伝説の中を生きていた、その獣が何なのか。深い謎、蒼い翳り。
「今回のことはミール公爵家とメリダ公爵家のしわざだったのか。」
リード様が吐き捨てた。
「確かにあの両家は面倒臭いです。
リード様のお妃候補にも引っ掛からなかったくせに。」
ヴィヴィアンナ様が静かに怒っていた。
「あの両家がしつこかったのもリードが荒れた原因のひとつなの。」
王妃様が静かにいう。
あー。よくあるな。ハニトラかけまくられて、女嫌いになる王子様の話。
「でもまあ、九尾のキューちゃんの怒りに触れてしまいましたからね。
どれだけ一族が残っているでしょうか。
アンディ殿とシンディ君が残ったのも残党狩りでしょう。
アラン様はこの機会にこの二つの家を無くすおつもりです。」
「思い切ったわね。」
「九尾のキューちゃんはマイナスのエネルギーを取り込んで放出するのですが、今回は白鬼君が役に立ちましたよ。」
ネモさんの言葉に反応したのか。
ババーン!
効果音と共に現れた美獣。
近くにいたんだな。
「おお、キューちゃん、久しぶりだなあ。
ご苦労でごわす。」
キューキューとエドワード様に身体をすりつける。
エドワード様が背中をなでる。
「白鬼くんから悪いものを吸い取って放出したんですが、ものすごい勢いで。光が悪意がある人間を貫きました。蒼い光が四方八方に広がり王宮の一部と外を焼き払いました。」
「そうなのか?白鬼なんかのを吸い込んで気分が悪くないか?残ってたらお腹壊すよ、ぺっ、としなさい、
ぺっ、と。」
リード様。失礼ですが、もっともです。
おや、リード様も撫でている。
背中を酔っ払いを介抱するみたいに。
ふーん、勝手に撫ででも怒らないんだ。
あ、センザンコウを助けたからだね!
…ところで塩分と油分大丈夫ですか?
キューちゃんで拭いてるんじゃなかろうな。
「白鬼くんは善人ではないですが、一度キューちゃんがマーキングした人間は、彼の粛清から除外されるようです。」
なるほど。
「彼の善悪の判断の基準はこちらではどうにもなりませんから。
――ただ、フリードさんは焼かれました。」
「なんじゃと!アイツは裏切り者だったのかえ!
私が名前を付けてやったくらい重用しておったのに!」
「拙者の後任でござったな!」
あの後聞き込みが行われてフリードは、借金まみれで、潜入した巫女あがりの侍女の1人といい仲になっていたそうだ。
「ハニトラにかかったのか?あの、フリードが。
借金も仕込まれたのかえ?」
「わかりませんが、偽アメリアナさんを手引きしたのは彼らしいです。
可哀想なのはジークさんで。相方だからと痛くない腹をさぐられて。」
蒼い光に焼かれなかったから疑いは晴れましたけどね、とネモさんは続けた。
「そうだわ、エラ様はご無事なの?」
「ヴィヴィアンナ様。エラ様はそこには居られませんでしたが、侍女が1人目の前で光に貫かれて消えました。
それでショックを受けておられます。
ミドリナさんが付き添われてるはずです。」
え、それって?
「なんと!エラ様の近くにまで賊がいたのか?」
「いいえ、リード様。
見知らぬ侍女が行方不明のアメリアナ様が見つかりました、お姉さまに会いたいそうです、と呼びに来たとか。
それで少年忍者たちが怪しがって押しとどめていたら、光が差し込んできたそうなんです。
少年たちの身体を何事もなくすり抜けて、侍女だけが消えたとか。」
それは、怖かったろう。それに少年達が無事で良かったよ。
「まあ、ヤンボーたち。褒めてあげなくっちゃ。」
「邪心がない少年達ですから。かえって体調がよくなった、と。」
キューちゃんの目が妖しく煌めく。
「キューちゃああん、偉かったなあっ!」
エドワード様が抱きついて撫でまわす。
キュー、キュッキュキュー!
台所洗剤を使うCMの効果音のような声をだして、
喜んで尻尾を振り回すキューちゃん。
「ホントに可愛くて凄いですわああー!」
エリーフラワー様も抱きつく。
飼い主?ご夫婦に褒められて御満悦だ。
「彼は荒神なのかも知らないけど、彼等に任せておけば安心ね。」
王妃様が微笑む。
「可愛いですね、本当に綺麗な子だわ。」
微笑むヴィヴィアンナ様。
おやこちらに寄ってくる。
私とヴィヴィアンナ様の前にきて座りこむ。
コレは撫でていいよ、の合図では無かろうか。
ヴィヴィアンナ様と目を合わせて撫でまわす。
すげえ。至福っす。
たまらんなぁ。ヨーシヨシヨシ。
この手触り。
…
気持ちんよかー、おーいきてごらん。
往年の懐かCMが蘇る。
「おほほ!レイカ。それはバスクリンね!」
「いいえ、王妃様、パスタイムです。
…また口から出てましたか?」
ブルーウォーター公国の平和な夜はふけていった。
タイトルの元ネタは千年女王の歌詞です。
えいえーんの、いのち、もちながらー、あなたはなぜー。




