小間物作りも楽しいもので 2
剣閃鮮やかに、巨大な四足獣が刻まれる。
切断面は足の付根、首。
久しく使用していなかった無属性魔法剣+2<虚龍>が、休眠からの復活をはたした瞬間であった。
「さーて剥ぎとり剥ぎとり・・・皮置いてけー、皮ー。 おおっとソッチの余り皮はノゥセンキュ」
股間についた棒状の物体をそぎ落とし遠くへ蹴り飛ばすと、シオンは器用に四足獣の皮を剥ぎ始めた。
服の制作、改造に一段落つき(その際ついた渾名が「テーラー半裸」)、その他小間物も作ってみようぜおいィ、と、今度は足元を飾る小粋な装備こと靴に目をつけたわけで。
拠点<塔>付近の草原に出没する謎の巨大四足獣とやらを、今バラして皮ゲット。
これをなめして裁断してアレしてこれして・・・と、皮から革へと生まれ変わる謎生物の表皮。
それはそれは見事な・・・灰色であった。
・・・あっれ、灰色からの卒業とか昔ホザイてなかったっけ・・・?
「一周回って戻っただけでーっす。 灰色サイコぉぉぅ、ひゅぅ! 踵に鉄板仕込んで踏み潰しとかにも対応だっ」
ノリノリのシオンは、草原のまん真ん中にて機材を並べて靴屋さんにもう夢中。
そんなシオンに躍りかかる影多数。
今しがたバラして皮剥いだものと同じような生物の、群れ、群れ。
すわ、武器すら抜いていないシオン急展開にピンチ。
「雷精招来」
慌てず騒がず、シオンは背に担いだ剣聖剣<雷神剣>に命じる。
瞬間、それは雷光となり四方へと散る。
散った雷光は、今まさに主に仇なそうとしていた四足獣の群れを速やかに貫通、駆除すると、散った速さと同等に逆戻り。
自身達の宿である<雷神剣>へと帰投する。
ああ便利<雷神剣>、と、鼻歌交じりに靴を作り続けるシオン。
しばし革素材には事欠かなそうであった。
レッドスライムから貰った投石機で遊ぶのも飽きたレザードは、休憩がてら掲示板を覗いていた。
制作物やそのレシピが、凄まじい数に膨張している。
「うへぇ、色々無軌道に作り過ぎだろう貴様等」
先日ジオが見て唸った懐中時計に始まり、はては歯ブラシや爪楊枝まである始末。
おい誰だオナ○ールとか成人用コケシ作った奴は?
怒らないから出てきなさ・・・制作者・もすこみゅーる・・・!
・・・ああ、あの時の名前か、あの野郎今日中に殺すことにする。
しかし、端から見ているだけで日が暮れただけでは飽きたらず昇りそうな時間が経過しそうな量である。
物量が多すぎて流し読みするに至ったレザードの目が、それに止まった。
レシピでなく完成品、加工物といえば加工物だが、何がしかの仕掛けがあるわけでないソレ。
弾性重視の鋼糸に、細かな硬砂を接着しただけのもの。
ダイヤモンドカッターならぬ、サンドカッターと言うところか。
購入者は、今のところ誰もいない様であるが、コレは・・・エグすぎない・・・か?
うん、でも相手を選ぶなら、きっといい玩具だよね。
レザードは、<硬砂ワイヤー>を、購入した。
後にコレを使用されたモノの、末期の言葉。
つい出来心で作ったとです、結構売れてウハウハだったんだぜ・・・ああ嘘ですゴメンナサイ許しびちゃぁ。
ミンチよりヒデェや。
時計製作二日目。
あらかたの材料を削りだし、ゼンマイ部は自作を諦め早々に市販ユニットを購入。
何度か組むのに失敗してはスキルを上げ、コツコツと、確実に、組んでいく。
地味で堅実。
薄皮を重ねて重ねたその先に到達する完成を夢見て、ひたすらひたすらコツコツと。
見上げるような巨漢が、掌に握れてしまう程度の円形宇宙に没頭するさまは、古びた絵画のごとく荘厳で。
「ううっ、頑張りすぎて目がっ」
ジオの中の人、超悶絶。
細かな歯車ばかり見つめ続けたせいで、既に中の人のライフは0よっ。
と、いうわけで。
休憩がてらに出向くのは当然<塔>の玄関口。
全てのPCが生産三昧の生活を送っているわけではないので、当然そこに広がるのは軽度の地獄絵図。
このマゾゲームに慣れ始めた初級者が調子にのって引き際を誤った様など心躍・・・げふん、痛む。
全くの初心者パーティの壊滅寸前状態な凄惨さ加減など絶ちょ・・・絶対癒さねばならない。
ハァ、ハァ、ハァ、ああ、ウチはなんて癒しいんだろう・・・うふふふ。
あっれ、この人おとなしく時計作ってたほうが良くね?
おまわりさんこっちですー、変質者がー、怪我人を癒して回ってー・・・あっれ?
さてさて竹アーマーは市場評価を得られたかしらん、と、鼻歌交じりに掲示板へとやってきたメリウ。
検索検索・・・、と呟きながら結果を待ち、現れたそれに驚愕することに。
「なん・・・だと・・・?」
自身のレシピは大きく驚くほど売れているわけではなかったのだが。
メリウの眼前に並ぶ、何故か検索結果を埋め尽くす<竹アーマー>の文字の群れ。
あっれ、なんで貴様等、竹アーマー開発競争とか始めちゃってるの・・・?
おいぃ、初心者用とかのコンセプトすら既にないじゃねぇか・・・ちょっと待てそれはほとんど鉄鎧だろぅ?
「ま、まて、まだ慌てる時間じゃない・・・きっとこの有象無象の中にも輝くレシピはきっとあるっ」
名前だけで検索かましてると虱潰しになるので、ソートを売れている順に変更。
ピッと並び替えられるレシピ群、そしてその頂点にあったものは。
「完敗だ・・・というか、訓練されすぎだよな自分も含めて・・・購入っと」
知らぬ間に勃発していた竹アーマー開発競争を制した現時点覇者は。
言われてみればそうだよね、的に。
フォーチュン○クエストのクレイオリジナル、まんまのソレであった。
そりゃ懐かしすぎて買うだろう、こんなん出たら。
うへぇ、しっかり細部まで考えて作ってあるなぁ、なんだこのチープさ。
早速試しに作って着てみると。
からん、ころん。
いい音、させやがる・・・
ちなみに、制作者名も、オリジナルまんまな人、でした。
ああ、アップデート後、早速喜び勇んで作ったんだろうなぁ、と、ちょっと和んでしまったメリウであった。
そのうち、魔法で強化とか出来るようになるといいねっ。
余談だが、メリウが出したレシピの名前は真竹アーマー。
真と竹の間に、本当なら区切りを入れるところをうっかり忘れてしまい、購入者などからの音声メールで「まだけあーまー、べんりでたすかっています」とか言われて、うおお本当はしん・たけあーまーとか呼ばれたかったんだ~とか、モニョモニョしたりしているそうだ。
アダルトグッズを製造販売した咎によりグロく処断されたメリウが蘇生し皆と合流してしばし経った。
ジオは眼精疲労の極致でうむー、うむー、とうなってばかりいるのが心配といえば心配だが。
「でも、綺麗に出来てるよね、ジオの時計」
純・鉄製の超無骨な懐中時計。
ジオの首元から下がるそれを視姦しつつメリウが素直にジオを賞賛。
「うむー、うむー、結構・・・苦労、しました・・・」
ゼンマイとかはユニットのレシピ買っちゃいましたけどね、と、苦笑いのジオ。
「いやいや、大したもんだって。 そこ以外は全手作りだろ?」
奇抜なファッションで踵を鳴らし、シオンがジオの肩を叩く。
いや、カッコいいといえばいいんだが、なぁ、その格好・・・。
「シオン、ジオのためにまた目に優しい配色に戻したのか?」
メリウ、先刻の糸、手袋とかに仕込めないか? とか被害者にさらなる殺戮兵器開発を強要しつつ、ふとシオンに顔を向けてレザードが首を傾げる。
最近幾らかのカラーバリエーションがあったシオンファッションが、まっ更なド灰色に戻ってしまっていたためだ。
「いや、一周戻ってマイブームが灰色になっただけで。 ジオのためとか全くこれっポッチも寸毫すら、ないよ?」
シオン超否定。
あっれ、別にノッても良かったんじゃね?
ジオはどこ吹く風で絶賛悶絶中だが。
「うーむ、うむむー、何もそこまで力一杯否定せずとも」
こーの、テレ屋さんっとかホザき出したジオをガチスルーする一同。
「さてっと、ジオがこんなんじゃ今日はバラけてOKなのかな」
この中で唯一物作りにこれっポッチも動かなかったレザードが奇っ怪なストレッチモーションを組み合わせて凝った体をリフレッシュさせている。
「あー、そだねー。 ジオはもうおとなしく落ちたほうがいいと思うし・・・ってか本当に平気かアンタ」
集合してからずっと唸りっぱなしだし流石にヤバキチ、と思ったのかシオンがジオを心配しだす。
「うーむ、そうですなー。 ご迷惑をおかけしますがー・・・おちまするー」
ノシノシ、と、手を振ってログアウトしていくジオ。
おつかれー、ゆっくり休みー、と、それを見送りつつ、無表情でメリウがシオンに言った。
「こーの、テレ屋さんっ(表情とは逆に、感情豊かに。 むしろウザく)」
おまけでほっぺたを人差し指でつついたら、にこやかなシオンが羽ばたくように双剣を。
まぁきれい。
上下左右から迫り来る刃の空間攻撃に飲まれ、メリウが、綺麗に、無くなった。
メリウが気づけばそこは、復活などを執り行う、寺院。
ジオがいないため、体のそこここが足りなかったりしているが、生きてるってスゲェ。
ひとまず自前で欠損回復して人心地。
身の回りを調べて着ていた布の服+1がお亡くなりになっているのを確認して、さめざめと泣く。
ちくしょう全裸か、と、適当なものに変身しようとしたが・・・。
「あれ、なにか違和感」
いつも見慣れたメリウPCと、ちょっと違うような。
何気なく装備欄を見て、メリウは破顔した。
<真竹アーマー:破損 修理を行ってください>
そんなこんなで、本日はこのあたりで。
では、そのうちにっ ノシ