成長強化も楽しいもので 4
小鬼さんの連隊を処理した翌日。
いつもの丸テーブルを囲んでの報酬確認タイム。
・・・。
皆、無言。
「重量で言えば、とてつもなく重い報酬なのですが・・・」
ジオが呆れ返った、とばかりに吐き捨てる。
「まぁ、多くても相手は小鬼さんだしなぁ」
さもありなん、とシオン。
無限袋がなかったら破棄レベルじゃねぇかコレ、とも。
「あー、結局はこんなオチだよ」
俺ツエエー、を実感するだけのクエだったんじゃね、とレザードが欠伸し。
「で、結局どうするかね・・・この銅貨のチョモランマ」
3割ほど出しただけでテーブルからこぼれ落ちた今回のクエスト報酬を再びしまいつつメリウ。
結局、今回得たもの。
一つは、昔とは違うのだよ昔とは! という戦闘能力の実感。
一つは謎称号、一騎当千。(効果:不明ってなんなのさ・・・)
そして最後に。
塵も積もれば山となる、と言った感の。
銅貨、四万枚。
金貨換算で、四百枚。
アイテムドロップ運にもよるが、名古屋4層の1部屋分(所要時間5分ほど)の稼ぎであった。
「・・・ちと、両替行ってきますわさ」
期待しては居なかったけど、と、しっかり肩を落としつつメリウが<塔>へ飛んでった。
神様ポイント0.1ぶんの報酬を各自財布にぶち込み。
さて魔法訓練でもしようか、と言った段になり。
「空撃ちするだけじゃもったいないし、いっそ小鬼連隊クエで訓練しちまおうぜー」
スタート位置で結界永久化して、延々と魔法撃てばイイじゃん、とシオンが言い出した。
ああ、とか、おお、と声が上がり。
またもや小鬼さん達に、殲滅の危機が訪れた。
雷神剣を地面に突き刺し、その柄頭に広げた手をかざすシオン。
先日入手した中で一番詠唱短い彼の広範囲殲滅魔法が、雷神剣の助力により発動した。
迫り来る小鬼集団に空から襲いかかる雷。
雲なき天空に広がった魔方陣より現れ無慈悲に降り注ぐ大樹の如きそれは、根を伸ばすがごとくに細分化し、地表に広がった小鬼達を雷光速で圧し潰した。
<轟雷>。
現状、発動するか否かは半々といったところ。
ついでに言うなら、備えてないと轟音で耳が死ぬ。
「「「ぬわー!?」」」三人死んだ。
すまんね?
「派手に行くなー」
耳がキーンてね、キーンて、と言いつつ。
降り注ぐ雷の雨に阿鼻叫喚の小鬼軍団を眺めていたレザードの詠唱も、終わりを告げる。
レザードの周囲に現れる、人一人ほどの大きさの火球。
しかもそれは一つでなく、十を超える。
火球達はレザードが指し示す先、小鬼たちの集団内へ踊りかかる。
飛び飛びに集団内に飲まれていく火球。
数瞬後、鈍い音とともに。
灼熱の半球が、そこかしこに、咲いた。
<群火球>。
一つ一つが魔法階位3の<火球>に匹敵する破壊力を有する、大人げない魔法である。
現状での成功確率は30%程らしいが、今回は運良く発動した模様。
「レザードも充分に派手でしょうに・・・」
苦笑いを顔に貼り付けつつ、ジオの魔法が完成する。
両の掌底を合わせ、気合と共に突き出されるそれは、光。
イメージ的には、か○はめ波。
射出され続けるその光線は、ジオの導きに従い右から左へ。
眼前に迫っていた小鬼津波を、文字通り薙ぎ払う。
<聖爆>。
「流石かめ○め波」「かめは○波うらやまー」「おいぃ、○めはめ波は反則だろう常考」大人気なようです。
属性がかち合ったこともあり、発動確率トップの6割。
坊さんは、格が違った・・・。
「・・・糞長い詠唱してる間に、ほとんど小鬼さん達が壊滅してる件について・・・」
大仰な身振り手振りを交えつつ、ようやく完成するメリウの魔法。
発動率二割を切る、殆ど出ねぇよウワーンな感じの魔法。
しかも、現状の能力値では血反吐吐ききっても最高威力出せないという鬼のような消費を誇る大食い。
運良く完成、発動したそれは、メリウ達の背後に巨大な門を出現させる。
ぎぃぃ、と嫌な音をさせて内開きに開いた扉から現れる、巨大な竜の首、三本。
いつものメンツの頭上をまたぐように伸びたその口から放たれる、光とも炎とも見て取れるブレス。
<竜咆>。
異界の竜に依頼して一息吐いてもらうという、ある意味、後腐れない召喚魔法、と言えなくもない。
扉を開く対価が、ちょっと重いけど、使うのがギャグキャラだから色々な問題は解決したも同然。
前三名の魔法でほぼ壊滅状態だった小鬼さんたちを薙ぎ払い尽くす竜の咆哮を確認すると、メリウは派手に血を吐いた。
ぴゅーっと。
そんな感じの大虐殺を幾度か重ね。
じわじわと上がってゆく魔法熟練度、たまに上がる能力値。
小鬼さん達への理不尽な暴力は、皆の熟練度が上がり切るまで続いた。
溜まった銅貨は・・・うん、なんだ。
桁数表示、そんなところまであったんだ、的な枚数になったとだけ、言っておく事とする。
本当に、塵も積もれば山となる・・・。
<我を倒したところで、第二第三の我が・・・>
名古屋五層の魔王スライムを、無事討伐。
一瞬で焼き払い切ってしまえばデカかろうと無問題よのぅ。
でも、ぶっちゃけ他の方々はどうやって倒したんだろう・・・近接組ばかりの構成とかだと、どう考えても詰むはずだが・・・。
首をかしげながらドロップした宝箱を漁り、中身を鑑定もせずに適当に分配して無限袋にぶち込み六層へと足を運んだいつものメンツ。
はるかな後日、迷宮を完全攻略したパーティの人達に聞いたところによれば「え、あのでかいスライム? 索敵範囲に引っかからないように壁際移動すればスルーできるよアレ」とのことで。
それを聞いた時の面子の表情は、なんというか、その、何だ、どんまい。
かくして、いつもの面子を縛り付けていた強制魔法訓練は解除され。
普段通りの好き勝手放題の日々が、戻ってきた。
が。
「ねぇ、君たち・・・永久化、覚えない?」
ヒャッハー、自由、自由ダァー、と、自分の好き勝手を尽くそうと移動を始めたメンツをひとまず呼び止め正座させ、メリウが言った。
BGMはアンイン○トール。
「「「ええー、めんどくせぇー」」」
口をそろえてブーイングする三人。
だまらっしゃい。
「もう腕輪追加装備する隙間すらないレベルなんで、これ以上ワガママ言うようなら永久化を現時点で切る」
無論もう永久化してやらん、とペイっと正座する三人の前に投げ捨てられるMP腕輪。
かくして、魔法訓練続行の運びになった。
訓練ポイントもったいねー、とホザくシオンとレザードに対し舌打ちするジオとメリウ。
あーあー、いいですねぇ上限が無かったり高すぎて中々届かない連中はー、と能力凡才組二人猛毒を吐きつつ。
「上がったー、イチ抜けたァァァーーーー」
使用出来るラインまで熟練度を上げたシオンが、リードの切れた猛犬のように猛ダッシュで逃げ去った。
「あの野郎・・・羨ましい・・・」
レザードさんはまだあと2レベルは上げてもらいまーす。
「ウチはもう少しで限界レベルですなぁ」
これでこの前の魔王スライム討伐報酬を鍛え上げれば・・・ククク、と、悪い笑顔。
「がんばりー。 自分はスライム産の愉快結界魔法をジオに先駆けて修練中っ」
ぶっちゃけると、野望その2なんて無かった、というレベルのものが手に入っていた。
しかも各人に一つずつ。
皆に永久化取得を強制したのは、ほぼコレを見たからである。
「うぬー、うぬー、MP回復プリーズ」
レザードがコメカミに青筋立てて奮闘中。
「ほいほい、癒されろーぃ」
瞬時反応するジオ。
サンキュー、と満ち足りたMPを湯水のごとくに消費しだすレザード。
そんな感じで、第2次魔法訓練の日々が過ぎていく。
「さて。 では、コレより第三次魔法訓練を開始する」
「「「・・・はーい」」」
コレの終了により、いつものメンツは対NPCに対して「我が道に敵なし」状態となるのだが。
それは次回以降の、お話。
そんなこんなで、今回はこれまで。
お疲れ様でした。
「「「「かゆ・・・うま・・・」」」」
ただひたすら同じ事やるって、拷問だよね?
では、またそのうちに。 ノシ