いつも側にいたから。
「リーリエとやら。身重だそうだな。そこのシンディの子なのか?随分と親密そうであったな。」
王様が静かに問うた。
彼女の手足はヘビで拘束されてる。
かなりきつめに、だ。
「い、いえ。この子は王族の、あ、違います。」
「だろうなあ。いつ私や父がそなたと同衾したか?
良い薬を持っているな?媚薬の他に死の翼が出てきたぞ!」
「なんですって!」
流石にミミ様は真っ青だ。
王族の一員だったのだ。この薬のヤバさは知ってるらしい。
(第67話 夜の訪問者に詳しいことが書かれてるよ。)
アラン様がリーリエさんを蹴り上げようとした。
驚き身動きして転がるリーリエさん。
アンちゃんのナイフが彼女の顔ギリギリのところに刺さった。
「やめよ、2人とも。殺してしまっては詳しい話が聞けないではないか。」
「でも、父上。死の翼を持っている段階でこの女は死刑でしょ。王家乗っ取りの件も併せて3回殺しても、足りないくらいですのに。」
リーリエさんが震えてる。
「あ、アラン様がこんな怖い人だったなんて。
知らなかった!」
アラン様が近づいていく。
「こ、来ないで。」
「随分な言い草だな。そっちが粉をかけてきたんじゃないか?
お優しい我が弟にもこっぴどく振られたんだろう?
王様の御前だ。キチンと座ったらどうだ?」
腰が抜けて立てない彼女を見て、ネモさんが指をならす。
大量の白蛇がやってきてリーリエさんを運んで、柱の1本にもたれかけさせた。
そのまま縫い付けるように巻きついていく。
「お優しいな。ネモ殿は。」
アラン様は笑った。
皮肉かな?皮肉だよね。
もう、おばちゃん冷や冷やっすよ。
白鬼がリーリエさんを冷たい目で見ている。
それに気付いた彼女。
「あ、あんた。私を助けてよ。」
「嫌ですよ。」
うわっ、ハッキリ爽やかに断ったぞ!
ハニトラの時間は終わったんだ。
そこへ静かに近づいてくる、メアリアンさん。
滑らかに滑るような足どりだ。
「私には見える。貴女には三人憑いている。
1人は父親のメリダ公爵。2人めは若くして亡くなった貴女の実母。
もう1人は金髪の男。そう、お腹の子供の父親ね。」
「…え?どういう事?」
リーリエさんから表情が消えた。
「適当な事を、、。」
「まず貴方の父親ね。ゲスだわね。ずっと怒っている。なんで上手くやらないんだ、と。
この国のお妃はこの国のものが、ふさわしいんだ、と。
ーーふーん。ずっとそう吹き込まれてきたのね?
小さいあなたが見えるわよ。
自分が王妃に相応しいと吹き込まれて増長する姿がね。」
それからね、とメアリアンさんはミミ様の方に向き直る。
「貴女もずっと、他所の国からきたルララ王妃様よりも、自分の方がふさわしいと思っていた。
だから小さなリーリエさんにここの王妃になるのです、と吹き込み続けた。これ以上他国の血を入れてはいけませんよ、とね。」
「デタラメよ!!」
「…ワタシは本物なの。ミミ様。
貴女の肩に乗ってる黒いネコ。シャドーというのよね。心配してずっといる。
貴女へのお目こぼしを九尾のキツネに頼んだのは、この子なのよ。」
「私にも見えますよ。黒いネコ。右手の先だけ白いですね。か細く鳴いて、貴女の命ごいをしています。哀れなものだ。」
ネモさんが言う。
まあ、健気…。
アンちゃんがつぶやく。ヒャッハーな人から普通の怖い人までのレベルに戻ってきたようだ。
お猫さま、すごい。
「どうして、シャドーのことを知ってるの。コッソリ飼ってたのに。嫁ぐ直前まで可愛がっていたのよ。」
「貴女がマナカ国に嫁いで苦労されたとは聞いてますし、そこのシャドーも言ってます。
意地悪な侍女がいましたね?
黒い髪の。急死したはずです。
シャドーがやったと言っています。庭の野良猫たちを操って襲わせたと。
ネコひっかき病でなくなりましたよね、その侍女は。
ーーーー貴女の年上の旦那様の、長年の愛人だった女は!」
「そ、そうなの?シャドー。
アナタ私を守ってくれていたの!?ね、ねえ!
ここ、ここなの?ここにいるの?
お願い、姿を見せて!!会いたいのよ!!」
肩に手をやって泣き崩れてるミミ様。
王妃様が、
「猫ひっかき病。聞いたことあるわよ。ね、レイカ。」
「はい。私もありますよ。基礎疾患がある人がなりやすいんですよね。」
そっとミミさんの肩に手を置く、メアリアンさん。
「彼女、シャドーは貴女に最後まで付き添うと。
…貴女が地獄に行くなら。そこまでも、と。」
うわあああ、と慟哭するミミ様。
「貴女本物だわ!占い師様!
そうよ、シャドーは女の子なの!名前からみんな男の子だと思うんだけど。
彼女を、シャドーを私から解放してあげて下さい。地獄行きなんてとんでもないわ…。」
メアリアンさんはにっこりとした。
「動物が飼い主を守るのは当たり前よ。
貴女から離れば天に昇れるでしょう。
シャドー、ミミ様は悔い改められた。もう、大丈夫。」
ぽん!
そこでメアリアンさんが手を打つと、金色の光がミミ様の肩から立ち上った。
それは一瞬、猫の姿を作ると、ミミ様に顔を擦り付けて、消えて行った。
小さな空気のゆらめきを残して。
「シャドーオオオ!!!!!」
ミミさんの号泣。こちらも胸が熱くなる。
ウチのクロタ、ちゃんとエサもらってるかな。
実家のおばあちゃん猫のミッチーは元気だろうか。
猫にここまで愛されて、あなた、ある意味しあわせものだよ。ミミさん。
「うっ。ぐすん。」
ん?誰の泣き声だ?
「健気なネコちゃんだわ…」
…アンちゃんか。