狩るもの。
まず、烏たちが襲撃者を襲った。
「なんだ。こいつら!痛い!痛い!」
「ブルーウォーター公国は鳥が守ってるから、外に出てくるのを狙ったのに!」
そこへ。
おびただしい数の野犬が来た。
「うわあっ?」
馬が驚き、乗っている馬賊(仮)を振り落とす。
「どこへ行くんだっ、待てって!!」
馬を追う野犬たち。楽しげだ。狩りだー!と全身で喜んでいる。おや、狼も混じっているようだよ。
「ああっ?」
悲痛な叫びが上がった。
白い虎の虎子ちゃんと虎男くんだ。
舌なめずりしてお馬さんを追いかける。
「白虎だ!神の使いがこんなところに!」
「ふん。そうか。砂漠の国デイーロンは白虎信仰が盛んだったな!」
アンちゃんが、目の前の男に言い捨てる。
「オマエがリーダーらしいな?ツッチー、コイツを黙らせて?」
ツッチーがメアリアンさんの肩から飛び出して、
リーダー(仮)の顔を覆った。
「!!!!」
「コレ、苦しいんだよな。けけけ。」
…経験者は語るのだった。
気絶したリーダー(仮)の顔から剥がれるツッチー。
「え?サービスで吹き出物を治してあげた?
や、優しいのね。」
メアリアンさんが撫でてやる。
ベロがチロチロして嬉しそうだ。
それを横目で見ながら、アンちゃんがリーダー(仮)を縛りあげる。
浅黒い肌。黒い髪。多分整った顔立ちというんだろうなあ。
濃い眉に厚みがある唇だ。
25?くらいの歳か。もっと上かな。
マッチョな体に薄い服。ちょっと破れていて。
お好きな方には、たまらない状態だ。
額のサークレットにはデカいアメトリンがついてる。
へえ。レインボーアメトリンじゃないか。
煌めいて虹状に光る。
「この人見たことあるわ。ギガント国に出入りしていたのよ。」
メアリアンさんが男の顔をじっと見る。
「あんな遠い国なのに。外交があったんですか。」
グランディ王国の周りには七つの国があるが、
砂漠の国は大国マナカ国を越えたところにある。もちろんこないだの七カ国会議には入ってない。
「父う、、、いいえ。ギガントの前々王のお気に入りの側妃の1人がそこの出身で。その親族だったと思う。」
ギャアギャアア。
大きな鳥たちがやってきた。
「アンディ。どうする?このままじゃあの鳥たちに
みんな喰われちまうぞ。
ソイツがリーダーか?その男だけ残せばいいか?」
スケさんが言う。カクさんもうなずく。
「えー、そうだなぁ。いくつか見繕って残すか。
メアリアンさん、悪いけどツッチーに頼んでくれ。
ヘビを呼べないか。
後、そいつの身体に張り付いて拘束できないかな?
ツッチーで。」
いくつか見繕うって。焼き鳥買う時みたいだな。
「縄はもしかしたら切られるかもだけど、ツッチーは固いから刃が立たない。すぐ意識が戻ってもおかしくないから。」と続けた。
「やあ、大丈夫かい?」
ネモさんが現れた。白馬のアオに乗ってる。
あれからすぐ引き返してくれたようだ。
「タカやハゲワシたちが遊んであげてるようだけどね、彼ら。連れ去っていいのかな?」
うーん、とアンちゃんが唸る。
事情を聞きたいんですよね。と。
「そこのガンつけてくるやつと、すぐこっちに寝返りそうな、その親父。あと二、三人、、。」
「アンディ様。」
「メアリアンさん?」
「その元気な子供はともかく。その親父は百害あって一利なしですわ。捨て置いて下さいな。」
「なっ!」
「――弱い女を虐める下衆が。」
その怒りはすぐにネモさんに伝わった。
「そうか、遠慮は要らないね?キミたち、この男を連れていっていいよ。
ほう、私にもわかるドス黒いオーラだ。」
「な、何を!私を誰だと!」
「知らないね?ウチの領地に侵入した侵入者さ。
ここの焼け野原もね?先日うちの物になったんだよ。
警備がまだ整ってなくって悪かった。」
その太鼓腹のオヤジは鳥に持ち上げられた。
「ふふふ、鳥達楽しそうだな、久しぶりだからね。」
ネモさんにもキューちゃんと同じものを感じる。
人智を超越しているというか。
アリサさんは日輪が懐にはいる夢でも見たのだろうか。
「では、占い師殿が選んでくれるか。
誰を残すべきか。誰が事情を知ってるか。」
アンちゃんが面白そうに言う。
「ええ、私は過去を見るもの……このひとたちの期待には添えないわ。いいかしら?」
確かに。未来は不安定って言ってたな。
指で指し示す。
「8人もかい?
――!ああそうか!わかった。了解だ。
残りはそうだね、空に還ってもらおうかな。
あ、それとも。白虎の方がいいかな。
君たちの神だものね?
虎男くん、虎子ちゃん、遊んでおあげ。」
残りの8人は蛇で拘束して連れていく。
「そこの眠ってるリーダーの彼もね。ジャンピングスネちゃまはメアリアンさんにお返しして。
さあ、こちらのスネちゃまだ。
噛んでおやり。起きてるんだよな?」
「うわあああっ!」
「大丈夫!一度では死にはしないよ。」
コレで全部で9人か。
「…何故この人達を選んだかわかったわ。
ほぼ女性なのね。」
「そう、レイカさん。かなり酷い目に合ってる人もいたわ。特にあの下衆やろうにね。」
捕虜は後部車両に詰め込まれた。みんな軽くスネちゃまに噛まれて痺れている。
それを暗部の皆さんが見張っている。
9人の内訳はこうだ。
あのリーダー(仮は外れた。ホンモノのリーダーだった)、
目力が強い元気のいい子(メジーでいいかな。)、実直そうなおやじと、ヒョロリとした痩せた若い男性。メガネ。ヒョロメガネでいいか。
あとは20から30くらいの年の女性。5人。
男装してるけとね。五人娘と呼ぶか。
どっかの酒の銘柄にあったよな。
「私達をどうする気よっ!」
「ガルダイン様をはなせっ!」
「女ばかり連れてくなんて!どういう了見!」
あら、このままだと伝説のくっ、殺せ!が聞けるのかしら。
わくわくっ。
陸蒸気はブルーウォーター公国に入った。
駅のホームが青く光っている。
伝説の美獣が待ち構えていた。
「キューちゃん!!」
「あれは!幻の神!白狐さまだ!?」
砂漠の王国デイーロンの民が讃える、最高神がそこにいた。
ええと?白い虎はびゃっこ。
白いきつぬも、ビャッコ。
…ややこしいっちゅーねん。