最終クエストも楽しいもので 5
いよいよやってまいりました最後の<希望>。
ゲートを潜れば、飛べない奴は置いて行く、な南の巨人戦争地域通称<修羅の国>。
日夜ゲート周辺に攻め込んでくる巨人の群れとガッツンガッツン殺りあっている素敵脳筋ワールド。
常に強大な軍団と戦う、ツワモノレベルの高いこの南方で。
くぱぁ、と、地獄の蓋が開いていた。
らめぇ、悪魔が溢れ出ちゃうのほぉぉぉ。
<南方の希望>最初の発見者達は、恐れることなく地下空洞中央部へ赴くと、天使から<繭>を貰い何の問題もなく<天使外装>を装着したという。
そして、灰剣士が回復役二人に延々と回復魔法をかけさせつつ<重剣>乱射するくらい大人げない感じで、あっさり大型悪魔を倒し。
<南方の希望>終了のお知らせ・・・となるはずだったところに。
乱入者が颯爽登場。
天井を突き破って現れる、闇色の巨人。
延々と先の見えない戦争状態であったPC達の敵方である巨人種族に、よりにもよって<人型悪魔>が憑りついた模様で。
ただでさえ身体能力の高い巨人、それも恐らくは最強種の<王>辺り。
それに、言うなれば<悪魔外装>でブーストして自らの肉体とした最悪の敵が、<天使外装>装備の南PC群と交戦に突入。
その圧倒的火力により、PC達が敗走する運びとなり。
・・・今に至る。
南方ゲート周囲の塔じみた外壁は、いまだ健在であった。
何か所か補修跡っぽいものも見受けられるが、まぁ気のせいと言う事にしよう、と、同道してきた<塔>クラフターたちが一斉に顔を背けた。
「材質ミスリルとか使ってるよね色からすると」「単純換算で瞬間ダメージ合計四ケタ入らなきゃ壊れないぞアレ」「おいおい、俺ら流石にそんなもん喰らったら消えてなくなるぞ」「そんな事よりどうせ壊されるんだったら先手打って分解して何か作らねぇ?」「「「それだ!」」」
・・・それだ、じゃねぇよ。
台風の時に「ダム壊して廃材で堤防作ろうぜ!」的な話はやめてくださいこの屑野郎ども。
「はーい、<塔>の評判落とすと困るので、貴様らありがたい説教コースでーす」
こちら、貴様らの断罪・・・げふふん・・・処刑・・・げふふふん・・・教育者の、サブリーダーさんでーす、拍手ー。
メリウが馬鹿どもをローパー触手で拘束して、手ぐすね引くサブリーダーの前まで引っ立てた。
・・・珍しく引っ立てられる立場じゃないので、メリウは内心とても新鮮な気分。
「は、はなせー」「やめてくれ、この人の説教マジ凹むんです」「お許しを! 痴ロリンと同じ扱いは何卒!」「ちょ、何かぬるりと首筋にっ !? らめぇ、そこらめぇ」「ふひっ」「ひとまず正座」
流れに乗って痴ロリンさんも説教入り。
歪みねぇな。
「おおっと、今は楽しく遊んでる場合じゃなさそうですぞ~」
早くも<天使外装>を展開したジオの、やけに間延びした警告にサブリーダーや痴ロリンが即時反応、臨戦態勢を取る。
メリウローパー略して触手に捕獲されてた困った連中も、流石に古強者。
「んん、なにかあったかぁ~」「説教回避! 回避!」「おいぃ、なんでこの拘束緩めてくれないんだ・・・げぇ、いつの間にか鋼線にすり替わってやがる?」「ローパー様逃げた! 待って、もっと!」「ふひひっ」「あとで石抱いて正座な」
貴様ら余裕見せますね、あと痴ロリンまじ歪みねぇな。
そんないつものペースを崩さぬ一行に襲いかかるは、小型悪魔・・・が寄生して変な感じに強化されてる模様の巨人達。
おお、噂に聞く<悪魔外装>って奴か、と、色めき立つ<塔>メンツ。
情報を総合すると、初期小型悪魔までは通常方法でもどうにかなるが、何がしかの生物乗っ取る的な形態になってしまうと<繭>ナシでは詰むという有り難いお話。
・・・連中倒すと、低確率で南の<繭>落とすらしいので、ジリ貧にはならない・・・のかね?
「ひとまずこっちも<繭>使わんとダメっぽいんでお気を付けを~」
間延びし続けるジオの警告に従い、次々に外装を展開しだす皆。
<閻魔 !><腐海殲画!><右手が恋人!><インド人を右に!><ビガーパンツ!>・・・<右曲りのダンディ!>。
いろいろ変なのが混じってた気もするけど、平常運転です。
色とりどりのワイヤフレームが乱舞し、人型だったり若干変形奇形だったりする<塔>のロボット軍団、出撃。
今回は逃げ切りな感じの少人数先行型の電撃戦は使いようもなく。
コツコツと真正面から。
押した分だけを得て、引いた分だけ失う消耗戦をやり続けるより他はなく。
自然、前衛壁、後衛回復という流れに落ち着き。
際限なく飛び散っていく味方の壁に、必死こいて回復魔法かけ続けるの繰り返しで、ジワジワと前線を押し上げていく持久戦が続いていた。
たーーーまやーーーーー。
レザードの大音声とともに射出された<流星>達が、巨人達に着弾、爆裂した。
投擲枚数三枚、各<流星>に一つずつの<繭>を振り分け放ち、数体にダメージを与える。
流石に<星流れ>することはできない。
やったら恐らく、帰って来られないからだ。
だから、回復が背後に降り注ぐまでは大きなスタミナ消耗を避け。
かつ、できるだけ広範囲を攻撃し続けたい。
結果、<天使外装>本体形成に1つだけ<繭>を残し、他3つを攻撃に振り分けた。
「早く<繭>落としてくれー」
<流星>喰らって動きの鈍った巨人一匹に接敵し、外装本体とも言える<悪魔喰い十文字>を突き立て、トドメを刺す。
コクピット視点では操縦桿の代わりにレザードの前に立っているはずのこの武器、ロボット視点に帰ると、何故か武器として手に持ってる。
強いて言うなら、これも<天使外装>の一部なんだろう、と割り切ると同時に。
「あれ、パンツにつけちゃった奴は、どうなってるんだ・・・?」
生きるべきか、死ぬべきか、という問いを突き付けられたように眉をひそめるレザード。
いや待て落ち着け、冷静に考えて当てはめれば・・・。
俺の武器の槍は、ロボットの手に握られている。(無論、サイズはロボットに合わせて大きくなってはいる)
そして、パンツにそれを当てはめたなら・・・。
おかしい、何故か肌寒い昨今のはずなのに、脂汗がコメカミを伝う。
いやいや待て待て、流石にそれはないだろう?
レザードは、思わず背後を振り返ってしまう。
視線の先に、まさかソレがあるわけはないと思いつつも。
そして振り返ってしまった視線の先には。
・・・い、た。
存在してしまっていた。
キラキラと光り輝く、パンツを履いて「それ」を前面に押し付けるような挙動を取る<天使外装>。
手には何も持っていない・・・いや、なにか小道具のようなものを持って、いる・・・?
「ひゃっはー、喰らわせてやれ<ビガーパンツ>マン! 必殺お稲荷さんピストーン!!」「うわ、こいつ最悪だ」「超・・・卑猥です・・・」「フ、フヒっ」「お前が泣いても説教を、やめないっ」見なけりゃよかった。
・・・って、え?
おお。
いやいやいやいや。
ちょっと、振り返って得したかもしれぬ。
へー、そうだったのかー。
なんというか、無駄なことしてた気で一杯になるなー。
再び前線に目を向け、戻ってきた<流星>を手中に収めると。
レザードは、迷わず手持ち全ての<流星>を懐から取り出す。
連動して<天使外装>の手には、大きくなった<流星>の群れが出現。
<繭>を移していた<流星>からそれを引き剥がして本体の方に一括し。
無言で<流星>を、ばらまいた。
<繭>の集中で大きく強化された<天使外装>が投げ放った<流星>は、巨人の群れに着弾し。
十数匹を、四散させた。
「別に、<繭>いちいち攻撃する武器に付けなくても・・・良かったのか」
むしろ、火力分散する結果になるだけかよ、とばかりに呟くレザードの背後では、後衛に紛れ込んできた巨人を・・・えーと、お稲荷さんこすりつけつつ手に握った「大きくなった栓抜き」で殴打し沈めている<ビガーパンツ>マンの姿が。
・・・変態に、教えられた・・・。
火力が増大したレザードの活躍により、前線を押し上げるペースが格段に上がった。
MVPは、パンツ。
灰剣士の左右から、巨人の姿が消え失せた。
左右の<速剣>をぶち込んだ結果である。
無駄に考えず一点突破って、素敵やん? を突き詰めた漢が、此処にいる。
が、敵の数は膨大。
次々に現れる巨人たちには、流石に手数が足りない。
しかしながら。
無論シオンの側も、単騎ではない。
「<万里剣>」
物静かに呟かれる秘奥義名。
ゆっくり、という感で突き出された日本刀の刺突技。
侍組リーダーたる彼の、対人用秘奥義<震突>と比べると速度感がないと感じられるそれが。
スカっと。
一直線に巨人の群れを刺し貫いていた。
「おおお!?」
初めてその技を見たシオンに衝撃走る。
「普通はこんなに長く貫通しないもんだけど。 <天使外装>の強化倍率洒落にならんね?」
リーダーの呆れ声に、シオンも同感、とばかりに頷きを返し。
「あ、でも今のでスタミナ使いきったんで、しばらくよろしくー」
ペタリ、と、その場に正座して休息を撮り始めるリーダー。
シオン、絶句。
・・・。
こんにちは、巨人です。
こんにちは、巨人です。
こんにちは、狂人です。
こんにちは、巨人です。
「うおおおー、やってやらァーーー」
何か別のも混じってた気もしたが。
シオンは血の涙を流しつつその前線を支え続ける。
・・・救援に来ていた狂人にも切りかかって、珍しく叱られるのは、蛇足。
そして、ついに。
<塔>メンツや<北方の希望>クリアメンツの増援を得て前線突破(という名の殲滅)を果たし。
ついでに連中からドロップした<繭>を美味しく頂き。
光り輝く<天使外装>の群れ・・・PC達の目の前に。
<タイシタモノダ チイサキモノドモ>
巨人の王を体として誕生し、強者揃いの南PC達を退けたこともある難敵が。
威風堂々と座っていた、手足首と落とされて息絶える<天使>の椅子から立ち上がり。
左右の拳を、握りしめた。
<ナガキトウソウ タイギデアル>
天使椅子を横に蹴飛ばすと、巨人王は半歩左足を下げると。
<ホウビダ>
右足を大きく踏み出し、PCたちに向けて左拳を放った。
距離は遠く、当たるものでもないはずのそれは。
ゾリっと、何かを削る音を響かせて。
遥か彼方へと、真っ赤な風を打ち出した。
放たれた左拳の直線軌道上にいた数多の<天使外装>達。
<繭>の力により元PC能力の十数倍へと強化されているはずの、ツワモノたち。
それが膝から下を残して、見るも無残な破片へと・・・散らされた。
一気に、3割程。
持っていかれて、いた。
っと、そんなこんなで、今回はここまで。
なんというか、引きますゴメンね。
てへぺろっ。