長い夜。②
「なんて事じゃ。」
ピーターさんが泣き崩れるセティさんを支える。
「ピーターさん。貴方には2人のお孫さんが寄り添ってますわ。」
メアリアナさんの言葉に目を見開く。
「なんと。」
「双子の男の子。バズくんと、ダダくん。
その2人が亡くなった。それから貴方は放浪したのね。」
「…息子夫婦の形見でしたんじゃ。私もギガントの人間でした。あちらの前々王の時代は内乱が何度も起こりましてな。息子たちは戦禍に巻き込まれて。」
「残ったお孫さん達を育ててらしたのね。」
「ええ、しかし流行の病で亡くしました。」
「ピピナさんと同じ頃、同じ病で。」
「そこまでお分かりになるのか!!」
メアリアンさんはそっとピーターさんに近づく。
「成仏させてあげるのか?」
アラン様がつぶやいた。
「お孫さんたち、そしてレティさん。彼等は何も悪い事をしていませんわ。天に昇れるでしょう。」
ふらり。
またふらつくメアリアンさん。
「ね、ねえ。後日にすれば?疲れてるんじゃないの?倒れちゃうわよっ!」
とにかく抱きついて支える。
「良いんですよ、レイカさん。だってね、この人たちが今夜粛清されたら引っ張られて一緒に地獄へ行っちゃうかも知れませんよ。」
「何ですって!」「そんな!」
「とにかくな、ピーターくん。キミはウチの王子の護衛になれば良いじゃないか!
双子の男の子だぞ。」
「確かに。この子達と同じくらいの歳ですわ。」
「リードそれで良いのか?」
アラン様が意外そうな顔をしてリード様を見つめる。
「兄上。私もね、アンディのような手だれが欲しいんです。」
あら、と、アンちゃんが満更でもなさそうな顔をした。
「ーー占い師殿、孫を成仏させてやってください。
まずは、それからですじゃ。お頼み申し上げます。」
涙目で頭を下げるピーターさん。
「私も。姉をお救いください。」
セティさんは、絞り出すような声を出した。
「はい。」
「いや。ちょっと、大丈夫なの。ふらついてるじゃないの。無理したらダメ、絶対。」
こっちの心臓にも悪かばい。
「レイカさん、手を握っていてください。ランドさんも。」
片手ずつ手をとる。三人で輪っかになった。
「あなた方は暖かいので安心します。」
なんとなく体温のことではないんだろうな、とは思った。
「そうか?昔から俺平熱低めの低血圧で、寝起きが悪かったんだけどね。」
わかってないなあ。兄貴。
まあ宜しい。わかってなくても効果は同じだ。
とりあえず、これはアレだ。
オラに元気をわけてくれっ!って奴に近いんじゃないかな。
「なんだ?楽しそうじゃないか?私も手を繋ごうか?」
リード様。ええ。生命力溢れる貴方のきらめくオーラならとても役にたつと思います。
「アンディもどうだ?」
うわ、それだとプラマイゼロになっちゃうよ。
アンちゃんは苦笑した。こう言うところは空気が読めるのだ。
「やめておきますよ。
ところでリード様、右手でランちゃん、左手でメアリアンさんと繋いで下さい。レイカちゃんとは繋がないで下さいねッ。」
あらら。
「ははは、了解。結構嫉妬深いんだな。」
それでいきなり繋いだ手を上に揚げて、その後は下げ始めた。
円の中へ前進し、下に向けたとき後退する。
この動きはもしや。
「マイ、マイ、ウマイ、ウマイノ、ワイノ、エッサッサ!」
「おお、懐かしいな。昔母上とよく遊んだ。」
「王妃様自身も歌詞の意味わからないの、とおっしゃってましたね。」
マイムマイムじゃねえか。
歌詞、うろ覚えにもほどがあるよ。
私の、美味いの、私の餌。
意味があるような、無いような
「ハイ、マエ、ヨコ、ウシロ、ポン!」
振り付けの説明も口頭でリズムに乗ってる。
そうだよ、こうやって私も、先生が教えてくれたよ、足さばき。
前に出し、ヨコにだし、後ろにだして、ポン!と蹴る。
「マイム、マイム、マイム、マイム、エッサッサ! 」
こっちも口から出る。ホントはエッサッサではないらしい。けどみんなエッサッサと歌っていたよ。
「妙なチカラを感じますな。ツチノコが点滅していないからまあ、構わないでしょう。」
腕くみをして見守るネモさん。
そして、
「ハイッ!」
リード様が手を叩く。皆もつられる。
ぱんっ!
ピーターさんと、セティさんの肩から金色の粒がきらめいて立ち上がる。
そして人の形をとりはじめた。
ピーターさんには小さな少年たちが抱きついている。
セティさんには、儚げな女の人だ。そっと肩に手を置いている。
一瞬の邂逅だ。ふわり、と空気に溶けて行った。
二人とも立ち尽くして無言で泣いている。
「リード様。貴方のおかげで救われましたじゃ。」
「違うね。メアリアンのおかげだよ。後は母上直伝のダンスかな。」
「おお!そう言えば王妃様は先日お祓いをなさったのでしたな。ウラウラダンスで。」
…ははは。
そこで跪いて臣下の礼をとる、ピーターさん。
「不祥このピーター、リード様にお仕え致します。」
そして剣を捧げている。
「グランディ王国第二王子、リード・ガーディア公爵である。
その言葉しかと受け取った。心して務めるが良い。」
「はっ、有り難き幸せ。」
するとあのサークレットがハズレた。
カラン。
床に落ちたそれを拾って、
「お返ししますじゃ。」
ピーターさんはガルダイン王子に突き返した。