最終クエストも楽しいもので 1
ワイン1本半/hの勢いで書かれているため、おかしな所があるやもしれませぬが、お気になさらず。
若干時間をさかのぼり。
それは、魔王スライム産の結界魔法<黒粘体>によって防御無双状態となり調子に乗って名古屋迷宮を一気に最下層まで踏破した十数分後の出来事。
迷宮最終ボスである巨大な黒竜を末端部分から容赦無く粉砕していったいつもの面々が、物欲まみれで色々していたその時。
微かに、ゲーム画面内が、揺れた。
「んン? なんぞこの揺れ、地震?」
各末端部分が吹き飛び蛇のような有様になった黒竜の腹を掻っ捌いて中身を物色していたシオンが血まみれ肉まみれになって「中から出てきた」。
「なんだろねーって、おいぃ、シオングロイグロイ」
今度からグロンって呼んでやるからなっ、と余りにアマリなシオンの格好を非難するレザード。
まぁ、貴様はいつも戦闘開始直後に敵の体液色に染まるけどな。
つまり、今もドス黒一色だ。
色男、金も力もあるれど単色。
「あー、振動はともかく、こっちに来なさい<洗濯>してあげますから」
黒竜の座っていた床をひっぺがして隠し宝箱を発見、罠を解除したジオが、よっこらしょいー、と、グロ染色ズを呼びつける。
「「はーい」」と、こんな時だけ返事よく走ってくるシオンとレザード。
「ちょいなちょいなーっと、ほぅら、ここなんだろう? 固く閉じちまった大切なトコロを、さぁ、くぱぁっと開けましょうねぇ・・・クケケケ」
針金状の工具を使って宝箱の鍵を開けるメリウ。
技能的にそれなり極めたレベルなのだが、いかんせん無駄にエロっちく動く指先が原因で超卑猥真面目にやれ。
いつものことなので他のメンツは華麗にスルーだが。
「そぅれキレイになぁれー」
早くゴッドハンドになりたーい、と詠唱を終えたジオが汚物二名をまっさらに立ち戻らせる。
「ありがとうー、でも貴様の贄にはならんぞ?」
そしてゴッドハンドになるのはワチキだ、シオン。
「さんくすー、捧げられる前に捧げるー」
そしてゴッドハンドには俺がなる、とレザード。
「ぐおお、貴様等恩を仇で返しおってからにっ」
胸のあたりを押さえながら藻掻くフリをするジオ。
「んで、お前ら三人捧げていいってことでFA?」
無限袋から取り出した精密再現1/1覇王の卵ネックレス(価格36金貨)を首から下げたメリウが、胡散臭い魔方陣の中心でさ・さ・げ・る・・・とか言い出していたりもした。
ちょ、おま、何でそんな用意いいねん、とツッコミを食らいつつ。
「っと、そろそろ茶番はやめて震源とか探ろうかー」
蝕ごっこまで行くのが面倒になったシオンが、最初の疑問を解消すべく話を打ち切った。
「あいよー、ひとまず感知系で探ってみるとー・・・あっちかなぁ」
ちぇちぇちぇー、せっかくローパー見たから触手プレイしようと思ってたのになぁー、とぼやきつつ数々の謎視覚を駆使してボス部屋奥の変哲なさそうな壁際に目星をつけ移動するメリウ。
そして壁際にたどり着くやいなやガツガツと<右曲りのダンディ>にて壁やら床やらを殴打し。
「あー、メリウ、ちょい左のー。 そうそう、その辺りが変な空気出してますぞー」
物色系スキルで調べていたジオが、自分の眼前の検査機器に指示を与える。
ほいさー、と、メリウがメイス状の物体をそのポイントに叩きつけた瞬間。
いつものメンツ四名各々の周囲に現れる、転移の魔法エフェクト。
「「「「おおっと?」」」」
不吉なセリフでハモりつつ。
いつものメンツは、ココでないドコカへと、強制移動させられるハメとなった。
ワープアウト、そこは、仄明るい巨大地下空洞的なエリア。
いきなりの強制転移に、うおおお、ひとまず隅っこに移動して状況把握しようぜぇ、とばかりに一目散に逃げ出すメンツ。
「なんじゃこりゃー」
いきなりすぎる、とシオンさん心臓バクバク言ってる。
「驚いたー」
レザードもちょいと鼻息荒く。
「ここ、なんか見覚えあるものが・・・真ん中辺りにあるんですががが」
ひとまず状況把握に務めていたジオが、巨大空間の中央部に向けて指を刺す。
「うわぁ、アレが居るってことは、つまりココって・・・<希望>クエ?」
ジオの指差す方向にあるものを見て絶句するメリウ。
巨大空洞の中心に居やがりますのは。
コレまた巨大な10m級の人外二体で。
互いに互いの体を貫き合って、かつ、それでも生きてる超生物。
「<天使的なにか>と<悪魔的なにか>だねぇ」
これで3つ目かぁ、はははー、と乾いた笑いを浮かべた。
そして、いつものように回れ右。
「さぁ、最下層マラソンでもしようかー」
「「「おー!」」」
そそくさと周囲を散策し、脱出用ワープポイントを発見。
いつものメンツは、逃げ出した。
そして、時間は戻って現時点。
金と実働経験の兼ね合い(訓練より実戦のほうが能力上昇確率が高い、とされている)から、またもや最下層マラソンを敢行していたいつものメンツに、傍からお声がかかった。
周回を重ね過ぎたため死んだ目をした四人。
迷宮入り口に戻ってきた彼らを狙い打つかのように立ちふさがる、レイド単位の団体様。
集団の中から「1パーティ来られなくなったってー」「うげ、あの六人無しで行くの?」「これだけ人数いれば平気じゃね?」「いや、そんな事言ってこの前瓦解したじゃないの」など、など、喧々諤々聞こえてくる。
あー、うー、と休憩求めてその集団を横目に通りすぎようとした四人に「あの人ら、頻繁にマラソンしてなかったっけ?」「あー、最近良く黒竜素材とか流す人達だ確かー」「四人で最下層行くとかどこの廃人よ・・・」というどこの誰だか知らぬ余計な情報が駆け巡り・・・。
「やぁ、君たち・・・特殊クエスト・・・しない?」
レイドの代表格っぽい人の誘いにより、ぷすっ、と、白羽の矢が、立った。
面倒、もう寝たい、いっそ殺せー。
そんな言葉の乱舞するパーティチャット。
集団代表に対するシオンが超胃の痛い顔をするハメに。
じわじわと、集団は自分達を取り囲み始めている・・・様な気もする。
ああ、タチ悪い。
いっそ殺すか?
そんな殺伐とした心象を「悔しい、でも<希望>シリーズがどんなクエストだか見てみるのもいいよね! ビクンビクン」 と、空元気出して自分達を騙し。
「ハイ オトモシマス」
リーダーシオンが、清々しい二つ返事でレイド参加を快諾した。
かくして、ついに始まるお取り置き。
世界が変わるという埋め込み式アップデート。
<希望>シリーズの、開幕であった。
嫌な予感は、確かにあった。
即時瓦解を始めたレイドメンバー達の惨状を目の当たりにして、死んだ目のままの四人は薄ら笑った。
こいつら、よりによって・・・全員脳筋ってどういうことよ?
「ぐああ、物量がー」じゃねぇー。
回復手段が薬がぶ飲みって・・・手数封じられた近接職で集団戦してんじゃねぇよ。
魔法使い、魔法使いの方は居られませんかー?
「シオン、現実逃避はやめよう」
ようやく惨状に心動いたのか、メリウが目に輝きを取り戻して戦況を判断しだした。
強大な地下空洞、そのさらに下から這い出ようとする異形の悪魔的何か(小型)を、辛うじて天使的何かが結界張って防いでくれてる感じ。
で、その結界のほつれから湧いてくる(小型)さんを順次倒していくような現状なのだが、だが。
「すでに詰んだか。 連中死んだらデカイのぶっ放して真ん中のデカい悪魔っぽいのとか狙わねぇ?」
レイドメンバーが前線で頑張ってる現状、範囲攻撃魔法が使えないのでイライラしだしたレザードが地面をせわしなく蹴飛ばしている。
オイ、無駄に分身するな。
「もういっそ、雑魚は皆さんにお任せして突貫しませんか?」
これで、実は天使が悪者ー、とかだったら救いがまるでありませんがねぇ、とジオ。
ぶっちゃけさっさと終わらせて寝たい、という表情である。
「あー、そだねー、もうどうでもいいかー」
なるようになれー、とばかりにシオンも応じ。
「んでは改めて。 中央悪魔に向けて・・・ごーなへー」
「「「ぉぅぃぇー!!!」」」
いつものメンツ、ボスに突貫するの巻。
デカイ。
そしてマッチョ的なキモさが相まって、最悪に見える。
胸を天使的何かの剣で貫かれた悪魔的何かが、ギロリとこちらを見た・・・気がした。
そんな視線を気にすることもなく、いつものように一番槍はレザード。
「お、お、お、おーーー!」
あろうことか天使的何かの体を蹴り上がり、地下空間天井近くまで飛び上がり・・・っておいィ?
レザードの蹴り上がった勢いは、とてもじゃないが天井を越えるレベルじゃね?
すわ、頭から天井激突スタイリッシュ人体消失!?
見ていた皆が心配する中、レザードがクルリと体勢をひねり、天井に着地する。
そしてそのまま、天井を蹴りつけて得意の<空の槍>形態。
3,2,1,激突。
地下空間に、悪魔的何かの悲鳴が木霊する。
「おおー、一発で腕持って行きおったー」
感心するようなジオの叫び。
流石パーティ内最強の一撃保持者。
天使的何かを貫いて痛痒を与えていたであろうその腕が、肘あたりから粗い切断面をのぞかせて引き千切られていた。
その千切られ残されたその腕を自分の胸から引きぬき、天使的何かが動き出す。
<小さきものよ、助勢感謝する>
足元に着地したレザードに向け礼を送る天使的何か。
言うが早いか、彼(声が男だった)は悪魔の胸に突き刺したままの剣を、そのまま振り上げる。
リン、と金属音を響かせて。
悪魔的何かが、胸から上を開きにされた。
「おおー、あっさり殺したーーー!?」
レザードに続くべく<重剣>準備をしていたシオンが、サクっと進んだ状況にちょいとついていけずに叫ぶ。
「いや、技キャンセルちょい待ち。 頭の中から、なにか出てきそうな予感」
悪魔的何かの頭部切断面を注視していたメリウからの警告。
果たしてその警告通りに。
ゾルゾルゾルゾル、っと。
頭の断面部分から逃れるように。
何者かが、現れた。
<クッ ユダンシタワ ヨモヤ ヒトゴトキガぐああああああ>
台詞途中で断末魔を上げる、何者か(仮)。
ああ、着地した瞬間にシオンが<重剣>重ねたからねぇー。
・・・シオンさん超外道。
「イベントシーンを区切らなかったがウヌの不運よ・・・」
カチン、と双剣を鞘に収めつつ決めポーズを取るシオン。
そして、流石に総計二万を超える斬撃ダメージには対応しきれなかったと見える。
末魔を断たれた悪魔的何かの中身(仮)が、着地後1秒も要さず無に帰した。
「「あれ、あれぇ? ウチらの出番、無しかのぅ?」」
指を加えて呆然とするジオとメリウに、珍しく単色化しなかったレザードが「ドンマイ」と呟いた。
大砲玉と秘奥義さん、マジ外道。
そんなこんなで、クエストは収束方向へ。
レイドメンバーの損害は大きそうだが・・・ぶっちゃけどうでも良いとして。
「ふむ、天使っぽいものが地下・・・地獄だっけ? への進入路塞いでココの<希望>クエ終了ってことでいいのかね?」
シナリオ解説モードで延々と世界観やら歴史やら経緯やらを語ってた天使っぽいのをガチスルーして、シオン。
「あー、まとめたらそんな感じでいいかねー」
当て逃げレザードが、物足りなさそうにソワソワしたりしてる。
参加前の無気力さはどこ行った?
「で、天使っぽいのは役目御免ってことでどこかに帰って・・・中身だけ」
悪魔っぽいのと同じように、あのでっかいのが鎧的な何かだったんでしょうなぁ、とジオ。
「で、残った外の人ならぬ外の天使が分解して・・・なんか繭っぽいのになって散らばった、と」
ひとまず一個づつキープしたけど、コレなんだろねぇ、と、メリウ。
コクーン、とかって読めば某リューナイトのクラスチェンジアイテムっぽくなるけど。
「さてなぁ、でもひとまずは・・・さっさとここから逃げよう面道になりそうだし」
死屍累々の周囲から・・・特にボス瞬殺の自分達二人・・・に注がれる生温かい視線に耐え切れなくなり、シオンを筆頭に駆け出す面子。
んじゃ、ウチら落ちるねバイチャー、と捨て挨拶を放っての即逃亡。
「あ!」「ちょ!」などと声が聞こえたが無視無視ー。
サクっと迷宮入り口→町入り口→ゲート、と移動して<塔>方面へ逃げ延びた。
「結論、恐るるに足らず」
適当な家の軒先に胡座をかいて、シオンが言い切った。
「ういー、毎回あんな感じなら、という注釈つくけどなー」
グニグニと繭をいじりつつレザード。
「ふむー、しかし一箇所クリアだけではワールドアナウンスも流れないってことは、五カ所全てクリアしないと・・・世界の改変とやらは来ないってことでしょうかね」
レザードと同様に繭をいじり倒しつつ、ジオ。
本当になんなのでしょうかね、これ。
「ひとまず、どう考えても雑魚含みの処理は四人じゃ無理と思うし、場所分かってる残り2つは<塔>でレイド面子募集して突貫って方向でどうかね?」
地味に割れないかなぁ、と、繭を<右曲りのダンディ>で叩きつつ、メリウが提案。
ってぅぉぉ、なんか繭無くなったー!? どこいったー?
メリウの提案に、そだね、同意ー、と声が上がり。
とりあえず疲れて頭が働かなくなってきたので、今日のところは落ちることに。
「「「「おつかれー」」」」
試しのつもりで行ったら、案外美味しいトコロドリ出来たでござる、の巻だったとさ・・・。