成長強化も楽しいので 5
片手に剣をぶら下げて、シオンは眼前の巻藁にそれを叩き込んだ。
ビチっ、と、弾ける巻藁表面。
エフェクトを伴って再生するキモイ巻藁を前に、シオンはまるで動いた形跡もなく佇んでいた。
その隣で訓練をしていた侍組リーダーが、頭に?マークをつけて首をかしげた。
「シオンの旦那、今の、何? 魔法?」
指一本動かさずに巻藁に攻撃したよね、と続けるリーダー。
そんな彼に向かってシオンはニヤリと笑い。
「ワチキは基本、剣しか使わないぜ?」
と、再び巻藁を弾くシオン。
前と同様、動いたようには見えない。
おおっ!? と動じるリーダー。
そんな反応が楽しかったのか、上機嫌に灰剣士が言う。
「秘奥義の三、さっき完成したんだわ」
連撃の一、と、人差し指を立てる。
遠距離の二、と、中指を立てる。
玩具を目の前にした子供のように目を輝かせるリーダーに向かって、ピッと三本目に親指を立ててシオンが笑った。
「速度の、三だ」
レザードさん宙を舞う。
と言っても<飛行>魔法を覚えたわけでなく、直上に向かって<瞬間移動>して最大移動距離である1kmのジャンプをしたのだ。
当然、即時自由落下開始。
地表まで数秒、足元には目標物なし、強いて言うなら地面さんコンニチハ。
着弾、地響き、舞う土埃。
すわ、ダイナミック自殺か、と、思われた次の瞬間。
軽やかに月面宙返りで土埃から飛び出す小柄な影。
無傷のレザードが、音を消して着地した。
「うわぁ、超便利・・・っ」
先日の強制訓練で使用可能となった結界魔法の恐ろしさを体感し、レザードは珍しく大はしゃぎした。
<黒粘体>。
魔王的なスライムからのドロップ品にして、物理・魔法両面に強靭な防御力を誇る結界魔法のハイエンド的存在。
よくよく見れば、レザードの体を包む黒く薄く弾力ありそげな魔法的何かを確認できる。
しかし、ただ単に強力な結界という意味だけでは、レザードはこうも興奮しない。
真に恐ろしいこの魔法の効果。
それは。
「自然物から受けるダメージの無効化」
わかりやすく言うなら、純物理無効。
魔法武器以外での攻撃が効かなくなるのだ。
超チート。
入手条件が特殊(魔王スライムを少数人で高速撃破する)なだけに、持っているPCがそれ程居ない、という話をジオやメリウがしていた気もするが・・・。
なにはともあれ結論として。
レザードの好きなジャンプ攻撃が、自爆を恐れず使用可能となったわけで。
「よーし、パパもう手加減せずに空の槍使っちゃうぞぅー」とか言い出すのも無理はなく・・・。
というか、今まで手加減してたのかアレで?
フリーダム落下兵器と化したレザードは、調子にノッて周囲の地面を耕し尽くした・・・後に<塔>の農業従事者に若干感謝されたという。
ジオとメリウは、すでに神様ポイントで得られるものを取り尽くし、途方にくれていた。
能力値上昇などはほんの数回チャンスがあるだけなので、魔法を取り尽くした今ではもう、特殊能力を取るのみになり。
特殊能力に関しては、ゲーム的に強力なものはその神への入信が条件となり全てを網羅することは出来ず。
飲食不要などの微妙特殊能力を取ったのを最後に、二人は所持金の神様ポイント変換を打ち切った。
「さて、どうしたものですかな」
名古屋迷宮でハッチャケすぎて、結構な金額が唸ってますねぇ、と、ジオ。
一気に最下層までブッチギッた挙句に<北方の希望>まで見つけちゃう始末でしたしねぇ、と続ける。
「そだねぇ・・・かと言って、たいした出物があるわけでないし、ねぇ」
武器防具的に、拾いものと制作物でなんとでもなってるからなぁ、と、メリウ。
「そういえば真竹アーマーさん、バージョン8になったんでしたっけ?」
メリウの身につけるプレート状の補強外装に目を向けてジオが聞く。
「うん、博士が竹ナノチューブ繊維開発してくれたんで、それ使った」
強度的に、すでに+3相当なんだぜぃ、と自慢気なメリウ。
ちなみに博士、とは古代知識系だけを追求した<塔>技術部門のキチガ・・・天才である。
リアル研究系の人らしく、普段は研究所に引きこもり、ゲーム内では古代遺跡のロボット工場あたりに入り浸っている愉快系偏屈爺さんである。
茶飲み話で3時間拘束されたりする。
「竹に拘らなければ+4とかいってそうですな・・・」
と返すジオに、メリウがチッチッチ、と指を振って否定。
「拘らなかったら、ココまでこないもんだよ」
貫けば即ち道となり、ってやつだねぇ、と、メリウ。
「ふむ、そんなもんですかねぇ」
と、癒し一直線で酷いことになってる坊さんが思案顔。
「さて、脱線話はココまでにして・・・さっき物を買うってことで思いついたんだけど」
メリウがジオを掲示板方面へ誘いながら、言った。
「いっそ、買える1,2レベルの魔法を片っ端から全部買って覚えない? 確かジオのところの戒律、3レベル以上で裁判だったからそれ未満は平気だよね?」
ヤケ食いならぬヤケ買い、低階位魔法コレクションってことで。
「コレが終わったら、いよいよ能力値上がるまで成長なしという地獄期間の始まりですねぇ」
「ジオはまだ取ってない技能とか伸ばせるじゃん、自分はマジでそれコースなんだががが」
あとは神様系の新規バージョンアップ待ち~、と笑い合いつつ魔法購入。
結果、神官と侍の取得魔法数が大幅に水増しされ。
実に、今までの三倍ほどとなった。
大半が何に使うか分からないような魔法ばかりであったのだが。
数年後、それらが大活躍をしたりする。
何が役に立つかわからないねぇ、というお話。
見えざる秘奥義にて眼前の侍を叩き斬らんとするシオン。
左右の愛剣が容赦なく躊躇なく振るわれた。
それを、あろうことか素手で叩き落とし、侍組リーダーが一歩踏み込む。
「うおお、怖かったァァァァ」
勘を頼りにタイミングだけ合わせた前方防御結界が砕け散る。
その魔力光の破片雨をぶち抜いて一歩踏み込むリーダー。
一瞬で距離を零近辺の密着状態に持っていく。
「ちぃ、間合い潰しかっ」
たまらず距離を空けようと左に飛ぶシオン。
辛うじて回避が間に合ったか、と思われた瞬間。
感じるはずのない背筋を刺す冷気を、感じた。
視界に入る、リーダーの刃の切先。
捕捉、されている!
「秘奥義<震突>」
強引に踏み込み角度を変え、一歩半の距離を潰した突進力を乗せた突きが、来た。
構成的に先の先、突き、後は一撃限りの踏み込み辺りだろうか。
必殺を期した、対人剣かよ!
「南無三っ」
背筋に走る寒気の導きに従って、シオンは鳩尾付近を剣二本でクロスブロック。
ゾッとする重量感を感じる金属衝突音を耳に、シオンは吹っ飛ばされた。
「うお、殺ったと思ったのに」
突きの姿勢でピタリと止まったリーダーが口笛を吹きシオンを賞賛し。
「ワチキも殺られたと思ったわー」
十字双剣受けの姿勢で着地し、そのまま両足で踏ん張って勢いを潰したシオンが軽く息を吐く。
武器がヤワなら、色々と部品にされていた実感があった。
しばし睨み合うと、二人は決闘モードを解く。
休憩がてらの剣術合戦が、やけに熱の篭ったものになってしまった。
なんか息抜きのつもりがガチになってしまった気がするなぁ、と二人して苦笑い。
「ってか、魔法ズルくないかー? ワチキは剣だけだったのによぅー」
ブーブー、と親指を下にリーダーを非難するシオン。
「あー、悪い旦那。 どう考えても<速度の三>は技術じゃ防げんからつい使っちまったわー」
はははー、ごめんなー、と軽い調子でリーダーが言う。
「まぁいいかぁ、今度やる時は即時雷精剣化<重剣>で行くから」
ゲェ、どうやって防げとアレを、と呻くリーダーを後目に、さて訓練の続き続き・・・と巻藁に向き直った所で。
ゾクリ、と、本日数度目となる背筋の寒気。
慌てて後方に飛んだシオンの目の前、巻藁が立っていた場所が、爆散した。
吹き飛ぶ巻藁、舞い上がる土埃。
そしてその中から聞こえる、仲間の声。
「楽しそうなことやってるじゃん、俺も混ぜてくれよ」
槍を天秤棒のように担いだレザードが、土煙の中からノソッと、現れた。
実に、その数、七人。
「「・・・おおっ!?」」
驚く二人をよそに、7Ch音声でレザードが宣戦を布告した。
「「「「「「「ついに分身を上げ終わったんで・・・実験台になって?」」」」」」」
凄いイイ笑顔で一方的に会話を切ると。
レザードは計七体で二人を包囲し、一斉に踊りかかった。
何かクエストでも行こう、と誘いにジオとメリウがその場についた時、グッタリ地面に倒れるシオンとリーダーを他所に、どこ吹く風で手を振ってくるレザードが居たという。
・・・分身おっかねぇ、と言う話で。
「で、お前さんらは何やってきたん?」
「「魔法コレクション」」
「え?」
「「きゅう」」
そんなこんなで、今回はここまで。
お疲れ様でした。
さぁ、そろそろ始めて良いものか。
見て見ぬふりを続けたアレ。
ネトゲっぽいもの(仮) 最終クエストも楽しいもので
コツコツ刻むか一気に書いて上げるかは、気分次第っ。 ノシ