最終クエストも楽しいもので 4
右人差し指の根元が痛み出して五日経ちました。
<塔>上空で繰り広げられる、白き巨人達の闘争。
搭乗者の能力を基に十人十色の性能を発揮する、中身入り天使曰く<天使外装>。
残り二つの<希望>シリーズクエストの成否も情報ひとつなく動きが取れない現状で。
<塔>の面々は、地下よりの脅威に対抗するべく遣わされたその力を使い。
ぶっちゃけ、ロボット対戦に興じていた。
シオンは早々にコクピット視点を切り捨てて<天使外装>視点へとシフト。
ロボットモノとして操作している時点で、アイツには追いつけない。
キャラクターがロボットになった、程度の認識で。
シオン当人のPCとして操らねば。
迫りくる複数体の機影を、潰せない。
ぶっちゃけ分身して襲いくるレザードなんだが。
「「「「「「「ああああああらららららららららーい」」」」」」」
お前征服王さん大好きだろう?
気が合うな、ワチキも好きだ。
なので死に方は似た感じにしてやろう。
「<重剣>」
<天使外装>の能力ブーストと<繭>二つ分を主武装に回したその暴力が、余さず襲いくる七機影を飲み込み、かき消した。
が、しかし。
スカッと綺麗にシオンの心臓辺りを黒い槍が貫通。
「残像だ」
シオンを背後から黒塗り槍で貫きつつ、八つ目の機影、レザード本体がニヤリと笑う。
が、すぐさまその表情は曇る。
手ごたえ、無し。
瞬間、レザードの<天使外装>の四肢が、切断された。
「奇遇だな、ワチキのも残像だったんだ」
正確には分身だけどな、と「<重剣>を打った<分身>」を残して、自分の背後に回っているであろうレザードの更に背後へ回り込んでの、なんか週刊少年漫画あたりでありそうな後出し合戦であった。
「痴ロリン、あれが男同士の苛烈極まるバック争いだ・・・よく見て参考にするが良いよってもう描き込んでらっしゃるー」
上空でダルマになったレザードの<天使外装>にトドメをくれてるシオンを見つつ、近くにいた痴ロリンに適当ほざいたメリウだったが「ふひっ、残像だ! 合戦でサンドイッチ合体ウロボロスだ~、ふはは、どこが始点だかわかるまい」とかほざきつつスケッチブック<腐海殲画>に高速精密描写する痴ロリンの姿に戦慄。
うめぇ、うめぇけど超HOMO!
愛用文房具がホモ鉛筆で愛飲飲料がホモ牛乳くらいのホモワールド!(この場合のホモって ホモジナイズ:均質化 の意味だがなっ)
「同士、ツッコんでくるのが居なさそうだと思ってハッチャケすぎじゃない?」
もはや色々諦めの境地にあるサブリーダーさんが盛大に溜息をつく。
オヤオヤ同士、どうしたんだい悩み事?
・・・華麗にスルーされた、メリウ涙目。
「痴ロリン、お絵かき上手だねぇ・・・? 僕にも是非見せていただけないかな?」「げぇ、サブリーダー!? ・・・いえいえ、こんな落書き、お目汚しになるばかりですぜゲヘヘへ」「そうか、なら焼くけどいいかな?」「スパルタすぎるっ! それだけはご勘弁をっ」・・・うん、侍組は仲がいいなぁ。
もう、観念してフルオープンでいりゃいいのになぁ、と思わずにいられないメリウであった。
っていうか、あれで隠してるつもりなのが微笑ましいを通り越して将来が心配。
きっと痴ロリンが「是非見てご感想を!」とか言えたら、同士の教育は終了なんだろうけどなぁ。
「やー、死んだ死んだー」
サバサバした顔でやってきたのは、今しがた上空で派手にグロ死体になってたレザードだ。
決闘モード、超気楽。
周囲に被害も及ばないしねっ。
「油断しなけりゃお前さん有利のままだったのにねぇ」
びっくりして止まったのが敗因だったねぇ、と、メリウ。
「ククク、そこまで計算に入れての<分身>よ・・・」
バックの取り合いを制した漢、シオンが悠々と空から降りてくる。
ズシン、と着地し、その雷まみれな外装を分解収納。
「くっそ、いつの間に分身なんて覚えやがった」
レザードのボヤキに、シオンと、何故かメリウが頷き合う。
「「すごい近くに分身マニアが居たので見て試してたら、出来た」」
ハモっていう二人。
ああ、そうか、我流<分身>作成試すにはいい環境だよね常に手本が近くにいるって・・・。
「まだ流派技能に組み込める段階まで鍛え上がってないので・・・コレが油断して止まらなかったらどうにもなりませなんだ」
灰剣士に指差されたコレ、レザードがorz、と膝をつく。
身から出た錆。
「まぁまぁ、最近決闘じゃ負けっぱなしだったしねぇ、自分等。 たまにはこういうのがないと」
ドンマイドンマイー、と、レザードを慰めるメリウ。
こっちも超笑顔。
こやつめ、ははは。
ははは。
しゃぎゃー!
「うわぁ。 いつものメンツは 仲 が い い な ぁ 」
すでに説教を喰らい終えて、痺れた足をそのままに正座のまま摺足で近づいてきた痴ロリンが、ゆっくりさんみたいな声で呟く。
あと、その歩き方がキモすぎる件について、サブリーダーさんどう思われますか?
「え、うん、なんかグロいね」
昔の映画のトラウマ蘇りそう、と、サブリーダーさん。
へー、どんな映画? キラーコンドームあたり? と聞いてみるメリウ。
「エクソシスト。 超トラウマ」
見たのが小さかったころでねー、と続ける彼。
「そうか、じゃ、そのうちブリッジ歩きしてやろう超高速でな」
戯れにな、と、横でそれを聞いていたレザードが茶々を入れ。
ヤメテ! と、逃げ出したサブリーダーを見送る周囲。
そんなこんなのロボット大戦三昧な<塔>に、その報が届いたのは<希望>クリアから二日後のことだった。
「<東方の希望>そろそろ悪魔溢れ出しそうだってさー」
何気なく掲示板を眺めていたレザードが、そんなことを伝えてくる。
なんでも、東の国の首都地下深くにある<希望>シリーズ、放置が過ぎてすでに扉を内側からドッカンドッカン叩かれてるレベルだそうで。
「<繭>取ってなかったんなら、かなりの地獄だねぇ」
地道に襲い来る小型悪魔の軍団を潰して中央部まで行った挙句にイベントシーンこなさないといけないという・・・。
小鬼さんとかなら万単位でも何とかなりそうとか思わなくもないんだけど、小型悪魔、地味に強いしなぁ。
正直、回復リサイクルが出来てなかったら全力スルーせざるを得ない感じ。
<東方の希望>の現状を表現するなら「名古屋迷宮のボスラッシュ延々と」って感じだろうか。
「で、そんなのが流れてるってことは、<東方>組はギブアップ宣言でも出したってことですか?」
仕事が長引いて今しがた滑りこみログインしてきたジオが、一日ぶりのゲームを満喫しようとワキワキしている所への、その、なんだ、癒し放題のニオイ?
「んー、ギブじゃなくて、ギブ手前の助っ人募集だねぇ」
人数不問、ココに集合して俺たちも物量戦で行くぜー! という流れだね、と、掲示板見ながらメリウ。
「んじゃ、いこか。 なんだかんだで<希望>コンプリートとか目指さねぇ?」
ちょっと良いのかなぁ?、的な部分もあるけど、この流れなら目指してもいいはずだよな、と、ノリノリなシオン。
なんか最近テンション高いけどどうした?
「ん、別に何てこともないんだけどさ・・・この前、流派技能が50行ったんで「「「うおおお、スゲェなおめでとう!」」」ありがとう」
シオンの爆弾発言に大いに沸くいつもの面子。
おいおい、それはなにか祝わなきゃダメだろう常識的に考えて・・・。
・・・協議の結果、<東方の希望>を荒らしに行くことに決定。
目指すは大型悪魔ただ一匹。
もう動けないあの野郎なんてストーブの前のアイス同然よっ。
いつになくハイテンションでお送りする、いつもの面子発進。
ちなみに<塔>の面子も、発進していたりした。
なんというか、身内同士の足の引っ張り合いになりそうな予感っ・・・
扉を開けたら瞬間で地獄。
地面が見えない・・・と言うか、地面が全部、小型悪魔っ。
おおい、中央に天使見えないんだけどっ、どこ行ったァァァ。
「あー、あれじゃね? あの黒山の・・・」
レザードが指し示す方角は、お約束の地下空洞中央からやや外れた位置。
なにか大きなものが横倒しになり、そこにアリの如くに小型悪魔が集っている感じ。
時折、思い出したかのようにビクンビクン蠢いている・・・あっれ、天使だとしたら、やばくね?
ひとまずあそこまで活路を開くとしよか。
続々と押し寄せる悪魔の波に向けての、絨毯爆撃じみた範囲攻撃魔法の乱射が始まった。
そしてその間を抜けて、うぞうぞ蠢く愉快高波が襲い来る。
おおキモいキモい。
対するこちらも、物量作戦でガンガン飛び交う怒号や魔法、時々暴れる<天使外装>。
そこかしこでグシャァ! ドカーン! と、漫画的な音と効果が炸裂していた。
ってか、物量的に<天使外装>組が混ざってるのに互角って、どんだけ悪魔増殖してんだよ!
「派手だねー、集団戦も楽しいなぁ」
<群火球>を周囲にばらまいて、朗らかに笑うレザード。
うへぇ、ガッツリ燃やしたなぁ。
アリの群れに爆竹投げ込んだみたいになったわ。
この派手好きめが。
「そういうお前だってさっき、扉開けたら即<竜砲>とかやってたじゃんか」
ああ、皆さんが快く射線開けてくれたからねぇ、と、メリウ。
「そりゃ、あんな狭いところであんなデカい召喚扉出したらみんな逃げるわ」
キチガイの即答に、レザード苦笑。
「あっれ、シオンはどこ行った?」
幾らかの範囲で床が顔を見せ始める程度に小型悪魔の波を駆逐してから、メリウが隣のレザードに尋ねた。
ちなみにジオはそこかしこ飛び回って雨降らせたりしている。
あ、説明の必要はなかったよねゴメン。
「えーっと灰色の旦那は・・・あー、あそこだ、闇に紛れてて分からなかったわー」
と、レザードが指さす、小型悪魔が山と集った、仮称<中身入りの丘>。
その前に仁王立ちしたシオンの姿を、メリウも捉える。
「あそこから何する気だ・・・・って、あの構え、何だ?」
魔法で方ついたスペースを直線で突っ切りつつ、シオンのそれに首を傾げるレザード。
「雷精剣化させた雷神剣を担いでどうするって・・・投げたー!?」
凄まじく適当そうに投射された雷光の剣が、小型悪魔の丘頂上付近に突き立った。
刺さった辺りの小型悪魔がビクンビクン、と痙攣しているのを見ると、本当に適当に投げただけと判断できる。
本気で投げてたら、きっと数体は居なくなってるはずだし。
「あそこからどうする気なんだ・・・って、メリウ耳塞「-------!!」」
レザードの警告は、間に合わず。
シオンが放ったのは、<轟雷>。
効果は、巨大な雷を落とすこと。
あと、近くにいる連中の耳が、落雷の轟音で死ぬ。
「ぎにゃぁぁぁぁぁぁ」
メリウ、悶絶して地面を転がってそのまま華麗に床の亀裂にボッシュートされていく。
おお、流れるように地獄行き。
まぁ、いつか行くはずだったところだし早いか遅いかの差だよね、と、レザードは早々に見限り。
そのまま視線を移していき、シオンが<轟雷>くれた悪魔丘を観察する。
おお、雷神剣着弾した辺りで凄いことになってるわー。
「この前洒落で試したら出来てしまった、雷神剣による拡散<轟雷>だっ」
どうよ! とキメポーズしてこっち見てくるシオンが少しうざいレザードであった。
あと、雷神剣回収してこないとやばくねお前?
「おおっとしまった<雷精招来>、帰ってこーい」
なにそれ超便利、と、<流星>のことを棚に上げたレザードの嫉妬が地下空洞に木霊した。
さぁてそれでは中身はどうだァ?
小山になっていた悪魔の群れもシオンの雷で無残に無くなり。
覆っていたゴミを除去されたそれが、のそり、と、状態を起こす。
「うっぷ、案外グロい」
案の定集られていたのは<天使>であった・・・そして。
小型悪魔に押さえられてる間に、相討っていた大型悪魔に・・・色々パーツをもがれていたようで。
「胸糞悪いな、ちと殺ってくるわ」
雷精がシオンの手元で剣の形を成した。
そしてその刀身下部を、彼の左手が軽く撫でる。
くぱぁ、と、左右に割れる<雷神剣>下部。
現れるのは<繭:起動しますか?>のメッセージを表示したディスプレイ。
小さく頷く彼が叫ぶは、自身の剣聖剣につけた一つ名。
「<神音>!!!!」
主の声に反応し、ひとりでに<雷神剣>の刀身が中空を斬り裂く。
空中に刻まれた雷光色の切断面から飛び出す無数のワイヤフレームに包まれ。
瞬く間にシオンは<天使外装>を纏う。
そして。
<東方の希望>クエスト、終了のお知らせ。
おつかれー。
へーいおつかれー。
パン、と、ハイタッチの乾いた音が響く。
外装を解除したシオンとレザードの二人が、ひとまずの仕事終了にホッと一息。
足元に転がる<繭>を拾い上げると、二人は自分の得物に押し付けた。
これで、4つ目、と。
「プロデューサーさん! リーチですよリーチ!」
遠くから奇声を上げて飛んできたジオも自身の装備する篭手に<繭>を移植し、上機嫌。
「さて、んじゃ帰るとしますかー」
皆、忘れ物ないよねー、と、シオンが出口に向かって足を踏み出した瞬間。
ガシっと。
その足をつかむ手が。
地面の亀裂から、伸びた。
「忘れ物でーす」
こんにちは、と、メリウが地獄からの帰還。
うひぃ、と、つかんだ足で蹴飛ばされ、あえなくシオンに逃げられた。
ちぇー仕方ないなぁ、とばかりに、ズリズリズリ、と、闇の中から這い出でてくる様はまさにホラー。
そして、なんか見覚えのない人間っぽいのを背負ってるのもホラー。
「「「誰だよそれ!?」」」
皆が同時にツッコんだのは言うまでもなく。
「ん? ヌルさんだってさ」
<繭>を拾いつつ、それに端的に答えるキチガイの声。
話せば長いんだが、と前置きして語られる話は。
・地獄で生きてた人達いたから助けてきたよ!
・ひとまず空飛べないという設定らしいので一人づつピストン輸送するよ!
・Q:ところで鼻や目に水が入って半身浴がうまく出来ません。 右半身でしょうか左半身でしょうか?
A:下半身です。
「というわけだったのさ」
つー訳で、手伝え。
と、メリウは<魔王スライム>に変身。
ズルリと仲間を飲み込むと。
諸共に足元の亀裂に流れ込んだ。
その後、一時間ほどをかけて行われた救出クエストの達成を足がかりにした連続クエスト解決により、新種族<悪魔喰い>、俗称<魔族>がキャラクターとして作成可能になるのだが。
その埋め込みアップデート開放の翌日に。
このゲーム自体が、無くなってしまうこととなる。
そんなこんなで、今回はここらへんでっ。
100円ショップで買った氷解剤がクソ使えなかったので今度からはぬるい湯を持っていくことを心に決めた今日この頃。
寒さ厳しきおり、お風邪など召しませんようにお気をつけを~ ノシ