最終クエストも楽しいもので 6
散れ、と、誰かが叫んだ気がした。
その叫びの前に動いていなかったものは、軒並み巨人王の右拳で飛び散るハメになっていたが。
なんという火力。
自分がスペランカーにでもなった心地であった。
実に。
実に・・・・。
「「「「たぁのしぃー」」」」
PC群の別箇所に散らばっていながらも。
いつものメンツは。
そんな言葉を、ハモっていた。
脳みそからイケない汁が、ドバドバー♪
連射性の高くない巨人王の・・・遠当て? をかわしつつ間合いを詰めるレザードが、口元に浮かんでくる笑みを噛み殺し切れずに大笑い。
「はーっはっはぁ! こういうの! 待ってた!」
ブン、と、30体程の<分身>を引き連れて、レザードの<天使外装>がひた走る。
間合いはまだ遠く。
しかしその遠く、も、数秒後には近く、で。
更に数秒後は、通り過ぎた、だ。
つまり。
投げるなら、今。
瞬間的に<流星>が唸って飛んだ。
若干足を緩め、着弾を待つまでの数瞬に足のバネを溜め。
同時、激しい爆発音を響かせて、巨人王が<流星>の爆破に包まれた。
<グアッ クオオオッ>
サクっと死には、してくれないらしい。
まぁ、これで終わってたら。
「きっと俺だけでなく・・・連中が絶対、暴れる」
まだ晴れぬ<流星>の爆風、その中心に向けて。
レザードは足のバネを開放し、一足飛びで<悪魔喰い十文字>を、突き立てた。
シオンは突き立てた槍を手放し、勢いのまま巨人王の背後へと走り去るレザードを見送った。
奴に、続く。
<天使外装>の標準機能を使って走るように滑空しながら<雷神剣>を両手で握り締める。
総合ダメージでは<重剣>には及ばない。
速度では<速剣>に、距離では<遠剣>に及ばない。
しかし。
一撃の威力としてならば。
最後に完成したこの秘奥義であるコレに、勝るもの無しと自負している。
メリウや侍組サブリーダーの大好きなエロゲー風に言うならば。
「我はこの一刀に賭ける修羅」
・・・と、でも言うべきか。
シオンは眼前に迫った巨人王に向けて、渾身極まりない一発を、ブチかました。
「< 唯 剣 >」
ただ一振り。
剣の軌道の途中にある異物を切り裂いて、幾分か押し戻されるような手応えもあったが振り抜いた。
<オオオオオオオォォ!?>
上がる巨人王の悲痛な声。
ついでのように<唯剣>に吹き飛ばされた<流星>の爆煙。
腹部に槍の痕を残し、脇腹から胸へと走る切り傷を刻まれた巨人王が、天の神に届けとばかりの大絶叫。
「まぁ、終わらねぇわなぁ。 だいぶ厚い結界だわアレ」
ぺろっと舌を出して、痛みに我を忘れた感の巨人王の横を「駆け」抜け、レザードが走り抜けた方向とは左右逆に間合いを離す。
ちらりと横を見てみれば、Uターンしてきたレザードがこちらに向けてサムズアップ。
外装越しにも、ニヤリ笑ってるのが見えた気がした。
なんとも派手ですねぇ、ウチの鉄砲玉どもは。
ジオはため息と共に、即死しなかったPC達の回復を終えていた。
先の左拳で後衛回復組にも甚大な被害が出ていた。
「単純威力で結界が抜かれるとは。 回避しなければどうにもならず、ですねぇ」
瞬間移動のみで回避移動する、位の割り切りが必要かもしれない、いや必要だ。
現に左拳に動けなかった連中は。
動かなく、なった。
「やれやれ、いつもなら見渡すかぎりの癒し放題に大喜びなんですがねぇ」
正直、事態は無駄を許さぬ状況である。
ジオは舌打ちしたい衝動にかられる。
さっき死んだ連中を生き返らせても、また死ぬ確率が高く。
その隙に生き残った「戦力」が害されたら、瓦解するしかなくなる。
仕方ない。
切り捨てろ。
「・・・ふぅ、オレのヌルいロールプレイよ、さらば、かな」
コキッと首を鳴らして、ジオが長らく大事にしていたキャラを捨てようとした、その時。
周囲から集まる<天使外装>の集団。
<塔>辻ヒール同好会のメンツが、集結していた。
「「「「「言ってみたかったんですよ・・・ここは任せて先にいけ!」」」」」
ってか、いつもジオさん狂ったように癒すから手持ち無沙汰だったんだゼェ、と。
ジオが口を開くより早く、彼らは四方に散る。
行うは、<蘇生>。
恐るべき練度の回復者達が、いま鍛え上げたスキルを存分に振るう。
その頼もしき同志たちの姿に、口をようやく開けたジオが一言。
「・・・あー、うん。 行ってきますわ、ウチ」
あるときは生まれ表の運のなさに嘆く侍。
またある時はスライムになって外道の限りを尽くすゲス。(外道スライムの略)
しかしてその実体は‥・・。
「<天使外装>はPCの能力を酷い倍率で上げる」
外装に包まれていないメリウが、呟いた。
初激をしのいですぐに、<天使外装>を解いたのだ。
それは、何故か。
「ならば、<天使外装>を使う前のPCが強ければ強いほど、それは大人気ないことになる訳で」
アタリマエのことを口にして確認しながら。
当然のようにメリウは、叫んだ。
「<変身>! そして<右曲りのダンディ>!」
人間以外の何かになる姿を覆い隠すように展開される<天使外装>。
その色形は、展開した主に沿ったデザインになるようで。
ステータス確認を終え、メリウは薄く笑った。
「計算、通り」
黒を基調とした、天使・・・と言うより女性的な悪魔デザインになった外装に包まれ。
どうせそろそろ、避けられないような攻撃が来るだろうしね、と。
今後の展開を、推理しながら。
単なる1プレイヤー、メリウは更なる下準備を続けた。
手元から離した槍が分解、そして手元から再生されるのを確認して、レザードは一言。
「便利だねぇ。 本体がココにあるからコピーし直すだけって感じなのかねー」
再生された<外装・悪魔喰い十文字>とでも呼べる槍を振り回し。
レザードは幾重にも<分身>を交えた包囲網を敷いていた。
巨人王は余りの<分身>数にレザードの実像を捉えきれずに居た。
<ソコカァァァァ>
「残念。 <分身>だ」
幾度目かの槍、挿入。
「飲み込んで、ボクの黒い槍」「ふうん」「あ、え、ちょ・・・ゴメンナサイ見捨てないで下さい」・・・おまいら、余裕だねぇ。
命中即時離脱の繰り返し。
巨人王のターゲットを一身に引き受け。
他の仲間達の攻撃集中をサポート。
レザードは、<分身>維持失敗したら終わりよー、というチキンレースを走り続けて居た。
もう、正直指の感覚がおかしい。
痛みは通り過ぎ、感覚がなくなってきている。
でも、指は動くのを、やめない。
動かしている、と言うよりは。
「指が勝手に、動いてる」
そんな状況に、友人が昔言っていた言葉が思い出される。
曰く。
手はモノを考える。
手は、意思を持つ。
転じて、手は。
「もう一人の、別個なる自分である」
意識と切り離されたようでもあり。
しかし頭が考えた瞬間にそれを実行している従順な器官でもあり。
別の自分、いわゆるペルソナ、か。
そんなことを考えつつ、相変わらずの火力で横合いから斬りつけるシオンの<唯剣>をサポート。
命中、離脱方向に<分身>を割り振り逃走サポート。
「うーあー、そろそろスタミナやべー、ヘルプー」
ちょいと張り切りすぎたレザードが、それでも全幅の信頼を置いて。
背後から飛んでくるであろう光の腕を、待った。
「イキロ!」
巨大なサムズアップが、飛んできた。
みるみる癒される、素敵回復魔法。
チラリとだけ振り返り。
サムズアップで魔法を打ち出したジオを確認し。
そこで、失敗に気づいた。
<ウロチョロト シテンジャネェェェ!!!>
位置を、割られた。
瞬間移動・・・しまったMPも、尽きている。
目に見えて範囲の広い攻撃が、自分中心に発生しようとしている。
ああ、こりゃ詰んだわ。
レザードは最後の悪あがき、とばかりに<流星>をありったけ拳に握りこみ自爆の構え。
さぁ、来やがれ。
巨人王を睨みつける。
両手を組んで、振り下ろす構えであった。
来た。
「やけにゆっくりに見えやがるなぁ・・・」
手だけでなく頭も別人格になったかぁ? なんて笑いつつ。
実際一秒にも満たない間のことを、レザードは全て、見ていた。
地面に叩きつけられた巨人王の両拳が巻き起こした衝撃波が、周囲数百メートルにわたって荒れ狂った。
レザード以外のPC達は冷静に<瞬間移動>して、被害なし。
<ウルサイ コバエハ コレデ オワリダ>
わざわざ区切るように喋る巨人王。
よっぽどレザードの<分身>にイラついていたのか、小躍りでもしかねない喜びが声に滲んでいた。
「だってさ、レザード」
そんな声が、土煙の中から聞こえた。
レザードの声では、無論、ない。
煙の晴れたその場に立つのは。
「あー、自分でもヤラれたらうざったいだろうなぁ、とは思ってましたサーセンwwwww」
草生やし過ぎな、無傷のレザードを背後に守るは。
黒い女性型<天使外装>を身に纏い、謎形状の金属棒を携えた・・・狂人。
<ナンダキサマァァァア>
巨人王が雄叫びを上げ、再び両手を組んで叩きつけようとしたが・・・叶わず。
その両手は、もう肉塊と呼ぶような有様になっている。
「いやー、間に合ってよかったー。 あと、皆聞いてー」
余裕を振りまいてその状況を見守っていた仲間たちに。
「結界魔法、かけ直したほうがいいよー。 <天使外装>使う前とじゃ、段違いの威力出るからー」
<永久化>が割と一般化してしまったゆえの弊害で。
<永久化>された魔法をただ開放してるだけ、というのを惰性で行なっていたほぼ全ての連中が。
「「「「「「「「「「あ。」」」」」」」」」」
<天使外装>纏ってパワーアップした後で防御魔法使うほうが威力高いじゃん、と。
アタリマエのことに、気がついた。
その後の事を幾分語るとするなら。
巨人王の攻撃で即死するPCが出なくなった、とだけ。
あとは、皆様のご想像通りの展開で。
以て、<希望>シリーズ、完了。
お疲れ様でした。
「「「「「「「「「「おつかれさまでしたーーーーー!」」」」」」」」」」
「そういや、レザード助けた時ってどういう感じだったん?」
酒片手にシオンが聞いてきた。
「ん? 普通に<天使外装>纏ってから防御魔法張ってから<瞬間移動>で割り込んだだけですよ?」
口から裂きイカのゲソをはみ出させつつ、やだなぁとか言ってるメリウに。
「その理屈じゃ足りない、ということでしょう」
たとえ<報復>魔法が愉快な威力出でたとしたって、巨人王の防御力はまさに鉄壁。
それだけでは、どうしたって両手の破損という大打撃には繋がらないはず、と、冷静にジオがツッコんできて。
「んー、オレが見たのは、割って入ったメリウが<右曲りのダンディ>叩きつけて両手ミンチにしてたって光景だったがー」
クピクピクピー、と、ビールを空けて。
「さぁ、吐け」
レザードがにこやかに、言った。
「オロロロロッロロロオロロロロロロロロ」
メリウが間髪入れずに、凄くリアルに吐く人のモノ真似を行い顰蹙を買い。
「えーっと、けほん。 んじゃ、バラしまーす」
実は取っておきたかった秘密なんだけどねぇ、と前置きして。
メリウは<悪魔♀>に、変身した。
いつものメンツに、???な表情が蔓延する。
いや、別にエロいサービスしろとは誰も言ってないけど俺からお願いしますいやウチがワチキに決まってるだろう常考。
「えーっと、んじゃレザード。 ちと今から自分がローキックするから、ガッチリ受け流す気で受けてもらっていいかい?」
サラっとエロ要求を無視して、メリウはファイティングポーズ。
「え、ああ、いいけど。 でもお前の技能レベルじゃダメージは入らないとおもうぎゃぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!?」
おメ子の放ったローキックを華麗に受け流したはずのレザードのフットブロック。
それが、足の根元から、グシャグシャにされて千切れ飛んだ。
おお、グロイグロイ。
「おお、癒し癒し」
慌てる素振りもなく息を吸う様に自然にレザードの足を生やしたジオが、ほう、と興味深そうに頷いた。
ああ、そういうことですか。
「・・・。 ああ、そういうこと」
シオンも、ようやく合点いった、という顔になり。
「えーっと、つまりは。 お前がいっつもエロ要員として使ってきた<悪魔♀>・・・いや、<悪魔>って実は?」
完全に受け流したはずの攻撃で足を持っていかれたということで、真実を語る権利はレザードさんに上げましょう、と、皆が頷き。
「力が、強い?」
おいぃ、疑問形で聞くなよぅ締まらんなぁ。
ブーブー、と周囲からのブーイングに(´・ω・`)ショボーン とするレザードに。
「えーっと、な? 今まで言ってなかったんだけど。 <悪魔>の身体能力値、な・・・三桁ある」
最後はボソッと。
本当にボソッと。
メリウは秘密をあかすのだった。
そんなこんなで、今回はこれまで。
で、次回一応の最終回。
愛も感動もない誰得話、サヨナラ、です。 ノシ