長い夜。③
セティさんが言う。
「ネモ様。女性たちは保護されるのですよね?」
「ええ、ウチの国には虐げられた経験をした女性たちを保護する場所があります。」
「…聞いたことあります。姉がそこにいればいいなと思っておりました。
そうか、彼女らは安全なんですね。ビッキーも。
良かった…」
手にあるのは形見のペンダントだ。
丸くなった白狐の形だ。
それに涙を落としながら話しだす。
「もう、姉もおりませんし。どうか私を処分してください。
だけど、ピーターさんが誠実な方なのは重ねて証言します。
彼は主に王子の護衛で、襲って来るものを打ち払っただけです。
夜だって。あのトルフの鬼畜が、
毎夜日替わりで1人ずつ女性を連れて行ったあと、残った女性に馬賊達が狼藉を働かないように、見張っていたんです。」
ほう、とネモさんが声をあげる。
「それはご立派だ。」
「セティ殿だって寝ずの番を変わって下さっていた。」
「知らなかった。2人とも、その、夜いなかったのはてっきり。」
砂漠の王子。ゲス野郎だな。
「貴方がトルフを早く打ち捨ててくれないか、とずっと願っておりましたのじゃ。」
「…あれで中々便利なところがあったんだ。」
そこへ。
「アラン様。貴方のタカが戻って来たようです。」
ネモさんが外に出て、タカを連れてきた。
足に手紙がついている。
それを読むアラン様。
「父上に今回のことを知らせた。
早速マナカ国に連絡を取って下さった。」
「え?マナカ国?」
「どうもね、キミの国はぐちゃぐちゃになってて、
キミ以外の2人の王子が国王の座をかけて戦っているようだよ。」
「兄上は2人とも自国の大臣の娘を娶ったんだ。」
「そう、それで国を2つに割っての内紛になっているのか。」
「それでは二人の兄が同士討ちをすれば、私が漁夫の利と言うわけか!」
ネモさんとリード様はそれを聞いて顔を見合わせた。
アラン様が口角を上げた。
「…隣の大国、マナカ国にそれぞれの王子が助けを求めたそうだ。
ちなみに私が父グランディ王国の国王を通じてマナカ国に問い合わせたのは、今争っている2人の他に王子はいるか、第七王子の扱いはどうなのか、だ。」
アンちゃんを見る。ちょっと上を向いて視線をそらされた。
彼にはこの先の展開が読めてるんだな。
「答えはそんなものはいない、だったよ。」
「…え、ちょっと何言ってるんだか、わかんない。」
サンドイッ○マン?
「キミはとっくに国を捨てて馬賊になって、亡くなったと言われている。
名前を名乗るものがいても偽物だと、ね。」
「馬鹿な!」
「念の為、砂漠の国デイーロンの亡くなった王のお妃様にも、何人かいる王の娘たちにも、他の大臣にも問い合わせて下さったがね。
皆、答えは一緒だったよ。そんなものはいないとね。」
「ーーふざけるなよ。」
「王子、いや、ガルダイン。私だってそう思う。
今まで外で好き勝手やってたくせに、何を言ってるんだと。
国の中で少しでも頑張っていたんならまだしも。」
アランさまの声は怒気を含んでいる。
「血統だけを頼みにしていたのか。」
ネモさんが追い討ちをかける。
「大体。サークレットの宝石が割られた時に、貴方がデイーロン国のものだと証明出来なくなってるんですよ。
これは我々が白いお狐様から見捨てられた印なんです。」
セティさんだ。
ため息をついて自分のサークレットを外した。
額の宝石があったあとは綺麗に平らになっている。
本当に唯の輪っかだな。アルミなのか、ニッケルなのか、錆びていないのがいいな。
地金として売れないのか。
おや、ガルダインのはプラチナっぽいぞ。流石に王族だ。
「これ、お返しします。」
押し付けるようにガルダインに手渡した。
「セティ、お前。お前も私を捨てるのか。」
赤い目でじっと睨みつける、ガルダイン。
噛み締めた唇から血がにじんでいる。
痛そうだ。これがエリーフラワー様ならハンカチを噛みちぎっているところだろう。
「何を言ってるんだ?さっき兄上がキミを処分するとおっしゃったじゃないか。
捨てるも捨てないも関係なかろう?今更。」
リード様が心底不思議そうに言った。
いや、本当にバッサリだな。