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手当たり次第も楽しいもので 4

振り下ろすピッケルの先端が鉄混じりの岩壁に喰い込み火花を上げる。

鈍く高い音という訳の分からない振動が体に響く。


「本日の集合待ちは採掘場からお送りいたします、まる」

足元に転がる砕石から鉄鉱石等の金属を選り抜きつつ、メリウが独りごちた。


生産系に興味を持ったのが自分だけだったので、現在訓練所で修行中のシオンや辻ヒール中のジオとは別行動である。(ちなみにレザードは絶賛残業中、超頑張れ。)

そしてなにより、古今のネットゲームで採掘といえば。


筋力鍛錬、で、ある。

力こそパワー。

現状筋力低めで攻撃時の追加ダメージやダメージを受けたときの自前装甲点、通称肉の鎧も薄めであるため、どうせなら一石で二兎を得てしまおうという作戦であった。

未だ筋力上昇は成っていないが。


「非力な坊やとはもう言わせない・・・!」

誰にも言われてないがなー、とセルフツッコミしつつ、再び採掘作業に戻る。

なんだかんだで一時間近く同じようなことをしているので、ぶっちゃけ飽きてきている。

揃った鉄などの資材は御世辞にも多くはない。

欲を言えば倍欲しい。

だが、そろそろいい時間である。


「しゃーない、帰ろう。 そしてなにか作ろう」

でももう致命フラグは絶対に立てないぞぅ。

意気込み町に戻るべく振り返ろうとすると!


<重量オーバーです 重量オーバーです 重量オーバーです 大切なので三度言いました>


時々フランクじゃね? システムさんってば。




地味に訓練を続けていたシオンが、ついに吹っ切れた。

訓練所の周囲に誰もいない事を確認すると、キョキョキョキョキョー、と奇声をあげ灰色の仮面をかぶり魔法の片手半剣(命名<虚龍>)を握り締め、目の前の巻藁に対し今まで練り上げた全力をブチかます。


<灰騎士権能発動>


「ヒャーッハァ、もう我慢できねぇー! このクソ巻藁がァー、さっさとスキル経験よこしやがれェェェーーぃ!」


ずっばぁーーーーーーーーーーーーーーーー。

音が連続しすぎて既に単音のようになった切断音を響かせ、巻藁オブジェクトが吹き飛んだ。

破壊値あったんだ・・・と、一瞬だけ冷静になりながら、自身の放った連撃の威力に満足する。

普通の人間型PCだったら17人前後は死ぬ総計ダメージであった。


「あー、すっきりした・・・あ、でもこれどうしよ。 ほっとけば元に戻るよな・・・・?」


即時復活とかするのかな、と見ていた巻藁の残骸が一向に元に戻らない。

あっれやっベェ、やっちまったか?

シオンが内心冷や汗をかきはじめたその瞬間。

ピコン! と甲高い音をさせて特殊メッセージが表示される。

うおわあ、と焦ったシオンの中の人は、危うく椅子から転げ落ちそうになった。


「なんじゃこりゃぁ・・・」


<最大ダメージ記録更新:称号 破壊者 を手に入れました>


表示されたのは無味乾燥なシステムメッセージ。

そして、見覚えのない<破壊者>ロゴがシオンの頭上に現れ、燦然と輝きを放っていた。


「えーっと、落ち着けわちき、冷静になってひとまず目立つこれを非表示に・・・非表示に・・・」


※ βテスト現在、当ゲームに称号非表示はございません。 実装をお待ちください。




本日のイキロ活動は癒し手が不足しております、どなたかウェルカム。

むしろウチ一人じゃ死んじゃう、死んじゃう。


「い、いつもありがとう・・・」

いえいえ良いのですよ、ですが応急処置くらいは覚えましょうね?


「薬も切れてもう駄目かと思ったよ・・・・」

貴方は準備して行ったのですね、いいのですよ、そういう時のための私たちボランティアです。


「ちっ、回復これだけかよ! もっと良い魔法覚えてきやがれ糞坊主」

ははは、元気がいいですね。 何か良いことでもあったのですか? 


「ちょ、おま、バ、やめろよ・・・! この人達のおかげでどれだけ助かってんのか知らねーのか」

お気になさらず。 っと、貴方はこの間の。 相変わらずギリギリのセンで戦ってるんですな。


「おーいジオさんー、待たせてすまない癒し組増員到着~」

おお、助かりました。 流石にそろそろMP無くなってHP削ってましたんで。


ちなみにジオの現HPは1/3程度になっている、有り体に言うと瀕死であった。


「!? あんたなんでそこまでして・・・」

先ほどジオを糞坊主と呼んだPCが信じられないものを見たふうに驚愕し。


「自分を癒すのも好物ですぞ、ウチ」


その回答に、絶句した。




魔物の侵攻始まる。

町の水源たる某山頂、その洞窟に巣食ったリザードマン達が、周囲の森のオーク等すら組織化して波状攻撃を開始。

冒険者達は自分の本拠を守るために武器を取った・・・。


イベント的には町の防衛戦である。

しかもβテスト期間最後のイベントにして連続クエストであった。

その第一弾、侵攻、が、まさに今日、開始。




最速で突き立ったのは小柄な男の持つ、くろがねの槍。

ダッシュジャンプからの急降下襲撃。

こともあろうか、縦列に並んでいた二体のリザードマンを串刺しにしても止まらず。

巨大なリザードマンの体躯が、大地に縫い付けられた。


「前回は攻撃しっぱなしで居たのが敗因だったよな」


いうなり小柄な男・・・レザードは、足蹴にした状態のリザードマン達の体を蹴り、その反動で後方に跳躍。

助走なしでも8メートルを超えるそれは、生き汚くもがいているリザードマン達の手足を避けるとともに、レザードの新兵器を使用する間合いの確保となる。


「逝けぃ!」


敵と槍とを地面に縫いつけたまま無手だったレザードの手から、星型の刃物が射出された。

魔力を帯びたそれは、リザードマンの体に突き刺さるとエグく体内に侵入。

ビクン、ビクン、と時差を以て二匹が反応したのを見ると、貫通したようだ。


「おおー、流石+2手裏剣・・・・」

あまりな威力に、スゲー、と単純な感動をしていたメリウのセリフは、


ボォォォン・・・・!


「「「爆発したァァァァ!?」」」


皆の驚愕に塗りつぶされた。




その後も数戦の撃退戦を繰り広げるも。

無傷、圧勝。

強いて言うなら、レザードの槍が手裏剣の爆発に巻き込まれてお亡くなりになった。


「おおぅ、レザードさんのサードフット(仮称)が木っ端微塵にっ・・・なんという・・・なんという・・・」


卑猥なことを言い始めたメリウを無言で蹴り飛ばすレザード。


額に突き刺さった槍のような蹴りがメリウをのけぞらせたが・・・


「自作の鉢金がなければ即死だった・・・」

トン、トン、と自身の額を指差し笑うメリウ。

最悪首千切れるから、良い子のみんなはヘルメットしてても電車とかで試しちゃ駄目だぞ?


チッ、チッ、チッ、と、響く舌打ち・・・他全員ですか、そうですか。


「結局新装備のお披露目は真っ先に美味しいところ持って行かれましたね」

ジオがさして悔しくもなさそうに腕を組む。

その腕に輝く魔法の小手は、攻撃的なデザイン。

飛び道具内包型の防具であった。


「最後の美味しいところを持っていった坊さんがこう申しております」

宙に浮かびつつ言うメリウ。

今宵は高空からの熱線攻撃という安全圏射撃で済ました魔法使いっぽい戦い方をしてみた。

あ、+2刀使わなかった・・・ドンマイ。


「わちきはちとブルーですがな」

最近は数体一太刀で持っていくのが普通なので驚かれなくなった、頭上に<破壊者>とついたシオンが、愛剣の汚れをぬぐいながらため息ひとつ。


「で、何やらかしたの<破壊者>?」

ああ、やっぱり聞いてくるよね、これ・・・


「スキル上げに暴走して壁でも壊したの<破壊者>?」

当たらねども遠からず・・・


「<破壊者>って平仮名じゃなくてよかったですね」

はかいしゃ、と申したか。

やぁ、はかいはかい。


「ゆかいゆかいとでも言いてぇのか・・・はぁ・・・」

セルフツッコミにも疲れて座り込むシオン。


「称号って、結局晒し者的なものだけなん? なにかプラス要素とか無いのかい?」

レザードが頭を切り替えての質問モード。

ひとまずそれは聞いとかないとねぇ。


「あー、えーっと、消せないのがショックすぎてそこら見てなかったわ・・・!」

シオンがオプション欄などを見回し出す。


「驚愕の事実が明らかに! 詳細は次回!」

煽りながらもwiki等を調べるメリウ。

ジオも現在参照してる模様。


「・・・いや、変に引かねーから、この話」

灰色仮面は引いたけどなー


「で、結局なんかあったんだね?」

レザードがチェック。


「うい、書いてあった。 効果は・・・武器ダメージ、倍」


「外道! この外道! おめでとう! ド外道!」


「畜生! この畜生! おめでとう! ド畜生!」


「続きませんからね。 結構な人数が獲得してるみたいですけど、武器が木の枝のようにペキペキへし折れるからって、使えない子扱いうけてますねぇ」

まだ魔法の武器って出回ってないんですかねぇ、おかしいなぁ、記述古いんじゃ・・・、と悩み顔のジオ。


「で、どうやってそれ手に入れたん・・・? え、巻藁あれ壊れんの? うへぇ、どうあがいても自分じゃそのダメージは出せねぇ・・・」

あわよくば、と思っていた近接系が事情を聞いて肩を落とす。


「そーだわなー、出せる限りの連続攻撃出してあれだったし、魔法とかにも負けないダメージだとは思う」

伝説魔法メテオ、とかでもありゃ話は又違うんだろうけど、とシオン。


「ゲームが違うって・・・メテオ・・・隕石・・・! レザード、ジオ、街に戻ったら訓練所行かないか!」

シオンのつぶやきに反応、このときメリウに電流走る・・・!


「を、なにか思いついたん? ・・・・あ」

シオンが宙に浮くメリウを見て、その可能性に、気がついた。


「そういう事か・・・今日は冴えてるじゃねーの、メリウ」


「ふへへ、流石シオン。 気づいたか・・・このゲームの物理に・・・」


「「???」」

レザードとジオは、首を傾げるばかりであった。


そして。


<最大ダメージ記録更新:称号 破壊者 を手に入れました>

<最大ダメージ記録更新:称号 破壊者 を手に入れました>

<最大ダメージ記録更新:称号 破壊者 を手に入れました>


破壊者パーティが爆誕しましたとさ、お疲れさまでした。


え、方法?

それは・・・・


「このゲーム、高所からの着地ダメージが存在する。 普通ならレザードのジャンプ攻撃なんかも、自分に着地ダメージ返ってくる・・・筈なのだが」

言葉を切ってレザードに視線を送るメリウ。


「そんなモン受けたことないなぁ・・・」

レザードが首を傾げる。


「そう、つまりは、だ。 ジャンプ攻撃とは、つまり落下ダメージを相手に全部渡してしまう攻撃、なんだ。 と、いうことは?」

腕を組んで考え込んでいるジオに、振ってみる。


「・・・とんでもない高所からの落下攻撃が、当たるならば、こちらは無傷で、当たった相手は酷い全ダメージを受ける」


「正解。 つまり、これからやろうとしていることは・・・・」

最後に、暇そうにしているシオンに振ってみる。


「飛行魔法でレザードとジオを標的の真上に持って行って・・・落とすわけだな」

ビンゴ。

ついでに最後、自分は飛行魔法を切っちゃえば自由落下開始だし。


「風とかの影響がなくてよかったねー、下手したら仲間を落下死させるしね」

口の片端だけをぐぐぐ、と上げて笑うメリウに、嫌な予感しかしないレザードとジオ。


「じゃ、ま、他の人が来る前にサクっとやっちゃおうか。 二人とも、近う寄れ・・・」

ククク、殺しはせん、殺しはな・・・


後日、自分で落ちたメリウ含めた彼らは語る。

自由落下600m超えって存外に怖い、と。


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