手当たり次第も楽しいもので 6
俺だよ、レザードだよぅ。
と、チ○デーさんのように颯爽登場っ。
電脳美少年ッ!
「なにやっとるん?」
ヨーグルトを食しながら胡乱な目を向けてくるパーティ内最強剣士シオン。
しかし今日も灰色いなぁ。
仕事疲れの目に優しいやつめ。
「いやね、大昔のGガンダムのテープを発掘しちゃってね、思わず見ちゃったわけさ」
流派東方不敗とか作っちゃおうとか思うわけよ、どうよ?
「あー、オリジナル流派ねぇ。 結構面倒だけどいいんかい?」
説明しようっ。 自分流派とはっ(中略)それぞれの流派属性、連撃・遠距離・昏倒・痛感・分身etcを単体で技能限界まで取得し(中略)最近ハマッてるのがタコとかイカの口周り肉、いわゆるトンビでな(中略)金がっ・・・・ほしいっ・・・(全略)。
「おいぃ、後半で欲望ダダ漏れじゃねーか」
長い、三行で。
「しかたないなぁ、レザ太くんは・・・」
ベースの流派に追加したい技を単体で覚えて技能限界まで鍛える!
ベース流派も技能限界まで鍛える!
流派合成を選択っ。
以上をもって、貴様流派の完成だ、わかったかこの蛆虫野郎っ、ぺっ。
「とても良くわかったが、なぜそこまで罵倒されるんだ俺」
ちなみに合成した新流派のレベルってどうなるん?
「もちろん1からスタートさ、ブラザー。 と、言いたいところだけど、別段そんなことはなかったぜ」
鬼畜運営にも一寸程の温情があったと見える、限界レベルでFAさ。
「へー。 んじゃ、今格闘流派限界の俺が、これに追加でなにか一個付け加えたいって時には」
「うい、まず単体で覚えて鍛えあげて、くっつけれ」
「・・・冷静に今考えた。 慌てる必要は感じないな、これ」
そう、まだこのゲームは、βテストである。
つまりは、来るべき正式版、及びアップデートで色々追加されること必至・・・っ。
「まー、そーだねー。 既存流派にも追加、とかはあると思うけど、現状の選択肢は技の多い流派覚えとけー、が正解やね」
まぁ、ワチキの流派は技すっくないんだけどなっ!
厨二的剣術技、鎌鼬とかも撃てねーよちくしょう。
悔しいから単体で覚えてくっつけちまったぜ!
流派レベルが本来の技能限界まで下がるか怖かったがな、なんともなかったぜ!
天才バンザイ・・・万歳っ
「・・・無茶するなぁ」
二桁まで上げてるのが桁落ちする危険性あったんじゃねーか、それ。
そんなに欲しかったのかカマイタチ。
「欲しかった・・・・っ 欲しかったんだっ・・・・・・・・!」
「何も泣かずとも・・・」
「でもな? マスクかぶって全力で撃つとするじゃん? 射程が愉快なんだぜ?」
ニヤリ、とシオン。
「ほほぅ、どのくらい行くのだね?」
興味津々にレザード。
50m位行くんかな?
「スタミナ切れて動けなくなるのを覚悟すると、最大で720m」
「ちょ。 この変態! 大変態! 変態大人!」
「でも威力は据え置き、36回流派判定の重ねがけして伸びるの距離のみ。 どうだこのロマン」
役に立たないのは分かっている、だが、ワチキは胸を張るぜ!
「ごめん、使いどころが限定的すぎて言葉がない」
いいじゃん、剣の届くところで斬ってれば。
長距離は魔法で何とかしようぜ、な?
「ははは、断固拒否する」
死なないためにクソ我慢して防御だけは取ってやったが、そうでもなければ魔法なんぞ。
「あー、なんかキャラ作る時言ってたねぇ」
しかしそういうこだわりは必要だ・・・真剣に遊ぶためには。
「ワチキのロマンが枯れぬ限りは、大まかに剣だけでいくさ~」
そう言って、シオンは日課の訓練場へと向かっていった。
「あー、満喫してるなーシオン」
俺も付き合う、と、レザードがシオンの背を追う。
「楽しまないで何がゲームさ」
「全くその通りだ」
さぁ始まりました襲撃イベント第3フェーズ。
その名もズバリ、反撃。
本拠地の守備力を固め、念のための守備要員を残しての逆侵攻作戦開始である。
「残留組がほぼクラフター達なのが、なんか引っかかるといえば引っかかる」
ワチキ達が戻ってきたら、今度は町が空飛んでてもおかしくないんじゃなかろうか?
「平気でしょ、せいぜい壁が厚くなるとかで済むんじゃない?」
お気楽に答えるのは、命名<十文字>槍をクルクルと回して準備運動中のレザード。
サードフット二世号なんて無かった。
「いや、きっと連中は、やらかす。 自分も残ってたら存分にやらかした・・・・」
周囲の仲間とセット扱いを受けたメリウは、残念ながら建築班から反撃班への異動となってガッカリ。
この火の着いた建築魂をどうすれば・・・!?
「いや、でも前回の被害で戦えて動けるパーティが実質5つしかありませんし・・・四の五の言わんと戦ってチネ」
途中で説得に飽き、投げやりに言い放つジオ。
今回はクエストの性質上、他パーティとの絡みがないパーティ単位の潜入破壊工作的ミッションになるため、癒し魂が乾いてきているのだ・・・地味に怪我しないし、ウチのメンツ。
いっそ、それなら私が適当なのをムシって・・・
「坊さんや、何故にワタクシメをガン見しているのでしょう近づくな切断すんぞこの癒しマニア」
ジオの視線に身の危険を感じて、メリウが思わず初抜刀。
命名<鈍>、触れて斬れれば良い刀。
一応凡人なりに技能限界までは鍛えてるんだぜっ。
天井低いので現在レベル6程だがなっ。
「充分人間限界じゃないですか・・・チッ、武器持ちとは若干相性が悪いか・・・」
もはや悪人のセリフを吐き、拍手一つ。
「さて、恒例の茶番はここまでとして、いい加減行きましょう」
鍵穴からの毒針トラップ!
解除に失敗したジオは華麗に回避。
解除の様子を見学していたメリウの額に針がブッスリ。
「ふぅ、鉢金がなければ即死だった・・・」
恒例の鉢金を指でトン、トン、と。
「またそれかよ、ってか、なんでクリーンヒットするのが何時も頭なんだよメリウ」
なんで生きてんだろうこいつ、と、友人を気味悪く思うレザード。
結局最後まで生き残るの、こいつじゃね?
「ギャグキャラだから死なないんじゃない? 致命失敗の時の熊も瀕死で生き残ってたし」
シオンももはや気にするリソースがもったいないとばかりの言いようである。
クエスト目標地点まで何事も無くたどり着いた<いつものメンツ>は、隠された洞窟を発見。
人工的な匂いのする洞窟を進むと、とたんに整い始める床や壁、そして現れる胡散臭気な扉。
現地につく途中の森にて2m程の枯れ枝を入手していたジオが、まず床をチェック。
異常なし。
引き続き扉をチェック、罠発見。
ってか、なんでこの坊さんシーフ的スキルもってるん?
「嗜みに決まってるじゃないですか、嫌ですねぇ」
そんな嗜みが嫌だよ、という周囲の視線はジオの面の皮に弾かれて意味を成さない。
そして罠解除にミスり、メリウが死にかけるハメになったという次第である。
「罠発動しちゃったし、一応武器構えておこうかね」
シオンの指示に従いそれぞれの得物を構える皆。
「では、行きますよ・・・先制はお願いしますねレザード。 3 2 1 GO!」
カウントダウン終了と共に蹴り開けられる扉、続く先には嫌に明るい玄室。
蠢く二足歩行の爬虫類。
既に武器を構えるそれらに、まず襲いかかったのは言うまでもなく。
星型の金属片。
爆散帰投型魔法手裏剣、命名<流星>。
扉の一番近くにいた重装備のリザードマンに着弾、数瞬後体内からの大爆発に木っ端微塵。
その臓物破片混じりの爆発に突っ込むように、シオン、レザード、メリウが突貫、それぞれの相手を探す。
シオンは真っすぐ前に突き進み、気配感知を頼りに愛剣を両手持ちし、フルスイング。
激しい火花を散らし、鉄の弾ける音が部屋に充満する。
初太刀はどうやら防がれたようだ。
<流星>の爆発で起こった煙が晴れる。
クリアになった視界の先には、通常のリザードマンより若干体格の小柄な、盾と剣で武装した初見の個体がいた。
個体名付き、俗にいうネームドモンスター、であった。
「うへぇ、地味に裏口掘り当てちゃったって感じの雰囲気か」
クエスト欄に表記されていた敵のボスキャラ名を眼前に、シオンがなんとも言えない困った顔をする。
正規ルートでは、目標地点でしばし待つと敵がやってくるのでそれを待ち伏せてチョメチョメしちゃう、というクエストであったはずなのだが。
「坊さんが隠し洞窟発見しちゃったし、潜ってみようー、おー! って即決だったしなー」
魔法使いタイプっぽいローブを着たリザードマンを斬り捨てて(魔法使いタイプなせいか、鱗が柔らかめであった)メリウが残敵を探しつつ回想し、
「サクっと最深部に来ちゃうってのもおかしいし、敵のほうも二面作戦で、PCが待ち伏せ奇襲したところの背後をつかれる、とかの展開だったんじゃね?」
いやらしい作りだねぇ、と解析するレザード。
手にした槍にはトカゲの早贄。
素手っぽいところを見るとリザードマンの格闘家だったのだろうか、流石に槍より腕は長くなかったようだ。
「ひとまずこの扉、魔法でロックしちゃいますなー。 こっちの方に追撃来ても面倒ですし」
一人扉の外から全景を見ていたジオが悠然と玄室内に入り、サクっと扉を施錠。
一匹残ったネームドモンスターを観察する。
個体名<紅の盾>。
町の水源を司る山の頂、その傍らの洞窟を拠点とするリザードマン一族の頂点。
名前のとおり真紅の盾を持ち、難攻不落の防御力を誇る。
度々町に侵攻しては被害を与えて去っていくことを繰り返している。
「と、クエスト情報欄に記載されていますねー。 ボスですよ! ボスボス!」
可愛らしく巨体がはしゃいだ。
ぶりっ子巌。
「酷い精神攻撃を受けた。 謝罪と賠償を請求する」
守りを固めて動かない<紅の盾>とタイマン状態のシオンが吐き捨てる。
隙をつかれて攻撃とかされてたら洒落にならん。
「実はジオはこいつらのスパイだったんだ!」
な、なんだってー!(ここまでセット)
メリウは早々に見物モード。
正直、対単体戦で灰色の仮面騎士化したシオンが負ける絵が想像できないせいでもある。
万が一、に備えて回復魔法の準備はしておこう、程度の気分になっている。
「ありそうで怖い、とでも言やいいのか?」
トカゲから槍を引きぬいて周囲を警戒するレザード。
玄室の奥に扉が見えるが、敵影などは無し。
「くっくっく、バレてしまってはちょーがな・・・・噛んでしまいました」
即興は苦手ですなぁ、と、ジオ。
「んじゃ、シオン VS <紅の盾>、はっじまっるよー」
完全に物見遊山モードのメリウが、勝負開始、と、呟いた。
<灰騎士権能発動>
ボスキャラ相手に出し惜しみなし、シオンは敵の分厚い盾ごと真正面から砕く構えである。
対する<紅の盾>は、微動だにせず。
破れるものなら破って見せよこの守り、と言った風情である。
破れないなら、全力攻撃でスタミナの尽きた後、左手に持った炎をまとう魔剣が襲いかかるという寸法だろう。
仮にカウンター狙いであるなら、初撃で既に取っているはずであるだろうし・・・
実にシンプル。
攻め切れれば、シオンの勝ちである。
「嫌いじゃないぜこういうの」
シオンは剣を両手持ち、体を捻るように剣先を後方へ。
キリキリ、と、引き絞られた弓の如く硬直した力が、瞬間、解き放たれる。
<流派技能判定:決定成功決定成功決定成功・・・・・・・>
システムログが一面<決定成功>で埋め尽くされる。
その流派技能試行回数、実に40回。
スタミナを使い果たし、HPすら使用した限界超の連続攻撃が<紅の盾>に襲いかかる。
衝突の轟音が一気に響いたためであろうか、最初の数撃分以外の音がスキップされた。
無音。
音の無くなった一瞬だけの世界で、魔法の装備であろう真紅の盾が、線香花火の様に、淡く散った。
無論、盾だけがなくなる、などという事はない。
何故なら、装備の破壊値と、装備の防御力は、イコールではないのだ。
盾一枚持って機關銃銃撃の前に立ったらどうなるの?
無論答えは。
「ふぅーーーーっ。 防御に盾だけ使ってくれて、もうけもんだったな」
シオンが荒く息を吐き出した。
残ったものは、早速左手にガメた一振りの赤い魔剣、ただそれだけであった。
しかしてクエストクリア・・・・と見せかけたその時。
跡形もなくなったはずの<紅の盾>が、いきなり、リポップする。
「「「「ええーーーー!?」」」」
なんぞこれー、ってかクリアと思ってシオン回復してねーよ!
ジオ、メリウ、急いで急いでー。
うおおー、スタミナ回復魔法なんて持ってねぇー、HPだけで何とか持ちこたえれー。
まず、服を脱ぎます。
大混乱の<いつものメンツ>。
そんな連中を尻目に、盾だけ無くなった<紅の盾>(つまりは<紅の>かいな?)が、口を開く。
<「我が守りを打ち砕くとは 見事なり人の子よ ・・・・」>
なんか、偉そうにしゃべりだしたぞ・・・ヒソヒソ・・・
面倒なんで内容三行で。
住居狭くなったんで洞窟拡張したら変な場所掘り当ててヤバい物が溢れそうになったよ!
オラたちこんなアブねぇ所ヤダヤダー、仕方ないから麓の人間の町で我慢するかー!
襲撃も失敗して群れの個体数も少なくなったし、滅ぼされる前にもう逃げるわー!
「・・・殺そか、これ」
イベント会話中に既に全快状態になったシオンが、端的な感想を述べる。
「落ち着きなされ、レザードとメリウがすでに試しまし・・・試して居続けていますが、攻撃がすり抜けます。 完全イベント進行です本当にありがとうございました」
混乱から脱してシオンに回復魔法をかけ終わったジオが、未だに何かを言い募っている<紅の>
と、それに不毛な攻撃を繰り返している二人に視線を送った。
「イリュージョン! 真っ向唐竹割りー あれー、キレてなーい」
「ここをこうして、耳から手が生えて・・・、はい! ウーパールーパー」
<楽しそうね君ら>
「「「「そちらも楽しそうですね、GMさん」」」」
<・・・・ナ、ナンオコトデショウ>
((((おい、適当ほざいたらマジだった件について・・・完成度の高いAIとかじゃねーのかよ、チッ なに適当にシステム乗っ取ってピーピングしてんだよ・・・))))
<連続クエストフェーズ3 クリア フェーズ4に移ります>
「「「「え、続くのこれ?」」」」
次回、連続クエスト最終回にしてβテスト最終日。
俺達は登り始めたばかりだぜ・・・この長いネトゲ坂をよ・・・
とか適当に打ち切り最終回っぽくしつつ、本日はここまで。
報酬分配とかはまた後日ねー、お疲れ様でしたっ。