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パワープレイも楽しいもので 1

一騎当千計画。

いかにして千の敵を単騎で倒すか、という妄想から始まった脳内計画。

シミュレーションしていたのは、小鬼さん千匹をいかにして倒しきるかという状況であった。

当初は、いつものメンツ内でああでもないこうでもない、と議論されるに至ったバカ話の一つであったのだが。


「なんぞこのクエスト。 小鬼連隊、町へ?」

なんか昔、似たような題名のクエストあったなぁ、と懐かしく思いつつシオンが言う。


<塔>掲示板前にて、いつものメンツが名古屋ハムスターの心的疲労を癒そうと適当な町クエストを探している時に目に止まったソレ。

実に、推奨人数、不明ときやがったもので。


「えーっと、なにこれ、クエストの名前を借りたイベントじゃね?」

確か連隊って、最大5000人くらいの集団だよね、とレザード。


「そうですなぁ。 えーっと、班、分隊、小隊、中隊、大隊、と続いての連隊、ですか~。 結構人数多いんですなぁ」

で、この上が旅団、師団、軍団と続くわけですかー、ほぅ~、とwiki見ながら呟くジオ。

ちなみに、コレによると軍団は3万以上、らしい。


「んー、でも、地味にレギュラー枠だし・・・運営側からの挑戦的な何かなんじゃないかねー」

相手も小鬼さん達だけみたいだし、とメリウ。


「えーっと、このメンツで受けるとすると・・・一人受け持ち1250か・・・余裕だね!」

普通に矢ぶすまとかになって余裕で死ぬねっ、とシオン。

余程の装備とかを相手が持ってなければ、気合入れた防御結界で何とかならんこともないか、とばかりにササッと脳内計算。

ってか、普通に前衛に守られた広域破壊魔法使いが輝くクエストだよねぇ。



「んー、飛び道具が来るとして、相手が施設破壊とかでなくこっちに確定的に来るなら、あるいは・・・」

何事かを考えだしたレザード。

安全策を考えずに、どう殺すかだけを考えだしてる模様で、一番死に近いのは彼な気もする。


「ウチは奴隷メリウ略してドリウに永久化された聖防壁でなんとかなる気がしてまいりました」

ああ、普通に歩いてればあっちが勝手に攻撃してきて勝手に死んでいきそうだよね。

難点は側面や背面突かれると厳しいってことか。


「野望が達成されていたなら余裕だったのにっ・・・あとストレートに奴隷言うな」

まぁ、本邦初公開の<新たなる力>があれば恐らく達成可能だがね、とメリウ。

ぶっちゃけ、ベヒモスに変身して踏みつぶして回るだけでも達成できるとは思うが。

小鬼キラーとか雑魚バスターとか小物には強いとか、色々言われそう。


「最近ハムスターと魔法修行ばっかで心がササクレだって来てるし、気分転換にいっちょやってみますかい」

始まったらワチキは物理結界使ってそこから出ない宣言しとくぜー、とシオン。


「んじゃ俺は、ちょっと遊んでみる」

トン、タン、とその場でステップを踏むレザード。

まさか。

回避行動と分身で全部避けきる気・・・なのか・・・?


「ウチは冒険せずに地味に堅実でいきますかねぇ」

横とか背面とかは地形を見て考えますかなぁ、とジオ。


「ちぇ、皆真っ当に行くんじゃ自分も変身で茶を濁せないじゃないかよぅ」

あ、やっぱその気だったかこのやろう、的に非難を受けるメリウ。

いいじゃんいいじゃん、見るもの見ておけば身体的にソレになれるってだけなんだし。


「じゃ、最初は様子見兼ねて特殊的な何かは抜きにして行ってみよかー」

「「「OKリーダー」」」

ではでは、ひとまず行ってみましょうかっ。




壁。

人型の集団で形成された、津波のようなもの。

手に思い思いの得物を携え、まっすぐにこちらへやって来る。

クエストエリア周辺地形は<塔>付近そのままで。

見晴らしの良い、平地であった。


「ウチ、早速死亡フラグが?」

早速壁を探そうかなぁ、と周囲を見渡して即時絶望したジオがうなだれた。


「いや、坊さんは空飛べばいいんじゃない?」

この前永久化させられたじゃねぇか、とぶつくさ指摘するメリウ。

数メートルも浮けば、側面背面気にせずにいけるじゃん。

突っ込めば勝てるんじゃねソレで。


「その発想はなかった・・・」

なんで真っ先に気づかない、と突っ込まれつつジオが復活。

それでも心配なら背中に盾でもくくりつけときなさいな。


「んじゃ、ワチキは此処でちまちまやってるんで。 ガンバレおまいら」

さっさと一人結界張って待ちシオン状態の灰剣士。

お、珍しく仮面かぶってるね。


「ああ、仮面で思い出しましたけど。 幽体化の性能って表記ミスで、実は普通の物理も無効みたいですね」

空飛んで敵陣に突っ込みながら言い残すジオに、


「なん・・・だと・・・」

しらなんだ、と、膝を折るシオン。


「あ、ソレは話に続きがあって、ぶっちゃけ消費が激しいからオススメできない」

幽霊みたいになる→実態に戻る、でいろいろ消費するから、おとなしくその中にいるのが正解だと思う、と、メリウ。

ひとまず、と、ジオが突貫した集団を取り囲むように爆炎壁を展開。

中から「この炎はかくも熱く我を・・・」とかジオの声が聞こえた気もしたが、きっと平気。

信じてるぜ! 信じてるぜ!(連呼すると、とても薄っぺらいセリフになる。 不思議!)


「おーおー、のっけから派手だねぇ」

爆炎壁で焼かれる集団(andジオ)を楽しそうに眺め、レザードも、動き出す。

両手には二枚づつの<流星>。

射出。

爆炎壁の左右からこちらに殺到する集団の出鼻をくじくと、<流星>の破片が集合するのをまたずに駆け出す。

速い。

分解してレザードに追いすがる<流星>を引きはなさんばかりの勢いで、向かって左側の集団に飛び込み乱戦に持ち込んだ模様。

飛び道具を封じにきたかー。


「「で、こっちにも大量にキておりますが」」

その場に取り残されたシオンとメリウが、互いに顔を見合わせ。


「んじゃ、自分も行ってまいります」

フワリ宙に舞うメリウ。

脚を止めての斬り合いに挑むシオンに敬礼。


「いってらっさい」

雷神剣を肩に担ぎつつ、シオン。

変身封印でコミカルを捨てたびっくり箱に、敬礼。


かくして。

4vs5000、開幕。




思えば遠くに来たもんだ、と、シオンは無造作に双剣を振るう。

刃の届く位置にいた数体が切り口から爆ぜるように臓物をまき散らして息絶える。

シオンの360度周囲は小鬼の群れで埋め尽くされている。

いやいや覚えて必要に応じていやいや使っていた結界魔法。

自身の限界レベルまで実践使用のみで叩き上げられたソレは、過不足無くシオンを守り続けている。

そんな事実に苦笑い。

野良子犬に懐かれて、しょうがなく世話してたソレの成長でも見るような複雑な心境。

ああ、ちょっと、だけど。

シオンは内心だけで、呟く。

魔法も、悪くないかもなぁ。


そして、その瞬間。

張り直すのを忘れていた結界魔法が、消失。


「あっれ?」

体制を立て直すまでに、しばしかかるシオンであった。

思わず奥義使っちゃったぜ。




この集団を抜ければ、草原が見える。

レザードは動き続けていた。

特殊なリズムを外すこと無く叩きこみ続け、分身数5を維持しつつ。

縦横無尽に駆け巡り、分身を囮に自身への攻撃回数を減らし回避し。

レザードはただ「追いつかれないように」走り続けていたのだった。


互いに擦り合い火花散らしレザードを追いかけてくる、20個の金属片。


分解して元に戻ろうとする<流星>の集団。

それがレザードの追跡者にして、対集団攻撃であった。

レザードが通り過ぎた場所を、投擲より速い速度で追いすがる金属片。

触れても爆発はないとはいえ、ソレの経路に体を晒すことはミキサーにダイブするようなもので。

爆発後の破片は投擲者に戻るまで止まらない、という特性を力技で引き伸ばしたレザードの、作戦名「<あなたって最低の星屑だわっ>びちゃぁ」ノイズが混ざった、失礼。

作戦名<星流れ>。

流星に自身を追いかけさせるので流星を逆さにした、ある意味キャッキャウフフな戦法である。


「難点は分身の維持が、わりと面倒・・・と言うか、既に指が半分死んでいる」

例えるなら、格闘ゲームの技コマンドを延々とミスせず入れ続ける作業。

それプラスで、自身のキャラを動かす操作が、混ざる。

ある意味、楽器のドラムのようなものかもしれない。

リズムは崩さず、かつ他リズムを重ねる。


「っと、ミスった」

集団を突っ切って折り返そうとした矢先、指が滑って分身が掻き消える。

ゴリっと削れるスタミナに冷や汗が出る。

即座に袋からスタミナ回復薬を取り出し飲み干す。

空き瓶を投げつけ小鬼一匹をコミカルに沈め、ようやく追いついた<流星>がレザードの手の中で元に戻る。


「さ、復路、行ってみようか」

レザードの手から再び<流星>が射出された。




ジオは腕を組んで、のんびりと飛んでいた。

周囲からはびちゃぁ、ぐちゃぁ、と水分満載の破裂音がオーケストラのごとくに積もっている。

斜め上からの攻性防御結界による殴打。

ちょいと向きを変えれば、遠距離からの飛び道具攻撃にも対応。

無人の空をゆくジオは、ようやく獲物を発見し、突貫した。

ジオの視線の先には、レザードのサンドカッターでグロく散らされた状態から復元した空飛ぶスライム。


「先刻はどうもありがとうダーイ」

ジオはにこやかに親指を下に。

そのままの速度でスライムに聖防壁チャージ。


対するスライムは、チッチッチ、と人差し指(?)を左右に振るい。

<瞬間移動>を、発動。

瞬間。


「!?」

ジオは、何が起きたか分からないまま周囲に散らばる肉片や雨のような血を見て呆然。

スライムは、自分自身でなくジオを<瞬間移動>させていたのだ。

移動先は、まだまだ健在に残っている集団のど真ん中。


「きゃー、坊さんストライク蝶・つよーい」

サラマンダーよりずっと早ーい、と、スライムがのたくたと言い募り。


「野郎・・・っ」

ジオが即座に報復に向かおうと飛んだ所で。


再び爆炎壁が、集団とジオを取り囲んだのだった。




「この炎はかくも熱く我を・・・」

本日二度目の悲鳴を聞いた気がしたが、信じてる。

メリウは早々に逃げ出した。

ひとまず、安全圏から魔法を打ってるだけで何とかなってしまうのは理解した。

対弓矢などの飛び道具に関しては、設置型の結界では防げず瞬間移動せねばならないのがネックではあるが。


「なんというか高いところまで避難して<全究回復>すれば実害ないでござる」

案外気楽だった、と、野望その2要らなくね? とか思い始める始末に。

クエスト開始からしばらく経っている、そろそろ皆の様子でも、と考える。

まずは定点のシオンでも見に行くか、と、メリウは二発目の爆炎壁に背を向けた。


「ちわー、三○屋でーす」

調子はどうよシオンさん、とスタート位置に戻ってみるメリウ。


「ういーっす、結構順調~」

シオンが左右の小鬼をバラしながら答える。

幾らかの被弾後はあるものの、実害ない辺りが流石である。


「結構討ち漏らしとかが集まって行ってるけど、結界だけでも永久化しとくかねー?」

クエスト終わったら切る方向で、と、メリウ。


「あー、有り難い。 ってか、最初に頼んでおくべきだったわー」

長丁場になるんだから準備はもうちょいするべきだねぇ、と気楽そうにシオン。


「あいあいー、んじゃ永久化しちゃうねー」

張り直したばっかだ、という結界をサクっと永久化し、ついでに自分含みで<全究回復>しておくメリウ。


「さんきゅ。 で、ソッチはどうよー」

さっき憤怒の形相でジオが飛んでいったけど、と、真一文字に群がる集団を切り裂きつつシオン。


「ああ、もう一度爆炎壁にブチ込んできた」

信じてたのに、酷い、とか言いながら、かなりいい笑顔のメリウ。

なんとも言えない表情で、さよか・・・と言うに留めたシオンは、追い払うかのように手を振り。

メリウもヒラヒラと手を振って、次はレザードあたりを見てこよう、と飛び去る。

・・・間に合わなかったかァァァァ、と、ジオが飛んでくるのは、その二分後だった。


空から見ると、レザードの戦闘域が面白くて困る。

パックマンの捕食見てるみたいで心が踊るね。


「おおーい、なんかサポートいるかねー」

空から声をかけるメリウに、


「あー、回復あたりが有り難い」

スタミナがもたねぇーこの戦法、とレザード。

はいよー、と光る腕がレザードにぶち込まれ、元気一発。


「しかしよくもまぁそんなの思いついたねぇ」

普通高速で戻ってくる破片と追いかけっこなんて思いつかんだろうに。


「あー、偶然戻る斜線に敵が入ったことがあってさ、その時に思いついたんだけどねぇ」

器用さ順調に上がって、最近ようやく追いつかれないようになったのさー、と、何度目かの方向転換をして走り去るレザード。

ふむ。

んじゃそろそろ自分もガチで小鬼さん達の処理に行きますかぁ・・・がしっ。

あれ、誰だろう、こんな上空に。

肩が掴まれて、動けないぞゥ?


「ワタシは貴様を、捕まえた・・・」

ごはぁ、と、濃密な瘴気が吐き出された錯覚。


凄い死の予感びちゃぁ。




そんなこんなで。

最後の一匹が倒された。

討伐数は多少の上下はあるものの、平均して一人1000匹以上は、かたつけていた。


「おつかれー、つっかれたー」

もう指プラップラ、と、実に一時間以上も分身ダッシュし続けた変態が言った。


「どう考えても、あの戦法は長丁場でするもんじゃないと思うんだ」

一番気楽に広範囲殲滅して回ったメリウがツッコむ。

相性的に天敵レベルだったようで、千匹倒した辺りでシオンやレザードのサポートに回る余裕があった。


「ウチは自力だけだと防御に不安、だねぇ」

もうちょい強い結界か、もう永久化取っちゃおうかなぁ、とシオン。


「ああ、確かに。 いつまでもメリウに頼りっぱなしというのもアレですしねぇ」

今なら財布もパンパンですしねぇ、とジオ。

そう言えば今回のクエストの報酬って何になるんでしょうねぇ。


「まぁ、ひとまずはあのでかいスライムヌッコロスために魔法鍛えた後の話かなぁ」

シオンの言葉に三者三様、頷き。


<小鬼連隊 町へ:達成>

<特殊条件達成 称号:一騎当千 獲得>




そんなこんなで、本日はここまで。


「「「「おつかれさまでしたー」」」」




それではまた、そのうちに。

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