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脇道遊びも楽しいもので 1

幼い頃は、日本刀に憧れた。

近接兵器としての切断能力、美しさ、妖刀などの魔的な雰囲気。

製法、形状、等、等。

こんな武器が最強でないはずがない、とすら思った。

しかし。

今現在考えるに、槍などの長物を抜かして最強を名乗れる近接武器を思い浮かべてみればそれは。


「鈍器、じゃないかなぁ、と」

メリウが、砲丸状の先端を持つ鉄棒を鍛えつつ、言った。


「ほう、そのココロは?」

久々に剣術訓練を堪能した後に、暇つぶし的にメリウの作業を眺めていたシオンが聞く。

その声に小さく頷くメリウが、続ける。


「一つ、破壊力。 防御の薄い場所は言うに及ばず、厚い部分に当たっても相手を損傷せしめる」

細かな部分が気にくわず、精密生産にて形状をいじりつつ、メリウ。

作業の手を休めずに、持論を続ける。


「一つ、堅牢性。 ぶっちゃけ鋭角のない鉄の塊なので、頑丈。 かつ、少しぐらいの欠損はモノともしない」

メリウはブン、と、重心確認のためにそれを一振り。

重心位置の関係上、振りやすく止めにくいなぁ、と呟く。


「ふむ、確かに。 だが、その二点で最強、は言いすぎじゃね?」

手首をこまめに捻って振っていた試作メイスを止めたメリウに、シオンが疑問を呈す。

シオンの言葉を受けて、メリウが立ち上がる。


「うん、でも結局はどこを殴っても大ダメージ、極端に壊れにくいという二点以外にウリが必要ないってことに気づいてさ」

単純に、痛くて頑丈。

刀剣類にまとわりつく切れるけど刃が欠けやすいなどの欠点が無く、少しくらい傷ついたからといって何が変わるわけでない頼もしさ。


「強いて言うなら、高弾力の装甲を持つ相手に不利、とかなんだろうが・・・」

例えばゴムタイヤをぶっ叩くー、みたいな感じの相手には刃物のほうが有利だよねぇ、とシオン。


「うん、そうだねぇ。 でも、ぶっちゃけそんな敵・・・思い浮かばん」

相性問題はどういう場面でもついて回るだろうし、そこら辺はスルーでもいいかなぁ、とメリウ。


「あとは、武器のコンセプトが単純だから、といって使用方法も雑だとは限らない、とかかなぁ」

メリウは、イメージ的に力任せに考えなく振り下ろす使い方しかイメージされないのがもったいないよね、と続ける。


「考えなしに使っても単純に強い鈍器を、流派技能で効率よく使ったらどの位洒落にならないのか、とかか?」

どこかに鈍器マスターな人がいれば見せてもらえるんだけどねぇ・・・こういうゲームじゃ人気ないよねー、と、二人して頷き合い。


二人して<塔>に、向かった。




いねぇ。

鈍器持ってる人、超いねぇ。

がっかりだ!

シオンとメリウがため息を漏らす。

道行く人々、特に近接系押しと思われる連中は、皆刃物を装備していた。

サブ武器として持っている人くらいいるかなぁ、と思ったのだが、単純な話、同じ流派技能で扱える得物を選ぶのは当たり前だよねぇ、という結論に達した。


「うだー、いねぇかー」

くそぅ、未知の技術が見られると思ったのに、とガッカリするシオン。


「装備規制のある坊さん関係が最後の希望か・・・」

戒律次第によっては、確か刃物禁止だったはず・・・と、メリウ。

そして<塔>で坊さん関係といえば。


「入口辺りに戻ろう。 あそこならきっと、掃いて捨てるほどいるはず」

辻ヒーラーさん達に、大いに期待だっ。

シオンとメリウは、入口に向かって駆け出した。


(中略)がっかりだ!

またしても二人してため息を付く結果に。

連中、どっかのクソ坊主の影響か、皆モンク系でやんの・・・つまり、素手最高派。

むむむ、どうしてくれよう・・・いっそ、世界旅行に出るべきか・・・。

二人して旅支度を、とか言い出しかけたその矢先。


「ういーっす、ばんわー」

器用さお化けのレザードがログイン。

挙動不審な二人と合流し、なに変なメーター貯めてるのか訊き出す。

鈍器最強説浮上につき、実物拝見したいとな?


「で、鈍器もってる人探したんだけど、いないんだわこれがー」

手製のメイスをぶんぶか振り回しつつメリウが眉根を潜めて地団駄。


「本気でいねぇんだよなぁ。 どいつもこいつも刃物に逃げやがって・・・チッ」

シオンが毒づくが、貴様の得物も刃物だよね。


「んー、居ないんなら、いっそ自分でやりゃいいんじゃね?」

最近、例の魔法と永久化でクエストも危なげないし、一息入れる意味で皆して遊んでみるってことでどうよ、とレザードが言い募り。

数分後合流したジオも巻き込んでの、第一回鈍器で遊ぼう会が始まった。




初心者プレイは楽しいものでリターンズ。

久々のゼロスタートなスキル取得作業も、楽しいものでー。

皆してお手製メイスで巻藁をぶん殴る簡単なお仕事です。

ミチィ、とかメキィ、とかの愉快な音が木霊する威容な雰囲気の訓練場が、出来上がっていた。


「攻撃しても相手が千切れないって、素手以外だと新鮮でいいなぁ」

早くもスキル取得して攻撃を外さなくなったレザードが、小気味良く巻き藁を殴打し続ける。

適当に取った流派で連続攻撃し、その最後にタメを伴った強撃を叩きこむ。

相当頑丈なはずの巻藁オブジェクトが、くの字に軋む。


「あー、結構扱い難しいけど、コツ掴むと力いらないんだなぁ」

振り方次第でスタミナの瞬間消費が大きく変わることに気づき、それをもって力が要らないと評すシオン。

こちらもスキルを手に入れ、攻撃を外す事が無くなった。

まだ流派技能は試さず、通常モーションの繋ぎなどを確認している模様。


「むー、取得するまでと、してからの成長度合い差が激しいですなぁ相変わらずっ」

空を切る鈍器に辟易しつつジオが構えを戻す。

早く上がってくれ熟練度メーターっ、と、素で叫びながらメイスをぶん回す。


「ゼロからと思ってたら、いつのまにやら鈍器スキル持っていた件について」

メリウ自身の所持レベルから推測するに、どうやら<右曲りのダンディ>が鈍器判定も持っていたらしく。

だいたい限界値の半分位あった。

現在はレザードと同じく流派技能にて巻藁連続殴打中。


「ふむ、何で鈍器が人気ないか分かった」

巻藁マクロ入れて休憩がてら新聞を読み始めたシオンが、すごく微妙な表情をした。


「ん、どんな理由?」

小気味良くリズムを刻んで巻藁を軋ませながらレザードが先を促し。

他二人も茶々を入れずに耳を澄ます。


「うん、タイムスタンプからなんだけどさ。 皆が一緒の流派とったじゃん、新しいの。 これが最近最新の、美味しいところどりの奴なんだけど」

と、一息切ってから。


「これ以前の鈍器流派、どれもこれもクソ使えない組み合わせしかないんだわ」

これの流派天才とか引いたら泣くに泣けないだろうねぇ、と、地味に不遇流派の天才シオンが同情する。


「あー、なるほど。 武器自体不人気イメージ、流派使い物にならず、じゃ、そりゃ一部マニアックな人専用になるか」

しかも、ほとんどの店売り鈍器は高重量、初心者にはオススメできないと来たもんだしね、とメリウ。

正直、流行る理由が、ない。


「その点、今のウチらは筋力なんか結構人外入ってますしねぇ。 叩き上げで」

長い間このマゾゲーやってますからねぇ、と、少し遠い目でジオが自分達のマニアックさを笑いつつ。


「んじゃ良い流派と言うか、ようやく使い物になるのが実装されたってことで、今後は増えていくのかねぇ、鈍器使い」

やってみると面白いし、と、レザード。


「いや、どうだろう。 ぶっちゃけ暇を持て余さない限り、メインスキルの修行するか魔法を取るかの二択な気がする」

古参の人とかだったら、まず間違いなくそうするだろうね、とシオンが答え、他のメンツも同意。

余計なことするんだったら尖れ! がこのゲームだしねぇ。

でも、そればっかりだと息が詰まるのも事実。


「ってことは、流れ的に鈍器使いみたら熟練者か初心者の二択なんだね」

って、それじゃ中級者が居ないってだけでなんの目安にもならねぇ、とメリウ。


「ままま、そこら辺はほら、防具とか他装備で判断すれば・・・お、ようやくスキル取得っ」

きっと熟練者ならいい防具か、もしくは武器持ってますって、とジオ。


「おお、おめでとうー。 やっぱり流派で連続攻撃とかする方が上がりやすくなるねぇ」

ジオの熟練度ゲージがギュンギュン溜まっていくさまを見つつ、シオン。


こうしてしばし平和に鈍器修行が進んで行って。

それぞれ程々なレベルになった時点で日付が変わる音がした。


「っと、いい時間だね。 ワチキ落ちるわー」

シオンの言葉に、おつかれー、俺もー、と、解散ムード。


「んでは、今日はココらへんでー、おつかれっ」

「「「おつかれー」」」


かくして、鈍器オンライン1日目、ログアウト。

お疲れ様でした。




と言ったところで、本日はこれまで。

また、そのうちに。 ノシ

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