成長強化も楽しいもので 1
シオンの流派技能がついに30の大台に。
おめでとう、おめでとう、おめでとさん、めでたいなぁ・・・周囲のメンツが祝福する。
「ありがとう」
満面の笑みで皆に答えるシオン。
その笑みをトリガーにしたかのように、彼の頭上に煌めく何かが出現する。
<称号:剣聖 を手に入れました>
こざっぱりとしたシステムメッセージ。
やけに派手なデザインの称号がシオンの頭上に点灯した。
おおお、とどよめく周囲をよそに、続くシステムメッセージがシオンをねぎらう。
<第72剣聖位獲得 おめでとうございます 剣聖取得ボーナスとして 高位魔法剣限定取得のランダムダイスを進呈いたします>
ごふぁー、と大仰な効果を残して、シオンにもたらされるサイコロ一対。
さぁ、シオンが手にする物はどんな「雷神剣っていう+5長剣もろたー」振るのはええよ!
そんなこんなで、シオンはほぼ破壊不可能レベルの魔法剣を入手するに至る。
・・・流派レベル30越えてるのが他にも71人いたあたり、上には上がいるものだ、と思わされる。
内心、もう少し上位かなー、と思っていたシオンは少々凹んでいたとさ・・・。
レザードが追いつけぬスピードが、そこに存在した。
背後から迫る、姿なき黒い音に驚愕し、彼は両手をあげる。
まいった。
首もとに突きつけられる苦無を見もせず、レザードが背後の男に敗北を宣言した。
忍装束の男。
レザードをスピードで切って落とした彼は、秘密ギルドである忍者連所属の熟練者である。
侍ギルドの別部署的な位置づけで、定例の維持クエストがらみで知り合った彼に教えを受けているところであった。
今までの戦闘で見せたのが、流派の特殊技能全てで御座る、と、低く小さい声色で告げると、彼は音もなく走り去る。
レザードが後先を考えない短距離走を試みても追いつけない速度であった。
たゆまずに磨き続けた天才の業に出会い、レザードがひっそりと心の炎を燃やす。
「俺もまだまだ先があるわなー」
先ほど見せられた技の数々を己の物にすべく、レザードは我流スキル作成に没頭していった。
町中で交わされる固い握手。
一人はジオ、同士を得たり、といった感の充足した笑みである。
一人は小柄な女性PC、困ったように眉を八の字にしてはいるが、握手そのものを嫌がっている感じはしない。
いつものように血反吐はきながら緊急患者の手当にあたっていたジオが、その人だかりに遭遇したのは必然だった。
町の玄関口付近にたつ、小さなテント。
その中には、小柄な女性PCが押し寄せるような物量の怪我人にビンタくれて帰すがごときスピードで応急処置をしていく姿があった。
応急処置。
回復手段が乏しい初期冒険者が嫌々覚えるようなスキルの代表で、回復魔法入手と同時に忘れ去られていくような物である。
しかし彼女のそれは、物が違った。
ある意味、回復魔法を凌駕していたとさえいえた。
一人一人にかかる時間は、文字通り一瞬。
「あっと言う間」というのはあのことであろうか。
そしてなにより凄まじいのは、病気や毒、麻痺などにも即対応している点であろうか。
反応速度はまるで変わらない。
余りに無造作に、絆創膏を貼るような気軽さでそれを成していた。
「そうか、魔法が使えない状況での効率的な治癒・・・ウチは驕っていたっ」
ジオが思わず彼女に駆け寄り「素晴らしい!」と握手を求めたのは仕方ないことである・・・彼的には。
突然の不審人物突貫に一瞬ざわめく周囲だったが「ああ、辻ヒールの」「げぇ、ジ・オーガ」「ちょ、ジオさん町中でごうかぶぎゅる」「黙ろうな、な?」・・・と、町内の有名奇人だと認識された模様でひとまずの安定をみる。
「で、どのようなご用件で・・・」
応急処置の達人な女性PCが、困った眉根のままジオに問う。
「ああ、申し訳ありません。 余りに見事な手際だったもので我を忘れてしまいました」
それに自分の驕りに気づくことができました、と、慌てて握手を解き頭を下げるジオ。
併せて自己紹介と趣味の辻ヒールについて述べる。
ああ、お噂はかねがね、と、頭を下げあう事態になるテント内。
で、そろそろいいかね・・・?
「「「「「あのぅ、そろそろヘルプお願いしてもいいですかいのぅ?」」」」」
血塗れ行列からの助けておくれコール。
「あ、ごめんなさいこちらへどうぞー」「イキロ」
丸くなる活動第二段階。
覚えられる技能全て覚えたので、順次鍛え上げていく作業である。
問題は叩いて潰せ、的なパーティにいるため、戦闘系技能はほぼ鍛え上げられている。
ひとまずは必要順位の高めな探索感知系でも上げるかね、と、有志を募って大隠れん坊大会を行っているメリウであった。
「くくく、自分がどこにいるかわかるまい・・・」
オオナナフシに<変身>してさらに木の枝に擬態したメリウがほくそ笑む。
その数秒後、鳥に見抜かれて危うく喰われそうになるのはご愛敬というものだろう。
死ぬかと思った、死ぬかと思った・・・脂汗を垂らしてうずくまるメリウの肩に置かれる手。
「メリっさんみっけー」
見上げれば侍組の痴ロリ・・・最年少が、ニコニコしていた。
げぇ油断したっ、メリウは劇画調に驚愕。
「あ、でも特殊能力で他の人騙しても意味なくない?」
そういえばそうでした、中の人の洞察力は鍛えられても外の人的には成長しませんね、はい。
年齢半分程度の子供に諭されるダメ大人の姿がここにあるっ・・・。
「じゃ、メリっさんが鬼ってことで。 ワタシは隠れまーす」
ふはははー、果たしてワタシを見つけることができるかね明智君~と走り去る痴ロリンに貴様本当はいくつだ、と内心で叫びつつ。
メリウは大きく10数えて、鬼の本分を全うするために駆けだした。
「痴ロリみっけー」
ちょ、早いよ! ノーカン! ノーカン!
くくく、自分の趣味はそういってくる痴ロリにNOと(ry
灰剣士の鍛錬が続く。
剣聖位を手にしたことで、特殊ボーナスが適応されたことも大きい。
曰く、奥義の簡略取得。
有り体に言うなら、奥義判定で得られる熟練度、倍増。
ああ、あの連中やらあの野郎やら、奥義連発してた連中の熟練速度の秘密はこれだったのか・・・と、納得。
そして、あんな早さでの剣聖称号取得という廃人ぶりに、まぁ流石だわなー、と思ったりする。
どれだけ生活捨てて時間削ったかを考えれば、奥義が覚えやすくなる程度、さしたるご褒美でもないわなー。
黙々と左右長剣で複雑怪奇な軌跡を描きつつ、シオンの鍛錬は続いた。
格闘家の鍛錬は続く。
流派を教えることができぬ代わりに、全てを見せてくれた師に報いるためにも。
レザードは何度目かになる休憩を終え、黙々と我流流派作成に勤しむ。
現在取得に向けて練っているのは、忍術。
その中でも、もっとも難度の高い<分身>であった。
忍術における使用可能武器は、刀、槍、投擲。
つまりは、現状の我流槍流派に<分身>を組み込み、一人ファランクスの実現を夢想する。
すでに我流流派としての<分身>取得は成功、現在熟練度は5。
技能上限は遙か彼方、だが事が成れば恐らく大型敵以外に対して、ほぼ無敵と化す。
「あー、でも、こういうときには能力高いのも面倒だよなー」
能力平凡組に聞かれたら逆剥ぎにされそうな台詞を吐きつつ、格闘家の鍛錬は続いた。
神官の鍛錬は続く。
普段の辻ヒールにおいては、まず試みられる応急手当。
習熟を重ね、すでに回復魔法の前準備レベルにまで発動タイミングが小慣れてきていた。
しかし脳裏に張り付く先日の光景が、彼をさらなる無駄の削ぎ落としに邁進させる。
まさに、鬼気迫る。
「鬼だ・・・鬼がいる・・・」「癒し鬼じゃぁ・・・」「どこまで行く気だあの人は」「もう<蘇生>教えて町の救急箱にしようよー」辻ヒール仲間からも引かれる勢いの鍛錬。
効率追求。
神官の鍛錬は、続いた。
侍の鍛錬は続く。
すでに侍組痴ロリとの隠行合戦の様相を呈していた。
他の参加者が逃げ出して久しい。
すでに侍二人の間に割って入れる技能持ちがいなくなっていたのだ。
音のない世界に佇むイメージ。
あり得ない心音を聞き分けるような繊細さで、メリウは木陰から周囲を見ていた。
視覚を使って、ではない。
面白いことに気配技能が一定レベルを超えた段で現れた別視野、曰く<気配視覚>により、あたかも赤外線スコープのような、もう一つの目を手に入れたようなものだ。
周囲の影という影を見通し、一点の違和感を見破る。
そして、メリウは駆けだした。
違和感の潜む、その場所へ。
侍の鍛錬は、続いた。
姿なき剣撃の風斬りが終わりを告げる。
怪鳥の如くに双剣の羽を広げた姿勢でピタリ、と、制止する剣士一人。
ふぅっと息を吐き出し、広げた翼を静かに畳む。
切っ先を地面に向けその場に佇むその姿が、二息ほどの間を空けて羽ばたいた。
一音。
耳の良い者ならば、それが連続した短音の連なりであるとわかっただろう。
そして、彼に近しい者達が見たなら、拍手を以て彼を祝しただろう。
<奥義:怒龍爆砕剣 決定成功決定成功決定成功・・・>
力任せに左右の剣を振って2セット出せば動けない、という日々に、さらば。
まるで通常の連続攻撃を出すような気楽さで放たれる、斬撃の羽ばたき。
舞い散る羽一枚で三人死ぬという訳の分からない<翼>が、実に8セットも放たれた。
流石に息が上がったのか先ほどより乱暴に止まった剣士は、重力にあらがうのも億劫なように大の字に寝そべった。
そして。
ぐっと、無言でガッツポーズ。
剣士シオン、念願の奥義その1、取得。
維持に失敗すればその場で動けなくなる・・・そんなキチガイじみたスキルである<分身>。
格闘家はそんな綱渡りを、音ゲーでもこなすが如くに正確なリズムを以て続けていた。
まだ流派技能に統合出来ていない今は攻撃に関して意味のないスキルであるが、防御に関しての脅威は既に充分すぎるほど発揮されていた。
訓練場で格闘家に練習相手として捕まった侍組リーダー曰く「何そのチート」と大評判。
周囲に展開する数体の<分身>が、本体と同様に駆けまわるため、そもそもターゲットができない。
また、格闘家本人が常に<分身>キャラと重なって行動しているため、もろともに斬り伏せようとしても<分身>をトカゲのしっぽ切りのように残し<先の先>を事実上無効化、そして彼の異常な回避力の前に屈するハメになる。
「分身による防御技能、会得ってかんじ?」
格闘家は練習相手に礼を言うと、再び<分身>開始。
「おいおい、まだやるのかい?」そんなリーダーの問いに彼は、
「うん、まだまだ技能熟練上げないと。 まだレベル4だし、先長いね」
既に4体ほどに増えた<分身>を多重操作しつつ言う格闘家に、リーダーは戦慄を覚える。
え、まだ、4ですか?
たしか彼の技能限界は、20を超えてなかったっけ・・・?
まだ、<分身>数、増える・・・の?
リーダーはもはや何も言わず、いっそ自分も覚えるかぁ、と格闘家の<分身>を見て我流流派作成を開始する。
格闘家レザード、<分身>修行継続も、現時点での実戦投入可能。
怪我人がいなければ鍛錬できぬ→そうそう虫の息の人もいないよなぁ→ティン!ときた、ウチ自身で怪我して直せばいいじゃない、グッアイディーア! ← イマココ
辻ヒールを行いながら、暇な時間が出来た時は超自傷行為により瀕死になり応急手当と回復魔法のコラボレーション。
傍から見るとM趣味の大変態にしか見えぬ、恐怖。
その側にやってきていた応急手当マスターが、ハラハラしながら強制M鑑賞してたりする。
そして、何十回目かの自傷後回復の際に、応急手当の致命失敗発生。
「!? なんでフラグ入れてるんですか!」隣からの悲鳴、血まみれ神官、更に内部から爆ぜる、の巻。
「ははは、既に上限限界なので、少しでも能力上昇の機会が出来るなら、と頑張ってるわけでして」
実はウチのパーティにも一人いましてね、クエスト行く時以外はフラグオンしてよく死んでるのが・・・と、辛うじて間に合った回復魔法で命をつなぐ神官。
・・・まぁ、<入口抜ければ回復がダースで襲ってくる>この場にいるなら、運良く<蘇生>魔法すら飛んできかねないので安心といえば安心の場所ではあるが。
「おお、今ので意思が二段階特進いたしましたな。 善きかな善きかな」
言いながら、またもや自傷に走る神官。
隣の応急マスターは既にそちらを見ない事で問題解決としたようで。
神官ジオ、コツコツと魔法、技能的地盤強化中。
「アッー! こんな明るいところでレザードとジオがいけない合体をしようとしてるー!」
叫ぶ基地外。
それに即座反応の違和感・・・物陰に潜んだ痴ロリが「どこだー!? な、なーんて引っかかるわけないじゃないですかをほほ」ガバッと出てきた勢いそのままに、すごすごと物陰に潜もうとする。
無論、即時駆け寄りその肩を掴んで振り向かせると、額に向けてデコピン発射。
びちぃ、と、イヤに重い音がして、痴ロリの額がやや赤く染まる。
「そろそろ腐敗防止すべきじゃね? サブマス泣いてたぞ痴ロリン・・・あとこれ便利だね<気配視覚>」
わずかに湯気を出すデコピン射出した人差し指をフッと吹き、メリウがジト目でおチビを窘める。
「腐ってないもん。 ホ●の嫌いな女子はいないもん」アーアー、聞こえなーい、とかやってる痴ロリにもう一発デコピンくれて、鬼交代。
「さぁて、んじゃ自分が隠れるぞぅ。 果たして腐趣味に見つけれるかなぁ?」
ニマニマ笑って走り出す侍。
もう精神年齢が愉快に下がって・・・あ、いや、考えるまでもなくいつも通りだ・・・とても愉快に小僧気分満喫。
おぅい、童心にもどりすぎだ。
「にゃろぅ、絶対見つけだしてレザードさん掘らせてやるんだから!」という声が聞こえたが、ああ、これはヒドい・・・と目を伏せるにとどめ、侍は必死こいて隠行の限りを尽くすのだった。
掘るのも掘られるのもゴメンだッ!
ただし相手が女の人なら掘りたい! 不思議!
侍メリウ、気配技能一定レベル突破により<気配視覚>会得。
各人各々に自身の天井を目指し、また、突き破っていく。
手塩にかけたキャラクターの成長は、楽し。
鍛錬が、続く・・・まぁ、日常生活的に鍛錬みたいなもんだけどね、このゲーム。
では、今回はここまで。
またそのうちに~
「「「「あつぅ・・・だるぅ・・・クーラー無いと死ぬるー」」」」
挨拶くらいはちゃんとに・・・あつぅ~ しぬる~ 酒~、酒はどこぞ~