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手当たり次第も楽しいもので 2

リザードマンがドロップした鋼の槍を訓練用巻藁に突き立てようとした。

槍。

兵器の王、と呼ばれる所以は、ひとえにその距離によるアドバンテージ。

これまでの格闘戦闘に比べ、近接射程としては人三人分程度の利を得る事になる。


「先んずれば即ちこれを制し・・・だったっけ?」


小刻みに槍をしごき、決して軽量ではない槍の重量を力技でなく人間突破した器用さで辛うじて扱う。

技能無し状態でもそれなりに形になる辺り、限界突破の能力値恩恵は偉大である。

数発外して1回当たりという頻度で、小気味よい音を立てる巻藁。

レザードの所持している修行期間は、0ポイント。

さらに言うなら、金も無し。

色男、金も時間も無かりけり。

知り合いに槍技能持ちがいないためギルドNPCに習うのが一般的ではあるが金と時間共に無い袖は振れず。

仕方なくストイックに剣術一点豪華主義を貫くシオンに倣い、皆が揃うまでの暇つぶしも兼ねての槍技能修行を行うハメになるレザードであった。

現在時刻21:11、修行開始から1時間が経過している。

コツコツ貯まった熟練度バーが、ついに終点にたどり着く。

味気ない電子音にてレベルアップを示し、レザードはようやく槍技能無しからの脱却を果たす。


「お、おおお。 ここまで変わるかー」


技能を1得た途端に突きの照準が定まり出し、サクサクサクサク、と、先程までの苦戦が嘘のように狙い通りに巻藁を蜂の巣にしていく。

技能無しのマイナス補正の恐ろしさを実感しつつ、ようやくスタートラインに立った感覚が身を包む。

まだ実戦で使うには心もとない上に、流派技能も無いために連続攻撃すらままならないという状態であるが、それは今後の楽しみと言うことで良しとする。


「んーっ、あー、つっかれたー」


ビールをチビチビ飲みながら、レザードの中の人がコリ始めた肩をグルグルと回す。

今日は集まらんのかなー、なんて独りごちたのを聞きつけたが如きタイミングで、


「こんばんわー、お一人ですかなー?」

坊さんことジオがログイン。


「ういー、こばわー。 シオンとメリウはまだー。 暇過ぎて未来のメイン武器訓練してたー」

キューッとビールの残りをあおり、ぷはぁーと来たもんだ。


「ウマそうな音させてますなぁ、キィー」


「琥珀エ○スの時期となりました。 (゜д゜)ウマー」


「酒ですかい・・・悔しいからウチも開けちゃう。 ビクンビクン」


「準備いいなっ。 飲む気満々だったんじゃないか」


「ふふふ、一升瓶ワインというのがありましてな?」


「なにそれ怖い」

あんまり酒に強くないんだから程々にせーよー、と言いつつ二本目のビールをゴクッとな。

ツマミも買って来るべきだったっ・・・


「あー、そういや坊さんの方は最近どうよー? 新しい魔法とか取るん?」


「ゴクッゴクッ・・・ぷはぁ。 えー、あー、はいなー? 魔法? ああ、取りましたよー強めの回復とか汚れ落とす洗濯魔法とか」

変なところで細かいゲームなので、重箱の隅をつつくようなニッチな魔法もあるんですよねぇ。


「よく修行期間残ってるなー。 俺カツカツ過ぎて訓練所にカンヅメだったぜー」


「レザードは元の能力値が高いからスキルの限界も高いじゃないですか。 そりゃ限界まで取れば修行期間なんて残らんでしょう」

ウチやメリウの凡人コンビは天井低いから横に広がるしか無いんですぜー、とジオ。

人間内と人外の差というかなんというか。


「あっれ? ジオって体力限界突破じゃなかったっけ?」


「マラソンとかのスキル取ってどうしろと・・・?」

ウチ、別に長距離走するために神官やってるわけじゃないんですが・・・


「あー、そかそか。 そりゃ取りたいスキルのところが高くないと意味ないわなぁ。 俺ラッキーだったんだなぁ」


「そーですなー、現状近接職で必須なのはまず器用さですからねー」

次いで筋力。

一番下は何に使うのかいまいちわからない表現力。


「で、魔法使い系が知性と意志だっけ?」


「そうですそうです。 魔力と魔法制御のスキルに関わってきますからねぇ、高ければ高いほどいいですねー」

早くそっちのほうの限界を突破したいですねぇ。


「どうやるんだっけ、普通の場合の限界突破」


「んー、たしか能力の限界突破方法は決定成功・致命失敗時のランダム判定にかけるか、お金と忠誠点使って神様に上げてもらうか、ですかねぇ。 ハードル高いですな」

少なくとも致命失敗フラグは立てんでしょう、死亡率が高すぎて。


「手堅いのは神様関係のポイントで買う感じのやつかー。 遠かったよな、あれ」


「遠いですなぁ。 幸いウチは神様関係のカルト所属ですから若干ヌルイみたいですが」


「坊さん特権だよなぁ。 信長あたりに焼き討ちされればいいのに」


「ちょっ」

ピューッと吹きそうになるから勘弁して下さい。


「んー、しかし後二人遅いなー。 今日は入らんのかな?」


「どうでしょうねー、まぁいつもの時間まで待って来なかったら他のことやりましょう」


結局その日は、日付が変わる辺りで酔っ払ったメリウ(ウィスキー半瓶空けたらしい)が顔だけ出して終わった。

シオンからは急な仕事入ったファック、というメールがいつの間にか届いていたが、酔っ払い三人がそのメールに気がついたのは夜も開けて朝過ぎて昼前の事だった。



そしてその夜。

時刻20:00、珍しく夜早めに4人集まることに成功。

前に集まったのがリザードマン襲撃の時だったので、かれこれ1週間ぶりであった。


「うっし、んじゃ久々に実戦やね」

シオン、殺る気満々。

キャラクターの顔には前回報酬の灰色仮面。


「なんだかんだで育ってきてるから楽しみだ」

槍を肩に、レザードも殺る気満々。


「ウチも色々と新魔法仕入れました~。 死なない程度に怪我してくれればお見せ出来ます~」

ジオは味方をヤる気満々・・・おいィ癒し系ェ。


「・・・自分はクライアントバグってたらしくて、今週だけで立てた覚えのないフラグが復帰してて致命失敗10回くらい引いたんだががが」

メリウはゲーム本体(世界)に殺られかけていた。

死んでないからきっと運がいい。


「あー、致命フラグが入っちゃう不具合って昨日だか直ったんだっけ?」

流石に少々気の毒で、ゾンビのように虚ろに笑うメリウから皆が目を背ける。


「ういういー、これで死んでた人からは脅迫文じみた抗議が行ったらしいねー。 自分は生きてるから安いががが」

実はこのバグのおかげで器用と意思の能力限界を突破できてたりするけどまだ黙っておこう、と、ヒヨるメリウ。

結果オーライな幸運続きで、どこかで反動がきそうな気がしてるので、内心ビクビクしている。


「でもまぁ、生きててなにより。 んじゃ適当にクエスト受けちゃうぜー」


「「「OKリーダー」」」



燃え盛る村を舞台に、武装集団同士がぶつかり合っていた。

戦闘開始から数分を経てなお、戦闘は続いていた。

今までの怪物討伐より厄介なクエスト。

即ち、対人間戦。

複数の死体の転がる中、なお立つ二つの集団。

一方は前衛2後衛1、別行動のシオンを除くPCパーティ。

もう一方は前衛残り5の革鎧集団、NPCの山賊パーティ。


先陣を切って飛び出した文字通りの一番槍レザードが新技、ジャンプ降下を披露。

スタミナを消費し身長の3倍もの跳躍を果たすと槍を突き出し降下急襲、落下ダメージを上乗せされた槍が健気にも受け流しを試みる山賊の得物諸共砕き貫く。

山賊を貫通して地面に縫いつけた槍から手を離し、着地の衝撃を体全体の弛緩で分散吸収。

しゃがむような格好で動きの止まったレザードに攻撃が集中する。

人の集団の恐ろしさ、つまりは連携行動による集中攻撃。

突出した速さの一番槍は、その速さ故に孤立した形になる。

山賊四人からの各二回、計八回攻撃。

回避不可。

得物もなく素手での受け流しは無きに等しい。

しゃがみ状態のため足でのブロックも不可。

連戦状態で結界魔法用のMPもすでに無し。


「あ、やべ、死んだかも」


一縷の希望にすがって素手での受け流しを試みるレザード。

もちろん、受け流しきれるわけもなく。

真っ当な戦闘での真っ当な大ダメージを、パーティ内最速男が無謀の代償に、受け取ることとなった。


「間に・・・合えっ!」

熱線魔法を回復魔法に変更し、血まみれレザードに打ち込むべく走りこんだメリウ。

しかし、運命の女神(前髪しか無いという噂の逆おしゃれ系、有り体に言えば変質者じゃね?)はあっさりそっぽを向いた。

メリウの腕が内側から破裂。

発動失敗の逆転現象であった。

ってか毎回思うけどこのゲームグロいよ。


レザードのHPゲージはすでに数ドット、出血による継続ダメージでその生命はあと数秒。

うおお間に合わなかった、と、メリウが歯を食いしばったその刹那。

白い巨大な光の腕が山なりにメリウを飛び越えてレザードに突き刺さった。


「え、何今の、敵魔法使いの増援!?」

念入りに止めかよ! と、レザードの中の人が叫ぶ。

魔法を受けたレザードのHPバーが、真っ白に輝く。

そして。

時間を逆回転させるように、まさかの超回復。

振り返れば、左腕を突き出すようなポーズでドヤ顔を浮かべるジオ。


「どうよウチの新魔法~ 崇めてもいいぞよ~」



一方、別行動をとったシオンは、山賊の頭らしい重装備のNPCと一騎打ちを演じていた。

まあ、本当は別行動というよりはむしろ分断されただけで、好き好んで孤立したわけではない。

敵は騎士崩れなのか、その装備は整った形の黒い鉄鎧、そしてシオンと同じ得物、片手半剣。

ただし、種類が、というだけであからさまにその剣は魔法の輝きを放っている。

魔法の剣、である。

つまり。


「勝てばわちきのモノってことでイイんだよ・・・な!」


斬りかかってきた敵に対し、交差法的に踏み込むシオン。

その容赦ない踏み込みからの必殺5連撃。

受け流そうとする敵を睨めつけ、

今までならこれで倒れない敵は居なかった。

そう、今までは。

過去形。

受け流しきれない分の軽くないダメージを負いながらも未だ健在な、眼前の敵。

今までの必殺は、今ここに只の連続攻撃という小手先技に堕した。

仮に目の前の敵が持つその剣がシオンのものと全く同等だったなら、恐らく必殺技の看板を下ろすことはもうしばらくなかったであろう。

つまりは、単純に装備の差。

魔法の武器は魔法の武器でしか壊せない。

そして、通常武器は魔法の武器からダメージを、受ける。


ピシッ


シオンの剣から滲み出した鈍色の音。

武器の完全破壊が、近い。

次で決めねば、恐らく武器を失い、結論として負ける。


「防具替わり程度に着けてきたけど、しゃーない、使うぞグレイマスク!」


ランダム報酬を出すサイコロを迷わず振って出てきた灰色の仮面。

ナイトマスク・グレイ。

魔法の品である顔防具、その秘められた力は。


<固有能力発動:灰騎士権能>

<能力値・スキル上昇:倍化>

<防御特性:幽体化レベル2>


「レアアイテムだからって強すぎなんだが・・・・」


応報とばかりに4連撃を打ち込んでくる敵の白刃は、シオンの体を透過。

灰騎士防御の権能、幽体化によりレベル2以下の魔法による攻撃は受けるに能わず。

そして、スローモーションじみて構えるシオンの剣が、灰騎士攻撃権能に倍加された暴力を、撃ち出す。

実に、通常時の倍以上、13回の連撃。

叩きつけられる鋼の連音、途切れず歪まず押し響く。

途中、事切れていた騎士崩れの山賊は暴風に翻弄される木の葉のごとく踊り、技能終了後の破壊判定にて粉砕したシオンの剣とともに、塵と消えた。

使い手は失ったが輝きは衰えぬ魔法の剣を一振り残して。


<魔法の片手半剣+2を手に入れました>



血飛沫をまき散らしながら、山賊最後の一人が地面をのたうち回る。


「「死ね死ね死ねーい」」


返り血と自身の血で外ヅラフルブラッドなレザード及びメリウが、それに向けて丁寧すぎる止めを刺した。

うへへへ、どっちが悪モンだかわからなかろう、はぁはぁはぁ。

真っ赤に染まったお互いが三下っぽくニタニタ笑いつつ、ハイタッチ。

と、同時に力尽きるように膝から崩れ落ちた。


「休憩しなけりゃ死ぬる~」

地べたに大の字、うつぶせ状態でスタミナ回復を図るレザード。


「今回は、やばかった・・・数の暴力恐るべし」

orz 状態で休憩を取るメリウ。


「お疲れ様~、追加で山賊来てたら終わってましたなー」

きっちりと後衛をこなしたジオが、汚れひとつ怪我ひとつないニコヤカさで二人に歩み寄る。

MPが極端に下がったためか、キャラの顔色が青を通り越して白っぽくなっている。


「なんとかクエストは達成になったみたいですな~、シオン一人にボス任せちゃいましたけど、何とかなってよかったですな」


「クエスト開始早々流れるように分断された辺りに強制イベント臭さを感じるねぇ」


「これが生まれ関係の強敵フラグなのかね、俺の今後は平気なんだろうか」


などと雑魚掃除組三人がダベっているその場に、一目で魔法っぽいエフェクトを纏った剣を肩に担いで本日の主役登場。


「うっわ、お前さんらグチャグチャじゃんか、よく生きてたな」


「そちらも無事で何より~ なんかいい物も拾ったみたいですねぇ」


「ああ、拾ったというか、奪った。 マスクがなかったらどうなっていたか分からんね」

愛剣さんは砕けちまうしさー、と、若干悔しげなシオンが肩をすくめる。


「でもま、新しい愛剣さんも出来たことだし結果オーライなんじゃない? 性能どんなん?」

orz状態から胡座に移行してシオンに向き直ったメリウが興味深そうに剣を見る。

曲刀だったら 殺 し て で も う ば い と る とか言いたかった。


「あー、なんとびっくり+2魔剣。 そろそろ普通の武器じゃ全力出せなくなってたから有難すぎる」

魔法の武器は+数値を超えるレベルのモノからの衝撃に対してのみ、損耗判定が発生する。

通常武器を使用し、普段から武器耐久度がガリガリ減る高レベル流派連続攻撃が主力のシオンにとっては、まさに宝剣である。


「シオン引きいいなー、明日あたり死ぬんじゃね?」

ようやく五体投地から立ち上がれるだけのスタミナ回復を果たしたレザードが、無意味にネックスプリングでヌルヌルと飛び起きた。


「さて、それではイイ時間になっちゃいましたし、NPC村長に話して報酬貰って帰りましょう~」

ほん、と拍手一つたたき、ジオが村の外に向かって歩き出す。


分断される前のエリア入口付近、クエスト依頼者NPCに辿りつくまで、四人は数分の時間を要した。


「クエスト終了っ、お疲れさまでした~。 報酬分配はまた今度でいいかね?」


「「「OK」」」



おつかれさまでした。


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