな気はなかったんだ。」
この馬鹿ちんがっ!
私の中に武○鉄矢が降臨したが、ガルダインの発言は続いていく。
「占い師殿。エラ様の御身内のお貴族であらせられるなら、アメリアナ様がどうなったか、詳しいことをご存知ないだろうか。」
一同息を飲んだ。
「何でだ?私の元婚約者で義妹だったもののことが気になるのか?」
アラン様は黒い微笑みを浮かべた。
「ただ、気になっただけです。彼女はギガントの王太后と王に溺愛されていた。
なのに、何故か良く姉のところに遊びに来ていた。
それに姉と同じの様に流行り病で亡くなった、と聞きました。」
メアリアンさんが私の手をギュッと、にぎる。
「あのね、嫌なことは話さなくていいと思うよ。」
「良いのですよ、レイカさん。」
「彼女は私より六つくらい下でした。小柄な子供で。黒い髪で。
時々姉のところにお菓子やら、時々薬やら差し入れしてくれたのです。姉は身体が弱かった。
すぐ熱を出していたんです。どんなに助かったことか。
姉も妹みたいでいいわね、お母様にかまってもらってなくて寂しいみたいなの、と可愛いがっていました。」
まだまだ、語るガルダイン。
「ビッキーを拾ったのは彼女に似ていたからです。
もちろん、彼女より歳下だったのですけど。
ーー最後にアメリアナ様をお見かけしたのは彼女が11歳でした。アラン様とのエラ様とのご婚約が決まった頃で。」
げえっ。まさかのロリコンかよっ?
確かにあの子、ビッキーも黒目黒髪だったな。
アラン様の額には青スジが立っている。
アンちゃんの眉間のシワが深くなった。
ネモさんはそっと、メアリアンさんを見てる。
ランド兄さんは無表情だ。
リード様は口を開いた。
「へえ。お墓参りでもするつもりかい?
その後、彼女は兄上の婚約者になった。
その後破棄されたけどね。ずっと兄上に未練があったみたいだ。」
相変わらず容赦ないぞ。リード様。
それを聞いて視線を落とすガルダイン。
「ーーただ気になっただけですよ。」
「わかりました。差支え無い真実だけお教えしますわ。」
「大丈夫かい?顔色悪いよ。モルドール兄妹、彼女を支えて。」
「はい、リード様。」
私とランド兄とでメアリアンさんを抱き抱えて長椅子に座った。
二人で挟み込むようにする。
「まず、アメリアナという王女はもういませんわ。
それから、エラ様と彼女は母親が違います。
私はエラ様の方と血縁関係があるものです。」
なるほどね。間違いない事実だ。
ガルダインの顔色は真っ青になる。
「アメリアナはここにいて、彼女の記憶は覗けますわ。」
「そんな!そうなのか。」
「ーー、なあもう良いんじゃないか?その先は。
アンタが処罰されたら向こうで彼女に会えるかもな。会えれば、の話だがな。」
アンちゃんが口を出す。
「そうだよ。ウチの妻にこれ以上負担をかけるなよ。」
「え、君がご主人なのか。」
馬鹿王子。家名をきちんと聞いておけ、ああ?
王子様達が、わざわざモルドール夫人だの、
モルドール兄妹だの(ま、私はもう名前変わってるけどね。ハイバルクに。)言ってたろうがっ!
後、うちらが地味なフェイスだからってアウトオブ眼中だったんだろっ!
「れ、レイカさん、声に出てますわ。」
メアリアンさんが笑いを堪えてる。
あら。
「あははははは!」
「はははははは!」
アラン様とリード様も大笑いだ。
あと、ネモさん、肩が震えてますよ。
アンちゃんは泣き笑いのような微妙な表情だ。
ランド兄は、半泣きだ。
「レイカー、何をいってるんだよう!
地味って言うなよな!」
あ、なんかごめん。