修羅場の予感。
「王妃様。」
私が声をかけたので少し落ち着かれたようだ。
「なに、レイカ。」
「何故、その二人はキューちゃんの怒りから逃れたのでしょうか?
焼き払われても良いのに。」
「…そう言われるとそうね?」
おお、王妃様の怒りが収まってきた。
アンちゃんが肩からチカラをぬく。
「キューちゃん、いるかな?」
エドワード様の声にキューちゃんが姿を現した。
こんな時だけど綺麗だな。キューちゃん。
青い光で室内が明るくなった。
お部屋に合わせて大型ワンコサイズだね。
伸び縮み自在ですごいよ。
ネモさんとエドワード様がなではじめる。
「昨日はありがと、な。子供たち大喜びだったでごわす。」
「キューちゃん、教えてくれるかい?
2人の女の人なんだけど。
…うん、そうか。
アンディ君、ここではキミしか今の彼女達を知らないね?
キミの記憶を読み取って、特定するから触っていいって。」
「まあ♡」
こんな時でも嬉しいんだな。
ぶるるん、と水滴を払うワンチャンみたいに身体をゆすってから、アンちゃんにお手をするキューちゃん。
「え、そっち?私が触られるの?
これはこれで楽しいわ。お手。
アラ、もう終わり?」
そして、キューーンとなく。
ネモさんとエドワード様はキューちゃんに触れて、
うんうんと頷く。
「この2人ですね、確認しました。
まず、ミミ様ですが。
今は毒気がなく逆にメリダ家に利用されていたとか。
確かにご夫君をなくして帰国した。
そこに言い寄ってきたメリダの当主に絆されて、愛人になった。彼もその時男ヤモメだったようですね。
リーリエ姫がまだ2つくらいでご夫人が亡くなったから、女手が欲しかったと言ってる姿が浮かびます。」
すごいな。過去も見渡せるのか。
王妃様が、はた、と。思いあたるわとつぶやいた。
「メリダが再婚しようとしてたのよ。王がそれを止めていたの。確かに19年くらい前ね。時期も会うわ。
厄介だからって認めなかったの。確かに、王家の血筋をひく従姉妹姫ならね。王の許可も必要だし。」
先帝の妹のお子様らしい。王の叔母さまの子だ。
(ちなみに先帝の弟があの、クセがあるリヒャルト様である。
今の王の叔父にあたる。リード様にいらん事言ったり、
隣のギガントのオババを振ったくせに、独身を通したひとだ。)
「うん、そうでごわすか、
ミミ様は自分との間に子供が生まれたら、その子を使って王家と繋がりを持とうする、メリダに嫌気がさしたと。
だけど逃げられなくて、ミミ様がリーリエ様に淑女教育を施すことを強いられたと。」
王妃様の怒りが収まってきた。
「アラ、ずいぶん彼女も可哀想だったのね。」
「メリダ家だって元々は王家の血を引いてるんでしょうに。」
エリーフラワー様がつぶやく。
「ええ、でも、5代前ですよ。その当時の王の三女のココ王女が嫁いでます。4代前のフラン王子が臣下に下ったミール家の方が近いですよ。」
ヴィヴィアンナ様がすらすらという。
流石にお妃教育を優秀な成績で終えられただけの事はある。
「すごいなあ、ヴィーは。私なんかちっとも覚えてないぞ。」
リード様。覚えろ。アンタのご先祖だぞ。
「それで、リーリエさん?彼女も犠牲者?」
「…いえ、彼女はアラン様の後添えに本気でなりたかったようです。
まず、お手つきになってそれから、と。」
言いにくそうに、ネモさんが言う。
「何を言ってるんだ。私たち兄弟は側妃はもたぬのに!
だいたいあのリーリエは私にも色目を使ってきて鬱陶しかったんだ。
流石にオマエ、私の隣にならんで見劣りしない勇気があるのか、と言い捨てたが。」
ええー!リード様容赦ねえ。
そんな一面もあったのか。
「あの頃リードは尖っていたものね。流石にそれ以降は寄ってこなかったわ。」
「ご自分の父親、ミール公爵には愛人が何人もいましたから。王子様たちの潔癖さを信じていなかった。
あの時、エラ妃への襲撃と殺害か、王妃様への襲撃に成功したら、混乱に乗じてアラン様に薬を飲ませてそういう関係に持ち込む、またはそのように見せかけようか、と。言ってる姿が見えますよ。」
「うむ。アラン様、落ち着いてお水をどうぞと言って薬をしこむつもりだったようでごさるな。」
アンちゃんが、は!と吐き捨てた。
「俺らが見張ってるのに。舐められたもんだ。」
「ミミ様は彼女を止めようとしてるって、、
キューちゃんの火がリーリエさんを焼かなかったのは、え、それは?
ホントかい?キューちゃん?」
ネモさんが驚いた顔でエドワード様を見る。
「そのようにキューちゃんは言っておりますな。恐ろしいですな。」
二人で顔をあわせて目を見開いている。
「なんなの?ネモ?」
「ええ、その、実は。」
その時リード様が立ち上がった。
その目は怒りに燃えている。無表情に前方を見つめている。
「私にも伝わってきたよ、ネモ、エドワード。
その女はね、妊婦なんだろ。
キューちゃんは妊婦に優しいんだったね。子供には罪はない。まったくだ。」
えっ。
一同息を飲む。
「親がああだから、リーリエも恋人が沢山いたんだろ。
‥すぐにアラン兄上と添い寝でもして、貴方の子です、というつもりだったんだろうな。
コレはね、王家の乗っとりだよ。
それでも兄上を愛してるならともかく。
彼女、ちっとも愛してないよね。」
そんな杜撰な計画が上手く行くと思っているのか。
「でもアランはそんなに甘くないでしょ、ハニトラに引っかからないわ。」
「王妃様。結果的に毒婦が城に入ってしまったのです。アラン様は基本的に人を信じないお方ですから、良いとして。」
バッサリだぞ、ヴィヴィアンナ様。
「フェミニストの王様が心配ですわ。
先日だって、踊り子に扮したアメリアナの偽物をおそばに置かれていたでしょう。」
エリーフラワー様!その発想はなかった。
「何ですってええ!!すぐお城に帰るわ!」
「私もそこまで読めませんでした。あの女が妊婦で托卵を狙ってたとは。」
ギリギリと歯ぎしりをするアンちゃん。
すぐに二通の手紙を書いた。
「ネモさん、コレをアラン様に。そしてコイツを白鬼に。」
鳩が飛んでいった。護衛?に、タカもついてる。
「なるほど。シンディにハニトラをかけさせるのだな。」
「その通りです。リード様。
何。アイツと一緒に、王都にきた。そのネタだけでも充分ですけどね。」
あー、パティさんだけがとばっちりかあ。
「レイカ、そんな顔しないで。王の子だと主張されると、とても面倒なのよ。」
おお。私が王妃様から嗜められてる。
いつもと逆ではないか。
「あっ、ハイ。王都に行かれるのですね。
行ってらっしゃいませ。」
そんな修羅場見たくない。ここでのんびりと過ごしていたい。
「エリーフラワー様とこちらにいますわ。
ミネルヴァちゃんと一緒に。」